金色の昼下がり

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【トロプリSS・小説】『さんごが百合子会長の妹になる話』※ゆりさんごの二次創作

 さんごが百合子会長の妹になる話です。

 

(ゆりさんご/百合/6000字)

 

 

 

『さんごが百合子会長の妹になる話』

 

「それでね、お姉ちゃんがね……」
「あれ? さんごってお姉ちゃんいたっけ?」


 まなつが口を挟むと、さんごは「あっ」と両手で口をふさいだ。他に部員の姿はない。この日、部室にいるのはまなつとさんごの二人だけだった。


「えっとね……お姉ちゃんっていうのは、本当のお姉ちゃんじゃなくて」
「? いとことか?」
「ううん……そういうのじゃなくて。ただわたしがそう呼んでるだけっていうか」
「あー! 近所のお姉ちゃんみたいな感じかー!」
「まあ、そういう感じかな……? 白鳥先輩のことなんだけどね」
「……え? 白鳥先輩って、生徒会長のこと?」


 あおぞら中学の生徒会長。ルールを重んじる性格の三年生で、トロピカる部を設立する際にも認めてもらうのには苦労したものだ。
 でも、あの生徒会長とさんごに、そんな接点があったっけ……?
 疑問に思っていると、そんなまなつの様子を察したさんごが「実はね……」と先日にあった出来事について語りだした。


 *


「なあ、いま暇? オレらとカラオケ行かない?」


 知らない男子たちだった。
 人数は三人。見覚えのある学ランを着ているので中学生ということは分かる。隣町の生徒だ。ただ雰囲気や身長からしておそらく年上だろうし、何よりグイグイと近付いてくる感じが少し怖かった。


「え、ええと……これから、お家に帰るところで……」
「お、そうなの? じゃあ暇ってことだよな」


 年上の男子、それも複数人に囲まれると、たいていの女子がそうであるようにさんごも恐怖を感じずにはいられない。相手に危害を加えるつもりがあろうがなかろうが同じだ。
 しかし彼らは表情をこわばらせるさんごの様子に気付かず――あるいは見て見ぬ振りをしながら、半ば強引に詰め寄ってくる。


「な、ほら、行こうぜ」


 リーダー格の男子が、さんごの腕を掴んだ。
 頭が真っ白になる。慌てて周囲を見回すが、大人たちは誰も見ていない。いや、本当は見ているのかもしれないが、やはり見て見ぬ振りをしているのかもしれない。ただひとつ確かなのは、自分を助けてくれる人は誰もいないということだ。
 こんなことは初めてだった。突然のことでどうしていいか分からず、さんごは涙の滲む目をぎゅっとつぶる。
 そのときだった。


「その子に何か用ですか」


 凛とした声が響いた。
 男子たちの意識が、その声の主に向けられる。


「その子に何か用ですかと聞いているんですが」


 そう言いながら近づいてくるのは、見覚えのある先輩。あおぞら中学の生徒会長、白鳥百合子だった。


「な、何だよ……」


 男子生徒は百合子の鋭い視線を向けられて一瞬たじろいだようだが、複数人いることで気を持ち直したのか、さんごの腕を引っ張りながら強い口調で言った。


「あんたは関係ねーだろ。オレらはこっちの子に興味があんの。引っ込んでろよ」


 男子たちは声を荒げながら百合子に詰め寄っていくが、百合子は毅然とした態度を崩さず、その場から一切動かない。
 それだけではなく、百合子は無言で視線をこちらに向け、暗に早くこの場から逃げろと言っている。自分を囮にして、さんごを助けるつもりなのだ。


 自分がハッキリ断れないせいで、先輩を危ない目に合わせてしまう……。
 さんごはぐっと顔を上げ、目を開ける。このままじゃダメだ。言うべきことはちゃんと言わないと。
 震える声を絞り出し、勇気を出してさんごは言った。


