金色の昼下がり

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【ヒープリSS】『平光ひなたは続きがしたい①』※ちゆひなの二次創作

 まだ付き合ってないちゆひなが温泉デートする話その① です。

 百合・GLです。一応全年齢向けですが、百合度が高めです。

 苦手な方はご注意ください。

 

(ちゆひな/百合・GL/全年齢向け)

 

※1作目と2作目の続編です。

 話としては繋がっていますが、読んでなくても大丈夫です。

 

 

『平光ひなたは続きがしたい①』


「――え!? 貸切風呂!?」
「あら、ひなたったら、貸切風呂を知らないの? 貸切風呂っていうのはね……」
「いやいや! それくらい知ってるし! そうじゃなくて……何で二人で貸切風呂に入ることになってるの!?」


 あたしが尋ねると、ちゆちーは澄ました顔で答える。

 

「この時間帯、露天風呂は一般のお客様が使っているのよ。女将の孫のわたしが、お客様といっしょに入るわけにはいかないでしょ?」
「そ……それは確かにそうだけど……あっ、でもでも、貸切風呂だって予約があるんじゃないの?」
「お客様向けに開放しているのは夕方以降なのよ。だから問題ないわ」
「…………」

 

 ちゆちーは貸切風呂のカギをくるくると回しながら、「さあ行きましょう」と言って前を歩いていく。その足取りがやけに上機嫌に見えるのは、気のせい……じゃない気がする。


 日曜日、あたしはちゆちーに誘われて『旅館沢泉』の温泉に入りに来ていた。
 最初は土曜日に約束していたけど、土曜日は旅館に宿泊するお客さんが多かったのに加えて、中居さんに体調不良の人が出てしまったらしい。それでちゆちーも旅館の仕事の手伝いをすることになったので、土曜日はやめて、日曜日の遅めの時間から遊ぶことになった。


『約束していたのに、ごめんね?』
『ううん、そんなのしかたないし』

『そうだ。せっかくなら、うちに泊まっていく? 明日も祝日だし……』
『い、いや……! それは大丈夫!』

 

 ちゆちーは残念そうな顔をしてたけど、それ以上は食い下がらなかった。
 ……いや、だってさ、ちゆちーと温泉に入るっていうだけでもけっこう緊張するのに、お泊まりまでするのは……。そもそも、ちゆちーは何であたしだけ誘ってくれたんだろう? いつもなら、のどかっちもいっしょなのに……。

 

「ひなた?」
「ふぇっ!? なななな何ですか!?」
「貸切風呂はそっちじゃなくて、こっちよ?」
「あ、ごめんごめん……」

 

 ちゆちーは貸切風呂ののれんをくぐり抜けていく。
 唾を飲み込んで、ゆらゆらと揺れるのれんを見つめる。なんとなく、昔、間違えてレンタルショップの奥にあるのれんをくぐり抜けそうになったときのことを思い出した。

 

「ひなたー?」
「いっ、いま行きます!」

 

 あたしはドキドキしながらのれんをくぐる。
 ちゆちーはすぐそこにいて、「何で敬語なの?」と笑いながら引き戸を閉めた。

 

「お客様向けに開放する時間までに準備しないといけないから、十五時に出るような感じでもいいかしら?」

 

 いまは十四時過ぎだった。着替えたり髪を乾かしたりする時間も含めると、そこまでのんびりはできないかもしれない。
 なんて、そんなことを考えていると、ちゆちーは何か察したように、

 

「一時間じゃ物足りないかしら?」
「う、ううん! 大丈夫! あたし、のぼせやすいタイプだから!」
「そう。ならよかったわ」

 

 ちゆちーと二人で入ることを考えると、これくらいがちょうどいいと思い直す。あんまり長すぎて、変な感じになってもアレだし。……いや、待て。変な感じって何?
 顔を上げると、ちゆちーはするすると服を脱いでいた。
 着替えているところ自体は体育のときとかに見たことがあるけど、何も隠してないちゆちーを見るのは初めてだった。全体的にほっそりしてて、スタイルがいい。特にお腹まわりは筋肉で引き締まってて雑誌のモデルみたいだ。部活で鍛えていることが分かる。
 ……触ったら、どんな感じなんだろう。

 

「……ちょっと、ひなた? じっと見すぎよ?」
「うぇっ!? あ、ああ……! い、いや……その……なんか、そこにクワガタがいたから……!」

 

 必死に取り繕っていると、「そういうことにしておくわ」とちゆちーは言った。
 ……ふう。あたしの演技力もあって、何とか誤魔化せたみたいだ。よかったよかった。

 

