金色の昼下がり

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【スタプリSS・小説】『星奈ひかるは慣れている』※ひかララ(29)の二次創作

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 激甘ひかララ(29)SS第三弾です(続き物ではない)

 星奈ひかるがあまりにも「慣れている」ので、「初めて」なのは自分だけなのではないかと悩む羽衣ララの話。

 

※直接的なR18描写はありませんが、「そういうシーン」を示唆する描写はありますので、苦手な方はご注意ください。

 

(ひかララ(29)/若干のえれまど/百合/9000字程度/R15

 

トップ画像は、Selling of my photos with StockAgencies is not permittedによるPixabayからの画像です。

 

 

 

 

『星奈ひかるは慣れている』

 

 たとえば、地球の絶景もそうだ。

 ナスカの地上絵、ウユニ塩湖、ヤスール火山……。ひかるは、わたしの知らない新しい世界を見せてくれる。

 

「…………んっ」

 

 ゆっくりと唇が離れていくのを、わたしは目で追いかける。

 暗闇に浮かぶのは、満足そうに微笑むひかるの顔だ。その顔は無言のうちに、こう問うている。「どうする?」と。

 仰向けになったまま、小さくうなずくと、再びひかるの顔が近付いてくる。それに応えるため、唇を差し出すが、ひかるはそのまま横に逸れていく。ふわりとシャンプーの香りが漂ったかと思うと、突然、熱くて濡れたものが、耳の内側に触れた。

 

「ぁっ……!」

 

 思わず声が出てしまい、慌てて、手で口を押さえる。

 ひかるが、わたしの耳を甘噛みしたのだ。

 しかし、何をされたのか分かったからといって、何かできるわけでもない。ひかるに侵食されていくのを、わたしはただ耐えることしかできない。

 

「んっ……んんっ……!」

 

 耳の中をなぞられていると、体の中心から、熱いものが込み上げてくる。その熱をどうにかしたいと望んでいると、わたしの期待を見透かしたかのように、今度はひかるの手がパジャマの中に入って来る。表面を撫でるようにしながら、ひかるの手が、体の上を滑っていく。首元から、胸元へと。胸元から、腹部へと。腹部から、…………。

 

 ――早く、来てほしい。

 ――これ以上、来てほしくない。

 

  ひかるがどこを目指しているのか、それくらいは分かっている。 来てほしいけれど、恥ずかしい。恥ずかしいけれど、来てほしい。相反する二つの想いが交錯していると、そんなわたしの心を見抜いているのか、焦らすようにして、ひかるは寄り道をし始める。

 

「…………やっ」

 

 お腹の下のあたりを手のひらで撫でられた瞬間、ぞくりと体が震える。くすぐったいのだが、それだけではない。不思議な感覚だ。わたしはその感覚から逃れるように、ひかるの手を押しのける。

 

「だ、だめルン……」

「ここはだめなの?」

「ルン……。く、くすぐったいというか、変な感じルン……」

「そっかそっか、ここはだめなんだね」

「だ、だから……んっ……!」

 

 だめだと言っているのに、ひかるは同じところをさわりと撫でる。

 

「あっ……や、やめるルン……! ひ、ひかる……!」

 

 手を掴み、それ以上触られないようにすると、ひかるは「えへへ」と笑う。

 

「ごめんごめん。ララがかわいくて、つい」

「……そう言えば、何でも許されるって思ってるルン?」

「うん。ちょっぴり」

 

 むう、と頬を膨らませると、頭を撫でられる。それだけでもう、何も言い返せなくなる。いつもそうだ。ひかるには、いいように遊ばれて、機嫌さえも意のままにされる。

 

「ララは、ほんとに、かわいいね」

 

