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ヒーリングっど♥プリキュア 8話 感想 全力考察 シンドイーネが「練習」する意味

 ヒープリ8話、面白かったですね。ヒープリは全体的に、明るく、楽しく、笑いもあって、見ていてほっこりとします。まさに生きてるって感じです。

 

 この記事はヒーリングっど♥プリキュア8話の感想考察です。ネタバレを含みますので未視聴の方はご注意ください。

 

 

 

シンドイーネが「練習」する意味

ヒープリ、シンドイーネ

出典:ヒーリングっど♥プリキュア 第8話(C)ABC-A・東映アニメーション

シンドイーネ「そこうるさい。せっかく練習してるのに、集中乱さないでくれる?」
グアイワル「練習? 練習のある占いなんて聞いたがことないぞ」
シンドイーネ「あるんですー。いい結果出すためには練習必須なんですー」 

 

 相変わらずコメディ調に描かれるシンドイーネ様ですが、ここで面白いのは、シンドイーネ様が「練習」をしているという点です。

 

 子どもたちが応援するプリキュアと、それに相対する敵キャラは、得てして「対比」させられるものです。たとえば、プリキュアは「仲間想い」で、敵キャラは「仲間を道具のように扱う」という対比をすれば、子どもたちは自然とプリキュアに心を傾けられます。

 

 しかし、ヒープリ8話では、あえてそれとは逆のことが行われていました。キングビョーゲン様の心を射止めるべく「練習」するシンドイーネ様は、あの青い世界に少しでも近づきたいがためにハイジャンプを「練習」するちゆさんと重なります。ここで、シンドイーネ様とちゆさんは、反対側に立つ存在としてではなく、同じ場所に立つ存在として描かれていたのです。

 

 なぜ、ヒープリはシンドイーネ様をこのように描いたのでしょうか? 「練習なんて意味ないわよ」と言わせておけば、「練習したからこそ夢に近付くちゆ」と、「練習しなかったからこそ夢から遠ざかってしまうシンドイーネ」という対比を生み出すことができたはずですが、なぜ、ヒープリはこれを選ばなかったのでしょうか?

 

 実は、同様のことは、前作スタプリでも行われていました。

 たとえば、敵対するノットレイダーたちは、非常に「仲間想い」な存在であり、その点だけについていえば、プリキュアたちと同様だったとすら言えます。

 スタプリを最後まで試聴した方なら、もうお分かりだと思いますが、スタプリにおいては、「ノットレイダーたちが仲間想い」であることが、後の展開に有機的に繋がっていき、感動的かつ説得力のあるクライマックスを生み出していました。

 

 ヒープリについても、おそらく、同じだと考えます。

 シンドイーネ様たちビョーゲンズは、人間やヒーリングアニマルたちと同じように「生きてる」存在です。そして、彼らは彼らなりの「生きてるって感じ」を求めて奮闘しており、その点ついては、プリキュアたちと同様です。ヒープリは、ビョーゲンズとプリキュアの「違い」、ビョーゲンズとプリキュアの「同じところ」をそれぞれ描いていくことで、今後の展開に繋げていくつもりではないでしょうか。

 

沢泉ちゆは飛べなくなる

 

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出典:ヒーリングっど♥プリキュア 第8話(C)ABC-A・東映アニメーション

 

 ライバル校に強豪がいることを知ったちゆさんは、突然、ハイジャンプができなくなってしまいます。そのことで、冒頭(アバン)では空を見上げて笑みを浮かべていたちゆさんは、前半パートではまったく同じ構図で、浮かない顔になっています。

 

 そして、そんなちゆさんの「イップス」を何とかしようとペギタンは奔走するわけですが、まず、ペギタンは「偉い」なと思いました。 というのも、ペギタンはちゆさんが飛べなくなったことに「なぜ?」と疑問を抱き、「分からないから調べる」という方法を取っていたからです。

 

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出典:ヒーリングっど♥プリキュア 第8話(C)ABC-A・東映アニメーション

ペギタン「どうしてちゆは突然飛べなくなっちゃったペエ。どこか具合が悪いペエ。調べるペエ!(略)もしかして、これペエ…。イップス。それまで簡単にできていたことが、ある日当然できなくなり、できなくなったことが気になって、さらにできなくなっていく症状。有名なスポーツ選手が、このイップスで競技を続けることができなくなっている。当てはまるペエ…この症状に…ちゆ…!」

