金色の昼下がり

プリキュアについて割と全力で考察するブログ

【ヒープリSS】『平光ひなたは続きがしたい③』※ちゆひなの二次創作

「まだ付き合っていないちゆひなが温泉デートする話」その③です。

 百合・GLです。全年齢向けですが、イチャイチャ度がかなり高めです。苦手な方はご注意ください。

 

その②はこちら→

www.konjikiblog.com

 

(ちゆひな/百合・GL/全年齢向け)

 

 

 

『平光ひなたは続きがしたい③』


 体が重い。気だるくて、頭にモヤがかかったような感じがする。
 ゆっくり起き上がると、ちゆちーが穏やかな笑みを浮かべながらこっちを見ていた。


「おはよう、ひなた」
「……? あれ、あたし……」

「また寝てたのよ。わたしがお風呂掃除をしているあいだにね」


 寝ぼけ眼で時計を見る。短針が数字の『6』を指していた。

 ……ってことは、もう夕方?


「え……! ご、ごめん!」


 あたしは慌てて飛び起きた。


「起こさなかったのは、わたしだから。ひなた、気持ちよさそうに寝ていたから、起こせなくて。……あ、今度は胸骨圧迫しなかったわよ?」

 

 ちゆちーは楽しそうに言うけど、あたしの気持ちは晴れない。


「そ、そうだったの……? ぜんぜん起こしてもらっちゃって大丈夫だったのに……」


 けっきょく、ちゆちーとはほとんど遊べなかった。無駄に時間を過ごしてしまったと後悔する。


「ごめんね……ちゆちー……」
「わたしの方こそ、疲れていたのに来てくれてありがとうね」
「別に、疲れてたわけじゃないんだけど……」


 緊張して眠れなかっただけなんて、遠足前の小学生みたいで、とても言えるはずもない。


「外は雨が降りそうね」


 ちゆちーがカーテンから外を覗く。


「天気予報だと、これから強くなるみたいだけれど……ひなた、大丈夫? 明日は祝日だし、もしよかったら、うちに泊まっていっても……」

「大丈夫。あたし、帰るよ」


 あたしは立ち上がってカバンを手に取る。


「迷惑かけても、悪いし。それに……」
「それに?」
「……ううん。何でもない」


 あたしは心のモヤモヤから目を逸らして立ち上がる。ちゆちーといっしょにいるとどうしても考えてしまいそうだったから、とにかくいまはひとりになって、ちゆちーのことを忘れたかった。
 そのまま逃げるように帰りの支度をする。ちゆちーはまだ話したそうにしていたけど、時間も時間だったこともあって、それ以上は引き止めなかった。
 従業員用の裏口に案内されて、あたしはちゆちーの家を出た。


「じゃあね、ちゆちー」
「あ、待ってひなた。傘……」
「ううん。パパっと帰れば大丈夫だよ」


 バイバイ、とろくに顔も見ずに言って、あたしは自分の家に向けて走り出す。空はいまにも泣き出しそうだったけど、家までは走れば十五分くらいで着く。降り出す前には帰れるだろう。


 そう思っていたけど、まだ半分も行かない途中で、激しい雨が降り出した。あっという間に道路は濁った水で溢れてきて、車が通ると泥水が跳ねてくる。
 こんなことなら素直に傘を借りればよかったと思うけど、いまさら遅いし、何よりちゆちーに会いに行くのは気まずかった。
 何とか家に着くころには髪からも雨粒が垂れていた。濡れた服が肌にへばりついて気持ち悪い。あたしは乱れた息を整えながら、家の中に入ろうと鍵を探す。


「…………あれ?」


 なかった。
 バッグの中に入れていたはずなのに、見当たらない。走っているあいだに落としてしまったのかもしれない。
 でも、もしそうだとしても、この雨のなかじゃ簡単に見つかるとは思えなかった。
 あたしは玄関前の屋根の下に座り込んで、とりあえずお姉に連絡しようと思ってスマホを出す。パパとお兄は学会の発表だし、ニャトランはペギタンたちとヒーリングガーデンに帰っているから、頼みの綱はお姉だけだ。確か、夜までには家に着くと言ってた気がする。


 スマホを弄るものの、なかなか反応しない。濡れているせいだと思って、画面と手をしっかり拭いてから触ってみるけど、それでもやっぱり動かない。おかしいなと思って電源ボタンを長押しすると、電池切れのマークが表示された。


「あっ……」


 そうだ。昨日の夜、眠れなくてコードも差さずにずっとスマホを弄ってたから、充電できてないんだった。


「……も~!」


 お姉が帰ってくるまでは家に入れない。かといって、この雨の中、びしょ濡れの体でどこかのお店に行くのも躊躇いがある。
 けっきょくあたしは、早めにお姉が帰ってくるのを信じて待つことにする。