 余裕たっぷりに笑うひかるを見ていると、チクリ、と小さな痛みが走る。

 ずっと前から疑問に思っていたことだ。ひかるは、わたしの扱いにとても慣れている。いや――あまりにも、慣れすぎている・・・・・・・

 大人になったひかるは、いつもわたしをエスコートしてくれる。身を任せていれば、わたしの好きなところに連れていってくれて、またひとつ、新しい世界を教えてくれる。

 だからこそ、考えずにはいられないのだ。

 わたしの見ているこの景色は、ひかるが昔どこかで見たものなのかもしれない、と。初めてこの景色を見たと喜んでいるのは、ひょっとしたら、わたしだけなのかもしれない、と。

 

「ひかる……」

「なあに、ララ?」

 

 それを確かめるのは簡単だ。数分もかからない。たったひとつ、質問をするだけでいいのだから。

 

「…………」

「……どうしたの?」

 

 でも、とわたしは逡巡する。答えが返ってきたとして、それでわたしは、何がしたいのだろう?

 分からない。分からないが、ひとつ、確かなことがある。

 それは――。

 

「ひかるは……わたしが、初めてルン……?」

 

 込み上げるその『想い』に、わたしは抗えなかった、ということだ。

 

 ☆ ☆ ☆

 

「――わたしがいない間、ひかるって、どんな感じだったルン?」

 

 この日は珍しく、まどかと二人で飲んでいた。

 飲みかけのグラスに視線を落としながら、わたしは質問する。隣に座るまどかは、黄金色の飲み物をテーブルに置くと、柔らかな微笑みを浮かべる。

 

「そうですね……ひかるは相変わらず好奇心が豊かで、いつも、新しいものを、未知のものを追い求めていましたね。高校ではUMA研究会で楽しそうにしていましたし、大学では航空宇宙学科の方々と、夢を語り合っていたそうですよ。……わたくしも、そんなひかるから、たくさんの影響を受けた気がします」

「ひかるは……変わったルン」

「ララには、どういうふうに見えるのですか?」

 

 わたしはグラスを口に運ぶと、ルン、とうなずく。

 

「ひかるは……大人になってたルン」

「確かに、ひかるは素敵な大人になりましたよね。同年代のご友人だけではなく、先輩や後輩、先生方、色々な方と交流を深めていたようですし」

「……ひかる、モテモテだったルン?」

「ええと、モテモテか、モテモテじゃないかと言われると……」

 

 まどかは何かを思いめぐらせると、くすっと笑う。

 

「モテモテ、でしたね」

「……オヨ~」

 

 やっぱりそうだろうとは思っていたが、直接聞くと、複雑な想いが込み上げてくる。わたしはその感情を飲み込むために、カルーアミルクを煽る。

 

「……どうりで、慣れてるわけルン」

「何がですか?」

「それは……」

「あ、店員さん。ホッケをひとつと、生をひとつと、カルーアをひとつ……あと、お冷もふたつお願いします」

 

 傍を通った店員に、まどかが注文する。

 

「……まどかも、慣れてるルン」

「仕事柄、飲み会も多いですから」

 

 グラスを手に取る。中にはほとんど氷しか残っていない。わたしは意味もなくそれを口に運び、ほんのわずか残っている水っぽい液体を飲み干す。

 

「……まどか。ひかるに、恋人って、いたルン?」

 

 勇気を出して聞いてみるが、返事はない。顔を上げると、まどかは、何か小動物でも見るような目でこちらを見ている。

 

「それは、ひかるに聞いたのですか?」

「聞いてないルン。……重いって思われたら、嫌だから」

「…………」

「……まどか、いま、笑ったルン? 『すでに重すぎる』って思ったルン?」

「い、いえいえ! そんなことないですよ!?」

 

 まどかは顔を隠しながら、自分の頬をつねっている。

 

「そうではなくて……恋するララはかわいいなと、そう思っただけです」

「……ルン」 

「ただ、わたくしもララの希望に沿いたいのはやまやまですが……内容が内容ですので、わたくしの口からは、何とも申し上げられません。こういうことは、直接、ひかるに聞くべきではないでしょうか」

「……確かに、それもそうルン」

 