「じゃあ、わたしは先に入っているわね」
「うん……」

 

 ちゆちーが扉の奥に消えていくのを確認すると、あたしは鏡の前に立つ。
 今日のファッションは、黄色の肩開きのパーカーワンピ。ダボっとしてるから、温泉に入ったあともゆっくりできるし、せっかくちゆちーと休日に会うしと思って、下ろし立てのこの服にしたんだけど……ちゆちーは気付いてなかったな……。


 気を取り直して、あたしは服を脱いでいく。
 鏡に映る自分と睨めっこして、変なところはないか確認する。

 お腹は……ともかくとして、目元に大きなクマができているのがやっぱり気になる。
 昨日の夜、ぜんぜん寝れなかったせいだ。


 あたしは目元を手で拭ってから、おそるおそる扉を開けて中に入る。
 ちゆちーは洗い場に座っていたので、あたしもとりあえず隣に腰を下ろして髪を洗っていく。シャンプーは爽やかなハーブ系の香りだった。
 次は体だ。タオルにボディソープをつけて洗っていると、ちゆちーが話しかけてきた。

 

「ねえひなた。背中、洗ってあげるわよ?」

 

 見ると、右隣にいるちゆちーが泡立てたタオルを持ってニコニコしている。あたしは、うぇ、とか、わ、とか言いながら、反射的に体を左に向ける。
 あたしとしては体の前を隠そうとしただけだったんだけど、左を向いたことで、ちゆちーに背中を見せる体勢になっていた。だから、ちゆちーにはあたしが洗って欲しくて背中を向けたように見えたんだろう。

 

「痒いところはないかしら?」

 

 なんて言いながら、あたしの背中にタオルを当てる。

 

「あっ……んっ……!」

 

 タオルと泡の柔らかな感触に、ぞわ、と背筋が反応する。ちゆちーがタオルを動かすと、気持ちいいようなくすぐったいような変な感じがして、そのたびに体がくねっと動いてしまう。

 

「ちょっ、ち、ちゆちー……!」
「? どうしたの?」
「タ、タイムタイム! いったんタイム!」
「タイムって、何が?」
「だっ、だからっ。んっ、背中を洗うの……ちょっと待って……! お、お願い……!」

 

 肩越しにちゆちーを見て訴えかける。目が合うと、ちゆちーはなぜか顔を赤くして口元を手で隠した。湯気に当てられて熱くなっちゃったのかもしれない。 
 そのまま懇願するようにじっと見つめていると、ちゆちーはあたしの顔を両手で掴んでぐいっと前に向けた。

 

「ち、ちゆちー?」
「ううん。何でもないの。何でもない。何でもないから、前を向いてて」
「あ、うん……で、でも、タオルはちょっと……」


 もじもじしながら言うと、息を飲むような音がした。

 

「……それでいいのね?」

 

 ん? それでいい?
 ちゆちーの言っている意味がよく分からなかったものの、とにかくタオルで背中を洗われるのを回避したかったので、あたしは適当にうなずいた。
 すると。
 ぴと、と何やら温かいものが背中に押し当てられた。

 

「ひゃっ!?」

 

 それはするするとあたしの背中を滑っていく。無意識のうちに背筋がピンと伸びて、いままで感じたことのないような刺激が頭の中に流れ込んでくる。

 

「えっ、あっ、ちょっ……んっ……」

 

 それは、ちゆちーの手だった。
 あたしはいまになって気付く。どうやら『それでいいのね?』というのは、『タオルじゃなくて手で洗っていいのね?』という意味だったらしい。なるほどなるほど……。
 いや、そうじゃなくて!
 普段は見せないようなところをちゆちーに触られている。
 その事実がどうしようもなく恥ずかしかったし、何よりさっきからちゆちーの手が動くたびに、タオルのときとは比べものにならないくらいの刺激があった。
 必死に身をよじって逃げようとすると、「動かないで」とちゆちーに釘を刺される。
 そんなの無視しちゃえばいいのに、あたしはなぜかちゆちーに逆らえなくて、蚊の鳴くような声で答えていた。

 

「……はい」
「じっとできて、偉いわね」

 

 まるで小さな子どもを褒めるときみたいな言い方だったけど、悪い気はしなくて、このままじっとしてなくちゃという気持ちになる。
 ちゆちーの洗い方は丁寧だった。
 むしろ、丁寧すぎるといってもいい。小さな動物を撫でるときみたいに、ゆっくり、優しく、背中を洗ってくれた。
 ときどき声を漏らしたり、やっぱりちょっと動いたりしながらも、あたしはちゆちーが洗い終えるのを待ち続けた。我慢している間はものすごく長く感じられたけど、終わってみるとあっという間だったような気がするから不思議だ。

