株主優待というのは日本の独特な文化で、株主優待をテーマにした雑誌等が出版されるなど、一般的にも受け入れられているように思います。
しかし、株主優待目当ての投資は、本当にお得なものなのでしょうか?
この記事は、株主優待目当ての投資をするうえで知っておきたいメリットとデメリットについてまとめています。
- デメリット①株主優待をもらうと株価は下がる
- デメリット②株主優待はある日突然改悪される
- デメリット③多くの種類の株式を管理するのは面倒
- メリット①株主優待は節税になる
- メリット②株主優待には「お得感」がある
- メリット③パートナーから「投資はやめて」といわれるリスクを回避できるかも?
- 株主優待のまとめ
- 投資信託は株主優待をどのように処分・換金しているか?(補足)
デメリット①株主優待をもらうと株価は下がる
企業が株主優待を株主に配ると、理論上、株価は下がります。
理由は2点あります。
理由1.株主優待目当てで保有していた人が株を売却するから
株主優待をもらえる権利を獲得したらすぐに売却してしまうという方がいます。
人間は遠い未来にもらえるかもしれない利益よりも、近い将来確実にもらえる利益を過大評価する傾向があります。これは厳しい自然環境で生きていたころの本能であり、多くの人にとっての行動原理となっているものです。
人は確実にもらえることが分かっている株主優待を過大評価しがちであり、将来的な株価の上昇については過小評価しがちです。
ゆえに、株主優待目当てに株を買い、優待をもらったら売却するという人が現れます。
株が売られると、当然、その株価は需要と供給の関係により下落します。
理由2.株主優待とは要するに配当と同じである
株主優待は、配当が物に姿を変えたものであり、本質的には配当と同じものです。
企業が配当を出すとき、どこからお金を出すかというと、当然ですが企業が得た利益から出します。
このとき、企業の資産はこの分だけ減少します。
企業の資産が減少するということは、企業の価値が下がるということなので、理論上はその分だけ株価は下落します。
つまり、企業が株主優待(配当)を分配すると、その価値の分だけ株価が下落するのです。
せっかく株主優待をもらっても、その価値の分だけ株価が下がってしまえば、意味がありませんね。
しかし待ってください。
まったく意味がないこともありません。
デメリット②株主優待はある日突然改悪される
企業の業績が悪くなると、当然のことながら、株主に還元されるお金も減らさざるを得なくなります。
そんなとき、真っ先に矛先を向けられるのは、株主優待です。
そもそも、株主優待は法的義務を負わないものであり、あくまでも企業の好意によるものなので、配当等と比べると「切りやすい」からです。
2016年7月に事件は起きました。
大盤振る舞いの株主優待をしていたヴィレッジヴァンガードは、それまで無条件に利用できた1000円分の商品券を、2000円ごとに1枚しか利用できないように改悪しました。
するとどうでしょう。
たった一日で、株価は20%前後も暴落してしまいました。
ヴィレッジヴァンガードは利用条件を変更しただけだったにもかかわらず、これだけの衝撃をもって市場からバッシングを受けたのです。
これは私たちに次のような教訓をもたらしてくれます。
株主優待はいつ改悪されるか分からないし、もし改悪されれば「改悪そのもの」のダメージに加えて、「株価の暴落」のダメージも負うことになる。
まさにダブルパンチですね。
魅力的な株主優待ほど、改悪されたときの衝撃は大きいので注意が必要です。
デメリット③多くの種類の株式を管理するのは面倒
株式投資をしている多くの人は他に仕事があり、多忙な日々を過ごしていることでしょう。
個別株を購入すると、それらに動きがないか注視する必要が生じます。
特に株主優待目当ての投資をする人は、優待のもらえる最小単位だけを購入する方が多いかと思います。
しかし、様々な個別株を優待のもらえる最小単位で購入していくと、所有する銘柄の種類がどんどん増えていきます。
所有する銘柄が増えれば、当然、管理する手間も増えていきます。
株主優待目当ての投資で得られる利益はたいした金額ではありません。一つの銘柄につき、せいぜい数百円~数千円程度です。