 変なこと聞いちゃってごめんルン、と謝ると、まどかは「いえいえ」とにこやかに微笑む。

 

「ところで、『重い』なんて言葉、どこで覚えたのですか?」

「地球の文献ルン」

「文献、というと?」

「『観☆GIRL』っていう月刊誌ルン」

「…………」

「地球人のことをもっと知りたくて、定期購読してるルン。この前の特集で、『昔の恋人のことを詮索するのは重い』って書いてあったルン」

「……なるほど」

「まどかは、こういうの、気にならなったりしないルン?」

「わ、わたくしですか……?」

 

 話題を振ってみると、まどかはあたふたしながら答える。

 

「わたくしはまだ……お付き合いをした経験が、ありませんから」

「じゃあ、好きな人が経験豊富だったらどうするルン?」

 

 わたしが尋ねると、まどかは虚空を凝視する。ちょうどそのとき、お待たせしました、と店員がお酒を運んでくる。

 

「……そうですね。ララの気持ちも、分かります。相手が経験豊富なことを仄めかしていると、いくら気にしないようにしても、胸がざわつきますよね」

「……ルン」

「外国語を覚えるのには、その国の恋人を作ればいいと意味深なことを言われたときには、わたくしもいっそ国籍を変えようかと思いましたね」

「……ルン?」

「だいたい、あんな笑顔で迫られて恋に落ちない人がいるんですか? いないですよね。いたとしたらそれはそれで異議ありです。……確かにわたくしも、気にならないと言えば嘘になります。でも、決めているんです。どれだけ紆余曲折あろうとも、最終的にわたくしのもとに来てくれれば、もうそれでいいと」

「……まどか、誰の話をしてるルン?」

 

 まどかは新しく来たビールを煽ると、わたしの目を真っすぐ見つめる。

 

「ララは、ひかるに聞いたらどう思われるのか、それを気にしているんですよね」

「……ルン」

「では、お聞きしますが――ララは、どう思っているのですか・・・ ・・・・・・・・・・・?」

 

 その言葉に、わたしはハッとする。

 それは、十五年前に言われたのと、同じ言葉だ。

 

「自分の気持ちに、従うべきです」

 

 そう言って、まどかはニッコリと微笑む。

 

「……まどか、ありがとルン」

「わたくしはただ、ひかるの言葉をお借りしただけですよ」

 

 注文していたホッケが来る。まどかは慣れた手つきでホッケを分けて、わたしの小皿に載せていく。

 

「でも、ひかるにどうやって聞けばいいか悩むルン。何かいい方法はないか考えてみるルン」

 

 不意に、まどかの動きがピタッと止まった。

 

「……ララ。これは忠告ですが、相手のことが好きであるなら、あれこれと回りくどいことをしたり、余計なことをしたりせず、さっき言ったように、自分の気持ちに素直に従うのがいちばんですよ。……さもないと、」 

 

 カラン、と氷が溶けて落ちる。

 

「毎日が綱渡りのように、なりかねませんよ」

「……だから、誰の話ルン?」

 

 ☆ ☆ ☆

 

「――初めてって、何が?」

 

 そういうわけで、勇気を振り絞って聞いたのに、ひかるはすっとぼけたようなことを言って、わたしの質問から逃げようとする。

 

「だから、それは……ルンっ……」

 

 さわさわ、と触れるか触れないかの強さで、お腹の表面を撫でられる。

 

「こういうところを触ったりするのは……ララが初めてってこと?」

「ル……ルン……っ……!」

 

 もどかしさに耐えられなくなったわたしは、再び、その手を拒もうとする。が、今度はひかるの方が早かった。ひかるはもう片方の手で、無防備になっていたわたしの触角を捕まえた。

 

「ひゃあっ……!」

 

 我慢できずに声が出る。ひかるが触角をぺろっと舐めたのだ。

 

「やっ……だ、だから触角は……だめ、ルン……!」

 

