少し前にスター☆トゥインクルプリキュア(ユニアイ)関連でこんな妄想ツイートをしました。
「体を洗ったら浴槽に入るっつーの」
— 金色 (@konjikinohiru) August 5, 2019
「え...嫌ニャン...」
「プププ、怖いのかっつーの?」
「ち、違うニャン!怖いとかじゃなくて、溺れる危険があるし、そもそもわたしには必要ないの!」
「ああもう面倒くさいっつーの...ほら」
アイワーンが手を差し出す
「掴まれっつーの」#ユニアイ
いろいろ試行錯誤していたところ、気が付いたらユニアイの二次創作ができていました。
正気を失いながら書いたので、正気を失っているうちに公開します。
和解後のユニとアイワーンが、一緒に温泉に入る話です。
全年齢向けのゆるい百合(?)コメディです。
(ユニアイ/全年齢/ゆるい百合(?)コメディ/8000字程度)
『正しい温泉の入り方』
「――ちょっとこれ、冷たいわよ!」
「すぐ温かくなるから我慢しろっつーの」
「勢いが強すぎるのよ! 目に入るニャン!」
「目をつぶってろっつーの」
「痛い痛い! ほら! 泡が目に入ったじゃない!」
「だから目をつぶってろっつーの!」
「このままだと失明するニャン! うわっ、苦っ……! 泡が口のなかに入った……! 何なのこれ、毒!? もうお風呂なんて嫌…….!」
「ああもううっさいっつーの! ちょっとくらい入っても大丈夫だっつーの!」
ユニが騒ぎ立てるせいで、なかなか洗身が進まない。
アイワーンはユニの頭をシャワーで流しながら、内心で愚痴る。
――ったく、何でこんなことになったっつーの?
それは、思い返すこと1時間前に遡る。
☆ ☆ ☆
「――ねえ。ところで、お風呂って何なの?」
ロケットの中に入ると、ユニとひかるは何やら風呂の話をしていた。
アイワーンの存在に気付いた二人は、会話を中断させて一斉にこちらを振り向く。少し気まずそうな表情を浮かべているのを見ると、直前までアイワーンの話をしていたのかもしれない。内容は分からないが、どうにしたっていい気はしない。
「お、おはよー!」
取り繕うようにひかるが声かけるが、ユニは意味深な視線をアイワーンに向けるだけで、会釈すらしようとしない。
アイワーンは苛立ちを感じつつ、無言で椅子に座る。
「今ね、ユニとお風呂の話をしててね……」
「興味ないっつーの」
「……あっ、そうだ! アイワーン、アイスいる?」
ひかるは虹色のアイスを見せながらいう。
「この前見つけたんだけど、このアイスの名前、『レインボーキャット』っていうだって! ユニみたいで、キラやば~じゃない!?」
「いらないっつーの」
「そ、そっか……」
ひかるは寂しそうにいうが、すぐに元の笑顔に戻ってユニに話しかける。
「ねえねえユニ。さっきの話なんだけど、もしかしてレインボー星人は体を洗ったりしないの?」
「そんなことないわよ。元の姿のときはブラッシングを欠かさないし、それにちゃんと毎日体は拭いてるわ」
「拭く……?」
「体拭きタオルでね。あなたもそうでしょ?」
「う、うーん……」
ひかるは曖昧な笑みを浮かべながら、持っていたアイスを一口かじる。
「アイワーンはお風呂、知ってるよね?」
「……あ?」
急に話しかけられたアイワーンは嘆息混じりに答える。
「風呂を知らないのは文化人じゃないっつーの。原始人だっつーの」
「げ、原始人? バカにしてるの?」
ユニは頬を膨らませながらアイワーンのことを睨みつける。
「別に? 原始的な生活をする人間のことを原始人と呼ぶのは普通だっつーの。そもそも、原始人だといわれたことで屈辱を感じるんだとしたら、それこそ原始人に失礼だっつーの」
「あなたはごちゃごちゃと屁理屈を……」
「ま、まあまあ……」
二人の間にひかるが入る。
「宇宙には色んな星があるんでしょ? お風呂の文化のない人たちだっているはずだよ。それに、惑星レインボーでは水って貴重なんだろうし」
「それはそうよ。惑星レインボーでは、水はとても大切にされているわ」
アイワーンは腕を組みながら口を開く。
「あんたがアイドルやってたときに泊まったホテルに、風呂はついてなかったっつーの?」
「だからお風呂って何なのよ」
「ホテルによってはトイレの横についてたり、バスタブはなくてシャワーだけがついてたり……」
「ああ、あれって物置じゃなかったの?」