「…………はあ。あたし、何してんだろ」


 今日は、ちゆちーといっしょに温泉に入った。そこまではよかったけど、あとは寝てただけだ。温泉で体を綺麗にしたのに、けっきょく雨に濡れてるし、今日のために着てきた下ろし立ての服も、ちゆちーに気付いてもらえないまま泥で汚れちゃっている。

 

「……ツイてないなぁ」

 

 あたしは膝を抱えながら、深いため息をつく。
 それからはいくら待ってもお姉は帰ってこなくて、陽も完全に落ちてしまった。時計もスマホ以外には持ってなかったので、いま何時なのかも分からない。


 お腹がぎゅーと鳴る。喉も渇いた。
 雨は弱まる気配がない。喉の渇きに耐えられなくなってきて、走って自販機で飲み物でも買ってこようかなと思って、財布の中を見る。


「……九十円」


 そういえば、持っているお金をほとんど使って、この服を買ったんだ。
 ほんとにツイてなさすぎる。これじゃあジュースも買えない。
 じわっと目頭が熱くなる。何もかもうまくいかないのは、要領が悪くて、ドジだからなんだろう。ちゆちーだったら、鍵をなくしたりしないし、お金も計画的に使って、こんなことにはなってない。


「ちゆちー……」


 いっしょにいるとモヤモヤするから帰ってきたのに、こうしてひとりになっても、けっきょく、ちゆちーのことばかり考えている。
 今日だけじゃない。図書室でキスされた日から、ずっとそうだ。ひとりでお風呂に入っているときも、ベッドの上でゴロゴロしているときも、ちゆちーのことが頭から離れない。ちゆちーのことを、考え続けている。
 ひとつのことに集中するのは、苦手だと思ってたのに。


「あたしだって……ほんとは、お泊まり、したかったよ」


 いまさら言ったって、意味ないことは分かっていたけど、それでもやっぱり、つぶやかずにはいられなかった。
 だから。


「――じゃあ、いまから、来る?」


 息を切らして、ずぶ濡れのちゆちーが立っているのを見たとき、夢でも見ているんじゃないかと思った。


「ち、ちゆちー……?」


 何で。どうして。ここに。
 聞きたいことはいっぱいあったけど、それまでせき止めていたものが急に溢れ出して、それ以上は何も言えなくなる。唇を噛みしめて、ぽろぽろこぼれ落ちる涙を服の袖で拭いた。


「ひなたのお父さんから連絡があったの。お姉さん、飛行機のトラブルが起きたみたいで、今日は帰れなくなったって。お父さんとお兄さんも、今日は帰ってこないんでしょう? お父さんたち、ひなたに連絡を取ろうとしたみたいなんだけど、なかなか繋がらなかったみたいでうちに電話がかかってきたの」


 ちゆちーは傘を畳んで、あたしのもとに歩み寄る。


「どうしてこんなところで座っていたの?」
「……鍵……なくしちゃって……入れなくて……お姉が帰るのを待ってたんだけど……」
「スマホは?」
「……電源……切れちゃってて……」
「ああ……そうだったのね」


 そそっかしいんだから、と呆れられると思った。
 でも、ちゆちーはあたしを責めることもなく、隣に腰かけて優しい声かけてくれる。


「大変だったわね」
「別に……ぜんぶ、自分のせいだし……」
「誰が悪いとか、そういう話じゃないのよ」
「…………」
「濡れたままだと風邪引いちゃうから、とりあえずうちに来ない? ご家族にもちゃんと事情を説明して」

 

「でも……いまからなんて……迷惑だし……」
「あのね。うちは旅館よ? 当日になってお客様が泊まりにくることなんて、慣れているし……」


 それに、とちゆちーは続ける。


「わたしが、ひなたに、来てほしいの」
「…………どうして?」
「そ、それは……」


 ちゆちーはそこでちょっと言いよどむ。
 少し考える仕草をしてから、ちゆちーは答える。


「……わたし、就学旅行とか以外で、友だちとお泊まりなんてしたことないから。だから……ひなたとお泊まりできたら、きっと楽しいだろうなって」


 その瞬間、心の中で積み上げていたものが、ガラガラと崩れ落ちた。


「…………何で、ウソつくの?」
「え……? べ、別に、嘘なんて……」
「誤魔化さないでよ。ちゆちーのママから聞いたんだから」


 うろたえるちゆちーに向かい合う。
 一度口にすると、止まらなかった。


「前に、のどかっちも泊まりに来たんでしょ? それなのに、友だちとお泊まりしたことないなんて……」


 ちゆちーは何か言おうとするけど、あたしは遮るように続けた。


「二人が仲いいのは知ってるよ。あたしはプリキュアになってからちゆちーと仲良くなったけど、ちゆちーはプリキュアになる前からのどかっちと仲良かったもんね。温泉だって、前に二人で入ったって言ってたし」
「そ、それは……」
「……ごめん。いまのは別に、関係ないよね」


