金色の昼下がり

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【スタプリSS・小説】『オルフェウスごっこ』ひかララの二次創作

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 本編でのひかララの尊さにあてられた私は、何を血迷ったか、気が付けばひかララの二次創作を書いていました。

 完全に自分が楽しむために書いたもので、この場で公開するつもりはなかったんですが、せっかく書いたものだし…と考え直しました。

 

 ということで、恥を忍んで公開します。

 そのうち再び考え直して消すかもしれません。そのときはお察しくださいませ。

 

※全年齢向け、百合

(3500字くらい、読み終えるまでに7分程度)

 

 

オルフェウスごっこ

 

 夜の道を歩いていた。
 天体観測の帰り道、周囲にはわたしとひかる以外誰もいない。


「――十六夜の月、綺麗だったね!」


 ひかるはさっき撮った写真を見返しながらいう。


「でも、贅沢をいうと、もうちょっといいカメラが欲しいんだよねー」
「お小遣いを貯めるルン」


 隣を歩きながら、わたしがいう。


「んー……頑張ってはいるんだけど……」
「五百円ルン?」
「そうなの! それが限界で……っていわせないでよ~!」


 ひかるがおどけながら答えるので、わたしもつられて笑ってしまう。


「――あ! ララ! あれ見て! 琴座だよ!」


 急に空を指差したかと思うと、そのまま早口で語り始める。


「琴座の琴はね、オルフェウスっていう琴の名手の神話がもとになってるんだ。ある日オルフェウスの大切な人が死んじゃって。オルフェウスは大切な人を生き返らせるために、冥界っていう死者が行く世界に向かうんだ。
 それで、オルフェウスは冥界の神様に琴の演奏をして、大切な人を返して欲しいって頼むの。その演奏に感動した冥界の神様は、『連れて帰っていい』って許可するんだけど、それにはひとつだけ約束があってね。それは『帰る途中でぜったいに振り返っちゃだめ』ってこと。もし一度でも途中で振り返っちゃったら、そのときは……」


 ひかるは宇宙や星座の話になると饒舌になる。次から次へと、自分の好きなことを語り続ける。

 

 ――わたしは、ひかるの話を聞いているのが好きルン。

 

 初めて会ったときからずっと、ひかるは色んな話をしてくれた。どれもひかるの好きな話ばかりで、なかにはあんまり関心のない話もあったけれど、嫌だと思ったことはない。ひかるの好きなことを一つ知れるたびに、ひかるとの距離が縮まるような気がしたから。

 

「――っていうお話なの! どうどう? キラやば~っ☆ でしょ!」


 ひかるのことを考えていたら、つい話を聞きそびれてしまっていたようだ。
 わたしは慌てて「面白かったルン」と返事をする。ひかる、ちゃんと聞いてなくてごめんルン。心のなかで、つぶやきながら。


「あーあ、帰りたくないなー」
「急にどうしたルン?」
「だって、もっとララとおしゃべりしてたいから……」
「それは――」


 わたしも同じルン、といいかけて、その言葉を飲み込んだ。
 なんだか少し、気恥ずかしくなってしまったのだ。


「……そんなこといっても、もうこんな時間ルン。ひかるは家に帰らないと駄目ルン」
「ちぇー。そんなことわかってるよー……」


 ひかるはつまらなさそうに頬を膨らませる。
 言葉を間違えたかな、と少し焦るが、ひかるはすぐに何かを思いついたようで、目を輝かせていう。


「――あ! じゃあさ、オルフェウスごっこしようよ!」
「ル、ルン?」
「ララが前を歩いて、わたしが後をついていくの。ロケットのところに戻るまで、ララは振り返っちゃダメだからね」
「な、何でルン……?」
「いいからいいから! 振り返ったらダメだよ。もし振り返ったら……」
「振り返ったら?」
「オルフェウスと同じで、キラやば~っ☆ なことになるからね!」
「意味が分からないルン……」


 わたしの反論に耳を傾けることなく、ひかるはそそくさとわたしの後ろに回る。


「じゃあやるよ? よーいスタート!」

 

 ☆ ☆ ☆

 

 そうして「オルフェウスごっこ」が始まった。 
 わたしはどんどん歩いていく。前には誰もいないし、隣にも誰もいない。後ろにはひかるがいる。
 よく分からない遊びだ。ひかるはときどき、よくわからないことをする。
 外灯の少ない道に差し掛かったとき、いつもより道が暗いことに気が付いた。
 空を見上げる。風に流された暗雲が月を隠してしまっている。


「…………」


 わたしはどんどん歩いていく。前には誰もいないし、隣にも誰もいない。後ろにはひかるがいる。
 いる、と思う。
 だって、さっきまでいたから。ひかるは勝手にどこかに行くはずがない。きっといる。いるはずだ。

 

 ――本当に?

