スタプリ48話、正直、もう言葉が出ません。
視聴している最中は眼球が取れるんじゃないかというくらいずっと泣きっぱなしでしたし、見終えた後も脳が麻痺してて、私は壊れたロボットのように心の中で「良かった…良かった…」と繰り返していました。
この記事はスター☆トゥインクルプリキュア48話の感想考察(前編)です。ネタバレを含みますので未視聴の方はご注意ください。
オープニング:はじめに「闇」ありき
静寂。
それは、嵐の前の静けさです。
へびつかい座の象徴ともいえるオブジェクト(※1)が、圧倒的な存在感をもったまま、画面中央に映ります。これを目にした私たち鑑賞者は「ある予感」を覚えずにはいられません。
へびつかい座を倒したのか? 宇宙は救われたのか?
力なく両膝を地につけるひかるさん、そして他のメンバーたちのもとに、12星座のプリンセスたちが現れます。
ひかる「あ…フワ…」
えれな「フワは…どこに行ったの」
おうし座「儀式を終え、完全にパレスに戻りました。フワは、無事使命を果たしました。プリキュア、本当に感謝します。宇宙は救われました」
宇宙は救われた。
その言葉を聞いても、ひかるさんが立ち上がることはありません。メンバーたちはみな、沈黙を守ることしかできません。
それもそのはずです。
もともとへびつかい座との最終決戦におけるメンバーたちの最大の目的は「フワを守ること」でした(詳しくは47話の考察参照)。その目的を果たすことができなかったメンバーたちは、まさに「大切なもの」を失ったわけで、とてもではありませんが喜んでいられる状態ではありません。
そして、私たちの「予感」は的中します。
悪魔の象徴でもある「蛇」は(※2)、その姿を見せ、みなを嘲笑います。
「…救われただと?」
ひかるさんの絶望に染まった表情を映し出された直後、タイトルが現れますが、その背景は真っ黒――まさに、「闇」です。
その闇は、ひかるさんたちの深い絶望を示しているようです。人はそれぞれ「星のような輝き」を宿しているとひかるさんは言いましたが(45話)、このとき、メンバーたちは「大切なもの」を失ったことで、心の中にある「キラキラ輝くもの」も一時的に消えてしまっていたのです。
プルンス「そんな…」
ユニ「どうして…」
へびつかい座「お前達のイマジネーションが仇となったようだな。器を消したくない。その想いが、大いなる力、その完成を邪魔したのだよ」(ひかるの絶望した顔が映っている最中、画面が揺れる)
おうし座「…想いを、重ねきれなかった」
へびつかい座「パレスに我の力を注ぎ、宇宙を呑む!」
このとき、画面にはひかるさんの絶望する表情が映りますが、カメラがガタガタと揺れる演出がされています。これにより、ひかるさんの驚き、そして畏れの感情が表現されています。
想いを重ねきれなかった、とおうし座は指摘しますが、それはまさにその通りで、プリキュアたちはあのときフワと想いを重ねることはできていませんでした。繰り返しになりますが、47話におけるひかるさんたちの最大の目的=想いは「フワを守ること」であり、フワの最大の目的=想いは「みんなを守ること」だったのです。
フワ「大丈夫フワ」
ひかる「フワ?」
フワ「フワが、みんなを、守るフワー!」出典:スター☆トゥインクルプリキュア47話
※1 このオブジェクトは「十字架」のようにも見えるなと思っていたんですが、こうして見てみると、47話前編のコメント欄で読者の方から教えていただいたように「剣」のように思えます。「蛇」と「剣」といえば、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)と草薙剣(くさなぎのつるぎ)を彷彿とさせます。
※2 聖書では、蛇と悪魔が同一のような記載がされています。ダークネストは「悪魔」なのか?