「…………」
アイワーンが呆れ顔でユニのことを見ていると、ひかるが何かを思いついた様子で、キラキラと目を輝かせながら口を開く。
「そうだ! そしたら、一緒にお風呂に入ってみようよ!」
「お風呂に? わたしが……?」
「そうそう! 一緒に入ると楽しいよ~!」
「楽しいの……?」
ユニは何が何やらわからず、困惑している様子だ。
「いいからいいから! 決めつけはなしだよ!」
「ちょ、ちょっと……」
「ね、アイワーンも一緒に入ろうよ!」
「あ、あたいも……?」
急に声をかけられたアイワーンは、思わず身を引く。
「どうせなら一緒の方が楽しいよ! 近くにいい温泉があるんだ!」
「あたいは別にいいっつーの……っつーか異星人だってバレるし……」
「この時間はいつも人がいなくて貸し切りだから大丈夫だよ! 向かってる途中も、これをつけてれば怪しまれない!」
そういって、ひかるは頭をすっぽり覆う『宇宙人のマスク』を取り出す。
「宇宙人が宇宙人のマスクをつけるなんて、キラやば~!」
「......最悪だっつーの」
「それに観星町の温泉はね、お湯がぬめぬめ~ってしてて、とってもキラやば~なんだよ!」
「ぬ、ぬめぬめニャン……?」
ひかるは食べかけていたアイスをひと呑みすると、困惑するユニと嫌がるアイワーンの手を引き、強引に連れ出した。
「そしたら、いざ温泉へ! レッツゴー!」
☆ ☆ ☆
そういうわけで温泉に来たのだが、着替えている最中、ひかるは急激な腹痛に襲われたといい、トイレにこもってしまった。
優秀な科学者たるアイワーンは、ひかるの腹痛の原因に薄々気付いている。
「あの子、まだ来ないわね……病気じゃなきゃいいけど」
「あれは病気じゃないっつーの」
「分かるの?」
「大方、アイスの一気食いで腹が冷えただけだっつーの」
「ああ……そういえば食べてたわね、アイス……」
「温泉で汗を流しに来たのに、トイレの水を流してるだけじゃ世話がないっつーの」
「上手いこといったつもり?」
と、ようやくユニの体を流し終えたアイワーンは、ほっと一息つく。
「やっと洗えたっつーの」
「ふぅ...これで終わりなのよね?」
ユニも相当疲れたようで、ぐったりした様子で尋ねる。
「いやいや、全然終わりじゃないっつーの」
「えっ……?」
戸惑うユニに、アイワーンはにっと口元を歪ませる。
「むしろ、温泉はこれからが始まりだっつーの」
アイワーンは立ち上がると、ユニを露天風呂に連れて行く。
ひかるのいっていた通り、他に客はいないし、来る気配もない。
人が来たら逃げるかタオルで顔を隠すしかないと思っていたが、何とかそうせずに済みそうだ。
「これが露天風呂。外の空気にあたりながら風呂に入る……一見すると意味不明な文化だけど、実際やってみると結構ハマるっつーの」
アイワーンは一人でずんずん進んでいき、温泉のなかに体を沈める。
「あ~……」
その気持ちよさには自然と声が漏れ、疲れがじんわりと抜けていくような感覚に包まれる。
「研究者は肩と腰がやられがちだから、温泉は最高……って、何してるっつーの?」
ユニは少し離れたところで体を縮みこませている。
「な……何でもないわ……」
「早く来いっつーの」
「い、嫌......」
この期に及んで躊躇しているユニを見て、アイワーンはせせら笑う。
「プッ、もしかして、怖いっつーの?」
「ち、違うニャン! 怖いとかじゃなくて、溺れる危険があるし、そもそもわたしには必要ないの!」
「普通にしてたら溺れたりしないっつーの。待ってらんないから、とっとと来いっつーの」
「で、でもわたしは――」
「ああもう面倒くせぇなぁ……ほら」
アイワーンは手を差し出す。
「掴まれっつーの」
ユニは驚いたようにアイワーンのことを見つめる。
が、それでもなかなか来ないので、アイワーンは苛立ちながら催促する。
「早くしろっつーの……ずっと手を出してるあたいがバカみたいだっつーの」
じっと見られていると、だんだん恥ずかしくなってくる。
「……本当に良いものなのよね、それ」
「知らないっつーの」
「し、知らないって……」
「あたいは好きだけど、あんたがどうだかは知らないっつーの」
そういって、アイワーンはユニのことを見る。
ユニは温泉とアイワーンの手を交互に見ながら、まだ躊躇している様子だ。
いい加減、伸ばしている腕に疲労がたまってくる。
