スタプリ37話、 仮装コンテスト楽しそうだな~!と無邪気に気持ちを持ち上げていたら、カッパードストライク(直球)を食らって地獄の底に突き落とされるような回でした。控えめに言ってとても好きです。
この記事はスター☆トゥインクルプリキュア37話の感想考察(前編)です。37話のネタバレを含みますので未視聴の方はお気を付けください。
- カッパードは怒りの裏に「苦しみ」を抱える
- カパひかは分かり合えない
- カッパードの過去とトラウマ
- 「異なる星の者が理解し合うことなどできはしない」
- カッパードの一人称が「オレ」だった理由
- 目のクローズアップ、無音の5秒間
- 過剰なメイクとサングラス:見えない壁の暗喩説
- スタプリ37話の感想考察(前編)
カッパードは怒りの裏に「苦しみ」を抱える
カッパードさんたちノットレイダーを動かしている感情は「怒り」です。これまでのエピソードでは、怒りという感情を起点として、「復讐」や「侵略」といった行動に及ぶという描写が続いていました。
しかし、37話では、カッパードさんの「怒り」以外の感情が垣間見えます。
口論をする地球人を見て、カッパードさんの脳裏には過去の情景がリフレインします。この時のカッパードさんの表情は、まさしく「苦悶」に満ちています。カルノリ君(スタプリ13話)や姫ノ城さん(スタプリ35話)を武器に変えたときのような、歪んだイマジネーションを見つけた事への「喜び」は微塵も見えません。
カッパードさんは、眉間にしわを寄せ、「くっ」と声を漏らします。
この表情から読み取れる感情、端的に言うならば、それは「苦しみ」と称するのが妥当だと思います。
しかも、です。
カッパードさんは口論する地球人を見たとき、見ていられないと、いったん引き返しているんです。
これらのカットから何が見えてくるかというと、カッパードさんの「怒り」の裏には、仲良くしていたはずの異星人たちといさかいが生まれてしまったこと、信じていた異星人に裏切られたことによる「苦しみ」が存在しているということです。そして、カッパードさんは未だにその「苦しみ」を抱えており、それを直視することができないでいるのです。
このシーンの直後、商店街を引き返そうとしたところで、カッパードさんはひかるさんたちと出くわします。カッパードさんはここで初めて、地球人から歪んだイマジネーションを吸い取り、「嗤う」のです。
まるで、傷付いた自分の心を隠そうとするかのように。
まるで、自分の抱える「苦しみ」から少しでも逃れようとするかのように。
…そんなふうに見えるのは、私だけでしょうか。
カパひかは分かり合えない
過去のトラウマがフラッシュバックし、苦悶の表情を浮かべていたカッパードさんでしたが、そこへひかるさんたちがやって来ます。
ひかる「あっ…カッパード!」
この一連のカット、あまりにも残酷すぎて血反吐を吐きそうになりました。
ひかるさんの表情に注目してください。ひかるさんはカッパードさんとエンカウントして、明らかに警戒心を示しています。
また、この後に続く台詞もこれです。
ひかる「カッパード! なんでこんなところに!」
ここでひとつ思い出していただきたいのは、カッパードさんは仮装コンテストの会場にやって来てからこの時点までにおいて、「何一つ悪事らしい悪事をしていなかった」という点です。カッパードさんがやったことと言えば、「参加者から頼まれて一緒に記念撮影をしたこと」くらいです。
にもかかわらず、ひかるさんたちはカッパードさんに「強い警戒心」を示しています。「なんでこんなところに!」という言葉からは、「どうせ悪いことをしているんでしょう?」「あなたはここに来てはいけない」という「敵意」と「排除」のメッセージが含まれています。
繰り返しますが、カッパードさんは、この時点では、何一つ、悪いことをしていません。
「決めつけはなしだよ(スタプリ2話)」と言っていたひかるさんが、「対話」と「分かり合うこと」が大切だと考えてきたひかるさんが、「対話の姿勢も見せず」、一方的に「カッパードは悪いことをしに来た」のだと「決めつけている」のです。
いやいや、それはカッパードさんのこれまでの侵略行為を考えたら当然です。最初はひかるさんだってカッパードさんのことを「かっちょいい!」と称したこともありました(スタプリ1話)。その歩み寄りを裏切り、ひかるさんたちの大切なものを奪おうとしてきた経緯があるんだから、今回、まだ何も悪いことをしていなかったカッパードさんと対話せずに排除しようとしていたのも「仕方のない」ことではないでしょうか。
そんな擁護論を考えたとき、既に落とし穴にハマっていることに気付きます。
なぜなら、それはカッパードさんにも当てはまることだからです。
カッパードの過去とトラウマ
今回、カッパードさんの過去の一部が明かされました。
カッパードさんは母星と思われる惑星で、異星人たちと仲良く暮らしていたところ、そこに紛れ込んでいた侵略者の異星人たちに裏切られ、大切なもの(泉)を奪われたことが暗に示されていました。(※1)
異星人に裏切られ、大切なものを奪われた経験を持つカッパードさんが、異星人と対話をしようとしなくなったこと、異星人のことを信用しなくなったことは、彼の過去のトラウマを考えると、ある意味「仕方のないこと」だとも言えます。
