金色の昼下がり

プリキュアについて割と全力で考察するブログ

スタートゥインクルプリキュア 29話 感想 全力考察 スタプリに「魔法つかい」はいない(前編)

 スタプリ29話、震えました。

 

 サマーン人は基本的に善良なんですが、その裏に潜んでいる「エグさ」がとにかくエグくて胸が苦しかったです。最高でした。大好きです。大大大好きな回でした。

 

 この記事はスター☆トゥインクルプリキュア29話の感想考察(前編)をしたものです。29話のネタバレがありますのでご注意ください。

 

 

 

ララのパーソナルAIは「嘘を吐かず」に人を騙す

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出典:スター☆トゥインクルプリキュア 第29話(C)ABC-A・東映アニメーション

AI「彼女たちは、ララ様が航行中に保護した異星人。宇宙星空連合の宇宙法第4条『漂流中の者は保護し、再び宇宙に送り出す責務がある』により、お連れ致しました」

 

 衝撃の展開でした。

 ララのパーソナルAIに「自我が芽生えている」という事実もさることながら、パーソナルAIが「自らの意思」によってククからの疑いの目を逸らしたこのシーンはあまりにもカッコよくて痺れました。

 

 しかもよくよく聞いてみると、ララのパーソナルAIはあながち「嘘」をついているわけでもありません。実際、ひかるさんたちは惑星サマーンに来る最中、ロケットが故障してショウフワック星やプルルン星に「漂流」していました。

 

 つまり、「(惑星サマーンに行く途中で)漂流したひかるさんたちを再び宇宙に送り出す(=サマーンに行ったあとで地球に戻す)ために保護している(≒同行している)」というスタンスを取れば、パーソナルAIの説明は矛盾しないのです。

 

 もちろん、パーソナルAIは、

  • いつ、どこで、どのように漂流したのか
  • 送り出す先はどこなのか
  • ひかるたちはどこの星の人間なのか
  • 本当の目的は何なのか

 

 などについてはまったく回答してないですし、どう考えても宇宙法の解釈を拡大しすぎています。ただ、ここで重要なのは、いずれにしても「パーソナルAIは嘘をついていない」ということです。

 

 確かに、パーソナルAIはククを「騙して」います。しかし、「嘘をつくことで騙すこと」と「紛らわしい真実で騙すこと」の間には、天と地の差があります(※)

 仮に、AIには「嘘を吐いてはならない」というルールが施されていたとしても、ララのパーソナルAIはそのルールに抵触することなく、ククのことを騙せたと考えられます。

 

 また、ララのパーソナルAIとマザーAIが接触した際にも、非常に示唆に富んだやり取りがされていましたが、これについては29話の考察(後編)にて詳しく書いていきたいと思います。

 

 ※「嘘を吐いて騙すこと」と「紛らわしい真実で騙すこと」の何が違うのかということは、カントの哲学についての議論のなかでもしばしば登場します。カントの話を交えて書いたスタプリ5話の考察。

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「誰もララの異変に気付けない」というリアル

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出典:スター☆トゥインクルプリキュア 第29話(C)ABC-A・東映アニメーション

 惑星サマーンに向かう途中、到着してからも、ララが浮かない顔をしていることに他のメンバーはなかなか気付きません。最初に気付くのは、ララの家族と対面したときのまどかさんです。しかし、その後も他メンバーは楽しそうにバーチャル世界で遊んだり、目新しいサマーン文化に目を輝かせるばかりで、ララの異変には気付けません。

 

 なぜ誰もララの悲しい顔に気付かないのでしょう?(特にひかるさん)

 なぜ誰もララの胸中を「想像」できないのでしょう?(特にひかるさん)

 

 それは、スタプリが「想像力」というテーマについて、誤魔化すことなく、綺麗ごとで片づけることなく、どこまでも真摯に取り組んでいることの何よりの証拠だと考えます。

 

 順を追って考察しますが、大きく分けると次の2つの理由があったと考えます。

  1. みんな(特にひかる)は刺激的なサマーン文化に目を奪われていたから
  2. スタプリは想像力を「魔法」として描くつもりがないから

 

①皆は「キラやば」な世界に目を奪われる

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出典:スター☆トゥインクルプリキュア 第29話(C)ABC-A・東映アニメーション