 

「――はい、これでおしまい」
「あ……ありがと……」

 

 鏡を見ると、ふにゃふにゃな顔の自分と目が合った。まだ湯船にも入っていないのにのぼせたみたいに顔が赤らんでて、あたしはそっと目を逸らした。

 一方、ちゆちーはというと、頭からシャワーを被っていた。

 

 どうやら冷水を浴びているらしい。ときどき跳ねてくる水が信じられないくらい冷たかった。温度調節のところを見てみると、いちばん冷たい設定になっていた。

 

「ちゆちー、何で冷たい水を被ってるの……?」
「ちょっと……頭を冷やしてるの……」

 

 分かったような、分からないような答えだった。

 

「じゃあ、温泉に入りましょうか」
「あれ? ちゆちーの背中は……?」
「わたしは大丈夫よ。自分で洗ったから」
「…………」

 

 あたしはあんなに洗われたのに。釈然としないような思いを抱いていると、ちゆちーは悪戯っぽく笑う。

 

「わたしの背中、洗いたかったの?」
「べっ、別に!? そういうわけじゃないけど……」

 

 あたしは羞恥心を隠すように、いそいそと湯船に入った。

 

「は~~~~」

 

 温泉に浸かると自然と声が出る。
 すぐにちゆちーもやってきて、あたしの隣に座った。
 ちゆちーの旅館の温泉は少し色がついているので、何となく安心感があって、開放的な気分になる。


「温泉、気持ちいいね~」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
「家が温泉旅館っていいよね。疲れたときにはいつでも温泉に入れるし」
「お客様が使っている時間は使わないから、いつでもってわけじゃないけどね。……昨日も突然予定を変えてもらって、ごめんね? 土曜日はお客様が多くて、慌ただしくて……」
「ううん! ぜんぜん! むしろ、ちゆちーは偉いよね。家の仕事のお手伝いしてさ」
「それはひなただって同じでしょう?」
「あたし? まっさか~。動物病院の方はあたしにできることなんてほとんどないし、お姉のカフェもイベントのときとか以外はひとりで十分だから、普段はお手伝いなんてしてないよ?」
「そうなの……? でも、この前予定があるか聞いたときは、家の手伝いがあるって言ってなかった?」

 

 ギクッとなる。
 そういえばちゆちーからキスされた次の日の放課後、いっしょに帰ろうと誘われたとき、そんな言い訳をして先に帰ろうとしたっけ。


「あっ、あれは……! その、こ、言葉のあやとりというか……!」
「……それを言うなら、言葉のあやでしょ?」


 ツボに入ったのか、ちゆちーはくすくす笑い出す。


「い、いや~。あたしも手伝うときは手伝うんだけどさ、休日は動物病院も休診だから……。今日もなんか、学会? とかで発表があって、泊まりがけで遠くまで行ってるみたいでさ……」


 あたしはヒヤヒヤしながら話題を逸らしていく。 


「お姉も、先週から外国行ってカフェの勉強してるんだよね。今日の夜までには帰るって行ってたけど」
「働きながら勉強するなんて、すごいわね」
「う、うん……。そうなんだよね……」


 そう。あたしの家族はみんなけっこうすごい。獣医は頭がよくないとできないし、カフェは調理の腕や経営のセンスがないとやっていけない。
 でも、あたしにはどっちもないし、これといって得意なこともない。


「ひなたって、うちの温泉に入ったことあった?」
「…………」
「ひなた?」
「あっ。ご、ごめん……ちょっとぼーっとしてて……何だっけ?」

 

 考え事をやめて、ちゆちーに聞き返す。


「大した話じゃないの。うちの温泉に入ったことがあるか、聞いただけ」
「言われてみれば……初めてかも」
「やっぱりそうよね。日帰り温泉もやっているけれど、旅館の温泉って町の人はあんまり来ないから」
「そうなの?」
「ええ。同い年くらいの子なら、なおさら。学校の子でも、温泉に入りに来てくれたのはひなたとのどかくらいかしら」


 何てことのない会話だったけど、あたしはそこで相槌を打てなくなる。


「……の、のどかっちも、来たんだ」
「引っ越してきてすぐのときにね。まだ、わたしがプリキュアになる前よ」
「へ、へーえ……そうなんだ……」


 初耳だった。のどかっちが引っ越してきて間もないころは二人とそれほど仲がいいわけでもなかったから、誘われていないのも無理はないし、そのことに異議を唱えたいわけではない。
 ただ、なんだろう。
 ちゆちーがのどかっちと二人で温泉に入っているところを想像すると、なんだかよく分からないけど、モヤモヤした。
 初めて感じる気持ちだった。
 怒っているわけではない、と思う。自分だけ仲間外れになっていたことに対して、つまらないと感じているんだろうか。


