スター☆トゥインクルプリキュア27話の感想考察(後編)です。27話のネタバレを含みますので未視聴の方はご注意ください。
なお、今回はひたすらアイワーンちゃんのことについての考察をしています。というか、アイワーンちゃんのことしか書いてません。その点、ご了承くださいませ。
- 「すっげぇなぁ!」アイワーンの心の叫び
- ケンネル星で示した正義との矛盾
- アイワーン→バケニャーンへの信頼
- 憎しみの裏に隠れる悲しみと愛情
- アイワーンは悪を「悪」と知る
- アイワーンは本当に居場所を失ったのか?
- アイワーンは孤独を知っている
- ユニとアイワーンは和解するか?
- 27話における2つの問いと1つの回答
- スタプリ27話の感想考察まとめ(後編)
「すっげぇなぁ!」アイワーンの心の叫び
ララ「自分勝手ルン! あなただってコスモの大切な居場所を奪ったルン!」
アイワーン「はあ? 知らねえっつーの」
ララ「惑星レインボールン! 彼女の故郷に酷いことをしたルン!」
プルンス「それだけじゃないでプルンス! ノットレイダーとしてパレスを襲い、プリンセスたちを散り散りにしてしまったでプルンス!」アイワーン「だから何だっつーの? 自分が何かされたら、人を騙したりしていいんだ? すっげぇなぁ!」
今回の「すっげぇなぁ」を含めた一連の台詞はアイワーンちゃんのこれまでのなかでも屈指のものだと思います。この言葉に込められた呪詛的な力強さには、声優・村川梨衣さんの演技力も相まって、一度聞いたら忘れられない衝撃を受けます。
この「すっげぇなぁ」の何がすごいかって、アイワーンちゃんの主張はララやプルンスたちが指摘している通り、完膚なきまでの「人のことを言えないだろ」案件であり、本来ならばアイワーンちゃんに同情する余地というのはほとんどないはずなのです。
そもそもアイワーンちゃんが惑星レインボーを破滅させていなければ、ユニもバケニャーンにならずに済んだわけですし、惑星ひとつを滅ぼすことと人を騙すことには比較にならないほどの「罪の差」があると考えられるからです。
しかし、それにもかかわらず、アイワーンちゃんのこの台詞には人の心を揺さぶる「力強さ」があります。その「力強さ」を生み出しているものの正体は何なのでしょうか?
それは、アイワーンちゃんの憎しみの裏に隠れる「深い悲しみ」だと考えます。
ケンネル星で示した正義との矛盾
まず注目したいのは、「自分が何かされたら、人を騙したりしていいんだ?」という台詞です。
自分のやられたことを人にやり返すというのは、まさにノットレイダーの行動原理です。これを肯定してしまえば、プリキュアもまたノットレイダーと同じになってしまいます。
もちろんユニの目的は復讐ではなく救いであり、その点についてはノットレイダーの行動原理と一線を画するものです。ユニは仲間を救うためにやむを得ずアイワーンを騙したのだから、仕方ないという擁護もできるでしょう。
しかし、だからといって「騙したのは悪くない」というスタンスになっていいのでしょうか? ユニの行いは「正しい」といえるのでしょうか?