 今回、ひかるさんのはしゃぎっぷりといったら相当なものでした。見るものすべてが目新しのか、ずっと目を輝かせ続けていましたし、ララの上司・ククや星空連合の長・トッパーたちを「ララのお兄さん!?」と早とちりするほど、その心理状態は舞い上がっています。

 

 はしゃいでいたのはひかるさんだけではありません。えれなさんやユニたちもまた、バーチャル世界では思い思いの楽しい時間を過ごしていました。

 

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出典:スター☆トゥインクルプリキュア 第29話(C)ABC-A・東映アニメーション

 

 今回のスタプリは、ララが悩み、悲しみ、葛藤する裏で、ひかるさん達がはしゃぎ回るシーンを「執拗なほど」描いており、視聴者の多くはララに同情したでしょうし、なかにはララの心に気付かないみんな(特にひかるさん)に「なぜ気付かないんだ…!」という悶々とした気持ちを抱えた方もいたかもしれません。

 

 とはいっても、「友達の不安や葛藤に気付かない描写」というのは、何も今回が初めてというわけではありません。

 

 たとえば、次のカットをご覧ください。

 

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出典:スター☆トゥインクルプリキュア 第14話(C)ABC-A・東映アニメーション

 

 スタプリ14話、えれなさんの家に遊びに行った直後の帰り道のシーンです。とうま君が「うちの家族は変だ!」と家族に反抗したときのエピソードですが、このとき、とうま君とえれなさんの異変に気付いたのは、当初、まどかさんだけでした。それを証拠に、えれなさんとまどかさんが陰鬱とした表情をしているのに対して、ひかるさんとララは満足そうな笑顔を浮かべています。

 

 14話や29話などを見ていると、ひかるさんは基本的に他人の心を想像することには長けているものの、夢中になっているものがあるとそちらに目を奪われてしまい、周囲のことをそこまで考えられなくなってしまう性格だということがうかがえます。

 

 要するに、「目新しいサマーン文化に夢中になっていた」こと。それが、ひかるさんたちがララの胸中を察することができなかった理由の1つだと考えられます。

 

 ※スタプリ14話、ひかるさんとララはえれなさんの異変に気付けませんでしたが、とうま君を救えたのは、ひかるさんから大切なことを教えてもらったララでした。

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②星奈ひかるは「魔法つかい」ではない

 今回、物語の中盤になって、まどかさんだけがララの複雑な心理状況を理解していました。ではなぜ、ララの胸中を「想像」できたのは「まどかさんだけ」だったのでしょうか?

 

 それは、作中でも語られていたとおり、ララがまどかさんと似たような境遇にいたからです。

 

 まどかさんとララは、「果たすべき責任」と「目の前の現実」の狭間で苦しむキャラクターです。ララの苦しみを心から理解できるのは、同様の状況に置かれているまどかさんしかいません。

 

 確かに、ひかるさんは「想像力が豊か」なキャラクターとして描かれています。しかし、たとえどれだけ想像力が豊かであったとしても、その人の心を「正しく想像する」ためには、「事情」や「背景」を詳しく理解していなければなりません。このことは、これまでの話でも執拗なほど描かれてきました。


 具体的にいうと、惑星クマリンのことを「厳しいからこそ綺麗なの!」と事情も知らずに言った際にカッパードさんからボコボコにされてますし(スタプリ10話)、アイワーンちゃんからは「想像力ないっつーの」と激しくディスられています(スタプリ11話)(※1)

 

 また、ひかるさんは、21話でダークネストに苦しめられるアイワーンを見て、「あなたが苦しんでいることは分かる」=「他のことは分からない」と言ってます。

 

 要するに、スタプリの描こうとしている「想像力」は、それがあればどんな問題も解決できる「魔法」のようなものではなく(※2)、深い理解に基づいた時に初めて真価を発揮できる「工具」のようなものなのです。

 

 ひかるさんは、「魔法つかい」ではないのです。

 

 他のメンバーたちも魔法の杖は持っていませんが、その代わりに、みんなはそれぞれ「固有の価値観や考え方」を持っています。

 それは、「多様な想像力」といっても差し支えないでしょう。

 みんながそれぞれ多様な想像力を持っているからこそ、誰かが気付けなかったことでも、他の誰かが気付くことができるし、誰かに救ってもらったという経験が、別の誰かを救うキッカケに繋がっていくわけです。