「……、です」
「ん? 何だって?」


 男子生徒から向けられた視線を真っ直ぐに受け止め、さんごは胸の上でバツ印を作った。


「ペ、ペケです。カラオケには、行きません。今日はわたしの誕生日で、お姉ちゃんがお祝いしてくれるんです。……ね、お姉ちゃん?」


 百合子は驚いたような表情をしたが、すぐにさんごの意図を理解したようだ。


「……そういうこと。向こうでパパも待ってる。今日は家族みんなでお祝いする予定なの。だから悪いけどどこかに行ってくれる?」


 その話を受けた男子生徒たちは、互いに顔を見合わせてやりづらそうな顔をする。今日は誕生日で、父親も近くで待っている。この状況でナンパを続けられる男はそういないだろう。


「……チッ。何だよ。それなら最初から言えよな」
 

 行こうぜ、とリーダー格の男子が吐き捨てて、身を翻して去っていく。
 ようやく解放されたさんごは、ほっと胸を撫でおろし、百合子に頭を下げた。


「……あ、あの、ありがとうございました。おかげで助かりました」
「私は何もしてないわよ。あなたの機転が利いただけ。あのバツ印も、かんばったわね」


 百合子はさっきまでの硬い表情を崩すと、さんごの頭をポンと叩いた。

 

「で、でも、わたしひとりじゃ怖くて何もできませんでした。お姉ちゃんが、来てくれたから……」


 言いかけたさんごは、そこでハッとなって、


「ご、ごめんなさい。もう、お姉ちゃんって呼ばなくてもいいのに……わたし……」


 かあっと顔に熱が集まる。
 先生のことをお母さんと呼んでしまったときのような……いや、それとはまた少し違う感情。


「あなたは確か、涼村さんごさん、よね」
「……えっ、覚えててくれたんですか?」
「生徒会長だから。それに、あなたは覚えやすかったし」
「覚えやすいって……?」
「オシャレでかわいい生徒だなって、思ってたから」
「…………っ」


 友だち同士の会話ではそれほど珍しくもない褒め言葉だ。もちろん友だちに言われても嬉しい気持ちにはなるが、この先輩から言われると、なぜか胸の奥がきゅうっと苦しくなった。


「? どうかした?」
「い、いえっ、別に何でもないです! 今日はありがとうございました!」


 バクバクと高鳴る心臓を押さえつけながら、さんごは慌てて踵を返す。早くこの場から去らないと、体がどうにかなってしまいそうだった。
 しかし、そんなさんごを行かせまいと、百合子が手を掴んでくる。


「ひとりで帰ろうとしないで。家まで送るわよ」
「え、で、でも……もう、すぐそばですし……」
「また変な男に絡まれても嫌でしょ。それにあなた自分で気づいてない? さっきのことがあってから、ずっと手が震えてるわよ」
「……えっ、あっ」


 言われた通り、自分の手を見てみる。本当だった。ぷるぷると小刻みに震えている。


「怖かったのよね。でももう大丈夫だから、ほら」


 百合子はぎゅっとさんごの手を握りしめる。柔らかくて、優しい感触。しかしそこには、家に送るまでぜったいに離さないというはっきりとした意思が込められている。


「じゃあ、帰り道を教えてもらってもいいかしら」


 さんごは遠慮がちに、コクンとうなずいた。
 そうして二人はさんごの家に向かって歩き出す。曲がり角に来ると、百合子はさんごを見てどちらに行くべきなのか確認するのだが、さんごにはそれが恥ずかしかった。いまの自分の顔は、きっと真っ赤に染まっているだろうという確信があったからだ。
 何とか気を紛らわせるために、さんごの方から話しかける。


「お姉ちゃ……先輩って、お父さんのこと、パパって呼ぶんですね。かわいいなって思いました」
「……呼ばないわよ」
「え? でもさっき……」
「気のせいよ」
「でも……」
「気のせいよ」
「……そ、そうですね〜。わたしの気のせいだったかな〜」


