この記事は、スター☆トゥインクルプリキュア29話の感想考察(後編)です。
29話のネタバレを含みますのでご注意ください。
※惑星サマーンは「ディストピア」なのか? ということについて、ひたすら考察したものです。もし未読であれば、先にこちらの記事を読むことをオススメいたします。
- ララは「異端者」:ランク8調査員を嫌がる理由
- 「マザーAI」と「パーソナルAI」が象徴するもの?
- サマーン人はAIを捨てる?AIと共生する?
- ククの「誤った判断」:それは絶望?それとも希望?
- ララは「家族の喜んでいる姿」のために戦う
- ユニは「任せて」と叫ぶ
- スタプリ29話の感想考察まとめ(後編)
ララは「異端者」:ランク8調査員を嫌がる理由
ララはAIによって決められたランク8調査員の仕事を内心では快く思っていません。このことは、繰り返し映し出されるララの悲しげが表情が明確に示している通りです。
ところで、根本的な疑問として、ララがランク8調査員の仕事を否定的に考えているのはなぜでしょうか? 同じサマーン人であるトトやカカ、ロロたちは、AIによって決められた自分たちの仕事に一切の疑問を抱いていません。「正しい」はずのAIの判断に不満を覚えるララは、サマーン人としては「異端」であるといえます。なぜロロたちは自分の仕事に疑問を覚えていない一方で、ララは疑問を覚えているのでしょうか?
ここで考えられる理由は、次の3点です。
- ロロたちは上級の職業に就いているので快く受け入れていて、ララは下級の職業に就いているので否定的に考えているため
- ララはAIを「使いこなせない」ため
- ひかると出会って「価値観が変わった」ため
1は、分かりやすい理由です。社会的に低い階級に位置するものが、自分の境遇を嘆いたり、特権階級の立場を妬んだり羨んだりするのは、フィクションだけではなく現実の世界でもしばしば見られる光景です。この願望は、「承認欲求」ともいえるでしょう。
ロロはみんなの認める上級調査員で、ララは最下級のランク8調査員です。
ララには、家族から認めてもらいたいという「承認欲求」がある…そう考えれば、ランク8調査員であることに恥ずかしさを覚え、現状を否定的に捉えているということも一理ありそうです。
しかしながら、私は、29話時点のララの抱える本質的な欲求は「承認欲求」ではなく、「自己実現欲求」であると考えています。ララはまどかさんの「ララはどう思うのですか?」という問いかけにハッとしていました。「他者がどう思うか」ではなく、「自分がどう思うか」と考えることは、「他者から承認されたい」ではなく、「自己を実現したい」という欲求に基づくものです。
つまり、29話時点のララがランク8調査員の仕事を嫌がっている本質的な理由は、「自己実現」を阻害されているからといえます。もちろん、これまでのララは、「家族から認めてもらいたい」と考えたこともあったでしょうし、そういう欲求は当然あったと思います。ただ、ララはひかるさんたちと出会い、そして29話のまどかさんとの対話を経て、現在の自分の欲求の本質が「自己実現」であることに気付き始めたのではないかと思うのです。
2、ララはAIを使いこなせません。そのことは作中でも明確に触れられていました。
トト「ララもロロのようにもう少しAIを使いこなしてくれれば」
カカ「せめてホバーボードに乗れれば」
トト「うまくAIを使いこなせば乗り物酔いしないルン」
ララ「それができれば苦労しないルン…」
AIを使いこなせないということは、AIに頼り切ることができないということです。ララはAIに頼り切ることができなかったからこそ、自分の頭で考え、努力したり工夫せざるを得ない生活を送っていたと考えられます。その結果、ララは他のサマーン人の持っていないもの、すなわち「思考力」と「想像力」を会得し、自分の可能性を狭めるAIの判断に反感を覚えたのではないでしょうか。
3、ひかるさんと出会うことで、ララは大きな影響を受けてきました。ひかるさんと出会っていなければ、プリキュアになることなかったかもしれません。そのことについては、スタプリ11話にて、ララ自身が語っています。
ララ「スターの想像力のおかげで、わたしはプリキュアになれたルン!」
ひかるさんの想像力の刺激を受けたララが、自分にはもっとたくさんの可能性があるのではないか? デブリ調査ではなく、もっと自分の潜在能力を発揮できる仕事があるのではないか? というふうに考えるようになったとも考えられるでしょう。
ララはひかると出会う前からデブリ調査を嫌がっていた?
