金色の昼下がり

プリキュアについて割と全力で考察するブログ

【ヒープリSS】『沢泉ちゆの好きな匂い』※ちゆひなの二次創作

 誕生日を祝ってもらったちゆがひなたをパクっと食べる話です。

 

※百合・ガールズラブが含まれます。

※R15です。直接的な描写はありませんが、それを示唆する描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。

 

(ちゆひな/百合/GL/R15/6000字程度)

 

 

 

『沢泉ちゆの好きな匂い』


 一日に同じ人から二度も誕生日プレゼントをもらったのは初めてだった。
 驚きながら水色のラッピングに包まれた小箱をじっと見つめていると、ベッドに並んで座るひなたは言い訳でもするように、


「ほ、ほら……さっきのどかっちたちといっしょにあげたのは、みんなで選んだ友だちとしてのプレゼントだからさ……」


 ここはひなたの部屋で、さっきまではのどかとアスミもいっしょだったけれど、ふたりは用事があると言ってさっき帰ってしまった。のどかは去り際、ニコニコしながらひなたに目配せしていたから、わたしたちに気を遣ってくれたのかもしれない。
 そこまでしなくても大丈夫なのに……とも思うけれど、わたしたちふたりが仲良くしているとのどかはいつも頬をゆるゆるにするので、案外好きでやっているのかもしれない。


「つまりこれは……恋人としてのプレゼントということ?」


 ひなたはほんのりと顔を赤らめながらうなずいた。
 正直、嬉しすぎるし照れるひなたがかわいすぎるしで頭がどうにかなりそうだったけれど、理性の手綱を捨てるにはまだ早すぎると自分に言い聞かせる。


「ありがとう、ひなた。……ねえ、この中身、当ててみてもいい?」
「も、もしかして分かっちゃった……?」
「ええ」


 状況を考えれば推測できる。
 わたしたちは付き合っていて、ここはプライベートな空間で、今日はわたしの誕生日。そしてひなたはプレゼントを渡すのに緊張と照れの表情を見せている。
 そこから導き出される答えは――


「――結婚指輪でしょ」
「ぜんぜん違うし!?」


 違ったらしい。


「いや何でけっこう自信あったのにみたいな顔してるの……? 中学二年生が結婚指輪渡すわけないじゃん! そもそもまだ結婚もできないし」
「メキシコなら女性は十四歳から結婚できるらしいわよ」
「えっそうなの? じゃあメキシコ行けば……じゃなくて! そういうことじゃないじゃん!」
「そうよね、やっぱりダメよね」
「うんうん。まあちゆちーも分かってるんだろうけど……」
「ひなたはまだ十三歳だものね」
「ぜんぜん分かってないし!? も~~! そういう問題じゃないよ~~~~!!」


 わたしは堪えきれずに笑ってしまう。


「冗談よ。じゃあ、開けてもいいかしら?」


 からかわれたのだと気付いたひなたは頬を膨らまして無言で抗議する。その顔がまたかわいいから困る。
 ラッピングを破かないよう丁寧に開封すると、中には青と黄の小さなボトルが二本入っていた。


「これって……?」
「香水だよ。織江さんの友だちが香水の専門店やってるみたいで、いろいろ教えてもらったんだ。……ちゆちー、香水って苦手だったりする?」
「ううん。自分で買ったことはないけれど……ちょっと興味はあったから、嬉しいわ」
「ほんと!? よかった~~! 何あげたら喜んでもらえるかな~ってめっちゃ考えたんだけど、ちゆちー陸上部でもプレゼントもらうだろうし、みんなと被らなさそうなやつがいいなって思って……!」
「香水をくれたのはひなただけよ。でも、別に他の子と被っていたとしても、わたしは嬉しいわよ?」
「ち、ちゆちーはよくても……あたしは被りたくなかったから……」


 恥ずかしそうにはしているけれど、正直に自分の想いを言葉にするひなたは偉いと思うし、それがひなたのいいところだと思う。
 わたしは自分の感じていることを包み隠さずに話すのは苦手で、どうしても遠慮したり、予防線を張ったりしてしまう。