もう無理か、と諦めて手を引っ込めようとしたとき――
アイワーンの手に、柔らかな感触が伝わった。
「…………」
ユニは、恐る恐る――しかし、力強く、アイワーンの手を握った。
「……ゆっくりでいいから、足先から入れていくっつーの」
「……分かったわ」
ユニは慎重に、足の爪先だけを入れていく。
お湯の温もりが伝わったのか、ビクン、と体を震わせる。
「あ、温かいニャン……」
「そりゃそうだっつーの。もし冷たい風呂が良かったら、水風呂ってのがあるっつーの」
「そんなのもあるの?」
大袈裟に驚くユニ。
「ここの水風呂の温度は十五度だっつーの。入りたけりゃ入ってくれば?」
「何が楽しくてそんな冷たい水に入るの……?」
意味が分からないという表情をするので、アイワーンは思わず笑ってしまう。
「な、何がおかしいのよ」
「いや、あんたにこういう事を教えるのは初めてだから、なんか笑えるっつーの」
「教えるのはいつもわたしだったわね。あなた、何も知らないから」
「……お湯に沈めてやるっつーの」
「や、やめて! 本気でやめて!」
普段のアイワーンなら、悪ふざけでユニの腕を引っ張っていただろう。温泉のなかに突き落として、ケヒャハハハと嘲笑していたかもしれない。
しかし、どういうわけか、このときばかりはそういった悪戯心は息を潜めていた。
「……段差があるから、気を付けるっつーの」
「引っ張らないでよ……絶対引っ張らないでよ……」
「振りにしか聞こえないっつーの」
「な、何なのよ、『振り』って?」
「何でもないっつーの」
ユニはまた一歩、反対側の足をゆっくりと入れていく。
怖がりながらも入ってくるユニを見て、アイワーンは「いい調子だっつーの」と声をかける。
ところが、ようやく二段目まで来たとき。
勢いよく露天風呂のドアが開け放たれ、彼女がやって来た。
「――おっ待たせ~! ごめんね二人とも~!」
大きな声で元気いっぱいにいうのは、星奈ひかるだ。
トイレの地獄から抜け出し、ようやくこちらに来られたらしい。
普段ならやかましいなと思うくらいで済むが、今回ばかりはタイミングが悪かった。
「――えっ、あっ……!」
突然のひかるの声に驚いたのか、ユニは盛大に足を滑らせた。
重心を失ったユニの体が、ゆっくりと、少しずつ、傾いていく。
このとき、アイワーンは視界に映るものすべてがスローモーションになっていることに気付いた。
このままいけば、ユニは温泉のなかに頭を突っ込むだろう。
驚きと焦りから、鼻から湯を吸い込むかもしれない。苦しい思いをすることで、温泉のことが嫌いになるかもしれない。もう二度と温泉には行かないといい出すかもしれない。
――どうでもいいっつーの。
心のなかで、アイワーンはつぶやく。
こいつがどうなろうが、あたいには関係ない。温泉が嫌いになろうが、知ったことじゃない。こいつのことなんか、どうだっていい。どうでもいい。
その、はずだった。
「――バケニャーン!」
気が付けば、アイワーン叫んでいた。
動き出した世界で、掴んでいた手を一気に引き寄せる。
ユニの体が、アイワーンのもとに飛び込んだ。
温かくて柔らかな感触に、アイワーンは思わずドキリとする――が、それも束の間。
ユニの重みと衝撃に耐え切れなかったアイワーンは、後ろ向きに倒れていく。そしてユニの下敷きになるようにして、ごぼごぼと温泉の中に沈んだ。
「ぶっ......はっ......げぇっ......!」
「えっ、あっ、アイワーン......!」
ユニは慌てふためきながら、アイワーンの上からどいた。
温泉から顔を出したアイワーンは、涙を浮かべ、ゲホゲホとせき込む。
「ご、ごめん……」
しどろもどろになりながら、ユニは謝る。
その様子を見るに、温泉のなかに頭を突っ込まずには済んだようだ。
「べ……別にいいっつーの……」
「だ、大丈夫……?」
「大したことない……っつーの」
「ほ、ホントに……? 涙が出てるように見えるけど……」
「お湯だっつーの」
むせ込みながら、アイワーンは答える。
するとひかるが慌てながら近づいてきて、ユニとアイワーンに頭を下げた。
「ご、ごめんね! わたしが驚かせちゃったから……」
「……そんなことより、お腹の調子はもう大丈夫っつーの?」
「うん! それはもう治ったんだ!」
「かけ湯はしたっつーの?」