 

 最後に、遼じいの言葉をもう一度思い出してみましょう。

 

遼じい「星座とは、まるで人と人とのつながりのようだね」

出典:スター☆トゥインクルプリキュア 第6話

 

 25話のララの回想シーンでも、遼じいのこの場面が登場していたとおり、スタプリは「人と人と繋がり」の可能性を、色鮮やかに描いているのです(※3)

 

(※1)ひかるさんが泣いた理由。ノットレイダーからいじめ抜かれた11話の考察です。

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(※2)今回は分かりやすく魔法と工具の比喩を使いましたが、魔法を題材にした『まほプリ』もまた「魔法さえあれば何でもできる」という物語なわけではありません。念のため。まほプリについても語ると非常に長くなってしまうので、今回は省略します。

 

(※3)25話のララの回想シーンはこちらの記事で考察しています。 

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スタプリの描く「相互作用の連鎖」

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出典:スター☆トゥインクルプリキュア 第29話(C)ABC-A・東映アニメーション

まどか「悩んでいるのですか?」
ララ「オヨ? ルン?」
まどか「ご家族にお話しすべきかどうか」
ララ「まどか、よくわかってるルン。自分がプリキュアだっていえば、きっと認めてくれるルン。それに、調査員としてすべてを報告するのが大人の責任ルン。でもみんなは…。プリキュアが星空連合に入ったら、みんなの生活がめちゃくちゃルン。地球に返してもらえるかもわからないルン」
まどか「お気持ちは分かります。わたくしも悩みましたから。父に真実を話すべきかどうか。父は政府の高官です。話せば国が動き、政府がノットレイダーを何とかしてくれるかもしれない。そう考えたこともありました」
ララ「何でいわなかったルン?」
まどか「直感、でしょうか」
ララ「直感?」
まどか「わたくしがプリキュアになったとき、フワを守りたい。その一心でした。後先のことを考えず、思ったことに素直に。自分の気持ちにはじめて従いました。その直感は…」
ララ「ひかる…」
まどか「ええ。ひかるが教えてくれました」

  (回想)ひかる「お父さんのことはわかったけど――」

まどか「ひかるの言葉をお借りすれば、」

  (回想)ひかる「――先輩はどう思ってるんですか?」
まどか「ララはどう思っているのですか? 自分の気持ちに従うべきです」

 

 スタプリがあえて「キャラ同士の結びつき」を過度に限定しないようにしていることは、これまでの考察でも触れてきたことです(※)

 

 これは、「多様な価値観や考え方に触れていくなかで、自分自身をアップデートさせていく」とするスタプリのテーマをなぞるために、脚本上、必要不可欠なことだったといえるでしょう。特定の関係性だけに依存する物語にしてしまうと、テーマとの間で齟齬が生じ、その説得性が失われてしまうからです。

(もしララを救うのがいつもひかるさんであれば、ララはひかるさんとだけつるんでいればいいのでは? という印象を与えかねません)

 

 今回の話は、ひかるさんの教えたことがまどかさんに受け継がれ、そのまどかさんが自身の境遇や経験からララを救ったというものです。ひかるさんがいなければ、まどかさんはララを救うことはできなかったでしょうし、まどかさんがいなければ、ララを救える人はいなかったかもしれません。

 

 スタプリはこうした「相互作用の連鎖」を色彩豊かに、そして感動的に描いているわけですが、これは何も「プリキュアサイド」の話だけではありません。「相互作用の連鎖」が起きているのは、「ノットレイダーサイド」でも同様です。

 

 たとえばカッパードさんは「奪われたから奪う」という台詞を残しており(スタプリ11話)、アイワーンちゃんはバケニャーンに騙されたことへの恨みを果たすべく「復讐者」に成り果てました。

 

 つまり、ノットレイダーは「マイナスの相互作用の連鎖」の象徴なのです。

 

 価値観を共有しない人同士が出会ったときに起きる、

  • プリキュアたちのような「プラスの相互作用の連鎖」
  • ノットレイダーたちのような「マイナスの相互作用の連鎖」

 