「……心が狭いぞ、あたし」
「? 何か言った?」
「う、ううん。何でもない」


 汗を拭くフリをして、タオルを顔に当てる。しばらくして顔を上げると、ちゆちーはぼんやりと壁を見つめていた。
 いつもサイドに垂らしている髪をまとめて、湯船の中に入ってしまわないようにしているんだけど、その姿が新鮮で、つい、じっと見てしまう。
 ちゆちーは綺麗だ。
 主観ではない。誰が見たってそうだ。運動もできるし、頭もいいし、あたしの知らないことをたくさん知っている。こんなに素敵な人はなかなかいないと思う。

『まだ、わたしがプリキュアになる前よ』


 さっきから、ちゆちーの言葉が頭にこびりついて離れない。
 ちゆちーはプリキュアになる前から、のどかっちと二人で温泉に入るような関係になっている。別にプリキュアじゃなかったとしても、二人は仲良くなっていたということだ。
 でも、あたしはプリキュアになってなかったら、たぶん、いや、ぜったいに、ちゆちーとこんなふうに温泉に入ることなんてなかったと思う。

 

「…………」

 

 不意にちゆちーがこっちを向いて、柔らかな笑顔を作る。あたしは笑い返そうとしたけど、顔が強張ってしまって、うまく笑えなかった。


「あ、あのさ……」
「? なあに?」


 あたしはちゆちーに尋ねようとして、やっぱり、途中でやめた。聞いたところで、自分がどうしたいのか分からなかったからだ。

 

 ――のどかっちは、ちゆちーの家に泊まりに来たことあるの?

 

 だなんて。


「そろそろ、のぼせてきたかも」


 そう言って、タオルで体の前を隠しながら湯船を出る。


「ちゆちーはのんびりしててよ。あたし、脱衣所で待ってるから」


 ちゆちーは何か言ったような気がしたけど、聞こえない振りをして急いで進もうとした。
 そのとき。


「あっ」

 

 あたしは床のぬめりに足を取られてしまう。
 ひやっと胸が縮むような感覚。バランスを保とうと腕を振り回すけど、一度重心を失った体は簡単には元に戻せなくて、次の瞬間、あたしの体は宙に浮いていた。


「――ひなた、大丈夫?」


 助けてくれたのはちゆちーだった。後ろからぎゅっと支えてくれたおかげで、あたしは転ばずに済む。


「あ、ありがと……」


 お礼を言ったとき、背中にふわっと柔らかいものが当たっていることに気付く。
 ちゆちーは全身を使ってあたしのことを支えてくれていた。
 ということは。
 つまり。
 この感覚は……。


「――――っ!」


 ちゆちーの胸元から飛び退るようにして離れる。
 でも、あたしはバカだった。慌てすぎたせいで、けっきょくまた足を滑らせてしまう。
 バランスを崩したあたしは、そのまま湯船の中に落ちた。
 水しぶきが上がる音がして、口と鼻にお湯が入り込んでくる。


「んぐっ、んんっ……! げほっ……げほっ……!」


 水面から頭を出して排水溝にお湯を吐き出す。思い切りお湯を吸ってしまったせいで、鼻がツンと痛む。


「だ、大丈夫……?」


 ひとりで焦って、助けてもらったのに転んで、あたしはいったい何をしているんだろう。


「はぁ……はぁ……うん……もう大丈夫……」


 そそっかしい自分が、イヤになる。
 ごめんと謝って、あたしは更衣室に戻る。扉を閉めたところで、頭がくらっとして、床にしゃがみ込む。立ちくらみだった。しばらく待っているとすぐに治ったけど、立ち上がるのが億劫で、そのまま壁にもたれかかった。
 座りながらぼうっとしていると、今度は暴力的な眠気に襲われる。


 昨日の夜、寝れなかったせいだ。ひとりになったことで、緊張が解けたというのもある。気を抜くとそのまま眠ってしまいそうだった。早く立って着替えなきゃと思うんだけど、体がいうことを聞かない。
 このまま眠ってしまえば気持ちいいだろうなと思うと、もうダメだった。
 ちょっとだけ。ほんの数秒だけ。
 睡魔の誘惑に負けて、目を閉じた。
 そこで、あたしの意識は途切れる。

 

 

※続きは明日の夜に更新します。

 

→更新しました。その②です。

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