金色の昼下がり

プリキュアについて割と全力で考察するブログ

【スタプリSS】『天宮えれなの一般論』※えれまどの二次創作

 両片思いをしつづけてたえれな(30)とまどか(30)が、十五年ぶりの再会を果たした五人での女子会の後でトゥインクルイマジネーションする話です。

 

※スタプリ感謝祭の朗読劇がモチーフですが、実際の朗読劇とは異なる内容・展開です。

 

(大人えれまど/百合/コメディ/5000字程度)

 

 

『天宮えれなの一般論』

 


「外国語を覚えるには、その国の言葉を話す恋人をつくればいいんだよ~!」


 一般論だよ、一般論。あたしは誤魔化すように付け加えるけど、こんなふうに意味深なことを言えばまどかだってきっと気になるはず。実際、ちらっと表情をうかがうとまどかは確かに驚いたような顔をしていた。


 よしよし。狙い通り。


 十五年ぶりに五人で再開した夜、あたしたちは中野の居酒屋で女子会をしていた。ララやユニとお酒を飲める日が来ればいいなってずっと思ってたから、それが叶って本当に嬉しい。さすがに十五年も経てばみんな雰囲気は変わっているけど、中身はそれほど変わってない。昨日まで会っていた友達とまた今日も遊んでる。気持ちとしてはそんな感じ。


 とはいえ十五年前と変わっていることもある。
 ひかるとララの距離感だ。
 この二人、ずっとイチャイチャしてる。


 中学生のときもそうだったけど、今年で二十九になる二人の関係は完全に“大人のもの”になっている。ちょっと観察してたらすぐ分かる。それはきっとまどかやユニにとっても同じ。


 いやだって机の下で手を握ったりする? 女子会の席で? しかもララの目線はずっとひかるに向けられてるし。ひかるは全体を見回してるけど、小まめに「大丈夫?」「酔ってない?」「ほら、お水だよ」ってララのお世話をしている。これで気付くなという方が無理な話だ。


 ただみんな気付いてるけど無理に二人から話を聞き出そうとはしないし、あたしも二人から直接話を聞くまでは触れないようにしようと思った。二人の都合のいいときに聞かせてもらえれば、それで十分だから。


 ……って、思ってたけど。


 イチャイチャする二人を見ていると、どうしても自分とまどかのことを考えてしまう。
 この十五年間で、あたしたちの関係はまったく進展がなかった。
 もちろん友達としてはいろいろ深い話をしたりもしたけど、お互いに忙しかったし、あたしも留学で遠くに行っちゃってたから、なかなか付き合おうだとかそういうことを言い出すことができなくて、気が付いたらズルズルここまで来てしまった。


 あたしたち、けっこういい感じだったと思うんだけどな……。


 もしかしてそう思ってるのはあたしだけ? まどかはもう、あたしのことなんて何とも思ってなかったりする?
 ぐるぐると思考を回していても当然答えなんて見つかるはずもなくて、まどかに話しかけられても仮面みたいな笑顔を張り付けることしかできない。


 こうなったら、確かめてみよう。
 心に決めたあたしが考えた末に行ったのが、『経験豊富なえれなさん』を演じることだった。
 もしまどかがいまもあたしのことを想ってくれているなら、この発言で揺らぐはず!


 昔はみんなから太陽だなんて言われてたし、プリキュアだってやってたけど、なんてことない、三十になったあたしはただの恋愛に臆病な大人だ。想い人の心が知りたくて、でも経験がないからどうしたらいいのか分からない。初恋をこじらせた可哀そうな大人。心を通じ合わせて恋人同士になってるひかるとララの方が、ずっとちゃんとしている。


 で、言ってみたのはいいけど、ちょっと驚いてたかな……? くらいの反応しかなくて、けっきょく何も新しい情報は得られい。その後も何度か同じように「その国の恋人をつくればいいんだよ~!」と言ってみたけど、だんだん適当に流される始末。


 あ~~も~~! 分かんないって~~~~!
 モヤモヤしながらホッケをつついてると、話の流れでまどかの縁談の話になった。


「お父さまから、お見合いの相手を紹介されまして……」


 いやいや!? え!? 何それ!? 知らない知らない!
 このときのあたしの狼狽っぷりったらなかったと思う。
 でもまどかの話を聞いていくと、どうやらお見合いの話は断ったらしい。ほっと胸を撫でおろす。しかもまどかのパパに返したという言葉が、十五年前と同じ「わたくしは自分で自分の未来を決めます!」だっていうからもう拍手喝采万々歳。いいねえ! さすがまどか!