 の両者を描きつつ、プリキュアは「マイナスの相互作用」をどのように理解し、受け止め、乗り越えていけるのか? ということが、スタプリでは描かれているともいえるでしょう。 

 

※スタプリが特定のキャラ同士の結びつきを強調しすぎないようにしていることについては、こちらの記事で考察しています。

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プルユニの「相棒感」が好き

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出典:スター☆トゥインクルプリキュア 第29話(C)ABC-A・東映アニメーション

ユニ「そういえばあの山頂で、マオの野外ライブをやったニャン」
プルンス「ああ! あのプレミアムチケットになったやつでプルンスな!」

 

 ついに来ました、プルンスとユニが語り合うシーン。

 台詞はこれだけなんですが、これだけでももう感無量でした。十分です。十分すぎます。

 

「あの山頂で野外ライブをやった」という情報だけで、プルンスが即座に、さも当然かのように「プレミアムチケットになったやつ」と回答しています。プルンスがアイドルとしてのマオのことを本当に好きだったんだな、ということがはっきりと分かります。

 

 このとき、プルンスはユニを前にしてマオの話をしているわけですが、その口調や表情は非常に落ち着いたもので、プルンスが「ユニ」という存在を心から受容している様子がうかがえます。

 

 ユニとプルンスのこういう「相棒」のような感じが、私はとても好きです。

 

ララの「乗り物酔い体質」の伏線回収 

 家族との会話のなかで、ララが「乗り物酔い」しやすい体質なのだということが明言されていました。

 

 ここで思い出すのは、スタプリ1話、ロケットが地球に不時着したときに嘔吐していたときのシーンです。

 

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出典:スター☆トゥインクルプリキュア 第1話(C)ABC-A・東映アニメーション

 

 あのときに吐いてしまっていたのは、乗り物酔いしやすいという体質によるものだったんですね。

 ところで、またララがゲロゲロしているところを見たいと思うのは私だけでしょうか?(かわいい)

 

《追記 2019/8/28》

 コメント欄にてご指摘を受けて気付きました。

 ララの「乗り物酔い」については、体質の問題なのだと思い込んでいましたが、作中描写を見る限りだと、そういうわけではないのかもしれないと思い直しました。

 

 というのも、作中ではララの乗り物酔いについて、「AIを使いこなせば酔わない」と説明されているからです。

 当初、この発言を聞いたときには、「乗り物酔い」と「AIを使うこと」に何の関係があるんだろう? といまいち理解しきれていなかったんですが、

 

「ホバーボードの運転にはAIを使った操作が必要」→「AIを使いこなせない」→「乗り物の運転が下手」→「酔う」

 

 と考えればつじつまが合います。

 ディストピアではないゆえの悲劇さん、教えていただきありがとうございました。

 

スタプリ29話の感想考察まとめ(前編)

  • ララのパーソナルAIが「嘘を吐かず」に人を騙しててイケメン
  • ララの異変になかなか気付けない理由は、①皆サマーン文化に夢中になっているから ②ララの胸中を深く理解できるのはまどかしかいないから
  • スタプリは正と負の「相互作用の連鎖」を描いている

 

  前回のスタプリ28話の感想考察です。なぜえれまどの二人がメインだったのか? フレアのいう「熱いハート」は何を意味するのか?

 単なるド根性物語ではなく、背後にはスタプリらしいテーマが組み込まれていたという考察をしています。

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 スタプリのキャラクターの名前の由来の一覧です。元ネタになっている民話や神話、用語の解説もしています。

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 29話の考察は長くなりそうなので、記事を前編後編で二分割しています。後編の記事では、大まかにいうと、

  • 惑星サマーンは「ディストピア」なのか?
  • ララの家族は「毒」なのか?
  • サマーン人はAIと共生できるのか?
  • マザーAIとパーソナルAIが象徴するものとは?
  • 自分をディスる家族のためにララが戦い抜いた理由は?
  • ククが「誤った判断」で指名手配をしたのは絶望か希望か

 

 などについて考察していく予定です。書きたいことが盛沢山すぎてちょっと笑えてきますね(苦笑)

 

 →書きました

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 以上、スター☆トゥインクルプリキュア29話の考察(前編)でした。