 

 さっきまでいたからって、これからもいられるとは限らない。
 勝手にどこかに行くはずがないというのは、わたしの考えでしかない。
 ひかるにはそばにいて欲しい。でも、その願いは、わたしだけのものかもしれない。
 胸のなかで、疑心暗鬼が渦巻いていく。
 振り返りたい。
 後ろを見て、ひかるがいることを確認したい。ちゃんといるんだっていう確証を得たい。
 オルフェウスごっこ、とひかるはいった。
 いまならオルフェウスの気持ちが痛いほどわかる。振り返ったらダメだといわれても、振り返りたくなるその気持ちが。

 

 ――そういえば、オルフェウスの話は最後どうなったルン? 大切な人はどうなったルン?

 

 話を聞きそびれたことが悔やまれる。
 でも、神話のことだ、オルフェウスは振り向いてしまったんだろう。そうじゃないと、物語にならないから。


 それで、たぶん、オルフェウスの大切な人は――。


 わたしは足を止める。
 いいことを思いついた。
 もし、ひかるがすぐ後ろについて来ているなら、ひかるも止まるはずだ。わたしがずっと止まっていたら、そのうち音を上げて話しかけてくるだろう。まさに完璧な作戦である。


 わたしは待ち続ける。


 ひかるが声をかけてくることを。「ちょっとララ、そんなの反則だよー」といって頬を膨らませるのを。

 しかし、どれだけ待っても、そのときは来ない。

 不安が膨らむ。
 何分経っただろう。一分はとうに過ぎた。二分は経っている。三分以上待っているのは確実だ。


 待つ。待つ。待つ。


 わたしは時計を持っていなかった。AIがあれば時刻は分かるから。
 でも、そのAIも今日はロケットに置いて来ていた。ひかるとのお出かけは、二人きりが良かったから。
 わたしはすっかり疲弊していた。こんなことなら最初から止まらずに歩いていればよかった。そしたら、もっともっと、一緒にいられたのに。


「ねえ、ひかる……」


 痺れを切らして呼びかけるも、返事はない。

 

 ――もう、限界ルン。

 

 ひかるの顔が見たかった。
 ひかるの顔を見て、ひかるの声を聞いて、ひかるとおしゃべりしたかった。

 

 ――何でひかるはこんな意地悪をするルン?

 

 熱い感情が込み上げてくるのを堪えながら、意を決して、わたしは振り返る。
 と、そのとき。

 眩しい光とともに、カシャッ、と音が鳴った。

 

「――ルン!?」


 それはあまりにも想定外のことで、わたしは一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
 振り返った先に、間違いなく、ひかるはいた。
 ただ、一つだけ問題があった。


「ひかる……それって……」
「あーあ、ララ、振り向いちゃったね」


 ひかるはカメラを見せびらかしながら、ニッと笑う。


「証拠もちゃんと押さえたもんね~」
「や……けっ、消すルン!」


 羞恥心があふれ出し、咄嗟にカメラを奪い取ろうとするも、体の後ろに隠されてしまう。


「駄目だよ。ララ、すっごくかわいい顔してたし」
「なっ……!」


 その言葉に心を揺さぶられ、無理な姿勢になっていたわたしは、足を踏み外してしまう。
 あっ、と思ったときには、完全に重心を失っていた。


「――だ、大丈夫?」


 小さな衝撃と、柔らかな感触。
 次の瞬間、わたしはひかるの腕のなかにいた。
 顔を上げると、すぐ目の前に、ひかるがいる。


「……ひかるは、意地悪ルン」
「好きな人には、意地悪しちゃうっていうでしょ?」


 どこまでも真っすぐな目で、ひかるはいう。
 分からない。ひかるはどこまで分かっていっているのか、それとも、何も分かっていないのか。
 ただ、ひとつだけ分かっているのは、自分の顔が恥ずかしいくらい火照っているということだ。
 わたしは顔を伏せる。電灯が少ないことだけが救いだった。いまの自分の表情は、ぜったいに見られたくない。


