金色の昼下がり

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【スタプリSS・小説】『四度目の嘘、あるいは』ユニアイの二次創作

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 数日前、スター☆トゥインクルプリキュアの妄想(ユニアイ)でこんなツイートをしました。

 

 

 記憶が後退していく奇病にかかったアイワーンちゃんのことを、ユニが仕方なくお世話する話です。

 

(ユニアイ/全年齢./私のなかではこれも百合/シリアス/3000字程度)

 

 

 

『四度目の嘘、あるいは』


「――バケニャーン、紅茶が欲しいっつーの」


 アイワーンは椅子にどかっと座りながら言う。
 それを聞いた『執事』は、「ハイハイ」と返答し、言われた通りに紅茶をいれる。


「どうぞ、アイワーン様」
「角砂糖がないっつーの」
「ありますよ、ここに」
「だから二つだけじゃ足りないっつーの。最低五個は必要だって、前も言ったっつーの」
「ああ……そうでしたね……」
「あと熱すぎだっつーの。ちゃんとフーフーしろっつーの」
「分かりました」


『執事』は一礼すると、砂糖を取りに部屋を出る。ドアを閉めて深いため息をつく。香水を自分に振りかけると、その姿はたちまち青い髪の少女に変化する。


「まったく……人使いが荒いんだから……」

 

 ユニは嘆息混じりに愚痴をこぼす。
 いまのアイワーンは、ユニとバケニャーンが同一人物であることを忘れている。そのうちバケニャーンのことも忘れて、自分がノットレイダーであることも忘れるだろう。

 何もかも忘れたアイワーンは、最後にすべてを思い出すのだ。

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ことの発端は、四日前まで遡る。

 アイワーンとの戦いに敗北したユニは、魔改造された自分の宇宙船に乗せられた。

 おそらく、アイワーンはユニをどこかに連行し、そこでじっくりいたぶるつもりだったのだろう。

 しかし、その道中、宇宙船にエンジントラブルが発生した。何とか近く星に不時着したものの、ほどなくしてアイワーンは奇妙な病気に侵されてしまう。


 記憶が後退する病である。

 

 住民に聞いたところ、どうやらこの星――惑星ベンジャミンの風土病らしい。時々運の悪い旅行者が発症するそうだ。治療法は確立されていない。赤子の頃まで記憶が後退すると、患者はすべての記憶を取り戻す。数日から数週間以内には完治するので、それほど心配する必要はないとのことだった。

 

 アイワーンを置いてひとりで逃げ出すことも考えたが、放っておくと何をしでかすか分からない。それに、宇宙船の修理には少なくとも一週間以上はかかる。けっきょく病が治るまでの間、ユニが一緒にホテルに泊まり、監視も兼ねて面倒を見ることにしたのだった。

 

 ☆ ☆ ☆


 ユニは再び執事の姿に変化すると、アイワーンのもとに行く。


「砂糖を持って来ました」
「サンキューだっつーの」


 アイワーンはパソコンをいじりながら、次々に角砂糖を紅茶に突っ込んでいく。五つどころでは済んでいない。砂糖が飽和しきった紅茶を口に運ぶと、難しい顔をしていた表情がふっと綻ぶ。


「バケニャーンの紅茶はうまいっつーの」
「そうですか」

「優しい味がするっつーの」

「体には優しくないですけどね」

「……うっさいっつーの」

 

 アイワーンは文句を垂れるが、その表情はどこか楽しげだ。


「これを飲んだら、二杯目も欲しいっつーの」
「分かりました」


 アイワーンはカップを一気に傾けると、溶けかけていた砂糖の塊ごと、口のなかに注ぎ込んでいく。

 行儀の悪い飲み方だ。

 カップのなかは、もう空っぽになっている。


「では、新しいものをいれてきますね」


 ユニが言うと、アイワーンは不思議そうに瞬きを繰り返す。キョロキョロと周囲を見回し、目の前に立っているユニに怪訝な視線を向ける。


「……あんた、誰だっつーの?」


 ユニは直ちに悟る。
 記憶の後退が起きたのだ。
 アイワーンはもう、執事のことを覚えていない。
 

「わたしは……」


 ユニは言いよどむ。
 いまならまだ、正直にいうこともできる。

 わたしはレインボー星人。あなたの滅ぼした惑星の生き残りよ。仲間を救うために、あなたのことを騙そうとしているの――。
 しかし、ユニの口から出たのは、まったく違うものだった。