闇の中で瞬く光
そして、この宇宙はへびつかい座の造り出した大いなる闇に呑み込まれてしまいますが、カメラには、その闇の中でちらちらと瞬く光が映ります。それはまるで、暗い宇宙に輝く「星」の光です。その光の正体は、ひかるさんのスターカラーペンダントの「輝き」でした。
ひかる「力が…入らない。守れなかった。約束…したのに。フワ…」
ひかるさんの言う「約束」というのは、「フワを守る」ということを指しているとも考えられますし、あるいは44話での「ずっとずっと一緒だよ」という約束を指しているとも考えられそうです。(いずれにしても似たようなものですが)
フワ「フワがいるから大丈夫フワ! みんなといつでも会えるフワ!」
ひかる「フワ…」
えれな「そっか!」
まどか「そうですね!」
ユニ「フワのワープがあれば!」
ララ「ルン」
ひかる「フワ…ずっとずっと、一緒だよ!」出典:スター☆トゥインクルプリキュア44話
そこに現れるのは、闇を照らす、微かな、しかし、暖かな光――ララの触角です。
漆黒の闇の中で、ララとひかるさん、そして他のメンバーたちが出会えたのは、これまで、みんなで想いを重ねてきた=星座を作ってきたからかもしれません。直後、流れ星が横切り、トゥインクルブックに描かれた星座のフワが映し出されます(この「フワ座」は、1話でひかるさんが描いていたものです。念のため)
ひかる「いたね…フワ。…宇宙は、消えてない。まだある。まだ、残ってるよ。わたしの、わたしたちの、心の宇宙」
まどか「そうですね」
えれな「諦めるなんて」
ユニ「わたしたちらしくないニャン」
ララ「ルン。他のみんなの宇宙だって、きっと」
ひかる「わたしは、守りたい。宇宙を、みんなを守ろうとしてくれた、フワの想いを」
わたしたちの心の宇宙。
その言い回しは、スタプリ25話や 『パぺピプ☆ロマンチック』でも登場しています。心の宇宙とは、端的に言えば、その人それぞれの持つ「イマジネーション」を指していると考えられます。
ララ「それにみんなといると宇宙が広がるルン」
ユニ「宇宙?(夜空を見上げる)」
ララ「その宇宙じゃないルン。みんなのおかげで心のなかの宇宙が無限に広がっていくルン」
夜空の宇宙を覗いてみよう
(びゅーん びゅーん びゅびゅーん びゅーん)
心の宇宙を覗いてみよう
(びゅーん びゅーん びゅびゅーん びゅーん)出典:パぺピプ☆ロマンチック(スター☆トゥインクルプリキュア ED)
一連の台詞で注目したいのは、ララとひかるさんの台詞です。
ララ「ルン。他のみんなの宇宙だって、きっと」
他のみんなの宇宙、そしてその宇宙で瞬く星の輝きは、ララの言うとおり、確かに消えていないのです。それを証拠に、ひかるさんたちがいるこの空間の背景はよく見ると「真っ黒」ではなく、ぼんやりとした微かな光のようなものが無数に見えます。さながら、夜の星空のように。
ここで、ひかるさんの台詞に再度注目させてください。
ひかる「わたしは、守りたい。宇宙を。みんなを守ろうとしてくれた、フワの想いを」
それは、ひかるさんたちの叶えられなかった想い、「フワを守りたい」という想いが、「フワの想いを守りたい」というものに変わった瞬間です。これは似たような希望にも見えるかもしれませんが、大きく異なるものです。
何がどう違うのかというと、「フワを守る」というのは果たされなかった希望であり、今となっては「フワを守れなかった」という後ろ向きな意味が含まれている一方、「フワの想いを守りたい」というのは、「これから」のことを考える前向きなものです。つまり、このときひかるさんたちは、「大切なものを失った」ことを受容しながらも、「後ろ」ではなく「前」を向いていたのです。
ユニ「でも、もう、プリキュアには…」
不安をこぼすユニ。
それも理解できます。儀式によって、既にプリキュアの力は失われており、序盤の時も変身することは叶いませんでした。
ララ「ひかる…変身ルン!」
一同「スターカラーペンダント!」
へびつかい座「無駄だ。儀式で使い、力など残っていまい!」
しかし、ユニの言葉を聞いたひかるさんは、そっと、歌いはじめます。
どこまでも優しく、温かく、美しい音色で。
ひかる「きらめく 星の力で 憧れの わたし 描くよ トゥインクル トゥインクル プリキュア」
大雨洪水警報が発令する間もありません。
私の脳内はありとあらゆる感情が爆発し、眼球がそのまま流し出されてしまうのではないかと自分でもびっくりするくらいの涙が溢れ出てびしょ濡れになるわけですが、私の眼球の話はどうでもいいんです。勝手に流れていればいいんです。
その後、メンバーたちも次々に歌い始めます。
一緒に歌うということは、声を重ねるということであり、「想いを重ねる」ことを意味します。そして、5人の想いに呼応するようにして、スターカラーペンはキラキラと輝きます。
このとき、なぜペンは輝いたのでしょう?