 抵抗しようとするが、そうやって触角を舐められていると、体がぎゅっと縮こまって、何もできなくなる。指先で撫でられたり、つつかれたり、クリクリつねったりされて、体がどんどん火照ってくる。頭の中がぼうっとしてきて、ぐちゃぐちゃになっていく。そうして、すっかり抵抗できなくなったわたしを見下ろすと、意地の悪い笑みを見せる。

 

「――どうして、そんなことを聞くの?」 

「だ、だって……ひかるが……慣れてる……からっ……」

「そうかな?」

「そ、そう……ルン……! だって、そうじゃなきゃ、こんなに……っ」

 

 ぎゅう、とひかるの体にしがみつく。顔を上げて、すがるようにして唇を求める。が、ひかるは答えてくれない。切ない焦燥感に駆り立てられながら、必死になって訴えかけていると、ひかるはわたしの耳元に唇を寄せてくる。

 

「あのね、ララ……」

 

 ひかるの手が、つつ、と背中を撫でる。

 

「実はね、わたし、」

 

 ひかるの吐く息が、耳の中に絡みつく。

 

初めてじゃ、ないんだ・・・・・ ・・・・

「…………え」

 

 刹那。

 わたしは、現実に、戻される。

 

「…………」

 

 その答えを、まったく予想していなかったわけではない。

 十五年という歳月は、決して短い時間ではない。ましてや、再開できる保証もまったくなかったし、そもそも、約束していたわけでもない。それなのに、ずっと、他の可能性を拒んで待ち続けるなんて、効率的ではない・・・・・・・

 

「……教えるルン」

「え……?」

「前の子のこと、教えるルン」

 

 グイ、とひかるの頭を近寄せる。

 だとすれば、それを知りたい。

 それが、わたしの――偽らざる『想い』だった。

 

「前の子のことって……」

「いいから、教えるルン」

「う、うん……」

 

 ええとね、とひかるは言いよどみながら、

 

「その子とは、一緒に住んでてさ。わたしみたいに、宇宙とか星座とかにはそんなに興味はなかったけど、散歩したりするのは好きだったから、よく夜とかに天文台の方まで歩いたりしてたよ」

「一緒に……住んでたルン……?」

「うん。けっこう長い間」

「え……じゃあ……どうして別れたルン?」

「死んじゃったんだ」

「…………オヨ」

「気にしないで。もう、ずいぶん昔のことだから」

 

 えへへ、とひかるはどこか寂しげに笑う。

 

「……………」

 

 不思議な気持ち、だった。

 もし、ひかるが『初めて』ではなかったら。

 正直、もっと悲しむと思っていたし、嫉妬してしまうと思っていた。

 

「……ひかる……悲しかったルン……?」

「まあ、当時はね。でも、今はもう大丈夫」

 

 あるいは、耳を塞いで、何も聞かなかったことにするかもしれないと、そう思っていた。

 けれど――

 

「それでね、その子の名前なんだけど、」

 

 わたしは、ひかるの唇にそっと口付けする。

 

「……ララ?」

「ひかるも、いろいろあったルン」

「う、ううん……ごめんね、あの……」

「謝ることないルン」

「いや……あの、そうじゃなくて……」

「わたし、自分の気持ちが、やっと分かったルン」

 

 ひかるの瞳。その奥にひろがる心の宇宙を覗き込みながら、わたしは続ける。

 

「会えなかった十五年の間に、ひかるがどんな人と出会ったり、別れたりしていたのか、わたし、もっと知りたいルン。きっと、その人たちの輝きが、ひかるの中にも残ってて、今のひかるを輝かせてるって、そう思うから。……それがたとえ、昔の恋人でも、同じルン。わたしは、ひかるのことだけをずっと想ってたから……ほんとのことを言えば、少し、寂しい気持ちはあるけど……でも、やっぱり、わたしの気持ちは変わらないルン。わたしはひかるが大好きで、ひかるのぜんぶを知りたい。だからーー」

 