 自嘲まじりに言って、あたしは視線を落とした。
 車のエンジン音が聞こえる。ざざあ……とタイヤが水たまりの上を走っては、遠ざかっていく。


「……なんかさ、あたし、変なんだよ。この前から、よくないことばっかり考えてる。ちゆちーは大切な友だちで、のどかっちだって大切な友だちなのに、ちゆちーとのどかっちが二人だけでいるところを想像すると、胸が苦しくなって」

 

 自分の気持ちが分からない。
 ちゆちーがあたしよりも他の子と仲良くしているのがイヤだった。あたしの知らないことを、あたしよりも先に共有しているのがイヤだった。あたしの知らないところで、あたしの知らない笑顔を見せているところを想像すると、胸がじくじくと痛んだ。
 たとえそれが、のどかっちだとしても。
 いや、たぶん、のどかっちだからこそ。


「……こんなの、うざいよね。性格悪いよね。自分でもサイテーだって分かってるんだけど、自分でも、どうしたらいいのか分かんなくて」


 声が震えてくる。言い訳するように、「ごめん」と付け足して、唇をきゅっと結ぶ。
 ……あたしのこと、嫌いになっちゃったかな。
 無理もない。ちゆちーはあたしのものなんかじゃないし、あたしだってのどかっちのことは好きだから分かる。自分の気持ちが、どんなに身勝手で、汚らわしいものかってことくらい。


 ――ひなたって、そんなこと言う子だったのね。


 きっと、軽蔑されて、距離を置かれる。
 ちゆちーがどこかに行ってしまうのを想像すると、怖くて、体が震えてくる。ちょっと前までは、ちゆちーがいない日常が普通だったのに。

 いつの間にかあたしは、ちゆちーがいないとダメになっている。


「…………何で、そんなことを言うの?」


 ポツリ、と。雫が落ちるように、ちゆちーが言った。
 やっぱり、怒ってるんだ。あたしが気持ち悪いことばっかり言ってるから、呆れて、愛想を尽かしてるんだ。


「…………そんなこと言われたら、わたし」


 あたしはぎゅっと目をつぶった。イヤだ。拒絶の言葉なんて、聞きたくない。耳を塞ぎたかったけど、体が動かない。迫ってくる絶望を前にして、あたしはとことん無力だった。


「……………………」


 でも、いつまで経っても、ちゆちーは続きの言葉を言わなくて。
 様子がおかしいと思って顔を上げると、ちゆちーは頬を赤く染めて、固まっていた。


「……こほん。あのね。まず、何か勘違いしてると思うんだけど……のどかは、うちに泊まったことないわよ」
「え……でも、ちゆちーのママが……」
「たぶん、何か齟齬があると思うの。ひなたはお母さんからどういうふうに聞いたの?」


 あたしはちゆちーのママとの会話を思い出す。


「えっと……確か、『花寺さんなら前に泊まったことがある』って……」


 ちゆちーは少し考えてからこう言った。


「……お母さんは間違ったことを言ったわけじゃないと思う。でも、わたしも嘘は言ってない。少なくともわたしが知る限り、のどかが泊まりに来たことはないから」
「だったら……」
「たぶん、"花寺さんは泊まったことがあるけれど、のどかは泊まってないんじゃないかしら?"」
「………?」


 いまいち意味が分からずにいると、ちゆちーが説明してくれる。


「要するに、泊まりにきたのはのどかではなくて、のどかのご両親ってことよ。そういえば昔、のどかのご両親がお客様として泊まりにきたことがあるって、お母さん言ってたわ」
「……あっ!」


 そこであたしは思い出す。
 ちゆちーのママは、何か言いかけていた。


『でも確か、あのときは……』


 続く言葉は、こうだったのかもしれない。


『花寺さんのお母さんたちだけで、のどかちゃんはまだいなかったわね』


「……そ、そういうことだったんだ」


 全身から力が抜けたかと思うと、今度は顔が燃えるように熱くなる。
 ひとりで勝手に勘違いして、挙句の果てにちゆちーに当たって。
 みっともなさすぎるし、恥ずかしすぎる。

 もう、サイアクだった。


「……ねえ。ひなたは、自分が何を言ったか、分かってる?」
「ご、ごめん……ちゆちー……あたし……性格悪いことばっかり言って……なんか……こんな気持ち初めてで……自分でもよく分かんなくて……我慢できなくって……ほんとごめん……」