このシーンにおけるひかるさんの言動を「仕方がない」と認めたとき、カッパードさんがこれまで繰り返してきた「対話と相互理解の否定」「分かり合うことの否定」といった主張についても、部分的には「仕方がない」と認めざるを得なくなるのです。(※2)
もちろん、現実問題として、ひかるさんが「カッパードは悪さをしようとしている」と決めつけてしまうのは自然なことです。しかし、それが自然なことだからこそ、分かり合うことの難しさが浮かび上がるという演出になっているわけです。
※1 カッパードさんの母星を奪った異星人について。
悪い顔をしながら泉の水を吸い込んでいるのは、羽が4枚あること、足が6本あること、触覚が2本あること、胴体の形としましま模様を併せて考えると、「蜂(ハチ)」をモチーフにした異星人だと思われます。ちなみにハチはアリやシロアリと同じく「社会性昆虫」と呼ばれる昆虫であり、その攻撃性と連携の取れた社会性から、昆虫界における「強者」とも言えます。
一方、右側で両腕を組んでいるロボット(?)のような人物は、また別種の異星人なのか、あるいは蜂型異星人たちの操るロボットなのでしょうか…? こちらについては何のモチーフなのかさっぱり分からないので、「これじゃないか」というモチーフを思いつく方がいらっしゃったらコメント欄などで教えていただけると幸いです。
《追記》
本記事のコメント欄にて、mugenさんから素敵な考察を教えていただきました。
蜂型宇宙人と一緒にいるロボットのモチーフは「熊」ではないか、という考察です。確かに頭のパーツは熊の耳のようですし、体形も熊と似ています。また、蜂(ハチミツ)といえば熊を連想させます。なお、蜂型宇宙人が水を奪っている際に手を貸さずに腕を組んでいるところを見ると、熊型宇宙人は配下ではなく上の立場なのかもしれません。作中の描写を見る限り、これはかなり説得力のある説のように思います。
mugenさん、教えていただきありがとうございます!
※2 もちろん、自分達に明確な「敵意」を見せている相手を警戒して「排除」しようとするのは自己防衛のためには必要でしょう。実際、これまでにおけるノットレイダーの戦いでは、先にノットレイダーが敵意を見せてきたからこそ、ひかるさんたちは防衛のために臨戦態勢に入っていました。これについては、いくら「分かり合うことが大切」だとは言っても、否定されるものではないと思います。
ただ、繰り返しになりますが、37話におけるカッパードさんは、この時点ではまだ何も悪いことをしておらず、「敵意」を示すようなこともしていません。今回、先に「敵意」を示したのはひかるさんの方なのです。
アイワーンちゃんが「失ったもの」とは何か?などの考察をしています。
「異なる星の者が理解し合うことなどできはしない」
プリキュア側の主張する「対話と相互理解の大切さ」「分かり合うことの肯定」という土台が揺らいだかと思うと、スタプリは視聴者に更なる追い打ちをかけて来ます。
カッパード「フン、地球人にでもなったつもりか?」
ララ「ルン?」カッパード「異なる星の者が理解し合うことなどできはしない!」
カッパードさんは異星人同士が理解し合うことなどできないと主張するわけですが、この台詞の最中に挿入されるカットがまためちゃくちゃ「憎い」のです。どういうことかというと、次の2枚をご覧ください。
ここではまさにカッパードさんの言う通り、異なる星の者(プリキュアとノットレイダー)が理解し合う事なく戦う描写が映し出されています。一連の描写は、「異星人同士でも分かり合えないわけじゃない」「難しそうな相手でも決めつけをせずに対話と相互理解を求めるのが大切」と主張してきたプリキュアサイドに対する痛烈な皮肉になっているわけです。
カッパードの一人称が「オレ」だった理由
カッパード「楽しい…だと? そんなものは今のうちだけだ!」
ミルキー「ルン?」
カッパード「いずれ違いがいさかいを呼び、破滅をもたらす」
スター「そんなこと…」
カッパード「甘い!」(スターが驚く)
カッパード「オレの星はすべて奪われた」
カッパードさんの一人称はこれまでずっと「わたし」でしたが、このシーンのカッパードさんは自分のことを「オレ」と呼びます。
なぜカッパードさんの一人称が「オレ」になったのかというと、「母星を奪われたこと」はカッパードさんにとって最大級のトラウマであり、そのトラウマを刺激されたことにより冷静さを失っていたからだと思われます。このときのカッパードさんは「ノットレイダーという組織を背負う幹部」としてではなく、「カッパードという個人」として振る舞っていることが分かります。
ここで思い出すのはスタプリ21話のカッパードさんの台詞です。
カッパード「激しい感情は自分を奮い立たせる だが同時に冷静さを失わせる!」
カッパードさんは、激しい感情が冷静さを失わせ、戦闘を不利にしてしまうことを重々承知しています。実際、スタプリ21話では、ひかるさんを故意的に挑発し怒らせることで、その冷静さを失わせようとしていました。