この問いに対して、実はスタプリは既にひとつの答えを出しています。
それはケンネル星の回、スタプリ8話です。
このときのえれなさんは、どんな理由があったとしても、人の笑顔を奪ってもいい理由にはならないと明言しています。プリンセスを取り戻すため、宇宙平和のためといった崇高な目的があったとしても、人の大切なものを奪っていい理由にはならないのです。
アイワーンはユニに騙されたことによって、自分の居場所と、それまで信頼していたバケニャーンという存在を奪われています。
つまり、スタプリ8話の理論を当てはめるならば、自分の大切なものを手に入れるためにアイワーンちゃんの大切なものを奪ったユニは、ひとつの罪を犯したことになるわけです。
※スタプリ8話の考察でも、トロッコ問題などと絡めながら詳しく書いています。
アイワーン→バケニャーンへの信頼
アイワーンがバケニャーンのことを信頼していた描写はいくつもあります。
たとえば「ダークペンを使うな」とバケニャーンからいわれたとき、アイワーンは文句をいいながらもそれに従います。(スタプリ10話)
3体合体ノットリガーになる際も、「嫌です」と断るバケニャーンの意思は認めながら、同じように嫌がっているカッパードとテンジョウは拒否権を認めず無理矢理合体させています。(スタプリ11話)
また、バケニャーンの正体が発覚したときには、アイワーンはこういいます。(スタプリ19話)
「バケニャーンはどこだっつーの!? いつ入れ代わったっつーの!?」
いつ入れ代わったのか、という台詞が真っ先に出てきており、アイワーンは最後の最後、ギリギリまでバケニャーンのことを信じていたことが分かります。
これらのことから、アイワーンにとってバケニャーンという存在は大きなものであり、他の幹部に対する接し方を比べても、バケニャーンに抱いていた信頼感は並々ならぬものだったことがうかがえます。
憎しみの裏に隠れる悲しみと愛情
アイワーン「バケニャーン…許せない…あたいを騙してたっつーの。お前のせいであたいは、ノットレイダーにいられなくなったっつーの。全部お前のせいだっつーの。あたいの居場所はなくなったのに、自分はちゃっかり居場所を見つけて、超むかつく! ぶっ潰すっつーの!」(中略)
アイワーン「こいつはあんたへの恨み、怒りのイマジネーションをエネルギーにして貯めたもんだっつーの!」
これまで、アイワーンたちノットレイダーの抱えるセンシティブな事情については、いくつか仄めかす場面もありましたが、全面的に描かれることはありませんでした。
しかし今回、視聴者はアイワーンの心の叫びを聞くことにより、彼女のたぎらせる怒りや憎しみの裏には、傷付き、裏切られ、大切なものを奪われてきた、深い「悲しみ」があることを想像させられるのです。
そもそもアイワーンちゃんがこれだけバケニャーンに執着しているのは、裏を返せばそれだけアイワーンちゃんにとってバケニャーンの存在が大きなものだったからに他なりません。
愛の反対は無関心、という言葉があります。
アイワーンちゃんの憎しみの裏には、愛があるのです。元々信頼もしていないようなどうでもいい人から裏切られても、人はここまで傷つくものではありません。愛があったからこそ、裏切られたことに対して大きな憎しみと怒り、「深い悲しみ」を抱いているわけです。
そしてこの「深い悲しみ」こそが、一連のアイワーンちゃんの叫びを「力強く」「心を震わせるもの」にしているのだと思うのです。
※ところで「愛の反対は無関心」という言葉はマザー・テレサの名言だというふうに私自身も思い込んでいたのですが、「それは嘘だ」と複数の資料を根拠に検証しているブログを見つけました。
こういう検証はすごく好きなのでご紹介します。プリキュアには関係ありませんが、興味のある方はどうぞ。
検証:なぜ「愛の反対は無関心」がマザー・テレサの言葉になってしまったのか?
アイワーンは悪を「悪」と知る
ところで、アイワーンは「人を騙したりしていいんだ?(良くないだろ!)」という発言をしているとおり、人を騙したりすることが「悪」であることを自覚しています。
このことを考慮すると、ノットレイダーとして行ってきた数々の侵略行為もまた、「悪」であるとの自覚があると思われます。
一方、ユニはどうでしょうか?
バケニャーンの正体を明かしたとき、ユニはアイワーンに不敵な笑みを浮かべるだけで、アイワーンの傷心を想像しているような様子は微塵もありませんでした。
そして今回の27話で明示されていましたが、ユニは27話に至るまで、アイワーンに「悪いことをした」という自覚はなかったようです。今回、初めて「はっ」としたような表情を浮かべていたからです。
アイワーンはプリキュアとして戦うユニたちのことを「すっげぇなぁ!」と嘲笑い、そして「ふざけんなっつーの!」と叫びます。
アイワーン「ふざけんなっつーの!」
アイワーンは、自分の大切なものを守るために人の大切なものを奪ったユニの矛盾を鋭く指摘し、その「悪」に気付いてすらいないプリキュアたちの誤謬、すなわち「自覚の無さ」と「想像力の欠如」を痛烈に批判しているわけです。
アイワーンは本当に居場所を失ったのか?