「あっ! まだだった!」
「……温泉のマナーを守れっつーの」
はーい、といってひかるは洗い場の方に戻っていく。
「何であたいがプリキュアにマナーを教えてるんだっつーの……」
ったく、とアイワーンが頭をがりがりかいていると、ユニが愉快そうに笑った。
「ふふっ……」
「な、何がおかしいっつーの?」
「いや……アイワーンって、意外にしっかりしてるんだなって」
「意外は余計だっつーの……。それより、温泉はどうだっつーの?」
「あっ……そういえば……」
ユニは手でお湯をすくい、自分の胸元にかけながらいう。
「なんだか……疲れが取れていくみたい……」
ユニは頬を上気させながら、うっとりと表情を緩ませる。
そんなユニのことをアイワーンはじっと見つめる。
こうして見ると、やはりユニは整った顔立ちをしていると思う。
ぼやっとしていると、不意に目が合った。
ユニは柔らかな笑みを浮かべると、アイワーンに向かっていった。
「嫌いじゃ……ないわ」
アイワーンの心臓が、小さく跳ねる。
視線を縫い付けられたように、ユニから目を離せなくなる。
その目は、かつてアイワーンのもとで働いていた執事のそれを思い起こさせる。
色は違うし、形も違う。
けれど、瞳の奥の輝きは、まったく同じものだった。
「あ、あたいも......」
ごくり、と唾を飲む。
それは、ずっといいたくて、いえなかった言葉だ。
アイワーンは拳にぎゅっと力を込めながら、自分にいい聞かせる。
――何ぐずぐずしてんだっつーの。早くいえっつーの。
しかし、いいたいことは決まっているはずなのに、どうしても言葉として発することができない。その勇気が出ない。
けっきょく何もいえないでいると、ユニの方が先に口を開いた。
「悪くないわね......お風呂って」
「そっちかっつーの!」
「そっち?」
「何でもないっつーの!」
タオルを顔に押し当てる。
アイワーンは猛烈に水風呂に入りたくなった。
「ねえ、アイワーン」
「何だっつーの……」
「さっきは、助けてくれてありがと」
「……何のことか分かんないっつーの」
「科学者って鈍いのね」
「あんたにはいわれたくないっつーの」
「え? どういう意味よ」
「何でもないっつーの」
アイワーンは顔を上げると、一度大きく深呼吸をして、温泉のなかに肩を沈めた。
それを見ていたユニは、真似をするように温泉に浸かる。
穏やかな風が、アイワーンの顔を優しく撫でる。
「何だか信じられないわね。こうしてあなたと温泉に入るなんて」
「それはこっちの台詞だっつーの」
「まあ……全部、あの子のおかげね」
ユニは露天風呂のドアの奥に視線を向ける。
「あの子がいなかったら、あなたと一緒に温泉に来ることもなかった」
「フン……何をいい出すかと思えば」
「だって、そうでしょ?」
「はいはい、そうだっつーの」
アイワーンは大きく息を吐き、濡れた前髪をかき上げる。
「ちょっと、話聞いてる?」
「あんたと違って、人の話はちゃんと聞いてるっつーの」
「わたしだって聞いてるわよ」
「どうだか」
アイワーンは再びため息をつく。
やはり、覚えていないようだ。
昔、アイワーンがまだノットレイダーにいたころ、『執事』をプルルン星の温泉に誘ったことがあった。しかし、せっかく予定まで立てていたのに、約束が果たされることはついになかった。
すべては、『執事』がアイワーンのことを裏切ったせいだ。
あの裏切りさえなければ、温泉なんてずっと前に一緒に行っていたのだ。
「ねえ、アイワーン」
「何だっつーの」
「ひとつ、思ったんだけど、」
ユニはアイワーンの顔をじっと見つめる。
アイワーンは反射的に目をそらしかける――が、ここでそらしたら負けのような気がして、高鳴る心臓を抑えながら睨み返した。
ユニは続ける。
「あなたって、メイクを落とすと、けっこうかわいいのね」
瞬間。
アイワーンの心臓は、大きく飛び跳ねた。
不意討ちだった。
「いっ、いきなり何いうんだっつーの!?」
アイワーンは自分の顔を手で隠す。
「今度、かわいい感じのメイクをしてみたら?」
「うっさいっつーの! 余計なお世話だっつーの!」
「別に、いつものギャルメイクも悪いわけじゃないけど……って、顔赤いけど、大丈夫?」
「のっ、のっ、のぼせただけだっつーの!」
アイワーンはバシャバシャと音を立てながら温泉を上がる。
見ると、ユニは悪戯っぽく笑っている。