ペンの持っていた力は、スタープリンセスたちのイマジネーションの力であり、それらは既に儀式によって失われたはずです。では、このとき、ペンを輝かせた力はいかなるものだったのでしょう?
47話の考察でも書いたとおり、プリンセスたちはプリキュアの力を「pre-cure(前に戻すため)の力」だと定義していました。逆に言えば、儀式に使われていた力――スターカラーペンに注がれていたプリンセスたちの力は、この「pre-cure(前に戻すため)の力」だけだったと考えられます。
一方、このときのひかるさんたちが描いていた「想い(イマジネーション)」は、「フワの想いを守りたい」という「前に進むための想い」であり、決して「前に戻すためのもの」ではありません。つまり、このときに輝いていたのは、「前に進みたい」という、ひかるさんたち独自の「想い(イマジネーション)」だったのです。
そういう意味では、ペンが輝きを「取り戻した」と表記するのは適当ではないかもしれません。このときのペンの輝きは、プリンセスたちによって附与されたものではなく、紛れもない、「ひかるさんたち自身の輝き」だからです。(強いて言うならば、「ひかるさんたち自身の力によって改めて輝いた」と表記するほうが適当なのでしょうか)
5人は、それぞれの輝きを灯したペンを使い、みんなで1つの五芒星を描きます。
それは、想いが重なった瞬間です。
点と点が結ばれ、1つの星座が生まれた瞬間です。
五芒星は、それぞれがそれぞれの色をつけていき、最終的には光をプリズムを通したときのような無限の色彩を帯びています。ひとりひとりの色が重なることで、無限の色が、無限大の可能性が、“ムゲンダイマジネーション”が生まれることを表しているかのようです。
スタプリ「最大級」の戦闘シーン
へびつかい座「お前達のイマジネーションは、所詮プリンセスたちの借り物。そんなものでは――我には勝てぬ!」
ひかる「違うよ!」
へびつかい座「何が違う?」
ララ「元は、プリンセスの力かもしれないルン!」
えれな「でも今は、あたしたちのイマジネーションなんだ!」
へびつかい座「たわけ!」
まどか「わたくしたちは、自分達で考え、想いを巡らせ」
ユニ「イマジネーションを育てていったニャン!」
ひかる「だから、わたしだけのイマジネーションなんだ!」
この宇宙に生きる者たちのイマジネーションはプリンセスたちによって与えられたらものに過ぎず、「ワタシだけのイマジネーションなどなかった」ことが提示されたのが47話であり、今回もへびつかい座がそのことを指摘しますが、それに対してプリキュアたちは声高らかに反論します。
この時の戦闘シーンはもうとにかく圧巻のひとことで、胸が熱くなりすぎてそのまま自宅が炎上するのではないかと思うほどだったのですが、私の自宅ことはどうでもいいんです。勝手に燃えていればいいんです。
ところで、お気づきだとは思いますが、一連のシーンにおけるひかるさんたちの攻撃モーションは非常に激しく力強いものになっています。この「力強さ」は、スタプリ本編の中では「最大級」のものであると言っても過言ではありません。
なぜひかるさんたちの攻撃がこれほどまでに「力強い」ものになっているのかというと、最終決戦だから…という理由では元も子もないので真面目に言うと、このときの力は「プリンセスたちの借り物」としてのものではなく、「ひかるさんたち独自」のものであり、その「力強さ」が表現されているからだと考えられます。
へびつかい座「すべてのイマジネーションは、我の闇に消したはずなのに。わたしだけのイマジネーション、だと? その独りよがりが、ノットレイダーを生んだのだ! 不完全なイマジネーションなど、我の宇宙にはいらぬ! そんなものが蔓延るから、宇宙は歪むのだ! 我の宇宙こそが美しい! 我の宇宙こそが、完全なのだ!」
もちろん、へびつかい座も黙ってはいません。
へびつかい座はへびつかい座で、「自分の価値観」をひかるさんたちにぶつけます。確かに、わたしだけのイマジネーションがノットレイダーを生んだとする主張は間違っていません。イマジネーションが歪み得るものであるなら、すべてのイマジネーションを消してしまえば、宇宙は歪むことなく、美しく、完全なままで保たれるでしょう。
へびつかい座の言葉がこれほど重く説得力のあるものになっているのは、これが「経験に基づく事実」だからです。へびつかい座はありもしない妄言を垂れているわけではないため、その言説を軽くあしらうことはできないのです。