「この香水はね、オーデトワレって言って、香りが続くのは三、四時間くらいなんだって。初心者にも使いやすいって、店員さんが教えてくれてさ」


 ひなたは一枚の紙を渡してくれる。香水の説明書きだった。そこにはこう書かれている。


『香水は時間が経つにつれて香りが変わります。つけてから二、三十分くらいすると、ミドルノート呼ばれるその香水のテーマとなっている香りになります』


 わたしは青色の香水を手に取ってひなたに尋ねる。


「これはどういう香水なの?」
「海と空をイメージしたものなんだって。香りも甘すぎなくて爽やかな感じだし、ちゆちーっぽいかなって」


 海と空。
 わたしの好きなものだ
 もちろんプレゼントも嬉しかったけれど、ひなたがわたしの好きなものを考えて選んでくれたという事実が何よりもいちばん嬉しかった。ひなたの選んでくれたものであれば、たとえそれが消しカスであってもわたしは一生の宝物にしていたと思う。


「ありがとう、ひなた。もうひとつの香水はどういうものなの?」
「あ、こっちはね、オレンジをメインにした香水なんだ。最初はジューシーで弾けるような感じだけど、三十分くらいすると落ち着いた甘い感じになっていくんだって。オレンジの果実が熟していくイメージらしいよ」
「へえ……面白いわね。さっそくつけてみてもいい? どこにつけたらいいのかしら?」
「首の後ろとかでもいいけど、ほんのり香らせるならウエストとか太ももの内側とかの方がいいみたい。服につけるとシミになっちゃうこともあるから、つけるなら肌に直接の方がいいかも」


 試しに手にひと吹きして自分のウエストにつけてみると、オレンジのフレッシュな香りが漂い始める。その香りに包まれていると、明るくて、楽しい気分になって、自然と笑みがこぼれてくる。
 わたしはこういう人を知っている。


「なんだか……ひなたみたいな香りね」


 何の気なしに思ったことを口にすると、ひなたの顔がぽっと赤くなる。調整中のロボットみたいにぎこちなく、「そ、そそ、そうかな~」と首を傾げる。


「……もしかして、ひなたも自分でそう思ってた?」
「い、いや別に! 店員さんにあたしっぽい香水ってどれですかとか、そんなのぜんぜん聞いてないし!」
「…………なるほどね」
「あーーーー! なっ、何でもない何でもない!」


 ひなたは慌てたように両手で口を押さえるけれど、もう遅い。


「何でそういうリクエストをしたの?」


 純粋に疑問だったので尋ねると、ひなたは言いにくそうにしながら、


「……ちゆちーがあたしっぽい香りをつけてくれたら、なんか、いいなって、思って」
「…………」
「? ちゆちー……?」


 わたしは太腿をつねり、頬の内側を噛む。
 そうやって、ギリギリのところで理性を保ち、緩みそうになる表情を固くさせる。


 ……ひなたはいつもこうだ。


 無自覚に。無意識に。無責任に。
 人の心を、惑わしてくる。


「……この香水、ひなたもつけてみない?」
「え? あたしも?」
「せっかくだから、いっしょにつけてみるのはどうかと思って」
「……う、うん。いいけど」
「じゃあ、つけてあげるわね」


 わたしは香水を手にかけると、そのままひなたのスカートをめくった。


「うぇっ!? ちょっ、ち、ちゆちー!?」
「どうしたの?」
「いやいやどうしたのじゃなくてっ! な、何でいまスカートめくったの!?」


 ひなたはわたしの腕を掴んだ。


「いや、香水をつけようと思って……」
「どこに!?」
「? 太ももだけど? ひなたがその場所がいいって言ったんじゃない」
「……あっ、そ、それは確かに言ったけど」
「じゃあ、手を離して?」


 ひなたはそれでもまだ何か言いたげだったけれど、最終的にはわたしの指示に従った。


「きょ、今日はヘンなとこ触るの、なしだからね……」
「……それは誘ってるの?」
「ちっ違うし! 今日はほんとに――」
「ほら、早くつけないと、香水が揮発してしまうから」
「あっ、もっ、もう……!」


 スカートの中に手を入れると、そこには生温かい空気が充満していた。
 太ももの内側に触れると、ぷにっとした柔らかい感触が伝わる。指を滑らせると、すべすべしていて気持ちいい。


「ね、ねえ……ちゆちー……! も、もういいでしょ……!」
「わたし香水初心者だから、ちゃんとつけられているのか不安で……」
「いや初心者とか関係ないから! もう十分…………ひぅっ…………!?」