 

 これは至極当然のことのようにも思えますが、「調べる」ことをせずに、「根拠のない憶測」や「自分の経験」だけに基づいてアドバイスしてしまうことは、誰しもが思い当たる節のあることだと思います。ペギタンの目指している「お医者さん」は、まさにそうしたことをしてはならない職業であり、ペギタンはしっかり「お医者さん見習い」をしていることが分かります。

 

 とはいえ、ペギタンはちゆさんの「お手当」をしたいがために、ひとつの「失敗」をしてしまいます。その失敗とは、ヒープリ2話でラビリンが犯した失敗とよく似ています。それは、「相手の意向を聞こうとせず」、「自分の考えている方針を優先しようとした」ということです。(医療分野における「パターナリズム」)

 

 ペギタンはちゆさんの「イップス」をお手当するために、「練習をやめさせる」という手法を取りました。そのために、のどかさんやひなたさんにも説得を頼んだわけですが、ペギタンは、ちゆさんの「イップス」を治すことを優先しすぎるあまり、それでも練習を続けようとしているちゆさんの「想い」を聞くことを忘れてしまっていたのです。

 

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出典:ヒーリングっど♥プリキュア 第8話(C)ABC-A・東映アニメーション

ペギタン「ちゆが…ちゆがイップスかもしれないペエ! なのに今日も練習してるペエ! お願いペエ…のどかとひなたからも、無理しちゃだめって言ってあげてほしいペエ」

 

 しかし、ペギタンはのどかさんとひなたさんを経由して、ちゆさんの「想い」を知ったことで、それ以上、ちゆさんに練習をやめるように言うことはなくなります。

 

のどか「がんばるのも大事だけど、あんまり無理しないで、ちゆちゃん」
ひなた「記録出なくても死なないし、ね?」
ちゆ「それでもわたしは飛びたいの。いまは無理をしてでも、自分の限界を越えたい。そういうのって、もう古いのかな?」
ひなた「あんな笑顔見せられちゃったら、何も言えないよ」
のどか「何が正しいのか、わたしたちには分からない。だからわたしたちにできるのは、ちゆちゃん本人が決めたやり方を応援すること。それだけだよ」

 

 代わりに、ペギタンが行ったのは、飛ぼうとするちゆさんを「応援する」ことです。ペギタンは、ちゆさんの心の支えになろうとしたのです。

 

 そしてそれは、ちゆさんにもしっかりと伝わります。ビョーゲンズとの戦闘中、ちゆさんはペギタンに、こう言います。

 

ちゆ「ペギタン、さっきの声援、嬉しかったわ」

 

 のどかさんやひなたさん、そしてペギタンの声援を受けたことで、ちゆさんは見事、あの青一色の世界へと近付くことができました。

 

 ヒープリ8話で描かれていたことは、とどのつまり、「お手当とは何か?」という根源的な問いであったとも考えられます。応援のための横断幕を作ることは、「治療」なのかと言われると、そうではないでしょう。しかし、ちゆさんは確かに、あの横断幕とあたたかい声援によって、「飛ぶ」ことができました。つまり、それらもまた、広義の意味における「お手当」だったと言えるのではないでしょうか?

 

 

※1 ヒープリ2話。ラビリンの犯した過ちと、「お医者さん失格」だった理由について、医療分野における「パターナリズム」とあわせて考察しています。

www.konjikiblog.com

 

ちょこちょこ登場する「死」

 ところで、飛べなくなったちゆさんを励ますひなたさんは、『記録出なくても死なないし』と発言していましたが、ヒープリ2話でも「死」というワードは使われていました。

 

(ビョーゲンズたちが地球を蝕んでいることについて)

ペギタン「でもそれは、ビョーゲンズ以外の命はどんどん弱って、死んじゃう世界ペエ」

 

 プリキュアは、作中で用いられる言葉に非常に気を遣っている作品です。何の意味もなく、あえて「死」というワードを使うというのは考えづらいです。地球上に存在するすべての「いのち」を扱おうとしているヒープリは、必然的に、「生」の裏側にある「死」とも向き合う必要があり、今後、これらについても描かれていくのだと思われます。

