スター☆トゥインクルプリキュア45話の感想考察(中編)です。ネタバレを含みますのでご注意ください。
- ノットレイダーは仲間想い
- カッパの涙:「この憤りが、お前には理解できまい」
- 世界は暗転する:11話との対比
- 絶対に理解し合えるわけではない、されど理解し合えないわけでもない
- ひかるはひかる:デネブは変わらず輝き続ける
- 星奈ひかるは「星」の外に足を踏み出す
- スタプリ45話の感想考察まとめ(中編)
ノットレイダーは仲間想い
カッパード「下がれ、お前達も危うい。この強大な力…制御が難しそうだ」
自分自身の歪んだイマジネーションを吸い、強大な武器を手にしたカッパードさんは、ノットレイたちに「下がれ」と命じます。カッパードさんはノットレイたちの身を案じているわけですが、これは何も彼だけではありません。
追い詰められたプリキュアが逃げ出したスタプリ10話、テンジョウさんはノットレイたちの疲労を案じて、それ以上の追撃は止めるべきだと提案しています。また、アイワーンちゃんも自分にもっとも近いところにいたバケニャーンには並々ならぬ信頼感を寄せていました。
ノットレイダーという組織は居場所を失った者たちが集まる「家」のような場所で、彼らは言ってみれば「家族」のようなものです。だからこそ、基本的には仲間想いなのでしょう。
カッパの涙:「この憤りが、お前には理解できまい」
カッパード「この星の水…思い出す。オレのふるさとを。旅人に分け与えるほどの豊かな資源、麗しき星を…そして、思い起こさせる、あの惨劇を…! われらの善意は、やつらの悪意を増長させたのだ…! すべて…奪われた…! この憤りが、お前には理解できまい…ぬくぬくと生きている…お前にはなぁ!」
この憤りが、お前には理解できまい。
クローズアップされるカッパードさんの怒り狂った表情。しかし、よく見ると、その顔には雨が滴っていて、まるで涙のようにも見えます。激しい憤りの裏には、「信じていたのに裏切られた」という深い哀しみが潜んでいるのです。
この憤りが、お前には理解できまい。
そう、ひかるさんには、カッパードさんの憤りは理解できません。ひかるさんには、信じていたのに裏切られ、すべてを奪われた経験などありません。善意を悪意で返され、大切なものをすべて奪われた経験などありません。ひかるさんには、どう足掻いても、カッパードさんの憤りを理解することはできないのです。「分かるよ」だなんて、口が裂けても言えないのです。
カッパード「人は変わる…イマジネーションなどすぐ歪む。それなのにお前は…『大好き』『キラやば』。いつもいつもそればかり。そんなものは無力!」
それはひとつの敗北です。
誰よりもイマジネーションの力を信じているひかるさんが、目の前の異星人の抱える憤りを理解できず、口をつぐむことしかできないのです。異星人同士でも分かり合えると信じていたひかるさんが、目の前の異星人に「恐怖」を抱いてしまうのです。
カッパード「フッ…いい目だ…恐怖に歪んでいる!」
また、カッパードさんの「憤り」の象徴ともいえる巨大な水の攻撃を受けて、ひかるさんの変身は強制的に解除されます。スタプリのメンバーたちは、「憧れのわたし」を描くことでプリキュアに変身しますが、この時のひかるさんは、その「わたし」を完全に見失ってしまったことが表されているとも言えます。
世界は暗転する:11話との対比
フワやメンバーたちが助けに来てくれたおかげで、ひかるさんは何とか助かりましたが、その気持ちは折れたままです。ひかるさんは「わたしのせいだ」「みんな…ごめん」と言い、世界は暗転します。
ひかる「わたしのせいだ…わたしが、トゥインクルイマジネーションを、見つけられないから…みんな、ごめん…」
ララ「フッ…見つけられるはずがないだろう。お前ごときが。この宇宙の現実も知らず、異星人同士が理解できるなどと、綺麗事を言っている、お前ではなぁ!」
それはスタプリ11話を彷彿とさせます。
自分のせいでペンを奪われてしまったと自責の念に駆られるひかるさんが、それまで自負していた自らの想像力の豊かさを否定され、大好きな宇宙すら否定され、自分を支えていた「柱」を失ってしまった11話。
あの時のひかるさんは、ララたちから「ひかるの想像力はすごいルン!」と言ってもらったおかげで再び立ち上がることができました。自分が楽しければ他人のことなんて気にしていなかったひかるさんが、みんなから支えてもらっていることを強く自覚した瞬間でもありました。