 指先が柔らかな布地に触れたとき、ひなたはぐっとわたしの手首を掴んだ。


「だっ、だから今日はダメだって……!!」


 ひなたは涙目で必死に訴えかけてくる。
 いつもならなんだかんだ言いながらもわたしに身を委ねてくれるけれど、今日はどうやら様子が違う。
 わたしは慌てて手を引いた。


「ご、ごめんなさい……イヤなことをしてしまって」
「い、イヤっていうか、なんていうか、その……」


 ひなたは気まずそうに口ごもる。
 せっかく誕生日のお祝いをしていたのに、わたしがこういうことばかりするので呆れてしまったのかもしれない。


「本当に、ごめんなさい。ひなたがかわいすぎて、つい我慢できなくなってしまうの……。これからはしないように気をつけるから、だから、許してくれる……?」


 ひなたは優しい。
 だからきちんと謝れば許してくれると思った。
 けれど。返ってきた答えは予想とは真逆のものだった。


「だ、ダメ」


 思わず、顔を上げてひなたの目を見る。
 ひなたは顔を逸らして、唇を尖らせながら言った。


「…………だ、だって、これからしないようにとか言われても……あたしだって、してほしくないワケじゃないし……」
「…………」
「だから……そんなこと言われても、困るっていうか……その、淋しいっていうか……」
「……ひなた」
「?」
「やっぱり抱いてもいい?」
「っ!? タイムタイム! さっき言ってたことは何だったの!?」
「ふふっ。冗談よ、冗談」
「…………」


 ひなたは訝しげにこっちを見てくる。
 わたしはこほんと咳を払いして、


「でも、ちゃんと分かったから。今日はそういう気分じゃないのよね」
「う、うん……」
「あ、もしかして……ひなたって今日、そういう日だったっけ……?」


 わたしの記憶と計算ではそういう日ではないはずだけど……。
 あれこれ思案していると、ひなたはパタパタと手を振る。


「や、そういうわけじゃないんだけどさ……そうじゃなくて、その……」


 ん~、とひなたは言葉にならない小さな唸り声を上げる。しばらくして、何か覚悟を決めたかのようにわたしに抱き着いてきた。


「ひ、ひなた?」
「ちゆちー、こっち見て……?」 


 言われた通りにすると、ひなたの顔がぐっと近付いてくる。


「今日は……あたしがしたい、から」


 カツン、と。
 勢いあまって、歯と歯の当たる音。
 程なくして、ひなたの舌がわたしの中に入ってくる。


「っ…………ぁっ…………」 


 初めての感覚、だった。
 いつもはわたしの方からするから、ひなたの方から来るのは不思議な感じがする。
 ただ……驚きはしたけれど、すごく気持ちいい、というわけではない。
 たぶん、慣れていなくて加減が分からないのだろう。たどたどしくてせわしない動きはお世辞にも上手いとは言えない。何度か歯が当たるし、時々痛みもあったりして、なかなか快感に結びつかずにじれったさを感じる。
 しばらくキスを続けたあとで、ひなたは「ぷはっ」と顔を離した。


「ひなた……今日はどうしたの……?」
「……だ、だって、今日はちゆちーの誕生日でしょ……? たまには、ちゆちーに……気持ちよくなってもらいたいし……」


 ひなたはもじもじしながら言う。
 ……そうか。さっきひなたがわたしを拒んだのは、そういう理由だったんだ。
 すべてを理解して、思わずくすっと笑ってしまう。


「な、何でいま笑ったの……!」
「ううん、何でもないの」


 プレゼント選びと同じだ。
 重要なのは中身ではなくて、その人の気持ち。
 たとえ不器用でも、不慣れでも、ひなたがわたしに悦んでもらおうとがんばっていることが、わたしには何よりも嬉しかった。


「……なんかバカにされてる気がする」
「そんなことないわよ? 一生懸命でかわいいなって、思っただけ」
「…………」


 ひなたが熱っぽい視線を向けくる。いつもならこっちから行くところだけど、ひなたの気持ちを理解したわたしはそうしなかった。
 じっと待っていると、緊張した面持ちのひなたがゆっくり近づいてきて、今度は優しくついばむようなキスしてくる。
 やっぱり上手とは言えないけれど、さっきと比べると少し余裕も出てきたようだ。ひなたの気持ちが直に伝わってきて、わたしの体もだんだん火照ってくる。