そう、だからこそ、プリキュアたちは、全力でへびつかい座の価値観にぶつかっていきます。全身全霊で、これまで経験して得てきたもののすべてを賭けて。
ひかる「そんなの、つまんないじゃん!」
ララ「そうルン。みんな、違うイマジネーションを持ってる。だから…だから、宇宙は楽しいルン!」
ユニ「それがあるから、苦しむこともあるニャン!」
えれな「でも、だから、分かり合えたときの笑顔が輝く!」
まどか「イマジネーションがあるから、わたくしたちは、未来を想像できるんです!」
たとえば、みんなと出会うまでのララは、「単一の価値観」であるAIの指示に従って生活しており、その価値観に反する考え方には否定的でした(3話のひかるさんとの喧嘩など)。そんなララは、48話をかけて、みんなの「価値観の違い」を楽しむようになりました。
たとえば、ユニはアイワーンちゃんの歪んだイマジネーションの力によって、故郷である惑星レインボーを滅ぼされました。イマジネーションがあるから苦しむこともあるというのは、ユニが身をもって経験していることです。
たとえば、えれなさんは各々のイマジネーションが異なるために、テンジョウさんとはなかなか分かり合えず苦慮していました。えれなさんは「分かり合うことのも難しさ」を体験しながらも、難しいこともあるからこそ、実際に分かり合えたときの喜びが格別なものになるのだと主張しています。
たとえば、みんなと出会う前のまどかさんは、何でもお父様・冬貴さんの言う通りに行動してきました。しかし、数々の経験を重ねていく中で、冬貴さん以外の価値観をたくさん吸収していき、最終的には「留学するかどうかは自分で決める」=「自分の未来は自分で決める」のだと宣言しました。
5人は、様々な人たちの価値観を知っていく中で、自分自身のイマジネーションを育ててきました。また、5人のイマジネーションがそれぞれ違ったものであることは、それぞれのイメージカラーとシンボルが異なることからもうかがえますが、そんな5人に共通していることがひとつあります。次のカットをご覧ください。
そして、プリキュアは「前」を見る
そう、彼女たちはみな、「前を向いている」のです。
フワという「大切なもの」を奪われたひかるさんたちは、それでもなお、フワを失う原因にもなったへびつかい座を真っすぐ見据え、微笑みすら浮かべています。ひかるさんたちは、「へびつかい座を倒したい」という「後ろ向き」な気持ちではなく、「フワの想いを守りたい」という「前向き」な気持ちでへびつかい座と向き合っていることが、ここでも表現されています。
そして、ひかるさんは言います。
ひかる「わたしは知りたい。あなたの、イマジネーションも」
へびつかい座「何を…戯言を! 消え失せろ!」
それは、へびつかい座が「認められた」瞬間でもありました。
12星座のプリンセスたちと価値観が合わなかったへびつかい座は、12星座のプリンセスたちと決別し、たったひとりで闇に潜んで力を蓄え続けていました。自らのイマジネーションを認められなかったノットレイダーたちとへびつかい座の境遇は、どこまでも似ています。
ここで、先ほどのへびつかい座の台詞を思い返していただきたいのです。
へびつかい座「お前達のイマジネーションは、所詮プリンセスたちの借り物。そんなものでは――我には勝てぬ!」
要するに、へびつかい座はプリキュアたちのイマジネーションでは、自分のイマジネーションに勝てはしないと言っているわけです。しかし、ひかるさんたちはそうではありません。へびつかい座のイマジネーションよりも自分達のイマジネーションの方が優れていると主張しているわけではなく、それぞれが素敵なイマジネーションを持っているというスタンスです。だからこそ、ひかるさんはへびつかい座に対して「知りたい」と言っているのです。
ここからは圧巻のクライマックスなのですが、記事が長くなってきたので、いったん区切ります。
後編の記事は書き終え次第、アップしたいと思います。何とか次の放送に間に合うようにしたいとは思うのですが、いかんせん感情が爆発しすぎて…。
→書きました
スタプリ47話の考察です。彼らの名は「NOT-RAIDER」
へびつかい座と旧約聖書の関係について考察した記事です。恐れ多くも、駒澤大学落合和明教授の論文『創世記における「命の木」と「善悪を知る木」』より引用させていただいています。
<宣伝コーナー>
スタプリの映画は2020年2月19日発売予定です。私は3回映画館に観に行きましたが、本当に何度見ても良くて、大好きな映画です。