 ただけっきょくこの女子会で分かったのはひとつだけ。いまのまどかに恋人がいないってこと。それだけ。


 まどかはあたしのことをどう想ってるんだろう。本当に分からない。十五のときには散々まどかと想いを重ねてトゥインクルイマジネーションしてたのに、三十のあたしはまどかとトゥインクルできずにイマジネーションを歪ませるばかり。それに通訳としての仕事は日々成長するAI技術に取って代わられようとしている。あーもう世知辛い。泣けてくる。テキーラ飲みたい。


 女子会がお開きになったあとは二軒目の話にもなったけど、終電が近いのでこれから二軒目に行けば朝までコースかタクシー帰りコースの二択だ。けっきょくユニが「今日は疲れも溜まってるからもう寝るニャン」と言ったので、五人での女子会はお開きになった。


 ユニ、自由気ままなところは変わらないなあ……って思ったけど、ひかるに「ほら、とっととホテルにでも行きなさいよ」って耳打ちしてるところを聞いて、ユニなりの気遣いなんだなって思い直す。


 ひかるとララが雑踏の向こう側に消えていくのを見届けて、まどかが店に忘れ物をしたと言って戻っているあいだ、あたしはユニに、

「どうする? せっかくだし三人で二軒目行く?」


 って提案してみる。
 するとユニは呆れたように息をついて、


「……だからわたしはもう寝たいの」
「でもそれ、ひかるとララを二人にさせてあげる口実でしょ?」
「人の恋路を邪魔する趣味はないから」
「だったら、あたしたちで……」
「だから、人の恋路を邪魔する趣味はないって言ってるでしょ?」


 意味深に笑って見せると、「じゃ、またいい報告待ってるニャン」と言ってユニはすたすた歩き去ってしまった。チャオって言う暇もない。遠ざかっていくユニの背中を見届ける。


「…………」


 どうやらユニにはバレバレのようだ。普段は自由気ままに好き勝手やってるように見えるけど、そういうところはよく見ている。


「えれな?」
「うえぇっ!? あっ、ま、まどか……」
「ユニはどうしたんですか?」
「ゆ、ユニはもう眠いって言って、帰っちゃってさ……! 」


 あら、とまどかはちょっと残念そうな顔をする。


「ユニの好きそうなウォッカのおいしい店を知っているので、案内しようと思ったのですけど……」


 お嬢様だったまどかがこんなお酒好きになっているなんて、十五年前の自分に言ったら信じてくれるかな?
 うーん、どうだろう。でも『十五年経ってもまだ付き合ってないよ』って伝えるよりは信じてくれそうな気がする。


「どうかしましたか?」
「う、ううん! 何でも」


 まどかの顔をきょとんとしているまどかの顔を見る。アルコールで赤らんだ頬。三十には見えないつやつやな肌と上品な夜メイク。ピシッとしたスーツで決めるところは決めているけど、力を抜くときは抜く、そんなメリハリのある大人の女性。そしてあたしの大好きな人。
 まどかは昔『観星中の月』だなんて呼ばれていたけど、その通りだと思う。月は見る人の心を惑わす魔性の存在だって、一部の国ではそう言われている。


 肌を刺すようなビル風が吹く。あたしは寒さに体を縮みこませながら、これからどうしようかと考える。ちょっとホテルで休憩する? いきなり? 行ったこともないのに? 心が持ちそうにない。じゃあとりあえず二軒目に行く? うん、それが自然な気がする。


「ね、ねえ」
「あ、あの」


 口を開いたのは同時だった。
 お互いに顔を見合わせて、くすくす笑う。


「ごめんね、先に言ってよ」
「いえいえ。えれなの方が先に言ってください」
「えー! いいっていいって! まどかからで!」
「いえいえ、いえいえ! えれなからで!」


 なんて、コントみたいなやり取りをしながら、あたしは呼吸を整える。


「えっと……もうちょっと、二人で飲まない? って、誘おうと思っただけ。終電は過ぎちゃうけど……」


 頬を指で掻きながら言う。ただ飲みに誘っているだけなのに、心臓はバクバク。テキーラ飲みすぎちゃったかな、って思う。


「そ、そのことなんですが……」


 まどかはおずおずと言い出す。
 えっ? まさか断られる? 明日は仕事が早いのでとか言うやつ? 公務員は忙しいのでとか言われるやつ!?
 戦々恐々としていると、まどかはこう続けた。


「……わたくしの家で、飲み直しませんか?」
「…………え?」


 ポカンとしていると、まどかは手をわたわた動かしながら言う。


「あ、家っていうのは実家じゃなくて独り暮らししてるマンションのことですよ……? 実家に来てもらってあいさつというのもいいですけどそれは深夜ではなくまた別の機会にということで……」


 まどかは早口で何かを言っていたけど、正直あまり聞いていなかった。


「……行って、いいの?」
「もちろんです!」


 まどかはびっくりするくらい大きな声でうなずいてから、はっとなって自分の口を押さえる。少し音量を下げて、


「来てくれますか……?」
「い、行きます!」


 あたしは即答した。人のことを言えないくらい、バカみたいに大きな声で。
 傍から見れば、酔っ払ってテンションの上がった女二人が騒いでるように見えただろう。でもあたしの全身を巡っていたアルコールはすでに蒸発してしまっていて、少なくとも頭を巡る血は冷静なものだった。