 

沢泉ちゆの目指す場所

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出典:ヒーリングっど♥プリキュア 第8話(C)ABC-A・東映アニメーション

ちゆ「小さい頃は、泳ぐのが好きだった。ある日、いつものように海へ出て、夢中で泳いでいたのね。気が付いたら、そこは、青一色の世界だった。空と海が溶けあって、ひとつになっていて、このまま海を越えて、空まで行けそうな。空を、泳いでみたいって思った」

(間)

ちゆ「自分の限界を感じたとき、海を見ると、また飛ぼうって思うの。海と空が溶けあった、あの青い世界に近付くために。でも、今日は海のおかげじゃなくて、二人のおかげね。ありがとう」

 

 ちゆさんが目指しているのは、「大会での勝利」ではありません。彼女の最大の目標は、作中でも述べられているとおり、『海と空が溶けあった、あの青い世界に近付くため』です。

 

 このことは、8話のラストシーンでも印象的に描かれていました。

 

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出典:ヒーリングっど♥プリキュア 第8話(C)ABC-A・東映アニメーション

ひなた「でも、大会は残念なことになっちゃったね」
のどか「今日のために、みんながんばってきたのに」

 

 メガビョーゲンによって、大会はめちゃくちゃにされてしまうわけですが、それでもちゆさんは飛ぶことをやめません。審判もいなければ、競争相手もいない中で、ちゆさんはたったひとり、ハイジャンプをするのです。

 

 無事、ハイジャンプを成功させたちゆさんの表情に浮かぶのは、嬉しそうな笑みであり、そんなちゆさんのもとに、のどかさんたちも飛びついてきます。

 

 

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出典:ヒーリングっど♥プリキュア 第8話(C)ABC-A・東映アニメーション

 

ペギタン「ちゆ、かっこよかったペエ。もう大丈夫ペエね」
ちゆ「うん、みんなのおかげでね」

ちゆ(また一歩、あの場所に近付ける…!)

 

 このとき、ちゆさんは「みんなのおかげ」だと言います。陸上は自分との戦いだとちゆさんも言っていましたが、ちゆさんは、のどかさんやペギタンたちの「お手当て(広義)」のおかげで飛べたのだということが、ラストシーンでも示されています。

 

 ヒープリは、「生きてるって感じ」をテーマのうちの1つにしている作品です。

 ちゆさんにとっての「生きてるって感じ」とは、大会に優勝することではなく、あの青い世界に近付くことなのです。

 

余談:「イップス」について

 ところで、作中では、イップスが『それまで簡単にできていたことが、ある日当然できなくなり、できなくなったことが気になって、さらにできなくなっていく症状』と紹介されていますが、イップスについて調べてみると、日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長の松本秀男医師がこのような記事を書かれていました。

 

参考リンク:「イップス」はスポーツ医学で解明されている? 最新の治療法は? (1/3) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

 

 要約すると、下記の通りです。

  1. イップスの実態については、現在のスポーツ医学でも解明されていない
  2. メンタル面が原因となって発症する場合と、脳のはたらきに何らかの異常が生じることによって発症する場合の2パターンがあることが分かってきた

 

 仮に脳のはたらきに異常が発生している場合には、闇雲に練習を重ねても、むしろ逆効果になってしまいかねないようです。というのも、これは中枢神経系の病気であり、神経内科での専門的な治療(内服薬、神経ブロック注射、手術など)が行われることもあるとのことです。

 

 イップス治療においては、1、2のいずれに該当するかによって、トレーニングをした方がよいのか、トレーニングをしない方がよいのかが分かれるため、専門家に相談してみましょう、と上記の記事では結ばれています。

 

 補足ですが、本編でもペギタンは「イップスかもしれない」という言い方をしており、ちゆさんが「イップスである」と断定はしていません。ちゆさんが本当に「イップス」だったのか、原因は何だったのかについては、はっきりとは明示されないようになっています。

 

  前回のヒープリ7話の考察です。「雨上がりの蜘蛛の巣」とは何か?

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 ヒープリに触発されて書いた記事です。サンタさんがインフルエンザになっても出勤したらどうなるのか?ということを京都大学の論文を基に書いています。

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