金色の昼下がり

プリキュアについて割と全力で考察するブログ

藤本タツキ先生の百合漫画『ルックバック』に感情を殺された 感想と考察

 チェンソーマンの作者・藤本タツキ先生が激ヤバな読み切り百合漫画を無料で公開していると聞いたので読んでみたら死にましたので感情の発露をさせてください。

 

リンク先→

ルックバック - 藤本タツキ | 少年ジャンプ+

 

 以下、ネタバレ。

 

※ここでいう百合という言葉は恋愛や友情、嫉妬などあらゆる感情を含めた「女性同士の特別な関係性」を指して使用しています。

 

 

 

何重にもかかってる『ルックバック』の意味

 まずタイトルがやばいです。

 ルックバックの意味は下記のとおりです。

 

(1) 振り返って見る.
(2) 〔…を〕回顧する, 追憶する 〔on, upon, to, at〕《★受身可》.
(3) [しばしば never, not を伴って] しりごみする; うまくいかなくなる, 後退する.

出典: look backの意味・使い方・読み方 | Weblio英和辞書

 

 タイトル通りの字面で捉えるとルックバックは「振り返って見ろ」「追憶せよ」という意味になるのですが、「back」には「背中」という意味もあります。つまり「ルックバック」は「背中を見ろ」という意味にもなると言えます。

 

京本の「背中」を見つづけた藤野

 実際、主人公・藤野は、小学生にして背景天才のクラスメイト・京本の「背中」をずっと見ていました。彼女の卓越した背景絵を目の当たりにした藤野は、彼女に負けるものかと人体骨格の勉強をしはじめます。負けたくない。あいつにだけは負けたくない。嫉妬に似た感情を燃やしながらも、しかし、藤野は途中で一度は筆を折ります。

 あいつには敵わない、と思ったからです。

 しかし卒業式の後、自分には敵わぬ「天才」だと思っていた当の京本から「天才」だと認められたことで、藤野は舞い上がるわけです。

 

藤野の「背中」を見つづけた京本

 ただ、京本に認められたからといって、藤野は自分が京本よりも「上」だと思ったわけではありません。おそらく藤野は京本のことをずっと尊敬しており、自分よりも先を行く天才だと思っていたのではないでしょうか。というのは、二人の会話から読み取ることができます。

 

「じゃあ私ももっと絵ウマくなるね! 藤野ちゃんみたいに!」

「おー 京本も私の背中みて成長するんだなー」

 

引用:藤本タツキ『ルックバック』84ページより

 

 

 京本の背中を見続けていると思っていた藤野は、このとき、京本もまた自分の背中を見ていたことを知ります。藤野はこれまでずっとずっと京本の背中を見続けていたので、後ろから自分の背中を見ていた京本の存在に気付かなかったわけです。

 なおこの会話を交わしている二人の立ち位置は横並びになっており、この瞬間、二人は「横に並び立った」のだと解釈することもできるかもしれません。

 

藤野は「怒り」をもって過去を振り返る

 さて、物語は進んで京本の死が明示された後。

 藤野はここで、過去を振り返ります。「ルックバック」。追憶の中で、藤野は京本の死は自分のせいなのだという罪悪感に苛まれます。自分が京本を外に出したから。自分が京本に漫画を描いたから。だから京本は死んだんだ。漫画なんて、何の役にも立たないのに。

 

「私のせいだ…… 私があの時…… 漫画描いたせいで… 京本死んだの あれ? 私のせいじゃん…… 京本っ 部屋から出さなきゃ 死ぬ事なかったのにっ あれっ? なんで…? なんで描いたんだろ… 描いても何の役にもたたないのに……」

 

引用:92-95ページ

 

 そして藤野は自分があの日京本に描いた四コマ漫画をビリビリに引き裂いた世界を妄想します。ここで京本は犯人に殺されることなく自らの足で美大にも進み、藤野もまた漫画を描き始めていて連載ができたら京本にアシスタントになって欲しいと頼んでいます。

 誰も傷付かない、誰もが幸せになる世界。

 それは現実ではありません。

 しかし、藤野はそこでいまは亡き京本から『背中を見て』という四コマ漫画を受け取ります。

 

藤野は京本と過ごしたあの日々を「思い出す」

 何かに導かれるようにして部屋の中に入る藤野。

 そこで「背後を振り向いた」とき、目に映ったのは「背面」に『藤野歩』と描かれた執筆服。

 ここで藤野は、ありし日の「追憶」をします。

 漫画を描くのはまったく好きじゃない。楽しくないしメンドくさいだけ。自分で描くもんじゃない。そう愚痴をこぼす藤野に、京本は問いかけます。

 

「じゃあ藤野ちゃんはなんで描いてるの?」

 

 引用:132ページ

 

 次のページに映るのは、藤野の描いた漫画を表情を変えながら真剣に読む京本の顔。そして、読み終えた後の満面の笑み。二人でもがき、苦しみ、そして楽しみながら漫画を描いた記憶の数々。

 

 そう、ここで藤野は思い出したのです。

 なぜ自分が漫画を描くのかを。

 

「このつづきは12巻で!」

 

引用:139ページ

 

 11巻で漫画を休載していた藤野は、それ以上、過去を振り返ることなく、前を向いて歩きだす。そんな彼女の「背中」が描かれて、物語は終わります。

 

「Don't look back In Anger」の意味

 ところで、一ページ目の黒板をよく見てみると「Don't」の文字が書かれていることが分かります。これをタイトルと合わせると「Don't look back」、つまり「振り返って見るな」「追憶するな」になります。さらに最終コマでは、「In Anger」という文字も見えます。「Don't look back In Anger」。直訳すれば「怒って過去を振り返るな」みたいな意味になります。

 

 実際、藤野は一度、京本と過ごしたあの黄金の日々を「存在してはならないものだった」と悔やんでいました。自分が京本と過ごしていなければ、京本は死ななかったと考えたからです。

 

 しかしそれは、本当でしょうか。

 京本は、藤野と過ごしたあの日々を「いらないものだった」と思ったでしょうか。

 そして藤野もまた、あの日々を「いらないものだった」と心の底から思ったのでしょうか。

 

 もちろん。そうではないはずです。

 藤野と過ごした日々は京本にとって大切なものであったのと同じように、確かに、京本と過ごした日々もまた藤野にとって大切なものでした。

 

「Don't look back In Anger」(怒って過去を振り返らないで)

「Don't look back」(過去に囚われないで)

「look back」(でも、二人で過ごしたあの日々を思い出してみて)

 

 私には、それが京本から藤野へのメッセージであり、これからも生き続ける藤野へのエールのようにも思えるのです。

 

 劇場版スタァライトにも感情を殺されました。

www.konjikiblog.com

 

  スタプリの秋映画も激やば百合映画です。

www.konjikiblog.com

 

【宣伝です】

 同じく藤本タツキ先生の描いた『チェンソーマン』もいろいろ感情殺してきます。