「ふふっ。何で敬語なんですか?」
「や……何でだろ」


 ははは、と笑って誤魔化す。


「家までそんなに遠くはありません。近くにコンビニもありますので、そこでお酒とおつまみを買いましょう」
「いいねえ!」


 あたしは嬉しくなって、のこのことまどかについていく。和気あいあいと雑談をしながら駅に向かう。改札をくぐったとき、残っている電車はあと二本だったので、そのままのんびりエスカレーターを上がっていく。
 駅のホームについたとき、あたしは胸を高鳴らせていた。


 まどかと二人で宅飲み。うわ~、楽しみだな~。


 内心で無邪気に喜びながら、いや、ちょっと待てよと自分の頬を叩く。
 あたし、ぜんぶまどかにエスコートさせて、子どもみたいにはしゃいでない? こんな状態でまどかの家に行ったらダメじゃない?


 心臓がバクバクする。たぶん、このままじゃまた伝えられずに終わっちゃう。
 そう思って、あたしは意を決して口を開いた。
 十五年間、ずっと描き続けてきた想いを伝えるために。
 いい加減、次のステップに進むために。
 その上で、まどかの家に行くために。


「あ、あのさ……」
「?」
「あたしさ、ずっと言いたくて、言えなかったんだけど……まどかのこと」


 決死の言葉は、ぷおぉん、ががががが、っていう騒音にかき消される。電車の音だ。タイミングが悪すぎて笑えてくる。


 ぷしゅっと空気の抜けるような音。電車のドアが開く。生温い空気の塊といっしょに何人かが出てくる。まどかも前を向いて電車に乗ろうとする。あたしは立ち尽くしている。発車のベルが鳴る。まどかがあたしに何か言う。早く乗らないと離れ離れになってしまう。なのに足が動かない。ほら早く。車掌が放送で何かを言っている。これ以上電車は待たない。待ってくれない。ドアが閉まる。閉まる。閉ま――


「――まどか!!」


 あたしはまどかの手を引いて、ホームに引き戻していた。
 電車のドアは閉まってそのまま動き出す。そしてすぐに見えなくなる。


「ど、どうしたのですか……?」


 まどかは困惑している。無理もない。乗るはずだった電車から、腕を引っ張って下ろされたんだ。そりゃあそうなる。
 でも、ここで言わなきゃもうダメだって思ったんだ。
 あたしは何度か深呼吸して、まどかの目を見つめる。


「まどかに、どうしても伝えたいことがあって」


 十五年間温め続けていた想いを、あたしはまどかにぶつけていく。
 あたしが話しているあいだ、まどかは口を挟まずにただじっと真剣な表情で耳を傾けていた。目に見える反応がほとんどないせいで、まどかが何を考えているのかを推し量ることはできない。たっぷり時間をかけてすべての想いを伝えたあとも同じ。


 でも別にそれでいい。分からなくていい。
 分からないから、あたしは伝えて。
 分からないから、あたしは訊くんだ。


「――まどかの想いを、訊かせてもらってもいい?」


 まどかは呼吸を置いて、おもむろに口を開く。
 でもその言葉は再びやってきた電車の音にかき消されて、あたしの耳に届かない。
 ほんと、タイミングが悪すぎるな~って笑えてくる。まるですれ違ってばかりのあたしたちみたいだ。
 苦笑して、ひとまず電車に乗ろうとしたとき。

 不意にまどかが返事をした。


「――――」


 発車のベルがけたたましく鳴り響く中でのこと。
 うるさすぎて声なんて聞こえるはずもない。でもその想いはあたしにしっかり届く。
 なぜならそれは、言葉による返事ではなかったから。
 ドアが閉まって、電車が過ぎ去っていく。
 ホームに残っているのはあたしとまどかの二人だけ。他には誰もいない。
 呆然と立ち尽くしていると、まどかはあたしの顔からゆっくり離れていく。
 そして電光掲示版をちらっと見て言った。


「終電、なくなっちゃいましたね」


 その顔に、恥じらいと期待を含んだ微笑みを浮かべながら。

 


 終わり

 

 

えれまどの雑感

 9/8。えれなさんの誕生日なのでえれなさんが幸せになる話を書いてみました。

 

 えれまど、いいですよね。

 好きなCPなんですが、えれまどなのかまどえれなのかいまだに分かりません。妄想しているとどっちもありだなって結論には至るんですけど…。

 

 もし感謝祭の朗読劇を見たことない方がいらっしゃったらぜひDVD・Blu-rayをチェックしてみてください。想像の100倍くらい「ものすごい」ものがあなたを待っています。

 

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