とんでもない映画でした。
映画館で鑑賞して数週間になるというのに、当時の衝撃がいまなお鮮明に脳みそを激しく揺さぶります。
本作については、監督直々のコメントもネット上で公開されており、これ以上は何を書いても蛇足になることでしょう。
(とても良いPVなので見ていない方は必見です)
www.animatetimes.com
しかし、内なる衝動が数週間経っても治まらないので、こうしてブログに書くことで発散したいと思います。
<以下、若干のネタバレあり>
本作では、はなとなぎさの二人が、容赦なくボコボコにされます。
肉体的にではなく、精神的にです。
ボコボコポイントは二つあります。
一つ目は、はなとなぎさ以外の仲間が赤ちゃんになってしまい、急遽、五人の赤ちゃんの面倒を見なければならなくなるところです。
五人の赤ちゃんを同時に相手するのは正直言って苦行以外の何物でもありません。しかも相手は自分のことなど全く覚えていないので、信頼関係はゼロ。当然、赤ちゃんにされた仲間は、見知らぬ中学生相手に懐くわけもなく、逃げ回り泣きじゃくり怒り散らします。
そこで、一人の赤ちゃんをあやしていると、他の赤ちゃんが泣きだし、脱走し…と無限ループ。
途中、赤ちゃんたちがあまりにも言うことを聞かず暴れまわるので、はなが思わず大声を出してしまう場面もありました。はなはすぐに我に返って謝るも、急に大声を出された赤ちゃんたちは、ギャン泣きの大合唱状態になります。
現在進行形で子育てをしている私としては、見ていて「ああ…終わった…」と内心呟いてしまうほど苦しいシーンでした。自分の子一人でも大変なのに、信頼関係のない五人の赤ちゃんを相手にするとかどう足掻いても無理です。死にます。地獄絵図でしかありません。
二つ目は、今まで一緒に過ごしてきた大切な仲間が、自分との想い出を全て失ってしまうところです。*1
自分が覚えているのに、相手は自分のことを完全に忘れてしまう状況は、ある意味では死別よりも切なく辛いと言えるかもしれません。
はなやなぎさがいくら声をかけても、赤ちゃんになった仲間たちは、お前なんて知らないと、そんなことよりおうちに帰りたいと言って泣くのです。
しかも、このダブルパンチは、何の前触れもなく突然はなとなぎさを襲います。
心の準備などしている時間はありません。
想像してみてください。
例えば、自分の大切な人が、ある日突然自分のことを忘れてしまったとしたら。
自分との想い出を失ってしまったら。*2
それは耐え難い絶望、まさに奈落の底です。
奈落の底で、主人公のはなは、一度は泣き出してしまいます。もう無理だと、くじけてしまいます。しまいには、敵キャラのミデンに、よりにもよって仲間のプリキュアの技でボコボコにされます。
しかし、そんな奈落の底から、燃え上がるようなBGMとともに、はなは立ち上がり、叫びます。
「こんなの、私のなりたい、野乃はなじゃない!」「フレフレ! わたし!」と。
監督のコメントでも書いているとおり、はなが叫んでいる場所は日陰です。日向ではありません。はなは希望に満ち溢れた明るい場所ではなく、暗がりの中でこの言葉を発しているわけです。
なんて強さだ、と思いました。*3
そう、プリキュアの強さの源は、共に笑い合い支え合ってきた仲間の存在にある…のではありません。
今回、仲間たちは、はなのことを忘れており、支えになってくれることはありません。強さの源が仲間の存在だけにあるならば、はなが立ち上がることはできなかったでしょう。
プリキュアの力の源は、大切なものを想う気持ちです。
その気持ちは、決して誰にも壊すことはできません。たとえ仲間たちがはなのことを忘れてしまっても、はなの心の中にある大切な気持ちはなくなりません。
だからこそ、それに気付いたはなは、孤独の中でも、再び立ち上がることができたのです。
このシーンは涙なくしては見られませんでした。思い出すだけでも泣けます。
終盤、はなは、敵キャラのミデンを絶望の淵から救い出すわけですが、救い出したのがはなであるのも必然と言えます。
本編でも語られているとおり、同じ奈落の底を見たはなだからこそ、支えとなる仲間のいないミデンの気持ちが、痛いほど分かったのです。
ましてや、ミデンには、はなを立ち上がらせたような仲間との想い出、大切なものそれ自体すら持ち合わせていません。そのことに気付いたはながミデンを救い出すシーンは、ただただ、美しいと形容するしかありません。
また、今作では、ミラクルライトの演出も秀逸でした。
アニメのハグプリ本編でも、「応援するだけなら誰だってできる」等と応援することの難しさを執拗なまでに掘り下げていますが、少なくとも今作のミラクルライトによる応援に限っては、誰にでもできることではありません。
それは、歴代プリキュアたちとの大切な想い出を作ってきた「あなた」だけにしかできない応援でした。
見事と言うほかありません。
他にも、冒頭の横浜での戦闘シーンで、初代「ふたりはプリキュア」のOP映像で流れる、二人同時に鉄塔の側面に着地しながら顔を上げて前方を見据えるシーンがそっくり使われていたり*4、歴代OPのオーケストラメドレーをバックに、1画面で最大270万体の小型ミデンと熱いバトルを繰り広げる圧巻の戦闘シーン*5等、見どころはたくさんあります。
まさに15周年にふさわしい、大満足の映画でした。
本当にありがとうございました。
*1:押井守の映画、『イノセンス』では、記憶こそが人のアイデンティティを形成する重要なファクターとして描かれています。
*2:これは、私たちにも、起こりえないことではありません。似たような例としては、くも膜下出血や交通事故等による後遺症で、高次脳機能障害になり、人格の変化や記憶障害が起きることもあります。比較的ゆっくりと進行するものだと、アルツハイマー病や認知症等は身近なものでしょう。この場合は、まだ状況を受容していくための猶予が多少ありますが、それでもキツイことには変わりありません。
*3:私は、絶望の中でも必死にもがき、めげずに立ち上がるキャラクターがとても好きです。他の作品であれば『まどマギ』のほむらや杏子も好きですし、『ドラえもん』映画ののび太君も好きです。
*4:ふたりはプリキュア OP主題歌「DANZEN!ふたりはプリキュア」ノンテロップ - YouTube 0分48秒あたり