 そうこうしているうちに、気付いたら最後の交差点に着いていた。
 大きなトラックがエンジンを鳴らしながら目の前を通り過ぎていく。信号を待ちながら、さんごは隣に立つ百合子の横顔をチラとうかがった。
 一見すると目はキリッとしていてクールな印象を持つが、そうした大人っぽさの裏にはかわいさが隠れている。
 この女(ひと)には、どんなメイクが似合うだろう……。
 百合子はさんごの視線に気付くと、かすかに口の端を上げて微笑んだ。ドキッと心臓が跳ねて、さんごは慌てて前に向き直る。
 このままずっと赤だったらいいのに。もっと家が遠かったらよかったのに。この時間が、ずっと続いてくれればいいのに。
 しかしさんごの願いが届くことはなく、信号は青に変わり、間もなく家に着いた。


「あなたの家はお店をやってるのね」


 百合子は店の看板を見ながら言った。


「そうなんです! あっ、新作のネイルがすっごくかわいくて……!」
「私はネイルとかつけないから」
「そ、そうですか……」
「…………」
「あ、あの……」
「? どうしたの?」


 言うなら、いましかない。
 きょとんとしている百合子を、上目遣いに見つめながら、さんごは今日いちばんの勇気を出して言った。


「えっと、こんなことお願いするの、変だと思うんですけど……、も、もし良かったら、先輩のこと、お姉ちゃんって呼んでもいいですか……?」
「…………え?」
「わたし、お姉ちゃんはいないんですけど、ずっとお姉ちゃんが欲しいなって思ってたんです。それで、先輩といると、なんだかほんとのお姉ちゃんといるような気がして……」


 顔を上げると、百合子はポカンと口を半開きにしていた。
 きっと呆れてものも言えないんだ。そう思ったさんごは、慌てて手をぶんぶんと振って、


「や、やっぱり何でもないです! こ、こんなの変ですよね……! ごめんなさい! 忘れてください! じゃあさようなら!」


 さんごは逃げるようにして家に入ろうとする。
 が、できなかった。百合子が手を離さなかったからだ。


「別に何て呼ばれたって、私は気にしないわよ」


 さんごの体を引き寄せて、百合子が言った。


「だから好きなように呼んで。……それから、お誕生日おめでとう。涼村さんごさん」


 そして、百合子は手を離して去っていく。
 さんごはいまにも胸が爆発してしまいそうになりながら、それでも、これだけは伝えなきゃ、とその背中に向かって叫んだ。


「あのっ、お姉ちゃんっ!」


 振り向いた百合子のもとに駆け寄って、さんごは必死に言葉を続ける。


「ええと、今日は別に、わたしの誕生日じゃないんです! あれは、咄嗟についた嘘なので……!」
「ああ、そうだったのね」
「はい、わたしの誕生日は、五月九日で……」
「来週なのね」
「そ、そうなんです」
「…………」
「あ、あと、よかったら、わたしのことは、さんごって呼んでくれると、嬉しいです!」
「……分かったわ。さんご。あなたも私を姉と呼ぶなら、敬語は使わなくていいから」
「え、でもそれは……」
「いいから」
「……えへへ。お姉ちゃんが、そう言うなら」


 ルールやマナーに厳しいはずの生徒会長が、後輩である自分に敬語を使わなくていいと言う。
 それがとても特別なことのように思えて、嬉しくなったさんごは、自分でも気付かないうちに百合子の体に抱き着いていた。


「もう、さんごったら……人が見てるわよ」
「これくらい姉妹だったら普通だよ、お姉ちゃん」


 百合子はそんなさんごのことを嫌がったりはせず、幼い子どもにそうするように、さんごの背中を優しく撫でるのだった。


 *


「っていうことがあったんだ~」
「それ、ホントに……?」


 さんごの話を聞きながら、まなつは何とも言えない顔をしていた。
 生徒会長は良い人だが、真面目で厳しい人だ。他校の男子生徒からさんごを守ったという話は本当だと思うけれど、後半の話は正直あまりピンとこなかった。さんごの妄想や脚色が入っている気がする。