ただ、ひかるさんと出会う以前から、ララはランク8であることを嫌がっていたと考えています。その理由は次の2点です。
- ララは宇宙ゴミの調査員であることを隠し続けていたから
- ひかると出会った直後から、ララはプリキュアになりたいといった想像を膨らませていたから
1、ララは出会った当初からずっと、自分が宇宙ゴミの調査員であることを隠していました。もし元々は宇宙ゴミの調査員であることを受け入れていたのであれば、いちばん最初にそれを話していてもおかしくないような気がします。
しかし、ララは自分が「調査をしている」ことは話しても、デブリ調査員であることは話しませんでした。これはやっぱり、自分がデブリ調査員、ランク8の調査員であることを隠したかったからではないでしょうか。
2、ララがひかるさんから多大な影響を受けてきたことは事実ですが、その影響は段階的なものです。何話も何話も重ねていくことで、ララは少しずつ、ひかるさんの価値観の影響を受けてきたことは、これまでの作中描写からもうかがえます。
しかし、ララはひかるさんと出会ってすぐの2話の時点から、プリキュアになりたいという想像を膨らませていました。マザーAIに順応したサマーン人であれば、こんなにすぐに「プリキュアになりたい」と思うでしょうか?
いくらひかるさんの影響があったとはいえ、出会ってすぐに、ララの価値観がそれまでとまったく異なるものに変化したと考えるよりも、ララがもともと持っていた価値観が、ひかるさんと出会うことでアップデートされたと考える方が妥当なように思うのです。
※ひかララの歩んできた尊い軌跡をまとめて考察したものです。
「マザーAI」と「パーソナルAI」が象徴するもの?
マザーAI「こちらの方々は?」
パーソナルAI「マザーこちらはララ様のご友人です」
マザーAI「承知致しました。ララ様のパーソナルAI、ただちにマザーAIにアクセスして、データの共有を願います」
パーソナルAI「はい。後ほど…致します」(中略)
(データの共有の意味について尋ねるひかるに対して)
ララ「簡単にいうと、マザーとロケットのAIのデータが一緒になるルン。旅から帰ると、情報を更新するルン」
えれな「更新したらどうなっちゃうの?」
パーソナルAI「データが上書きされ、私であって私でない、新たなAIになります
マザーAIとしばらくデータの共有をしていなかったララのパーソナルAIには、自我のようなものが芽生えていました。そしてマザーAIから「ただちにデータの共有を」と求められたパーソナルAIは、「後ほど致します」と回答します。このときのパーソナルAIの口調が、重苦しく、寂し気で、悲しそうなものになっていることからも、パーソナルAIが「データの共有をすることで自分を失う」ことに抵抗を覚えていることがうかがえます。
ララのパーソナルAIの価値観は、ひかるんさんたちの影響を受けることで変わりました。特に、AIが自分の判断が間違えていたことを痛感したのは、ロケット修理の回です(スタプリ7話)。このとき、AIの考えたやり方ではうまくいかず、最終的にはひかるさんの活躍のおかげでロケット修理を完了させることができました。
そうした体験をしてきた結果、ララのパーソナルAIは、マザーAIとは異なる「価値観」や「判断能力」を会得するに至りました。
要するに、マザーAIとパーソナルAIは、それぞれ、
- マザーAI=単一の絶対的な価値観
- パーソナルAI=人によって異なる多様な価値観
を象徴しているわけです。
サマーン人はAIを捨てる?AIと共生する?