「でも、ララったら急に立ち止まるからびっくりしたよ」
「……ひかるなら、待ちきれずに声をかけると思ったルン」
「ふっふっふ。わたし、待つのは得意なんだ。だって、十年以上ずーっと待ってたんだよ? ララみたいな宇宙人に会えるのを」
「…………」
「オルフェウスごっこは、わたしの勝ちだね」


 ひかるがいう。
 完敗だ。返す言葉もない。
 恐る恐る、ひかるの表情をうかがう。


「わたし……振り向いちゃったけど……どうなるルン……?」
「最初にもいったよ。オルフェウスのお話と同じだって」


 ひかるはいたずらっぽく笑うと、わたしの体を抱き寄せる。

 

「オルフェウスが振り向くとね、オルフェウスの大切な人は、おうちに帰れなくなっちゃうんだ」

 

 一瞬、世界から、音が消えた。


「……それがいいたくて、家に帰りたくなくて――オルフェウスごっこをしたルン?」
「駄目かな?」


 照れくさそうに、ひかるが尋ねる。


「まあ神話だと、振り返った罰として、オルフェウスの大切な人は冥界の奥に消えて、二度と会えなくなっちゃうんだけどね」
「……駄目ルン」
「うん……やっぱり帰らないと駄目だよね。時間も遅いし、お祖父ちゃんに怒られるし――」
「会えなくなるなんて、そんなの、ぜったいに駄目ルン!」


 わたしはひかるの背中に腕を回して、力いっぱい抱きしめる。


「ど、どうしたの、ララ……?」
「わたしは、ひかると、ずっと一緒にいたいルン……お別れなんて……ぜったいに嫌ルン……」


 怖くて、苦しくて、恥ずかしくて。
 自分の声はみっともないくらい震えていたけれど、途中でいうのをやめたりはしなかった。


「……あのね、ララ」


 ふと、ささやくように、ひかるがいう。


「大切な人を再び失ったオルフェウスはね、何とかしてもう一度会いに行こうとするんだ。でも、約束を破ったオルフェウスが冥界に行くことは二度と許されなくて、最後には諦めちゃうの。……悲しい神話だよね。でも、この話を読むとね、わたしはいつも思うんだ。
 ――わたしだったら、何が何でも、諦めないのにって。どれだけ時間がかかっても、どれだけ労力がかかっても、冥界に行くためのロケットを作ってでも……大切な人に会いに行くのにって」


 だからね、とひかるは続ける。


「もし離れ離れになっちゃったとしても、わたしはぜったい会いに行く。ララのところに行く。約束だよ」
「……信じてもいいルン?」
「うん」
「……でも、わたしはそんなに長くは待てないルン」
「じゃあ、どれくらいだったら、待ってくれる?」
「……さっきは五分くらいが限界だったルン」
「ご、五分って……短すぎない……?」
「ひかるは分かってないルン。五分はとても長いルン。長すぎるルン」
「そうなの……?」
「そうルン。AIも五分は長いっていってたルン」
「ララ……」


 ひかるがフフッと笑う。


「五分じゃ、家にも帰れないよ」
「だから……帰っちゃ駄目ルン」
「お祖父ちゃんに怒られちゃう」
「宇宙人にさらわれたっていえばいいルン」
「間違ってはないけど……」
「ひかるは嫌ルン?」
「……今日のララは、なんだか子どもみたいだね」


 少し間をあけてから、ひかるがいう。
 わたしは大人ルン。ちょっと前のわたしなら、ムキになってそう答えていただろう。
 でも、いまは違う。


「子どもでも何でもいいルン」
「……ほんとにもう。どうしちゃったの」


 ひかるはわたしの体をぎゅっと抱きしめる。そしていった。


「ずっと一緒だよ、ララ」


 暖かな吐息が、わたしの耳を優しくくすぐった。

 

 

 

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