「……っ…………んっ…………」


 キスをしながらこっそり薄目を開けると、目を閉じながら一生懸命になっている顔が映る。そんなひなたの様子を見ていると、胸の奥がきゅんと疼いた。
 がんばっているひなたに何かしてあげたい。
 そのまま下の方にも手を伸ばそうとしたけれど、今日はひなたの番だから、と途中で思いとどまった。
 やがてキスを終えると、ひなたは照れ笑いを浮かべながら、


「ど、どうかな……?」
「ええ。気持ちよかったわよ」
「へたっぴじゃなかった?」
「そんなことは……」
「…………」
「…………」
「そっ、そこはウソでもいいから否定してよ~~!」
「ご、ごめん」


 ぷいっとひなたはそっぽを向く。


「……ちゆちーってそういうところ正直だよね」
「で、でも、気持ちよかったのも本当だから……。それに、誰だって初めは慣れてないものだし……」
「……ちゆちーは初めからうまかったくせに」


 両膝を抱えて不満そうにするひなたを見ていると、胸の内側が痒くなって、抗いようのない誘惑に取りつかれる。心臓は波打ち、熱を帯びた血液が全身を駆け巡る。
 わたしはひなたに尋ねる。


「……ねえ、やっぱり、してもいい?」
「えっ……?」
「ひなたがかわいすぎるから……わたし、我慢できない」
「だ、ダメだって……! 今日はちゆちーの誕生日だから……」
「じゃあ、今日は教えながらしてあげるから。勉強ということで」
「む、ムリだよ……! そんなの、勉強になんないって!」
「どうして? ちゃんと丁寧に教えるわよ?」


 ひなたはふるふると首を横に振ると、拗ねるように言う。


「ぜったいムリだよ……ちゆちーにされてると……すぐワケ分かんなくなっちゃうんだから……」
「……………………」
「ち、ちゆちー……? えっ、ちょっ、何その目……? あっ、っ……だ、ダメっ…………っ」


 もう、我慢できなかった。
 半ば強引に抱き寄せて、ぷっくりとした柔らかいその唇を奪う。
 ひなたは抵抗しようとしていたけれど、それも最初のうちだけだ。
 粘膜と粘膜を擦り合わせていると体から次第に力が抜けていく。耳の中に指を入れると甘い声が漏れる。何かを求めるように、あるいは何かから逃げるように突き出された舌を甘噛みしてあげると、ひなたの息はますます乱れていく。


「んっ……ぁ……っ……!」


 服の中に手を入れると、ひなたは分かりやすく反応する。背中に手を回して、肌を直接撫でる。優しく爪を立てて背筋をなぞると、ピクンと体が跳ねるように動く。
 しかし、もっと、もっと、とひなたが自分から求めはじめたとき、わたしはすっと体を離した。


「…………ふぇっ?」


 ひなたは物欲しそうな顔でわたしを見る。だらしなく半開きになっている口の端にはよだれが垂れていて、光に照らされてキラキラしている。スカートから覗かせる両脚をすりすりと擦り合わせながら、ひなたはわたしに問いかけた。


「な、何で……?」
「ほら、今日はひなたの番なんでしょう?」
「…………」


 ひなたは泣きそうな顔をする。その潤んだ瞳を見ているとぞくぞくして、もっと意地悪したくなってくるけれど、これ以上やって嫌われたら元も子もない。わたしは両手を広げて優しく声をかけた。


「冗談よ。……おいで、ひなた」


 ぱあっと顔を綻ばせて、一直線にすがりついてくる。


「ひなた、いい匂い」
「これはあれだよ……香水の……」


 清らかで甘い、オレンジの香り。
 香水をつけてからもう三十分は経っている。これがミドルノートと呼ばれる、香水の持つ中核的な香りなのだろう。


 ――オレンジの果実が熟していくイメージなんだって。


 ひなたのしてくれた説明を思い出して、わたしはゴクリと唾を飲む。
 要するにいまが――食べ頃というわけだ。


「……ちゆちー」


 とろけた笑みを浮かべながらひなたは言う。


「誕生日、おめでと。大好き」
「わたしも。大好きよ、ひなた」


 ぎゅっと抱きしめて、わたしはその魅惑的な果実にかじりついた。

 

 その味がケーキよりも何よりも甘美だったのは、言うまでもないと思う。

 


 終わり

 

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