「ちょっと、どこ行くのよ?」
「先に出てるっつーの!」
「もしこの後もメイクするつもりなら、そのままにしといてよ。わたしがやってあげるニャン」
「いらないっつーの!」
逃げるようにして、アイワーンはドアの方に駆けていく。途中で何度も滑りそうになりながらも、何とか洗い場のところにまでたどり着く。
「あれ、アイワーン? もう出ちゃうの?」
内湯に入っていたひかるが、ひょっこり顔を出して声をかける。
「もうのぼせたっつーの」
「そっか~。確かに顔赤いもんね」
「赤くないっつーの!」
「な、何で怒ってるの……?」
「何でもないっつーの! っつーか、あんた、何で内湯に……?」
「かけ湯した後すぐ露天風呂に行ったんだけど、二人とも話し込んでたから、邪魔しちゃ悪いかな~って」
「……別に大した話はしてないし、今日はあいつに色々教えてたせいで、癒されるどころか疲れ果てたっつーの」
「色々教えてたんだ?」
「あいつ、何も知らないし水を嫌がるから苦労したっつーの」
「そっか……でも、良かった……」
ひかるは何かを確認するように、辺りを見回す。
「今日聞いたんだけどね。ユニ、昔アイワーンと温泉に行く約束をして行けなかったこと、気にしてたみたいなんだ」
「......えっ?」
「ユニがキュアコスモになる直前のことだったみたいだし、タイミング的には仕方なかったとも思うんだけど、それでもユニはアイワーンとの約束を破ったことを気にかけてたみたいで……あっ。今の話、ユニには秘密だよ!」
人差し指を唇に当てて、ひかるはウィンクする。
ひかるの意図に気づいたアイワーンは、思わず目を見開いた。
「今日、あたいたちを温泉に誘ったのは……」
「わたしが二人と温泉に行きたかっただけだよ。結局、お腹が痛くて一緒には入れなかったけど、でも、二人が一緒に入れたのなら良かった!」
ひかるは微笑みながらいう。
それはどう考えても真実ではなかったが、アイワーンにはもうひとつ気になることがあった。
「......もしかして、あんた、」
いいかけて、アイワーンは口を閉じた。
聞いたところで、またヘラヘラした笑顔で誤魔化されるのがオチだと思ったからだ。
『腹が痛いのも、嘘だったっつーの?』
そんなことを聞いて、何になる?
「そういえば、出る前にシャワーで流さないの?」
ふと、話題を変えるようにひかるが問いかける。
「シャワーを浴びたら温泉の成分が落ちるから、そのまま出るんだっつーの」
「へ~! そうなんだ!」
実際のところどうなのかは知らない。地球にはそのように書かれている文献もあったが、なんせ文明の遅れている地球人の書いたものだ。信憑性は薄い。
しかし、いずれにしても、そんなことはアイワーンにとって些末な問題だった。
シャワーを浴びなかったのは、もっと単純な理由である。
ひかると別れたアイワーンは、そのまま更衣室に向かった。
水滴が垂れないようにざっと体を拭き、小走りでなかに入る。
キョロキョロと周囲を見回し、誰もいないことを確認すると、アイワーンは自分の胸にそっと触れる。
そこにはまだ、あの泥棒猫を受け止めたときの柔らかな感触が残っていた。
「……バケニャーン」
アイワーンはぽつりとつぶやく。
どれくらいの間、そうしていただろう。
顔を上げると、視界の隅に自販機が映った。
それはアイスの自販機だ。ひかるが食べていた虹色のアイスも売っている。あとで買ってみるか、とアイワーンは思った。
着替えを済ませ、髪にバスタオルを巻く。
メイク道具に手を伸ばしたとき、ふとユニの言葉を思い出す。
アイワーンは鏡を見て、少し考えると、その手を引っ込めた。
了
他のスタプリの二次創作
ひかユニ(百合)です。小悪魔チックなひかるさんに遊ばれ続けるユニのお話。
プルユニです。マオたんへの愛が爆発しているだけかと思いきや、ユニへの愛も尋常ではなかったプルンスのお話。
バケアイ/ユニアイです。バケニャーンショックを受け、Twitterで書き倒したものをまとめたものです。
ユニアイ、今回はアイワーンちゃんが顔を赤くする話でしたが、ユニがもっと苛烈にアイワーンちゃんのことをいじめ倒すシチュエーションも好きですし、逆にアイワーンちゃんが魔性の笑みを浮かべながらユニを弄ぶシチュエーションも好きなので、また時間があるときに妄想したいなと思っています。