「わたしはバケニャーン。あなたの執事ですよ、アイワーン様」


 ズキリ、と胸の奥が痛む。
 それは二度目の嘘だ。ユニは再び、彼女のことを騙したのだ。
 アイワーンは興味なさそうに「ふーん」とぶつやくと、パソコンに向き直る。


「誰に連れてこられたのか知らないけど、雑用をやってくれるなら構わないっつーの。……とりあえず、」
「紅茶を召し上がりますか?」
「……そうだっつーの」
「分かりました。すぐにいれて来ます」
「あ、先に言っておくけど、」
「少し冷ましてから持ってきますよ、アイワーン様。角砂糖の用意もたっぷりありますので、ご心配なく」
「……あんた、」


 アイワーンは目を丸くして、ユニのことを見つめる。


「……いや、何でもないっつーの」


 再び視線を落として、パソコンに向かう。
 ユニは退出すると、何度目になるか分からないため息を吐いた。


 ☆ ☆ ☆
 
 それから三日が過ぎた。
 アイワーンはバケニャーンのことを忘れ、自分がノットレイダーであることすら忘れ、部屋の隅にうずくまっている。何か嫌なことを思い出しているのかもしれない。時折、うなされるような声や、すすり泣くような声が聞こえた。

 もっとも、話しかけても応答がないため、詳しいことは分からない。しかし、何かトラウマのような記憶がアイワーンを苦しめていることは想像できた。


 このときにはもう、ユニはバケニャーンの姿にはならず、人型の姿を見せていた。
 ユニはアイワーンのもとに紅茶を運び続けた。アイワーンは食べ物をまったく口にしなかったが、紅茶だけは飲んでくれたので、たっぷりの砂糖を入れて出した。


 アイワーンはほとんど目を合わせようともしなかったが、紅茶を出し続けているうちに少しずつ態度が変わっていった。会話はないものの、だんだん、紅茶を運んでくるユニを目で追うようになっていた。


 ☆ ☆ ☆


 さらに二日が過ぎた。
 変化は急に起きた。ユニがいつものように紅茶を持って部屋に入ると、アイワーンはたたたっと駆け寄ってきたのだ。彼女は半べそをかきながら「お腹空いたっつーの」と言った。


「いま、持ってくるわね」


 アイワーンの記憶は、ほとんど幼児期のものにまで後退している。病が治癒し、元に戻るのも時間の問題だ。宇宙船の修理も間もなく終わる。長かった奇妙な共同生活も、ようやく幕を閉じる。
 安堵の息をつき、ユニが部屋を出ようとすると、アイワーンがその足にぎゅっとしがみつく。


「おねーちゃん、どっか行っちゃうっつーの?」


 アイワーンは上目遣いでユニを見つめる。


「大丈夫よ。すぐに戻るから、心配しないで」
「どこにも行ったりしないっつーの?」

「ええ」

「ずっと一緒にいてくれるっつーの? 約束してくれるっつーの?」
「……約束するわ」

 ユニは三度目の嘘を吐くと、不安そうにしているアイワーンをそっと引きはがし、部屋を出る。
 ご飯を持って戻ると、アイワーンは壁を見ていた。
 声をかけると、アイワーンはおもむろに振り返り、ユニの顔を不思議そうに見る。

 まただ、とユニは気付いた。

 記憶が後退している。そのスピードは明らかに速まっている。

 

 ユニは確信する。

 

 アイワーンが元に戻るのも、もうすぐだ。この会話が、昔のアイワーンと話す最後のものになるだろう。もう少しすれば、わたしたちは宿敵同士の関係に戻る。

 

 何もかも、元通りになるのだ。


「だれだっつーの?」


 舌足らずな口調でアイワーンは言う。

 自然と、握る拳に力が入る。


「わたしはユニよ」
「ゆに?」
「そう、ユニ」


 ユニは静かに答える。

 すると、惑星レインボーを滅ぼした悪魔は満面の笑みを浮かべる。ユニのもとまで駆け寄ると、元気いっぱいに手を差し出す。


「はじめまして、あたいはあいわーん。なかよくしてくれるっつーの?」

 

 ユニはアイワーンの目を見つめる。

 その瞳は、どこまでも純粋で、真っすぐで、無垢な色をしている。

 握りしめていた拳から力が抜けていく。
 長い沈黙を経て、ユニは口を開く。


「……ええ」


 それは四度目の嘘になるのか、自分でも分からない。

 ユニにはもう、何が何だか分からなかった。

 ただひとつ、はっきりしているのは、目の前の少女が「本当の笑顔」を浮かべているということだ。

 

「……よろしくね、アイワーン」

 

 いまのわたしは、どんな顔をしているのだろう。

 ユニはおそるおそる、アイワーンの手を握る。
 その手は想像していたよりもずっと小さく、そして、温かかった。 

 

 了

 

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 最近、Twitterが自分の妄想を増長させるツールになっている感が否めないのですが、これはこれで性に合っているような気がしなくもないです。

 

 読んでいただき、誠にありがとうございました。

 

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