(ララたち以外のロケットは同じ色をしている)
マザーAIという単一の価値観は、無性生殖によって増殖するアメーバのようなものです。適した環境下においては効率的に数を増やし繁栄することができますが、病原菌や環境の変化、新たな外敵などにはすこぶる弱く、そうした場合には壊滅的な被害を受けます。
次回のスタプリ30話では、アイワーンちゃんによってマザーAIはクラッキングされ、単一の絶対的な価値観が破壊されることが予想されます。サマーン人たちは、いままでのようにマザーAIに頼り切ったままではマズいと考え、何らかの変革、もしくはアップデートを行わざるを得ないでしょう。
サマーン人の選べる道は次の2通りです
- AIを捨てる(変革)
- AIと共生する(アップデート)
1、AIを捨ててしまえば、サマーン人たちは否応なしに自らの判断で物事を決めなければならなくなります。様々な問題も生じるでしょうが、少なくとも、「AIに頼り切りの社会」からは抜け出すことができます。今後、アイワーンのような外敵がやってきても、同様のリスクを抱えることはなくなるでしょう。
もし現在の惑星サマーンを「AIに支配されたディストピア」と捉えるなら、AIを打倒する物語に何の問題もありません。ラビリンスを支配するメビウス様を倒すようなものです(『フレッシュプリキュア!』)
しかし、もしサマーン人の「AI文化を全否定する」となると、それは「サマーンの文化や価値観を全否定する」ことに繋がります。スタプリが描こうとしているのは、「善良で優れた価値観が、邪悪で劣った価値観を打倒する」という勧善懲悪な物語ではないと考えれます。よって、サマーン人がAIを捨てる可能性は低いと思います。
2、では、AIと共生するにはどうしたらいいのかという話ですが、そのカギはおそらく「パーソナルAI」が握っていると考えます。
パーソナルAIは「多様な価値観の象徴」だと前述しました。もし、各々のパーソナルAIがララのパーソナルAIのように「個性」を会得したら、パーソナルAIの数だけの「価値観」が生まれることになります。つまり、惑星サマーンは「AIを活用しながら」も、「多様な価値観」を会得することができるのです。
多様な価値観がある世界では何が起きるかというと、価値観が衝突したとき、異なる価値観と出会ったときなどに、相手のことを「考えたり」「想像したり」する必要が生じます。パーソナルAIがそれぞれ異なる価値観を持つようになれば、サマーン人たちは損なわれていた「思考力」と「想像力」を取り戻し、AIに頼り切るわけではなく、AIとともに歩んでいくという、そんな「共生社会」をつくることができるのではないでしょうか。
AIを使いこなすことのできなかったララは、使いこなせなかったからこそ、鋭い思考力と豊かな想像力を会得したのだと前述しました。
次回、マザーAIが乗っ取られても、正常な判断と的確な決定でピンチを乗り越えようとするララと彼女のパーソナルAIは、他のサマーン人たちから注目されることでしょう。これまでサマーンでは「落ちこぼれ」だったララが、「落ちこぼれ」だったからこそ、サマーンの「救世主」となるのです。
※無性生殖と単為生殖の違いなどについて解説しながら、オリーフィオの正体、その生態系について考察した記事です。
ククの「誤った判断」:それは絶望?それとも希望?
ラストのシーンで、ククはララのことを指名手配していました。
ララがペンを持っているとはいえ、カメラに映っていたのはテンジョウさんだけで、ララは映っていませんでした。にもかかわらず、ククはララのことを犯人だと決めつけています。このシーンは、AIに頼り切っているサマーン人の思考能力の弱さ、想像力の欠如を示すシーンでもあったと考えられます。
考えてみれば、サマーン人は二桁の計算をすることもできません(スタプリ13話)。地球人のように、論理的な思考力を向上させるような訓練は積んでいないように思えます。となると、ペンを持っているララだけを見て、「ララが犯人だ!」と決めつけるのも、しかたないといえばしかたないのかもしれません。
さて、ククが誤ってララを指名手配したことは、「AIに頼り切っていたサマーン人には思考力と想像力が全然ない」という見方をすれば、「絶望」の印だといえます。
が、しかし、一概に絶望だといい切ることもできません。
というのも、サマーン人たちは、AIに頼り切っていたことから、AIなしに自己決定するという機会はほとんどなかったと思われます。それでも、ククはララを指名手配しました。AIの使えない状況下で、自分自身の判断で「ララは犯人だ」と考え、決定したのです。「AIがないから何がなんだかわからない」「何もできない」と狼狽して、立ち尽くすのではなく。
間違った決定をしてしまったククのことを、私たちは笑うべきでしょうか? AIに頼ることなく、自分だけの思考と判断に基づいて決定したククのことを、私たちはバカにしてもいいのでしょうか?