アイワーンは自身の口から「バケニャーンのせいで居場所を失った」と発言していましたが、これに「ん?」と疑問符を浮かべた方も少なくないかと思います。
というのも、スタプリ21話にて、アイワーンがノットレイダーのアジトに帰還しなかったのは、そもそもアイワーンの意思によるものだったからです。
このとき、カッパードはアイワーンに対してこういっています。
カッパード「アイワーン、帰還するぞ」
ところが、アイワーンはカッパードの言葉を無視し、アジトに帰還せずひとりでどこかに行ってしまいます。
その後の描写からも、他の幹部やガルオウガ、ダークネストがアイワーンのことを悪くいったりするシーンはありません。
そういうわけで、少なくとも現時点の描写においては、「アイワーンはノットレイダーたちによって追放された」というよりは、「恥を覚えたアイワーンが自らノットレイダーから出て行った」という説の方が有力だと思うのです。
※このことについては、スタプリ21話の考察(後編)でも詳しく書いています。
もしそうだとすると、これはアイワーンが「人からどう思われているか?」ということを過剰に気にしていることの裏返しでもあり、それはアイワーンがノットレイダーに加入するきっかけとなった過去のトラウマに起因するものかもしれません。
(たとえば、一つ目であるがゆえに他者から迫害をされていたとか、常人離れした科学力や想像力を気味悪がられていたとか)
ここで私が思い出すのは、孤独を気にする弓道少女・那須さんと相対したときのアイワーンの言動です。
アイワーンは孤独を知っている
アイワーン「ほんとはさみしいくせに。強がってるだけだっつーの」
このとき、アイワーンは非常に的確に那須さんの考えを想像することができているのですが、本来、知りもしない相手の胸中を想像することは困難であるはずです。
にもかかわらず、「友達なんかいらない」という那須さんの発言が「強がり」だと見抜けたのはなぜでしょうか?
それはまさしく、アイワーン自身が同じような思いをしたことがあるからではないかと思うのです。
今回、アイワーンがノットレイダーのことを「居場所」だったといっていましたが、アイワーンにとってノットレイダーは「孤独を紛らわせてくれる居場所」だったのでしょう。
ノットレイダーに加入するより前は、おそらくアイワーンは孤独に過ごしていたのだと思います。「本当は寂しいけど強がって」生きていたのかもしれません。
そういう経験があったからこそ、那須さんの気持ちが手に取るように理解できたのではないでしょうか。
※スタプリ16話の考察(後編)でも詳しく書いています。
ユニとアイワーンは和解するか?
ユニとアイワーンが和解できるかというのは、スタプリという作品の根幹に関わる問題のように思います。
かつて自分の大切なものを奪ったアイワーンから、ユニは同じように大切なものを奪いました。
ノットレイダーはいわば「復讐の連鎖」の象徴としての一面もありますが、プリキュアという作品の属性を考慮したとき、経過はどうにせよ、最終的にそうした負のスパイラルは断ち切られることになると思われます。
しかし、私が気になっているのは、対立する価値観を持っていた者同士、つまりノットレイダーたちとプリキュアサイドの人間がどのような関係に落ち着くのかということです。
いがみ合っていた者同士が、最終的には理解し合い、手を繋いで一緒に前に進んでいく…というのもひとつの道であり、とても綺麗なゴールだと思います。
しかし、人間であれば誰しも、言葉には出さないにしても、内心ではどうしても受け入れられない価値観というものはあるはずです。
もし、最終的にノットレイダー全員がプリキュアたちと和解し、円満な関係に落ち着いたとすると、スタプリが発するメッセージは「どんなに価値観が違ってても仲良くなれる」というものになることでしょう。
しかし、「多様性を受容する」ことと、「仲良くなる」ということは厳密には異なります。「仲良くはしないけど」「相手の価値観を認める」ことだって、立派な受容であるはずです。
また、「相手の罪を赦すこと」と「罪を犯した相手と仲良くする」ことも明確に異なるものです。「罪を犯した相手のことを嫌悪しながら」も、「相手の罪を赦す」ことだってできるはずです。
このように考えると、アイワーンとユニが、互いの罪を赦し合いはするものの、互いに手を繋ぎ合うような仲良しにはならないという可能性も十分にあると思うのです。
果たして、多様な価値観、多様な関係性を提示してきたスタプリは、ユニとアイワーンの因縁をどのような形で着地させるのでしょうか?
