金色の昼下がり

プリキュアについて割と全力で考察するブログ

【スタプリSS】『わたしの描いた、星奈ひかる』※ひかララの二次創作

 ひかるの顔が思い出せなくなってしまった大人ララの話です。

 元ネタはTwitterのフォロワさんのひかララ漫画です。

 辛い話ですので苦手な方はご注意ください。

 

(ひかララ/シリアス/2000字程度)

 

 

 

『わたしの描いた、星奈ひかる』

 保存していたはずのひかるの写真が消えてしまっていることに気付いたのは、ひかると別れてすぐのことだ。AIによると、蛇遣い座のプリンセスとの戦いで何らかの負荷がかかりデータが損傷してしまったのかもしれないとのことだけど、詳しい原因は分からずじまい。だけど当時のわたしはそれほどショックを受けていなかった。だって、ひかるとの思い出はデータで保存されてなくたって、心の中にちゃんと残ってるって思っていたから。


 その証拠に、わたしは記憶だけを頼りにしてひかるの似顔絵を描くことができた。わたしは毎年ひかるの誕生日が近付くと、ひかるの絵を描いてお祝いをしていた。地球の『えすえぬえす』というところでは、誕生日のお祝いにイラストを描いたりする文化があるって聞いたことがあったので、その真似だ。


「……よし、今年も描くルン」


 伸ばしていた髪も記憶の中のひかるより長くなったころになっても、その習慣は続いていた。あと数時間もすればひかるの誕生日になる。もうちょっと前から準備したかったけれど、泊まり込みの出張が重なったせいで描くのがギリギリになってしまった。わたしはペンを仮想ディスプレイに近付けて、さっそくひかるを描こうとする。ひかるのシンボルといえばやっぱりひょこんと飛び出たアホ毛とツインテール。胸にはスターカラーペンダントをつけさせてみた。


「うんうん、いい感じルン」


 ささっと輪郭を描いて、あとは顔を描き込むだけになる。
 どんな表情がいいだろう? やっぱり笑っている顔がいい。ひかるは笑顔が似合うし、わたしはひかるの笑顔が大好きだ。
 そう思って、笑っているひかるの顔を描き込もうとしたとき。


「……ル、ルン?」


 手が、止まった。


「…………あれ、わたし、どうしたルン?」


 持っているペンがぷるぷる震えて、うまく描けない。もしかして筋肉痛になっているのだろうか? 最近は仕事も忙しかったし、疲れも溜まっているのかもしれない。わたしは手をゆっくり開いて閉じて、画面に向き直る。そして改めてペンを入れていくけど、線はぐにゃぐにゃのかたまりを描くだけ。


「…………も、もしかして、画面が故障しちゃってるルン?」


 そうだ。問題はわたしではなくて、ツールの方にあるんだ。そう思ってAIにバグの確認をしてもらうけど、AIの回答は特に問題ありませんの一言。
 わたしは改めて描きかけのひかるの絵に視線を落とす。あとは表情を描くだけ。わたしの大好きなひかるの笑顔を描けば、それで完成する。
 はず、なのに。


「…………そ、そんなはずないルン」


 わたしは無理やりにペンを走らせて目を描く。ほら、描こうと思えばこの通り。そのまま鼻や口も描いていく。だけどボタンを掛け違えたような気持ち悪さはいくら描いても消えることはなくて、むしろどんどん大きくなっていく。途中で我慢できなくなって、わたしはその顔をいったんデリートする。そして改めて描き直そうとするけれど、今度はもう、ペンを動かすこともできない。それでも何とか描こうと繰り返していると、タッチしたときにできる点だけが染みのように残る。


「ララ様、大丈夫ですか」
「……大丈夫ルン。何も問題ないルン」
「ですが、顔色が……」
「何でもないって言ってるルン! 集中してるから静かにしててルン!」
「……申し訳ありませんでした」


 ぷつ、とAIの音声が消える。分かっている。いまのはただの八つ当たりだ。あとでちゃんと謝らなければならない。でもいまのわたしには、その余裕がない。


「だって……だって……」


 鼻の奥がツンとする。声が勝手に震えてくる。


「ひかるは、わたしの、大切な、大好きな…………」


 言葉は尻切れになって最後まで続けることができず、ついにペンも置いてしまう。
 何が大切だ。何が大好きだ。
 その顔も、もうはっきり思い出せなくなっているのに。


 ひかるに会いたいと願うこの気持ちは、どこまでホントウだと言えるんだろう。確かに別れるときにはまた会いたいと強く願った。だけど十年以上の歳月を経て、そのときの気持ちが少しも欠けることなく続いていると、自信を持って言うことができない。


「ひかる……」


 だからそれは、願うためではなく、確かめるためのつぶやきだったのかもしれない。


「わたし、ひかるに、会いたいルン……」


 目からこぼれた雫が、描きかけのひかるを映し出している仮想ディスプレイを通り抜けて床に落ちる。
 程なくして、地球時間で四月十二日になったことを知らせる無機質なアラームが鳴った。


 終わり

 

雑感とお礼

 Twitterのフォロワさんでアイデアや発想力がものすごく好きな方がいて、いつもスタプリの漫画や小説を楽しませてもらっています。つい数時間前に、その方の上げられたひかララ漫画があまりにもドストライクで好きすぎて、それを元に勝手ながら書かせていただきました。(不都合があれば消します!)

 

 ひかララ書いたのは久しぶりなのに暗い話ですみません。ちなみにいまはひかるのことが大好きだけど結ばれることのない大人ひかまどの話を書いてる途中で、4万字を越えてます。11月23日(まどかさんの誕生日)には完成させたいと思ってますが難航中です。何でこんな闇スタプリばっかり書いてるんでしょう。自分が分かりません。でもスタプリは光も闇もおいしい…。

 

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