 もっと、聞かせてほしいルン。

 と、わたしは言った。

 

「……あ、あのね、ララ……」

 

 なぜか、ひかるは申し訳なさそうな顔をしながら、おずおずと口を開く。

 

「あのね……その子の名前…………っていうんだ」

「? 聞こえなかったルン」

「……イエティ」 

「…………ルン?」

「だから、イヌの、イエティ」

「…………」

「わたし、よく、イエティを撫でてあげてたから……お腹を撫でたりしたのは……イエティが初めてかなって……」

「…………」

「えっと……死んじゃったっていうのは、寿命で……大型犬の寿命は十年ちょっとで、もともとそんなに長くないからさ……小さい頃から一緒だったし、もちろん当時は悲しかったけど、イエティが心の中に生きてるっていうのは、ほんとララの言うとおりで……今でも時計の写真として使ってるし……」

「…………」

「ええと、だから、その……」

「ひかる」

「…………は、はい」

「他に、何か、言うことはないルン?」

「……ゴメンナサイ。ちょっとだけ、からかうつもりで……痛っ!!」

 

 バチッ、と爆ぜるような音と同時に、ひかるが飛び跳ねる。

 触角から、電気を流したのだ。

 

「ひかるのばか! ばか! 言っていい冗談と言っちゃいけない冗談も分からないルン!?」

「す、すぐに説明しようとしたんだけど、ララに遮られて……痛っ!! ララ! 電気が強……痛っ!!」

「言い訳なんか聞きたくないルン!  わたしがどれだけ……どれだけ悩んでたかも知らないで……!」

「ご、ごめん! 痛っ! ごめんねララ!」

「もう嫌ルン! 最低ルン! ひかるなんか……ひかるなんか……!」

 

 視界が歪む。目頭から熱いものが溢れて、止まらない。ひかるなんかもう知らない。ひかるの顔なんか見たくない。わたしはの目を拭いながら、『ぜったいに言ってはいけない言葉』を口にしようとして――。

 

「…………大好き……ルン……」

 

 けっきょく、その言葉の代わりに、自分の本心を告げてしまう。

 ひかるは呆気に取られたような顔をしている。

 わたしはぐずぐずと声を震わせながら、

 

「わたし……いろいろ不安だったし、たくさん悩んだルン……こんなこと聞いて、重いって思われて、面倒くさがられたらどうしようって……嫌われちゃったらどうしようって……でも、わたし、知りたかったルン……ひかるのこと、もっと、もっと、知りたいって思って……それで……」

「……ごめんね。本当にごめんね。ララのこと、傷付けちゃったね」

 

 おそるおそる、ひかるが手を伸ばしてきて、頬に零れていた涙を拭う。わたしが嫌がらないのを確かめると、そのままわたしの体を包んで、背中をトントンと優しく叩く。

 

「ララは、わたしのこと、ずっと待っててくれたんだよね。わたしが、初めてだったんだよね」

「……ルン」

「あのね、それはわたしも、同じだよ。わたしだって、ララが初めてだよ」

「……ほんとルン?」

「うん。ほんとだよ。わたしも、ララのことが、ずっと大好きだったから」 

「……今のも、どうせ、冗談ルン?」

 

 顔をうつむけながら、拗ねるように言うと、ひかるの真剣な声が耳に入る。

 

「ほんとだよ」

「……もう何を言われたって、信じないルン」

「何を言っても?」

 

 声が震えてしまうのが怖くて、何も言えずに黙っていると、ひかるはわたしの顎をくいっと持ち上げる。目と目が合って、心の内側を覗き込まれる。あっ、と思ったときには、もう遅い。次の瞬間には、唇が重ねられている。

 

「ん……っ……ぁっ……」

 

 歯を閉じていられたのは、ごく短い間だけだった。わずかに生まれた隙間から、ひかるが入ってくる。しかし、決して強引にではない。わたしの気持ちを確かめるように、ひかるは優しく、わたしの中で動いていく。ひかるが奥の方まで来たとき、それまで我慢していたものが、くぐもった声といっしょに溢れ出る。