ユニとアイワーンは和解して仲直りするのか、それとも罪を赦し合うだけに留めるのか、あるいは敵対することはやめて距離を置くだけになるのか...どれが良いという話ではありませんが、二人の決着をどのようにつけるのか、これはスタプリという作品が物語を通じて「何を描こうとしているのか?」という根幹に関わる問題であるように思うのです。
※他にも、「相手の罪は赦さない」けれど、「相手を憎むことはやめる」ということもあるかもしれません。
27話における2つの問いと1つの回答
今回の話では2つの問題が(おそらく意図的に)混ぜられているのですが、これをごっちゃにしてしまうと論点が分かりにくくなってしまいます。
というわけで、最後にスタプリ27話で提示された2つの問題とそれに対する回答をまとめます。
<問い>
- 自分が何かされたら人を騙したりしてもいいのか?
- 変わることは悪いことなのか?
<回答>
- 保留。
- 変わることは悪いことではなく、良いことである。変わることで新しい自分を知れるし、見た目や振る舞いが変わったからといって、大切にしている想いまで変わってしまうとは限らない。
アイワーンとプリキュアのやり取りを聞いていると、1の問いかけに対して、プリキュアはまったく回答していないことに気付きます。
というのも、途中でアイワーンが2の問いをしたことにより、プリキュアの意識は2に向かい、1についてはそのままになったからです。
もちろん、1の問いついては放置されたわけではなく、今後の重要な宿題となっていることは、追い払ったアイワーンを意味深な表情で見届けるユニを見れば明らかです。
ユニ「アイワーン…」
今後、ユニたちはアイワーンの放った問いかけに対し、どのような答えを出すのでしょうか?
スタプリは新たな局面に入りました。これまでの謎の多かったノットレイダーの抱える事情に、ついにスポットライトが向けられ始めたのです。
スタプリ27話の感想考察まとめ(後編)
- アイワーンの「すっげぇなぁ!」が(すごい)
- ユニがアイワーンを騙したことはケンネル星で示した正義と矛盾する
- アイワーンはバケニャーンに多大な信頼を寄せていた
- アイワーンの憎しみの裏には深い悲しみと愛がある
- アイワーンは悪を「悪」と知っている
- アイワーンはノットレイダーから追放されたというより、自ら去った可能性が高い
- アイワーンは孤独を知っている
- ユニとアイワーンは和解する?しないかも?
- 27話では2つの問いがあったが、回答は1つだけ
スタプリ27話の感想考察(前編)です。こちらの記事では主にユニの心の動きなどについて考察しています。人魚バンクかわいかったです。
スタプリ30話ではアイワーンちゃんが「自分の失ったもの」について少しだけ言及していました。
アイワーンちゃんの抱える矛盾と3つの予想をした記事です。アイワーンちゃんとひかるさんの比較をして、その類似点と相違点についても考察しています。
いろいろ書いていますが、私個人としては、アイワーンとユニには仲良く温泉にでも行って欲しいと思っています。ここ一週間、そんな妄想ばかりしています。アイワーンちゃん…。
以上、スター☆トゥインクルプリキュア27話の感想考察(後編)でした。
長々と読んでいただきありがとうございました。
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※スタプリのコミックスが発売されました。(2019年8月9日)
最高でした。ひかララがひかララで最高にひかララでしたし、ユニも猫っぽさ全開で超絶かわいかったです。本当にありがとうございました。