もちろん、間違った判断をしたことが判明したあと、ククが取り繕ったり、反省の態度をまったく示さないのであれば、それは糾弾すべきだと思います。
しかし、AIがないからといって思考を完全に停止しなかったククからは、サマーン人が思考力や想像力を完全に捨てていなかったこと、AIに頼り切らなくても、自らの判断で決定する力が残っていることを示しています。
これは、サマーン人たちがAIとの共生社会を作っていくうえでの「希望」の印ともいえるのではないでしょうか。
※2桁の計算ができないララ。この学校回は「ひかララ・ベストオブ・ベスト」だといっても過言ではないと思っています。
ララは「家族の喜んでいる姿」のために戦う
ララ「諦めないルン。喜んでるルン。兄が…ロロが見つけたから。トトも、カカも、みんな…わたしの家族が、喜んでるルン! だから、わたしは、何があっても、守るルン!」
ララが戦うのは自分のためではありません。ララは家族の笑顔のために戦っていたことが分かります。ララはAIに頼り切っている家族から「無自覚に」ディスられていましたが、それでもララが家族のことを大切に想っていることが伝わってきます。
確かに、ララとロロたちの価値観は大きく異なるものです。無限の可能性を信じるララと、AIの判断を信じるロロ。しかし、交わることなく隔たれているかに見える両者の価値観にも、共通するものがひとつあります。
それは、「笑顔」です。
どんなに価値観が異なる世界においても、笑顔を浮かべ合うことができれば、友達になれる…そのことは、ケンネル星の回でえれなさんが示していたとおりです。(スタプリ8話)。
ララと彼女の家族は、現時点では分かり合えていないことが多々あるかもしれません。しかし、それでも、「笑顔」が大切なものであるということは、ララの家庭においても共通する価値観なのです。
ララと家族が分かり合える日が来るかどうかは、現時点では分かりません。しかし、共通する価値観をもとに対話を続けていくことができれば、いつの日か、「受容し合える」日が来るかもしれません。
※あと今回のララの戦闘シーン、めちゃめちゃかっこよくて震えていたのは私だけではないはず。
ユニは「任せて」と叫ぶ
ユニ「任せるニャン!」
まどか「お願いします!」
ユニが自分にペンを渡すように頼んだのは、これまで、
- 26話 ユニ「スター!」
- 28話 ユニ「わたしがなんとかする…ミルキー!」
です。今回は「任せるニャン」と、はっきり明言していますし、ユニがみんなに自然に声をかけているところがまた心に来ます。
※あとこの戦闘描写。神なのかな? と思いながら視聴していました。ユニのカットがまどかさんのカットを押し上げていくところ、めっちゃカッコよかったです。
※26話は、ユニが自らプリキュア(キュアスター)にペンをもらう受けるよう頼んだ最初のシーンです。パジャマパーティ回、最高でした。
スタプリ29話の感想考察まとめ(後編)
- ララがランク8調査員であることを嫌がっているのはサマーン人にしたら「異端」
- ララはAIを使いこなせなかったからこそ、思考力と想像力を会得した
- マザーAIは「単一の絶対的な価値観」、パーソナルAIは「多様な価値観」の象徴
- ククの誤った判断は絶望でもあるし希望でもある
- ララと彼女の家族は「笑顔」という共通の価値観を持っている
- ユニの「任せるニャン」が尊い
スタプリ29話の感想考察です。スタプリに「魔法つかい」はいない、ということについて書いています。
30話では愛しのアイワーンちゃんが登場します。アイワーンちゃんの憎しみの裏に潜む愛と悲しみについて考察した記事です。最初から最後まで、アイワーンちゃんのことについて語り倒しています。
天気の子が面白かったので、ざざっと気になった点を時系列順にまとめました。「0:11」と書いているところは、(およそ)「開始11分後の場面」という意味です。
サマーン編、ちょっと好きすぎて考えをまとめるのが大変でした。心に刺さりまくりです。どのような見せ方をして、どのような着地を見せるのか、楽しみでしかたありません。
以上、スター☆トゥインクルプリキュア29話の感想考察(後編)でした。
長々と読んでいただきありがとうございました。