 

「んっ……ふっ……ぁっ……」

 

 唇が離れたときには、体はすっかり再燃していた。熱くて、暑くて、しかたがない。すると、ひかるはわたしの気持ちを察したのか、わたしの服をするすると脱がしていく。こもっていた熱が逃げていき、心地いい。いつの間にか、ひかるも服を脱いでいて、ぴとっと肌を重ねると、体温が直に伝わる。ひかるの体は、わたしと同じくらい火照っている。

 

「これで、信じてくれる……?」

「…………」

 

 無言のまま、コクンとうなずく。これ以上、ぐしゃぐしゃの顔を見られたくなくて、わたしはひかるの胸に頭をうずめる。

 

「……でも、そしたら、ひかるは何でそんなに慣れてるルン?」

「そ、そんなにかな……?」

「そんなにルン。慣れすぎルン」

 

 上目遣いに見ると、ひかるは照れたようにはにかみながら、

 

「たぶん、イエティのおかげかな」

「……ルン?」

「小さい頃は、好奇心の赴くままに触りすぎて、イエティにも嫌がられててさ。でも、どこをどういうふうに触ればいいのかを知っていったら、そのうち、『お腹を触って』って甘えてくれるようになったの。イヌにとって、お腹は急所だから、それを見せるのは『信頼してるよ』って意味なんだけどね。そのとき、自分のことだけじゃなくて、相手の気持ちも考えなきゃだめなんだって分かったんだ。……その経験がなかったら、ララのことも、触りすぎちゃって、嫌がられてたかも」

 

 ひかるは何かを思い出すように、視線を漂わせる。

 わたしはひかるの背中をさすって、

 

「……イエティのこと、また今度、ゆっくり聞きたいルン」

「うん。今度実家に帰ったとき、ララに見せたいものがあるんだ。そのとき、いっぱい話すね」

 

 ひかるは嬉しそうに顔を綻ばせると、わたしの手を取って、指を絡めさせる。

 

「……でも、言っておくけど、ひかるは今でも十分触りすぎルン?」

「え~~!? ほんとに!? これでもけっこう我慢してるのに!」

 

 ひかるは悲痛な叫びを上げるので、思わずふふっと笑ってしまう。

 

「あっ……もしかして、痛いときとかあった……?」

「う、ううん。そんなことないルン。ひかるは最初から――」

 

 言いかけて、慌てて口をつむぐ。が、ひかるはそれを聞き逃したりしない。ニヤニヤと、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、

 

「最初から、なあに?」

「……な、何でもないルン」

「ねえねえ、最初からなあに?」

「何でもないルン!」

「最初から」

「も~~~~! しつこいルン!!」

 

 ひかるの体に飛び掛かって、そのうるさい口を塞ごうとする。

 しかし、ひかるの方が体は大きくて、力も強くて、すぐに両手を取られてしまう。そのまま胸を軽く押されて、わたしは仰向けに倒される。ひかるの顔が間近にまで迫って、トクン、と心臓が跳ねる。

 

「……実はね、イエティのこと以外にも、もうひとつあるんだ」

「もうひとつ……ルン?」

 

 うん、とうなずいて、ひかるはわたしに体を重ねる。

 

「わたしさ。ララのこと、ずっと想像してたんだ。ララはいまごろ、どういうふうに成長してるんだろうなって。昔もかわいかったけど、成長したら、また、かわいくなってるだろうなって。もう一度会えたら、こんなことや、あんなことをしたいなって。そういうことを、十五年間、ずっと、ずっと、想像してたの。……慣れてるように見えるのは、その成果なのかも」

 

 ひかるの鼓動が、わたしの胸に直接響く。それは、わたしの鼓動と同じくらい速くなっている。

 

「……ひとつ、聞きたいルン」

 