 

 頭を下げると、ちゆちーは小さく息をつく。

 

「……なるほどね。まさかそこまでとは思ってなかったけれど、きっと、そういうことなのね」

「え、何が……? どういうこと……?」

 

 呆れられているんだとは思ったけど、怒っている感じはなくて。

 言っている意味が分からなくて、チラッと様子をうかがうと、ちゆちーは目頭を押さえて難しい顔をしていた。

 

「……いいわ。ひなたは知らないみたいだから、教えてあげる。ひなたのその気持ちには、ちゃんと名前がついているの。その名前はね――」

 

 ちゆちーの手が伸びてきて、あたしの顔をぐっと持ち上げる。
 熱を帯びた視線が、あたしの目を貫く。


「――嫉妬って、言うのよ」


 そう言って。
 ちゆちーはあたしに、唇をくっつけた。
 頬とか、おでことかじゃなくて、唇に。


「――――っ」


 突然のことで、頭に電気が流れたみたいになる。

 ちゆちーの唇は、柔らかくて、温かい。
 ワケも分からずに固まっていると、ちゆちーはすぐに顔を離す。そして、あたしの目を覗き込むようにして見てきた。

 

「どう? 分かった?」 

「…………」

 

 頭がぼうっとして、うまく動かない。

 自分の口に手を当てる。ほんのりと湿っているのは、雨のせいなんかじゃない。

 あたしは図書室で初めてちゆちーの唇を感じたときのことを思い出す。

 あのときのことは一日も忘れたことはなかったし、それがどういう意味を持っているものなのか、ずっと考えていた。昨日ぜんぜん眠れなかったのは、そのせいでもある。

 

 ……でも、そっか。

 ちゆちーの唇の熱に触れたことで、いままで頭の中で固まっていたものが溶けていくのを感じる。

 あたしは、のどかっちに嫉妬してたんだ。

 のどかっちの方がちゆちーと仲良しなんじゃないかって、不安だったんだ。

 つまり、この気持ちの正体は――

 

「――分かんない」


 返事を聞いたちゆちーは目を丸くする。

 

「あたし、ひとつのことに集中するのって苦手で……いままで、誰かを特別に好きになったこともないから……」

「……そうよね。ひなたはこういうの、初めてなのよね」

「うん……だから、やっぱりよく分かんなくて……ごめん」

「……ううん。いいのよ」

 

 ちゆちーはうなずくと、どこか儚げに笑った。

 

「……で、でもね、ちゆちー」

「……?」

「確かにまだ……その……よく分かんないん、だけど……」

 

 あたしは上目遣いにちゆちーを見て、言った。

 

「…………もう一回してくれたら、分かる、かも」

「っ」

 

 そのとき、ちゆちーの体が震えたかと思うと、突然両目を覆われた。


「えっ……? な、何で……ちゆちー……?」
「こっちを見ないで」
「ちょっ……えー!? 何で!? 何かした、あたし!?」
「ほんと、ひなたは、ズルい」
「だっ、だから何の話!?」


 必死にちゆちーの手を除けると、思ってたより近くにちゆちーの顔があって、心臓が飛び跳ねる。距離にして、数センチ。もうちょっとで、また、くっついてしまいそうだった。


「ひなたは、あまり物覚えがよくないのよね」
「…………うん」
「じゃあ、しっかり、教えてあげないとね」


 ちゆちーがあたしの頬に触れる。
 胸の奥が疼く。心臓の音が速まる。体が溶けそうになる。
 あたしは期待と緊張を抱きながら、唇を差し出して、目を閉じた。
 ……でも、待ってても、ちゆちーはなかなか来てくれなくて。
 焦れたあたしが目を開けると、それを待っていたかのように、ぷにっと指が唇に触れた。


「…………へっ?」


 まぬけが声が出る。
 ちゆちーは悪戯っぽく笑うと、あたしの唇をつまんで言った。


「ただし、続きはうちで、ね?」


 ちゆちーに促されて周囲を見ると、雨の勢いは弱まっていて、辺りにはちらほら人が出歩きはじめていた。


「それでいいかしら?」


 あたしは顔が火照るのを感じながら、コクンとうなずいた。

 

 

※続きは明日の夜ごろに更新します。次で最後の予定です。

→更新しました。

www.konjikiblog.com 

その他のプリキュアSS

<これまでのちゆひな>

1作目 『沢泉ちゆはキスがしたい』
2作目 『平光ひなたは忘れられない』

3作目 『平光ひなたは続きがしたい』その①

     『平光ひなたは続きがしたい』その②

 

<まだ微妙にいがみ合ってるユニアイが温泉デートする話>

www.konjikiblog.com