無自覚ソラちゃんと"手"が出そうになるましろさんの話です。
(ましソラ/1500字程度)
はれのちくもり
ましろさんとずっと一緒にいたいです。
ソラちゃんからそう言われたときは、正直、舞い上がってたと思う。だから、わたしもね、今日同じこと考えてたよ、だなんて、そのときは当たり前のことみたいに言えたし、これからはずっと一緒にいられるんだって、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
でも、いまは違う。ちょっぴり、後悔してる。
「いやー、こっちの世界の学校に行けるなんてドキドキです!」
「う、うん、ドキドキだね……」
「私、緊張で目が冴えちゃってます!」
「だね……私も寝れそうにないや……」
シングルベッドに、毛布は一枚。二人で寝るにはちょっぴり狭い。だから、必然的にお互いの体がくっついちゃう。パジャマ越しに伝わるソラちゃんの体温を、どう頑張っても意識しちゃう。
お家に帰ってからというものの、ソラちゃんは一時もわたしのそばから離れようとしなかった。二人でえるちゃんのお世話をして、リビングでお喋りして、一緒にご飯を食べる。夜になって、そろそろお風呂に入ってくるねって声をかけると、ソラちゃんは当たり前みたいな顔してついてきた。
「今日一日ましろさんと一緒にいられなかったので、お風呂もご一緒したいんですけど……だめですか?」
ソラちゃんはズルい。そんなに真っ直ぐな目で言われたら、言えないよ、だめなんて。
というわけで、できるだけソラちゃんの体を見ちゃわないように、ずっとうつむき気味でお風呂は済ませたけど、どうしたって、視界の隅に入っちゃう。普段はニーハイで隠れてる脚。あんまり日焼けしてなくて、触ったら柔らかそうだなって、そう思ったときには、慌てて目をつぶって、わしゃわしゃシャンプーして誤魔化した。
お風呂を出た後も、胸の奥が熱くて、体の芯が切なくて、でも、ひとりになって心を落ち着かせようにも、ソラちゃんはずっとついてくるから、ふわふわした気持ちのまま。それでけっきょく、誘われるまま、ソラちゃんの部屋で寝ることになっちゃった。
「ましろさん、どこに行くんですか?」
これ以上は心臓が持たないよ。なんて言えるはずもなく、わたしは適当な返事をする。
「え、ええと、ちょっと用事を思い出して……」
「なら、私も手伝います!」
「い、いいよ! 大丈夫! ほんとに大丈夫だから! ソラちゃんは先に寝てて!」
わたわたと手を振る。ソラちゃんは、一瞬、悲しそうな顔をした。でも、すぐにぐっと唇を噛んで、今度はお日様みたいに明るい笑顔を浮かべた。
「分かりました! では、用事が終わったらまた来てくださいね!」
罪悪感に駆られるように部屋を出て、自分の部屋に逃げ込んだ。
はあ、と小さくため息をつく。わたし、何してるんだろう。ソラちゃんはわたしと一緒にいたいって言ってくれてるのに。わたしだって、ソラちゃんと一緒にいたいのに。電気もつけないまま床に座り込むと、ひんやりとした感覚が脚に伝わった。
パジャマを見てると、ソラちゃんを思い出す。わたしたちは、お揃いのパジャマだから。暗闇を見てると、ソラちゃんを思い出す。目をつぶってるときは、いつもソラちゃんのことを考えてたから。
ソラちゃんが来てから何ヶ月も経ってないのに、ソラちゃんが来る前の日常を思い出せない。わたしにとって、ソラちゃんはなくてはならない存在だってことを、わたしは今日、嫌というほど理解した。
でも、同時にわたしは思い知った。ソラちゃんはわたしにとって、大きな存在になりすぎた。だから一緒にいられない。これ以上一緒にいたら、きっと、"後戻りできないこと"をしちゃうから。
手のひらをぎゅっと握る。この手は欲張りだ。何度もソラちゃんの手を握ったくせに、もっと触れたいと願ってる。ソラちゃんの手だけじゃなくって、もっと、違うところまで。
「……ごめんね、ソラちゃん」
やっぱりわたし、友達やめたいよ。
その一言を伝えられる勇気が、いまのわたしには、まだない。
あとがきと雑感
ひろプリ、すごいですね。なんかもう、すごいの一言しか出ません。だってまだ6話ですよ。持ちませんよ心。
日々の多忙からまったく更新してませんでしたが、久々の二次創作で楽しかったです。気が向いたら続きも書きたいです。(最後はゴリゴリのハピエンにするつもり)