株主優待制度は日本独特の制度です。
その恩恵を実際に感じるのは主に個人投資家ですが、機関投資家(投資信託やGPIF等)は受け取った株主優待をどのように処理しているのでしょうか?
個別株を買っていれば株主優待をもらえていたはずなのに、投資信託だともらえないのは損じゃないのか? と疑問に思う方もいることでしょう。
この記事は、機関投資家が受け取った株主優待をどうしているのかについて考察したものです。
1.換金できるものは換金し、投資信託財産に組み込んでいる
調べたところ、信託会社やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)では、換金できるものについては換金して、投資信託財産に組み込んでいるようです。
金券、優待券など容易に換金できるもの、または基準価額に影響する等受益者の利益のため必要と判断されるものは、換金して投資信託財産に繰り入れます。
また、農産物、食品などの換金が困難な株主優待物は、信託銀行にて、受領辞退、慈善団体等への寄付等を行います。*1
【GPIFと株主優待】#株主優待 は資産管理機関が管理し、割引券等は換金され運用収益の一部となります(平成29年度実績 約4.2億円)。食品・家庭用品等は日本赤十字社や東京都社会福祉協議会及び神奈川県共同募金会を通じて福祉施設等に寄付され、社会に役立てられています。 https://t.co/Jx80HsECnq pic.twitter.com/FOZe7ncQAB
— GPIF (@gpiftweets) January 18, 2019
つまり、株主優待をもらえないからといって、投資信託を購入している顧客がまるっきり損をしているわけではないようです。
しかし、全く損をしていないかというと、そういうわけでもありません。
食品等の換金が困難なものについては、受領を断ったり、慈善団体へ寄付したりするようなので、本来ならば投資家が受け取れるはずだった受益の一部は、投資家のもとまでたどり着きません。
よって、投資信託等を購入する人は、換金不能な株主優待の分だけ、損しているといえます。
寄付ならまだ溜飲も下がりますが、受領を辞退するのは、ただただ損でしかありませんね。
2.株主優待のせいでどれだけ損しているのか?
投資信託等を購入する人もそうですが、GPIFも株式運用をしている以上、この問題はほとんどの人にとって無関係ではありません。
では、実際には株主優待のせいで、どれだけ損しているのでしょうか?
それほど大きくはないというのが答えです。
(ご参考)なお、2017年度に関しては、弊社のファンドのうち、株主優待物を換金したものは全て収益として計上しましたが、純資産総額に対する影響が0.01%(基準価額1万円に対して1円相当)を超えるものはありませんでした。*2
GPIFにおいても『割引券等は換金され運用収益の一部となります(平成29年度実績 約4.2億円)』と報告されていますね。
4.2億円という数字だけを見ると巨額ですが、平成29年度におけるGPIFの収益は10兆810億円ですので、割合としては約0.0039%でしかありません。*3
換金不能だった分の収益(本来なら得られたはずの食品等の商品価値)は、換金可能だった4.2億円よりは少ないことが予想されますので、株主優待による損失は割合としてはかなり小さなものだと分かります。
3.まとめ
ということで、この記事をざっくりまとめると下記の通りです。
- 投資信託やGPIFは受け取った株主優待を換金し、信託財産に組み入れている
- 換金不能な分については寄付や受領辞退をしているが、全体の収益に対してその影響はごく軽微である
とはいっても、換金したりするのは手間がかかりますし(特に海外の投資家にとってはなおさら)、損していることには変わりないので、株主優待制度の功罪の「罪」の部分であることについては違いないでしょう。