トウガラシがなぜ赤くて辛いのか、皆さんは考えたことがありますか?
この記事は、稲垣栄洋 著『たたかう植物──仁義なき生存戦略』の感想・レビューです。本書の内容に軽く触れながら、本書の魅力を紹介しています。
植物たちの仁義なき戦い
植物といえば、「優しいイメージ」「のほほんとしたイメージ」があるかもしれませんが、彼らの置かれている環境は激烈であり苛烈です。
植物は動くことができません。
そして、とにかく敵が多い。
虫、鳥、ほ乳類、病原菌、ウイルス、そして他の植物…と挙げていけばキリがありません。 動くこともままならない状態で、大量かつ多種多様な敵を相手にしなければならないのです。
まさに無理ゲーです。
しかし、その無茶苦茶で熾烈なゲームを、植物たちは鮮やかに、そしてしたたかに戦い抜くのです。
本書は、そうした植物たちのしたたかな生存戦略を、「雑草学」の専門家である稲垣栄洋先生が熱く熱く語ったものです。
トウガラシが赤い理由
ぬくぬくとした環境で生きる私たち人間はともすれば忘れてしまいがちですが、生物というのは基本的に「無駄」を嫌います。無駄なものにエネルギーを消費している生物は、たちまち絶滅の一途をたどることになるからです。
逆にいうと、生物がその姿をしているのには、何かしらの理由がある、ということが多いです。今回の話でいうと、「トウガラシが赤い」のにも、れっきとした意味があります。
植物が赤くのなる理由の1つは、「食べごろだよ」というサインです。自ら目立つことで、アピールをしているわけです。
そして、トウガラシが食べて欲しい相手は「鳥類」です。
なぜなら、鳥類は種子をそのまま丸のみし、遠く離れたところに糞と一緒にまいてくれるからです。
つまり、トウガラシは果実を赤くすることで、鳥類に見つけてもらいやすくしているわけです。
トウガラシは鳥類に「果実」という栄養を与え、鳥類はその引き換えにトウガラシの「種子」を遠くの地域でばらまく…そんなギブアンドテイクが両者のあいだでは行われているのです。
トウガラシの食べてもらいたくない相手?
前述したとおり、トウガラシの食べてもらいたい相手は鳥類です。
では、逆にトウガラシにとって、「食べてもらいたくない相手」は誰なのでしょうか?
それは、ほ乳類です。
ほ乳類は鳥類ほど行動範囲が広くありません。
それだけではなく、消化能力も高いため、トウガラシがせっかくつくった種子を消化してしまいます。
つまり、ほ乳類に食べられてもいいことがまるでないのです。
もしほ乳類にばかり食べられていたら、トウガラシは存在し続けることができず、やがて絶滅してしまうでしょう。
そういう側面もあり、トウガラシは「赤く」なりました。
どういうことかというと、実は、霊長類を除くほ乳類にとって、赤色というのは認識しづらい色なのです。というのも、霊長類以外のほ乳類は、基本的に赤色を認識する能力を持っていないからです。
食べて欲しくないほ乳類にとっては見つけづらく、食べて欲しい鳥類にとっては見つけやすい色、それが赤色です。トウガラシがわざわざ自分を赤くしているのは、こういった理由があるのです。
トウガラシが辛いのはなぜ?