あなたが会社員であれば、1時間程度の残業をすれば1000円~3000円くらいは簡単に稼げると思います。(人にもよりますが)
そのため、株主優待で得られる小さな利益のために、どれだけ時間というコストをかけることになるのかを考えてみた方がいいかもしれません。
投資に強い関心と情熱を持っているのであれば、あるいは管理すること自体が楽しくてしかたないのであれば、もちろんいいと思います。
しかし、そうでないならば、後々の管理が面倒になり、少なくない時間を消費することになるので、やるとしてもほどほどにしておいた方がいいと思います。
メリット①株主優待は節税になる
実は、一部の人は株主優待のうまい汁をすすることができます。
それは、NISA(つみたてNISA)を全て使い切っていてもなお、投資する余裕のある人です。
株主優待は配当と同じようなものであると、先ほど説明しました。
しかし、配当は金銭給付であり、国から源泉徴収をされてしまいますが、株主優待は「物」であり、源泉徴収されることがありません。
つまり、配当金であれば徴収されていたところを、株主優待であれば免れることができるわけです。
もっとも、株主優待により物品を得た場合、配当所得とは見なされなくとも、所得であることには変わりません。
厳密にいうと、現金に換算した額を所得とし、税金をおさめるべきです。
しかし、給与所得者であれば、他の所得が20万円未満であれば確定申告の必要はありませんし、専業主婦や無職であれば、所得税の基礎控除38万円(住民税は33万円)までは無税となります。
したがって、多くの人は、株主優待により節税することができるのです。
もっとも、NISA(つみたてNISA)口座をまだ使い切れていない場合は、そちらを優先した方がいいでしょう。NISAであれば、配当だけでなく、売却益についても非課税となるからです。
メリット②株主優待には「お得感」がある
株主優待が手間がかかる割にはそれほどお得なものではないというのは、過去の記事で説明してきました。
とはいっても、株主優待に「お得感」があることは紛れもない事実です。
お菓子、もらえたら嬉しいですよね。
カレーの詰め合わせ、いいじゃないですか。
施設の招待券なんて最高ですよね。タダで遊ばせてくれるんですから。
この、「実際に得ている利益以上の満足感を得られる」という点こそが、株主優待のメリット(裏返せばデメリットにもなり得ますが)だと考えます。
メリット③パートナーから「投資はやめて」といわれるリスクを回避できるかも?
独身ならばあまり気にすることもないかもしれませんが、結婚などで財産をある程度共有するパートナーがいると、パートナーに対して投資の説明をする必要が生じます。
問題となるのは、パートナーが投資に関心を持っていない場合です。
投資に関心を持っていない層が投資に抱いているイメージは、たいていの場合、パチンコや競馬等のギャンブルと何ら変わりありません。
むしろ、そうしたギャンブルよりも嫌われている可能性もあり、下手をすれば「投資なんてやめろ」といわれるリスクすらあります。
そういうわけで、こうした場合には、いかにパートナーに投資のメリットを伝えられるか、その技量が問われることになります。
「投資はギャンブルではなくて…」
「この間、株価が〇〇円値上がりしたから、〇〇円の含み益になって…」
「過去〇〇年間のデータを読む限りだと、このポートフォリオのリスクは〇〇%で、期待リターンは〇〇%で…」
…こんなことを言ったって、投資に関心のない人の心を開くことはできません。
むしろ閉ざされます。
岩戸の奥に行ってしまいます。
こんなとき、役に立つのが株主優待です。
株主優待は感情に訴えかけられるアイテム
投資にマイナスイメージを持っている人に投資のメリットを伝えるときは、含み益のある証券口座の数字を見せるより、株主優待でゲットした物品をプレゼントする方が効果的です。
人に誕生日プレゼントをあげるとき、現金を渡さず、物品を渡すようなものです。
人が数字ではなく感情で生きていることを思い出すのです。
こうすれば、投資にくっついている悪いイメージを多少は拭えるかもしれませんし、「投資は危ないからやめろ」とまではいわれなくなるかもしれません。
株主優待のまとめ
株主優待についてまとめると、下記の通り。
