金色の昼下がり

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【スタプリSS・小説】香久矢冬貴は満月を見つける ※まどかパパの二次創作

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 バレンタインということで(?)、私の愛してやまないまどかパパ・冬貴さんの二次創作を書いてみました。以下のツイートより着想を得ています。(自給自足とも言う)

 

 

 まどかパパが国家公務員を退職して、総理大臣を目指すことになる経緯を書いた二次創作です。

 (まどかパパ/1500字程度)

 

※トップ画像はPatricia Alexandre氏によるPixabayからの画像です(フリー画像)

 

 

香久矢冬貴は満月を見つける 


 香久矢冬貴は、四度、上司の命令に背いたことがある。
 一度目は政府高官の娘との見合いを頼まれた時だ。彼は「思い人がいる」と言い、辞退した。二度目はまどかが生まれた時だ。当時の部長からサシで飲もうという申し出を断り、彼は病院に走った。


「もう出世はないぞ」
 周囲からは口々にそう言われたが、彼はあまりにも仕事が出来ずぎた。前例のない速さで昇進していき、気が付けば将来は中央のトップに立つ男だと評されるようになっていた。彼自身も、その未来を固く信じていた。
 あの日までは。


 妻が倒れた。もともと体が強いわけではなかった。彼は看護のために仕事を休みがちになった。上司からはこの大事なときに仕事を休むのかと止められたが、彼はあくまでも家族を守ることを選んだ。これが三度目だ。
 数週間の闘病生活を終え、妻は快復することができた。
 幸か不幸か、まどかはその数週間のことをもう覚えていない。その頃のまどかは、まだ幼すぎたのだ。


 仕事に復帰した彼は、まず、昇進の話がなかったことになったと聞かされた。
「仕事にすべてを捧げられないなら、中央には向いていない」
 彼は反論もせず、静かにうなずいた。


 それから歳月が過ぎ、宇宙人騒ぎの中でもう一度中央に返り咲けるかもしれないチャンスを逃した彼は、もうこれまでだと全てを諦めようとした。
 その時だ。
 娘の瞳に奥に、昔の自分を見つけたのは。


「留学はどうする!」
「それも、どうするべきなのか、自分で、考えます」


 その目に灯る固い決意は、かつての自分が抱いていたものと同じだった。妻を選び、まどかが生まれる瞬間に立ち合うことを選び、そして、家族を選んだ自分と同一のものだった。


 まどかが立ち去り、妻が自室に戻った後で、彼はひとり夜空を見上げた。雲ひとつかかっていない満月は、闇夜を明るく照らしていた。
 彼は、胸の奥から何かが込み上げてくるのを感じた。忘れていたわけではない。いい歳をした大人が何を夢見ているんだと、ずっと自分に言い聞かせていたのだ。それは、胸の奥に閉じ込めていたある想いだった。


 数か月後、彼は妻とまどかに話をした。
 決意が固まってからすぐのことだ。隠すつもりはなかった。香久矢の家に秘密はない。まどかは呆気に取られていたが、妻は特に驚くこともなく、微笑みを浮かべながらこう言った。「選挙の準備をしなくちゃね」。


 彼は職場に退職届を提出した。
 上司からは強い口調で引き留められた。何を考えているんだと叱咤された。だが、彼の意思は変わらなかった。上司の命令に背いたのは、これで四度目になる。


 その日の夜は満月だった。彼は確かに覚えている。妻にプロポーズをしたあの夜も、まどかが生まれたあの夜も、そして、家族を選んだあの夜も、空には同じように美しい満月が浮かんでいたことを。
 彼は足を止めると、月を見上げながらつぶやいた。
 これでいい。これが私の選んだ未来だ。


 そして、彼はその一歩を踏み出した。

 

 了

 

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