それからも、みんなと大切な時間を過ごしていく中で様々な影響を受けてきたひかるさん。自分が楽しければひとりでも平気で、他人のことなんて気にもならなかったひかるさんは、もういません。そこにいるのは、自分が楽しいかどうかだけを考えるのではなく、他人のことを気にかけるあまり、時には自分と他人とを比較してしまったり、自分を見失ってしまう女の子です。
そんな彼女のことを奮い立たせたのは、他でもない親友のララでした。
絶対に理解し合えるわけではない、されど理解し合えないわけでもない
ララ「そんなことないルン…綺麗事なんかじゃ、ないルン…。ちゃんと、仲良くなれたルン! ひかるやえれな、まどか達…それだけじゃないルン。あなたも見たルン? 二年三組のみんなを! みんなが、受け入れてくれたルン! わたしらしくしてても、ちゃんと理解し合えるって、ひかるが、教えてくれたルン!」
カッパードさんの言う通り、確かに異星人同士、分かり合えないこともあるかもしれません。しかし、だからといって異星人同士が理解できるというのは綺麗事なのかというと、そうではないのだとララは強く主張します。
「あなたも見たルン?」というララの問いかけにカッパードさんは返答することができません。なぜなら、あの時カッパードさんは確かに見ていたからです。クラスメイトたちのララに対する歪んだイマジネーションが消失していった光景を。異星人である地球人が、心の底からララのことを応援していたあの光景を(スタプリ40話)。
カッパードさんの発言には彼の経験に基づく「重み」があるのと同様に、ララの言っていることにも彼女の経験に基づく「重み」があるのです。
ひとつ留意しておくとすれば、ララは「異星人同士が理解し合えるというのは綺麗事ではない」と主張しているだけであり、「異星人同士でも絶対に理解し合える」とまでは言っていないという点です。ララの主張は、カッパードさんの「異星人同士が理解し合うことは絶対にできない」という主張に対する反論であり、「異星人同士でも理解し合える(こともある)」というものなのです。
細かい差異に見えるかもしれませんが、スタプリは「どんな人でも絶対に理解し合える」というような、それこそ綺麗事のような言説は一度も唱えたことはありません。では何と言っているかというと、分かり合えないかもしれなくても、「自分のことを知ってもらう(※1)」「相手のことを理解しようとする(※2)」という姿勢が大切なのだと言っています。
※1 たとえば、自分の事情を話したって相手は宇宙マフィアなんだから返してもらえるわけがない、と惑星レインボーの指輪を盗もうとしていたユニに、「やってみなくちゃわからないじゃん」とひかるさんは言っています(スタプリ36話)。「どうせ分かってもらえない」と決めつけずに、まずは自分のことを知ってもらおうよ、と言っているわけです。
※2 たとえば、スタプリ35話(サボロー回)では、えれなさんに対して母・かえでさんがこのように言っています。
かえで「えれな、いくら英語やスペイン語が上手に話せてもね、わかりあえないことだってあるのよ」
えれな「え? そうなの?」
かえで「わかりあうのは簡単なことじゃないわ。だからこそ、相手のことをもっとよく知らないとね。笑顔も大事だけど、もっと大事なのは、理解しようとすること」
ひかるはひかる:デネブは変わらず輝き続ける
故郷では「AIを使いこなせない落ちこぼれ」という烙印を「優しく」押され続けてきたララは、いつも他人と自分を比較し、「みんなと違う自分」に劣等感を覚えていました。しかし、2話、13話、29~30話等を経ながらララは少しずつ成長し、40話ではついに自分にとってのトゥインクルイマジネーション(=わたしはわたしらしくいたい)を見つけました。
そんなララが、みんなと比較することで「自分」を見失っているひかるさんにかけた言葉――それは、ひかるさんが繰り返しララに言っていた、あの言葉でした。
ララ「ひかる…ひかるは、ひかるルン」
ひかるは、ひかるルン。
この時、多くの視聴者はスタプリ2話や40話を思い出したことでしょう。自分はプリキュアになれないと悩むララ、2年3組のみんなから遠ざかられたララに対して、かつてのひかるさんはこう言いました。
ひかる「ララちゃんは、ララちゃんだよ」
ひかる「異星人とか、地球人とか、関係ないよ…だって! ララは…ララだもん…」
ララはひかるさんのこの言葉のおかげでプリキュアになれましたし、40話ではこの言葉のおかげで、トゥインクルイマジネーションを見つけることもできました。
かつてララにかけた言葉が、まわりまわって、今度はひかるさんを救う言葉となって返ってくるのです
ララのこの言葉によって、ひかるさんはハッと気付きます。
(回想)遼じい「デネブは変わらず輝き続けるんだろうねえ」