- 株主優待をもらうと、理論上はその分だけ株価が下がるため、利益にはならない。(プラスマイナスゼロ)
- 株式優待をもらう場合には、配当金をもらう場合に比べ、納めるべき税金が少なくなる可能性が高い。
- 株主優待は改悪されるリスクがあり、改悪されると株価も下落する。
- 優待目当てに多くの銘柄を所有すると、管理が面倒。費用対効果に合わない可能性あり。
- 株主優待は、実際に得ている利益以上の「満足感」を得られる。
- 投資にマイナスイメージを持つパートナーからは、「投資やめろ」といわれるリスクがある。
- 株主優待の「お得感」を利用して、パートナーに投資を受け入れてもらおう。
また、勘のいい方ならお気付きのとおり、NISA口座(ジュニアNISA)で、株主優待目当ての投資はすべきではありません。
なぜなら、NISA口座はそもそも配当金も売却益も非課税であり、株主優待のほとんど唯一のメリットである節税効果が用をなさなくなってしまうからです。
投資信託は株主優待をどのように処分・換金しているか?(補足)
株主優待の恩恵を実際に感じるのは主に個人投資家ですが、機関投資家(投資信託やGPIF等)は受け取った株主優待をどのように処理しているのでしょうか?
個別株を買っていれば株主優待をもらえていたはずなのに、投資信託だともらえないのは損じゃないのか? と疑問に思う方もいることでしょう。
その疑問にお答えします。
換金できるものは換金し、投資信託財産に組み込んでいる
調べたところ、信託会社やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)では、換金できるものについては換金して、投資信託財産に組み込んでいるようです。
金券、優待券など容易に換金できるもの、または基準価額に影響する等受益者の利益のため必要と判断されるものは、換金して投資信託財産に繰り入れます。
また、農産物、食品などの換金が困難な株主優待物は、信託銀行にて、受領辞退、慈善団体等への寄付等を行います。*1
【GPIFと株主優待】#株主優待 は資産管理機関が管理し、割引券等は換金され運用収益の一部となります(平成29年度実績 約4.2億円)。食品・家庭用品等は日本赤十字社や東京都社会福祉協議会及び神奈川県共同募金会を通じて福祉施設等に寄付され、社会に役立てられています。 https://t.co/Jx80HsECnq pic.twitter.com/FOZe7ncQAB
— GPIF (@gpiftweets) January 18, 2019
つまり、株主優待をもらえないからといって、投資信託を購入している顧客がまるっきり損をしているわけではないようです。
しかし、全く損をしていないかというと、そういうわけでもありません。
食品等の換金が困難なものについては、受領を断ったり、慈善団体へ寄付したりするようなので、本来ならば投資家が受け取れるはずだった受益の一部は、投資家のもとまでたどり着きません。
よって、投資信託等を購入する人は、換金不能な株主優待の分だけ、損しているといえます。
寄付ならまだ溜飲も下がりますが、受領を辞退するのは、ただただ損でしかありませんね。
株主優待のせいでどれだけ損しているのか?
投資信託等を購入する人もそうですが、GPIFも株式運用をしている以上、この問題はほとんどの人にとって無関係ではありません。
では、実際には株主優待のせいで、どれだけ損しているのでしょうか?
それほど大きくはないというのが答えです。
(ご参考)なお、2017年度に関しては、弊社のファンドのうち、株主優待物を換金したものは全て収益として計上しましたが、純資産総額に対する影響が0.01%(基準価額1万円に対して1円相当)を超えるものはありませんでした。*2
GPIFにおいても『割引券等は換金され運用収益の一部となります(平成29年度実績 約4.2億円)』と報告されていますね。
4.2億円という数字だけを見ると巨額ですが、平成29年度におけるGPIFの収益は10兆810億円ですので、割合としては約0.0039%でしかありません。*3
換金不能だった分の収益(本来なら得られたはずの食品等の商品価値)は、換金可能だった4.2億円よりは少ないことが予想されますので、株主優待による損失は割合としてはかなり小さなものだと分かります。