要するに、今回のカッパードさんは、そういったことを頭では理解していながらも、激しい感情を抑えることができなかったわけです。カッパードさんの過去のトラウマが、いかに深い傷を残しているのかということがうかがえます。
※カッパードさんがひかるさんのことを「これでもか」というくらい見ていたのに、ひかるさんが見ていたのはカッパードさんではなく、目の前で苦しむ巨大化したアイワーンちゃんだったスタプリ21話の考察です。 www.konjikiblog.com
目のクローズアップ、無音の5秒間
極めつけは、無事にプリキュアが勝利した戦闘終了直後のシーンです。
カッパード「今に…裏切られるぞ」
BGMが消えた無音の世界で、カッパードさんの目がクローズアップされます。プリキュアたちだけではなく、私たち視聴者までもがカッパードさんに睨まれているようなヒリヒリとした緊張感が走ります。
このときの「無音」は5秒間も続きます。これまでの考察でも繰り返し指摘してきたことですが、(子ども向け)アニメにおいて5秒の無音は決して短いものではありません。視聴者の注意を引きつけるには十分な時間です。この5秒間の無音と、カッパードさんの目のクローズアップによって、視聴者はカッパードさんと向き合うことを余儀なくされるのです。
※「無音」による秀逸な心理描写といえば、スタプリ24話も忘れてはなりません。アバン(冒頭)のまどかさんの心理描写がいかに素晴らしいかについての考察です。
過剰なメイクとサングラス:見えない壁の暗喩説
ここでカッパードさんの過去を映したカットを再び振り返ってみます。注目していただきたいのは、カッパ星人たちの着ている服や装飾などです。
カッパ星人たちはとても簡素な服装をしています。カッパードさんが額や目の下に赤いメイクを施したり、サングラスをつけていることを考えると、カッパードさんがいかに「ファッショナブル」な格好をしているかが分かります。
私はてっきり「カッパードさんのメイクはカッパ星人の文化なのかな」と思っていたのですが、上記のカットを見る限りだと、そうではないのかもしれません(※1)
もしカッパードさんの過剰にも見えるメイクとサングラスが、カッパ星人の文化によるものではないのだとしたら、なぜカッパードさんはそのような格好をしているのでしょうか?
ひとつ思いつくのは、過剰なメイクとサングラスによって「見えない壁」を作り出しているとする説です。サングラスはブルーキャットも着用していたとおり、「本心を隠すアイテム」として機能しています。過剰なメイクは、自らが「異端者」であることを示しながら、他者との交流を拒む姿勢の表れではないでしょうか。
考えてみると、ノットレイダーたちはそれぞれみんな、「過剰なメイク」を施したり、「物理的に顔の一部を隠すもの」を身に着けたりしています。これらはまさに、スタプリが言うところ「見えない壁」の象徴ではないかと思うのです。
①テンジョウさんは仮面をつけることで顔を隠している。
②アイワーンちゃんは過剰なメイクをしつつ、スタプリ29話以降はフードを被って顔を隠している。
③ガルオウガ様は過剰なメイクをしている。
④ダークネスト様はフード?鎧?を被ることで顔を隠している。
もしこの仮説が真であるなら、ノットレイダーたちと和解できた後、テンジョウさんは仮面を外したり、カッパードさんはサングラスを外したりするのかもしれませんね(※2)
※1 もっとも、カッパードさんのしているメイクは、カッパ星人が「ハレの日(おめでたい日)」に施す特別なものである可能性もあります。だとすれば、カッパードさんは今は亡き母星の誇るべき文化を未だに忘れていないことの証であり、なんというか、めっちゃ泣けます。
※2 もちろんテンジョウさんの仮面などについても、「見えない壁」というネガティブな道具ではなく、テンジョウさんたちの母星の大切な文化、自分達の民族における「誇り」のようなものであり、それを今でも大切にしている可能性もあります。
スタプリ37話の感想考察(前編)
- カパひかは分かり合えておらず、ひかるさんからも歩み寄れていない
- カッパードさんの過去のトラウマがエゲツナイ
- 異星人同士が理解し合うことはできないというカッパードさんの主張には一定の説得力がある
- カッパードさんの「オレ」呼びは激しい感情の発露によるもの
- 過剰なメイクとサングラスは「見えない壁」の暗喩説
前回のスタプリ36話の感想考察(前編)です。ユニの怪盗行為を否定したことについての考察などをしています。
カッパードさんのイケメンバンクが超絶イケメンでカッコいいということについて、頭の悪い文章でろくに考察もせずに書き殴っています。
今回の37話では、裏切られ、傷付き、苦しみを抱えるカッパードさんの心をこれでもかというくらいに見せつけてくる、何とも「エゲツナイ」回でした。
カッパードさんのことしか書いておらず、それでもまだカッパードさんについて語り足りていないような気がしてならないのですが、今回のところはいったんここまでで。また何かあれば後編の記事で書くか、ここに追記するかします。
以上、スター☆トゥインクルプリキュア37話の感想考察(前編)でした。
後編の記事についても書きあがり次第アップしますので、もう少々お待ちください。
→書きました(2019年10月27日)