金色の昼下がり

プリキュアについて割と全力で考察するブログ

『見たことのない顔の、聞いたことのない声の女』※まなゆり前提あすゆりの二次創作

 

『見たことのない顔の、聞いたことのない声の女』

 

「春からはフェニックス学院のテニス部でがんばりましょう。あらためておめでとう」

 

 百合子からの労いの言葉を受けて、あすかは「ヘヘッ」と照れ笑いを浮かべる。

 あの日、百合子と仲直りをしてから、止まっていたふたりの時間はようやく動き出した。こんなふうに顔を見合わせてにこやかに話せる機会なんて二度と来ないと諦めていたあすかにとって、百合子といっしょにいられるこの瞬間は宝物以外の何物でもなかった。

 フェニックス学院に受かるためにあすかは相当な努力をした。もともとの合否判定はEで、担任には無謀だと反対されたことは記憶に新しい。遊びの時間を徹底的に削り、自分を追い込むために百合子との連絡も一時的に断ち、すべてを勉強に捧げてようやく手に入れた合格だった。

 何があすかをそこまで駆り立てたのか。

 言うまでもなく、百合子の存在である。

 

「そ、そういえば、テニス部は追い出し試合をやるみたいだな」

 

 話題を逸らすようにあすかは言った。胸がドキドキして、まともに百合子の顔を見れない。これ以上百合子から温かい言葉をもらってしまったら体がどうにかなってしまいそうだった。

 久しぶりに間近で見た百合子は綺麗だった。もちろん百合子が綺麗なのは昔からそうだが、最近はさらに綺麗になったように思える。肌はツヤツヤしていて触ると柔らかそうだし、髪はサラサラしていて良い匂いがする。ほんの少し見ないうちに、より大人っぽくなって、艶やかな雰囲気を身にまとっている。

 恋をすると綺麗になるというが、もしかしたら百合子はーー

 

「それから、ありがとう。素敵なイベントを企画してくれて」

「あ、ああ、それならまなつたちに言ってやってくれ」

 

 少し前から、あすかは心に決めていたことがあった。

 フェニックス学院に受かったら、百合子に告白する。

 百合子は女だ。そして自分も女である。女同士の恋愛が成就する可能性はそう高くないことはもちろん理解しているつもりだ。百合子が異性しか愛せない人であれば、その時点でこの恋は終わる。

 しかし、実のところあすかは「そうではないか」と思っている。

 つまり、百合子もまた自分と同じ、女が好きな女ではないか、と。

 根拠のない妄想かもしれない。己の希望が見せる儚い幻想かもしれない。

 だがそれは、誰よりも近くで百合子を見てきたあすかにとってほとんど疑う余地のない確信的な直感だった。

 

「トロピカる部……最初は問題ありって思ってたけど、わたしの見る目がなかったみたい。卒業フェスティバル、あおぞら中のみんなが楽しみにしてる」

 

 肩越しに振り返った百合子は、頬を桜色に染めて言った。

 

「こんなにワクワクする気持ちになったのは久しぶり」 

 

 陽の光に照らされたその笑顔を見て、あすかは息を飲んだ。そして自覚せざるを得なかった。自分がいかに百合子のことが好きなのかを。

 百合子のためなら何だってする。何だってできる。たとえ世界を敵に回そうと、自分は百合子の隣にいつづけるだろう。

 

「……そういう気分をトロピカるって言うんだ」

「そう……これが……」

 

 仲直りは終えた。フェニックス学院も合格した。あとはもう、告白するだけだ。

 ゴクリと唾を飲んだあすかが、意を決して口を開けたとき、

 

「あっ、百合子せんぱーい!」

 

 遠くから百合子を呼ぶ声がした。

 

「トロフェス、めいいっぱいトロピカってくださいね~!」

 

 まなつだ。天真爛漫、元気いっぱいの彼女はブンブンと手を振る。

 まったく、何てタイミングだ――

 苦笑しながらも、まあ焦る必要はない、とあすかは自分に言い聞かせる。いまではなくても、もう少しすればトロフェスという告白にはうってつけのイベントがある。ああ、そうだ。トロフェスのときがいい。三年間の思い出を胸に感極まっている百合子に手を差し伸べて言うのだ。百合子、卒業してからもいっしょにいてくれないか。何を言ってるの? ふたりともフェニックス学院に行くのだから当然じゃない。いや、そういう意味じゃなくて……。そこで壁ドン。百合子が好きだ。これからずっと、いっしょにいてくれないか。

 完璧だ。思わずニヤけてくる頬にぎゅっと力を入れる。そうと決まったら、今度は百合子にあげるプレゼントを探しに行こう。ペアリングなんてどうだろう。胸が膨らむ。自分は世界でいちばん幸

 

「ええ、トロピカるわ!」

 

 ハッとなる。

 それは微かな違和感だった。昔からずっと百合子の隣にいつづけなければ決して分からない、微妙な差異。しかし、あすかには分かった。

 おかしい――

 頭の中で映像を逆再生する。最初の違和感はここだ。まなつの言葉。まなつが百合子を呼んだときの言い方。まなつは何と言った?

 百合子せんぱい――

 そうだ。百合子せんぱい。「せーとかいちょー」ではない。

 いままで、まなつは百合子のことを「せーとかいちょー」と呼んでいたはずだ。それがいまではどうだ。百合子せんぱい? いつからまなつはそう呼ぶようになった? 

 いや、いつからふたりはそんな間柄になった――?

 ドクドクと全身の血が脈動する。動悸が激しくなり、恐怖心が押し寄せる。絶望の影。激痛の予感。違う。そんなはずはない。考えすぎだ。まなつはわたしの友だちで、まなつにとって百合子は単なる先輩に過ぎない。百合子だってそうだ。まなつとそんなに仲良くしていた記憶はない。

 わたしが受験勉強のために連絡を断っていた間に、あのふたりは“そういう関係”になって――

 嘘だ。そんなはずはない。確かにここしばらく百合子とは連絡を断っていた。でも、だからって百合子が他の女のところに行くなんてあるはずない。仲直りはした。フェニックス学院にも合格した。百合子のことをいちばん近くで見てきたのはわたしだし、百合子のことをいちばん思っているのもわたしだ。百合子の隣にいるべきなのはわたしだ。

 だって、そうじゃなかったら、わたしは、わたしは――

 

「“じゃあまたあとでね、まなつ”」

 

 その瞬間、あすかは理解(わか)ってしまった。

 恥じらい混じりの微笑みと、期待に満ちたトロピカっている声。

 いままで見たこともない顔の、聞いたこともない声の女が、そこに立っていた。




 終わり

 

 

 

雑談とあとがき

 ご無沙汰してましたが闇深い妄想に勤しむくらいには元気です。

 トロプリもうすぐ終わっちゃうの悲しいですね。

 これを書いたのはトロプリ42話を見終えた直後です。あすゆりがもう完全に付き合っててニッコリ笑顔で見ていました。やっぱり私はあすゆりが好きだなぁ。あすゆりありがとう。久しぶりにあすゆり書いてみようかな……。

 そんなこんなで気付いたらまなゆり前提あすゆり書いてました。隙あらば闇。あすゆりもまなゆり前提あすゆりもまた書きたくなったら書きたいです。

 

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