「……っていうかさんご、五月九日って今日じゃん! 何で教えてくれなかったの誕生日!」
「あっ、そういえばみんなには言ってなかったね」
「も〜! 今日はローラも先輩たちもいないから、また明日誕生日パーティーやろうね!」


 そうやって話をしていると、不意に部室のドアが開いた。そこにいたのはいままさに話題になっていた人物、白鳥百合子生徒会長だった。
 

「あっ、会長~! 今日は何しに来たんですか?」
「別に。ただの視察よ」


 声をかけてみるが、会長はいつも通り厳しそうな表情を浮かべている。
 でもさんごの話が本当なら、会長は多少無茶なことでも聞き入れてくれる人なのかもしれない。思えば、トロピカる部だって最終的には認めてくれたのだ。
 試しに何かお願いしてみようと思って、まなつは勢いよく手を挙げる。
 

「あのあの会長! 要望があります! トロピカる部の予算を上げて欲しいんですけど、」
「却下」
「ですよねー」
「まなつ。急にそんなこと言っても、お姉ちゃんも困っちゃうよ。それぞれの部活の予算には限りがあるんだから」
「……まあ、予算には少しだけ余剰があったから、トロピカる部に回せないか検討はしてみるわ」
「えっ! お姉ちゃん、ホントに? やった~!」


 ……ん?
 多少の違和感を覚えながらも、まなつは次の要望を出してみる。


「あの会長! この部室、冷房器具がないので夏はすっごく暑くなりそうなんです! だからクーラーが欲しいな〜なんて、」
「却下」
「ですよねー」
「まなつ、クーラーは設置されてない部室もたくさんあるから、トロピカる部だけ優遇してもらうのはきっと難しいよ。ね、お姉ちゃん?」
「……ええ。でも確か余ってる扇風機があったから、取り急ぎそれを持ってきましょう」
「えっ! お姉ちゃん、ホントに? やった~!」


 ……むむむ?
 さんごと百合子の顔を見比べながら、まなつはひとり眉をひそめる。
 そうしていると、百合子がさんごの方に近付いて、手に持っていたものを差し出した。


「視察に来たついでに、これを渡しておこうと思って」
「これって……」
「ほら、今日が誕生日って言ってたでしょう」
「……えっ? もしかしてこれ、プレゼント?」


 さんごは興奮しながら「開けていい?」と尋ねる。百合子がうなずくと、さんごは綺麗に開封していく。中身を見た瞬間、黄色い声を上げて、


「すごい! これ、わたしが言ってた新作のかわいいネイル! もしかして覚えててくれたの? お姉ちゃん、ありがとう!」


 そう言って、さんごは百合子に抱き着いた。
 百合子はその頭を何度か優しく撫でると、静かに体を離させる。そしてさらりと自分の髪をかきあげて、


「じゃあ、私は生徒会の仕事があるから。またね、さんご」
「お仕事がんばってね、お姉ちゃん!」


 あくまでもクールな表情を保ったまま、帰っていった。


「えへへ……! お姉ちゃんからプレゼントもらっちゃった!」
「よ、よかったね……あの話、ホントだったんだ」
「お姉ちゃん、やっぱりカッコよくて素敵だな〜! あ、でもお姉ちゃんにはかわいいところもあってね……」


 顔を上気させ、ペラペラと上機嫌に「お姉ちゃん」について話すさんごを見ながら、まなつは去り際の会長のことを思い返していた。
 さんごに抱きつかれた後。髪をかきあげたあの瞬間。まなつの見間違いでなければ、会長の耳はさんごの顔に負けないくらい真っ赤だった。

 

 終わり

 

あとがき

 ゆりさんご姉妹百合はいいぞ…

 

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