 高鳴る胸もそのままにして、わたしはひかるに問いかける。

 

「想像してたわたしと、実際のわたしは、違ったルン?」

「うん。ぜんぜん違った」

 

 ひかるはそっと顔を上げると、わたしの目を見つめながら、

 

「本物のララは、わたしの想像力じゃ追いつけないくらい、とってもかわいくて、キラやば~っ☆だったよ」

「…………」

 

 ひかるは、ほんとうに、ズルい。

 自分でも呆れるくらい嬉しくて、返す言葉を見つけられないでいると、ひかるはわたしの前髪をあげて、額に優しくキスをする。

 

「……それから、想像してたよりも、敏感だったかな」

「なっ……!?」

 

 急激に、顔が熱くなる。

 

「うっ……うるさいルン……! ひかるが変なとこばっかり触るからルン!」

「え~、そんなに変なところを触ってるつもりはないんだけど……」

「触角は普通じゃないルン!」

「じゃあ、ララにとっては、どこが普通なの?」

「……っ! そ、それは……」

「それは?」

「だから……それは……」

 

 答えに窮していると、今度は胸元にキスをされる。

 

「ここはだめ……?」

「……やっ……ん……っ……っ……!」

 

 押し当てられたひかるの舌が、少しずつ、体の上を滑っていく。ぞわっとした感覚に襲われながら、必死に堪え続ける。と、今度は手が伸びてくる。お腹の下のあたりで、ひかるはゆっくりと円を描く。「ここは……?」なんて聞きながら、手をさらに下の方に伸ばそうとするので、咄嗟に、だめ、と言って、ひかるの体を押し返す。それ以上触られないように、わたしは布団の中に逃げ込む。

 

「ありゃ、隠れちゃった」

「……ひかるがいじわるするから、もうだめルン」

 

 布団に隠れながら言うと、ひかるはくすっと笑って、

 

「わたしね、ララのこと、もっと知りたいんだ」

「…………」

「でも、ララにはララのペースがあると思うから。本当にだめだったら、そう言ってほしいな。ララには、無理させたくないから」

「…………」

「ララの気持ち、聞かせて?」

 

 その瞬間、まどかの言葉が脳裏をよぎる。

 

 ――自分の気持ちに、従うべきです。

 

 時計の音が、カチカチと鳴っている。

 ためらいがちに顔を出すと、真っすぐにこちらを見るひかると目が合う。ひかるは何も言わない。わたしの気持ちなんて、本当はぜんぶ知っているくせに、あくまでもわたしが返事をするのを待っている。

 

「…………」

 

 イヌは、信頼している相手に、急所であるお腹を見せるという。

 わたしは恥じらいといっしょに、かぶっていた布団を横にのける。そのままひかるの胸に抱きつくと、擦れるような、小さな声で返事をする。

 

「…………だめ、じゃない、ルン」

 

 ひかるはニコッと微笑むと、わたしの体を抱きしめる。よしよし、とわたしの頭を撫でながら、耳元でそっと囁く。

 

「気持ちいいときは、そう、教えてね」

 

 激しい期待感と同時に、耐えがたい羞恥心が湧き上がってきて、わたしは返事をする代わりに、目の前の首筋にかぷっと吸い付いた。

 

 ☆ ☆ ☆

 

 後日、「どうでしたか?」とまどかに尋ねられたとき、わたしは顔を火照らせながら、ひとこと、「ルン」と答えた。

 

 

 了

 

その他のスタプリSS

 激甘ひかララ(29)SSの第一弾です。 お泊まりデートで"ツインルーム"を予約したひかるさんに、ララがパクッと食べられてしまう話。

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 第二弾です。宅飲み中、コーヒー牛乳をカルーアミルクだと偽り、泥酔した振りをするララが、ひかるさんに「ある取引」を持ち掛ける話。

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  私のえれまど解釈はこちらで詳しく書いてます。

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  スタプリ49話、15年後の世界の考察です。良かったら復習にどうぞ。

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