ひかる「そっか…遼じいが言ってた。まわりが変わっても、デネブは変わらず輝くって。わたし、知りたい。宇宙のこと、みんなのこと、もっと知りたい! それに、カッパード、あなたのことも!」
デネブは変わらず輝き続ける。
夏の大三角形を形作るベガやアルタイルと比較すると、実はデネブは地球から極めて遠いところに位置しています。そんな遠いところにあるデネブがなぜ1等星なのかというと、デネブが「桁違いに明るい星」だからです。21ある1等星の中でも、デネブは「もっとも明るく輝いている星」なのです(※1)
ここで言う「デネブ」は、ひかるさんの暗喩になっているのです。
※1 参考リンク:和歌山市立こども科学館:デネブ
星奈ひかるは「星」の外に足を踏み出す
…いえ、そう断定しまっては語弊があるかもしれません。
確かにデネブはひかるさんの暗喩でもありますが、続くひかるさんの台詞を聞くと、ひかるさんはデネブのような輝きを自分自身に限定させていないことに気付きます。
カッパード「知るだと!? ぬるい環境で育ったお前に、何が分かる!?」
ひかる「うん…そうだよ。分からない。でも、だからわたし、あなたの輝きも、もっともっと、知りたいの!」(中略)
「みんな星みたくさ、キラキラ輝いてる。その輝きが、教えてくれるの。輝きはそれぞれ、違うんだって」
ひかるさんは言います。
みんな星のようにキラキラ輝いているのだと。その輝きはそれぞれ違うのだと。そしてそれは、カッパードさんも同じなのだと。
1話の時点から、「キラやば」なものに目がなかったひかるさん。彼女はいつだって、珍しいものや目新しいもの、好奇心をくすぐるものには目を輝かせながら積極的に近付いていました。
しかし、1話の時点のひかるさんは、自分が興味のないことに関しては無頓着であり、他人に対しては特に関心がありませんでした。そのことは、クラスメイトの姫ノ城桜子さんとの関係性が如実に示しています。姫ノ城さんは事あるごとに登場していましたが、ひかるさんは姫ノ城さんに興味を寄せることはありませんでした。姫ノ城さんが会話に入ってきても、そっと距離を取っていただけです。
そんな二人の関係性が大きく変わったのが、35話の生徒会長選挙回です。あのときになってひかるさんはようやく、珍しいものでもなければ目新しいものではない、けれど確かに「キラやば」なもの――「その人それぞれの輝き」に気付くのです。
ひかる「わたし、何も知ろうとしていなかった。姫ノ城さんのことを。でも、今は少しだけ分かる。わたし、もっと知りたい。彼女のことを!」
ひかるさんの行動原理となっていたのは「知りたい」という想いであり、それ自体は今も昔も変わりありません。ですが、今のひかるさんの「知りたい」は、その人それぞれが持っている「輝き」を知りたいのだというものになっています。
これは、「知りたい」が星座や宇宙、UMAなど自分が関心あるものに限定されていた昔のひかるさんと比べると、大きく違っていることが分かります。みんなと出会い、様々な価値観をその肌で感じることで、ひかるさんの心の中の宇宙は大きく拡がっていたのです。
ララ「その宇宙じゃないルン。みんなのおかげで心のなかの宇宙が無限に広がっていくルン」
他を気にせず、自分の好きなものだけを追いかけていたひかるさんが、自分の世界から外の世界に一歩踏み出す――そのことは、「星」の外に足を踏み出すシーンが象徴的に示していました(※1)
ひかるさんは「他」を知ることによって、改めて「自分」を知り、そしてもっともっと「他」を知りたいと願ったのです。
※1 ちなみにこの「星」の跡は、カッパードストライクを受けたときに防御した跡だと思われます。
スタプリ45話の感想考察まとめ(中編)
- ノットレイダーは仲間想い
- カッパの涙:「この憤りが、お前には理解できまい」
- 世界は暗転する:11話との対比
- 絶対に理解し合えるわけではない、されど理解し合えないわけでもない
- ひかるはひかる:デネブは変わらず輝き続ける
- 星奈ひかるは「星」の外に足を踏み出す
カッパードさんのことを書くと言っていたのに、ほとんどカッパードさんのことが書けてない…。というわけで、カッパードさんのことは後編の考察で思う存分書きたいと思います。
スタプリ45話の考察(前編)です。
スタプリ45話の考察(後編)です。
45話の予告を見たときにカパひかの相合傘が来るのでは????と無邪気に妄想した結果生まれた産物です。
<宣伝コーナー>
スタプリのボーカルベストが1/22に発売予定です。新曲も気になりますし、まだ詳細が解禁されていない「ボーナストラック」というのも気になって仕方ありません…。