トウガラシが辛いのにも、理由があります。
多くの植物は、大なり小なり何かしらの「毒」を持っています。
たとえば、ネギの辛味成分(アリルプロピルジスルファイド)は猫にとっては致命的な毒になりますが、私たち人間は生来的にその毒に対応できる能力を持っているため、ネギを食べても「おいしい」もしくは「辛い」と思うだけで済みます。
植物は食べられたくないので毒を持つために進化を繰り返し、植物を食べる動物も何とか植物を食べようと進化を繰り返し、毒を分解する能力を得ている…そんな鬼ごっこがずっと昔から、そしてこれからもずっと続いていくわけですが、この鬼ごっこの勝者は、実は最初から決まっています。
それは、虫です。
植物VS虫
虫は世代交代のサイクルが非常に短く、動物や植物と比べると比較にならないスピードで「死」と「生」を繰り返します。
その結果、何が起こるかというと、虫は植物よりも早いペースで突然変異を起こします。
突然変異を引き起こすことで、植物の毒に対抗できる個体を生んでいくわけです。植物もそれに負けじと突然変異を起こし、さらに強力な毒を作るかもしれませんが、虫の方が世代交代のサイクルは圧倒的に短いため、それは徒労に終わってしまいます。
しかも、植物の作る「毒」は、非常にエネルギーを使うものです。
毒にばかりエネルギーを使っていると、自分自身の成長のために使えるエネルギーがなくなってしまいます。そうなると、他の植物との生存競争に敗北してしまい、やはり絶滅してしまうわけです。敵は虫だけではないのです。
つまり、「食べられたくないなら毒を強くすればいい」という考えでは、厳しい自然界をサバイブすることはできないのです。
植物VSほ乳類
虫との戦いに毒をもって制することを諦めた植物、ではほ乳類に対してはどうでしょう?
植物がほ乳類を撃退するレベルの毒を作るのは大変です。なぜなら、体の大きなほ乳類を倒せるほどの毒を作るには、非常に大きなエネルギーを必要とするからです。
できれば毒に費やすエネルギーを減らして節約したい。
そこで、トウガラシは考えました。
そうだ、ちょっと弱い毒を作ろう。
トウガラシが作ったのは「ちょっと弱い毒」、すなわち、あの「ピリッ」とした辛さです。多くのほ乳類は、トウガラシの「辛い」果実をわざわざ好んで食べようとはしなくなりました。別に死ぬわけではないけど、刺激は強いし、おいしくないからです。
ちなみに、鳥類はあの「ピリッ」とした辛味を感じることがなく、毒にも刺激にもなりません。
こうしてトウガラシは、限られたエネルギーを効率的に使い、鳥類には「見つけやすい果実」を、ほ乳類には「見つけにくくて食べると刺激のある果実」を作り上げたわけです。めでたしめでたし。
まとめ
…ここまで読んで、いやいや、とお思いの方もいるでしょう。
そう、あなたのことです。
辛いものが好きな、あなた。
トウガラシの生存戦略は、残念ながら人類には通用しませんでした。人類を含む霊長類には赤色を鮮やかに認識する能力を持っています。それだけではなく、人類はトウガラシが懸命に考え作り上げたとっておきの「毒」を、「刺激的だけど、そこがおいしい」などといいながら食べるわけです。
トウガラシも人間には勝てなかったか…。
と、思うかもしれませんが、そうとも限りません。
おいしさを見出されたトウガラシは、人間の手によって栽培されます。
水やりされ、害虫駆除を、病原菌対策をされるわけです。
育ちやすいように手厚く世話をされ、種の繁栄と存続を約束されたトウガラシ。
トウガラシが敗者だなんて、誰がいえるでしょう?
この記事ではトウガラシのことについて語りましたが、本書の内容のごく一部でしかありません。
本書ではもっとたくさんの「植物の見事な戦いっぷり」が披露されています。植物の毒を利用する虫の話や、逆に虫を利用する植物の話など、まだまだ面白い話がいっぱいありますので、気になった方はぜひ読んでみてください。
おかげさまで、私はとても楽しい時間を過ごせました。
宇宙はなぜ「暗い」の? という疑問に答える本です。どう見てもスタプリの影響で読んだものです。本当にありがとうございました。
大昔に書いた地獄のような書評です。私のなかでは完全に黒歴史ですが、何を血迷ったのでしょう、気付いたら記事になっていました。何で昔に書いた文章ってこんなに「痛い」んでしょうね…。
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