金色の昼下がり

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【ヒープリSS】『13歳の誕生日に隣のクラスの沢泉さんと偶然出会う話』※ちゆひな

 10月4日、平光ひなたさんの誕生日ということで、”13歳”の誕生日に隣のクラスの沢泉さんと偶然出会う話を書きました。

 

(ちゆひな/ゆるい百合/全年齢向け5000字程度)

 

 

 

 

『13歳の誕生日に隣のクラスの沢泉さんと偶然出会う話』


 チラっと腕時計を見てみると、約束の時間は五分ほど過ぎていた。念のためLINEをチェックしてみるけど特に連絡はない。
 まあもうちょっと待ってみるか。噴水の前で立ちながらあたしはひとりでうなずく。普段はあたしの方が遅刻してばっかりだし、たまにはこういうことがあってもいい。


 ゆめポートは混雑していたけど、楽しそうな人ばかり。みんなニコニコしている。あたしだって同じだ。だって今日はあたしの誕生日なんだから。


「プレゼント、何を買ってもらおうかな~!」


 今日はお店を回りながら何が欲しいか選んでくれるという話だった。かわいいアクセサリーとかポーチがあればいいなって思っているけど、何がいいかな?
 いろいろ想像しながらのんびり待っていたけど、約束の時間から十五分が過ぎてもまだ来ない。さすがに連絡くらいしてみようかなって思ってスマホを出すと、


「あっ……充電……」


 ぶー、と小さく振動したかと思うと、電源が落ちた。慌てて電源ボタンを押すけど、バッテリー切れのマークが現れるだけだ。
 今日はまだそんなに使ってないのに……。昨日の夜、充電するのを忘れたまま寝ていたのかもしれない。
 相変わらずそそっかしいなあ、と軽く自己嫌悪。まあでも、幸い約束の時間に遅れているのはあたしではない。しかたない、とあたしはひとりで待ち続ける。


 でも、二十分を過ぎてもふたりの姿は見えなくて、いい加減不安になってくる。もしかして、何か事故でもあったのかな……? それとも……?


「あの、平光さん」


 振り向くと、すらっとした大人っぽい女の子が立っていた。
 その顔には見覚えがある。隣のクラスの沢泉さんだ。
 沢泉さんはゆっくりこっちに向かってくると、どこかソワソワしながら言った。


「き、奇遇ね。お出かけなの?」
「うん! みなぴとりなぽんとショッピングしに来たんだ」
「そ、そうだったのね」


 沢泉さんとは中学になって同じ学校になった子で、クラスも違うからあんまり関わりがあるわけじゃない。それでも顔と名前を知っているのは体育の授業がいっしょだったからだ。あたしが一年一組で、沢泉さんが二組。すこやか中の体育は隣のクラスとの合同だった。


 沢泉さんは体育の授業でひときわ目立っていた。運動が得意で、陸上部でハイジャンをやってるらしい。全校集会で表彰伝達をするときにも前に呼ばれていたので、本当にすごい子なんだと思う。そのうえ頭も良いと聞く。あたしとは反対のところにいるような子だ。


「でも、みなぴとりなぽん、なかなか来なくて。ずっと待ってるんだけどさ……」
「連絡は取れないの?」
「うん。スマホの充電、切れちゃって……」
「そう……じゃあ、わたしのスマホ使う?」
「ほんと!? あ、でも電話番号覚えてない……。沢泉さんも、ふたりのLINEとか知らないよね?」
「あ、知らないわ……ごめんなさい」
「いやいや! 別にそっちが悪いわけじゃないからダイジョブ!」


 隣のクラスということもあって話せる機会がなかったけど、自分のことのように申し訳なさそうにしている沢泉さんを見ていると、きっと優しい人なんだろうなって思う。


「あ、あの、平光さん」
「どしたの?」
「その、よかったら、お友だちが来るまで、わたしもいっしょにいていいかしら?」
「へ?」


 突然の申し出に、一瞬、何て言ったらいいのか分からくなる。
 別に変な話なわけじゃない。ただいっしょにいてくれるっていうだけなんだから。それくらい、どうってことない。
 だけど、どうしてだろう。
 沢泉さんの挙動はぎこちなくて、顔は赤くなっていて、声も震えていた。たぶん緊張しているんだろう。案外人見知りだったりするのかな?


「あ、ごめんなさい、迷惑だったらぜんぜん……」
「う、ううん! ぜんぜんそんなことないし!」


 わたわた手を振りながら否定すると、沢泉さんは安心したように、


「それなら、よかった」


 と微笑んだ。
 沢泉さんって、こういうふうに笑うんだ……。
 それまでの硬い表情とはぜんぜん違う、本当に嬉しいときに見せる笑顔。それがめっちゃかわいくて、綺麗で、思わずドキっとする。


「あの、平光さん」
「はいっ!? な、なななんでしょう!?」
「何で敬語……?」
「あ、ううん。何でもない何でもない……」


 つい見とれてたなんて言えるはずもない。
 あたしは悟られないうちに、慌てて話題を元に戻す。


「そ、それでそれで? 何を言いかけてたの?」
「い、いえ……別に何でも……」
「え~! 何か言おうとしてたじゃん! 遠慮なく言って言って!」
「じゃあ、えっと……平光さんは、和菓子と洋菓子、どっちが好き?」
「え?」
「だから、和菓子と洋菓子」


 急に関連性のない話題を振られて戸惑う。


「えっと、どっちかっていうと、洋菓子かな……?」
「そ、そうなのね……」


 答えると、沢泉さんは目に見えてがっくりしていた。
 え、なんか間違っちゃった……?
 そういえば、沢泉さんは家が旅館だと聞いたことがある。旅館ってことは和菓子派なんだろう。洋菓子の方が好きだと言ったことで傷付いちゃったのかな……?


「あ、でもでも、和菓子も好きだよ! ほら、うちってお姉がカフェやってるから、食べる機会が多いのは洋菓子ってだけで、むしろめっちゃ和菓子な気分になることもあるっていうか……!」


 思わず早口になりながらしゃべっていると、沢泉さんの顔に少しずつ光が差してくる。


「じゃあ、和菓子も嫌いじゃなかったりする……?」
「うんうん! 和菓子もめっちゃ好き!」


 沢泉さんがごそごそとカバンの中を探す。何を探しているんだろう?
 その様子をじっと見つめながら待っていた、そのときだった。


「あーー! ひなた!!
「ここにいたーー!!」


 知った声があたしの名前を呼んだ。少し離れたところにりなぴとみなぽんがいた。ふたりは手を振りながらこっちに駆け寄ってくる。


「も~~! ふたりとも遅いぞ~~!」


 冗談っぽく言うと、ふたりは顔を見合わせて盛大なため息をつく。


「やっぱりひなた、気付いてなかったか……」
「え? 何何? 何の話?」
「約束してた場所。バス停に集合って言ってたでしょ? それなのに、先にこっちまで来てるんだから……」
「え? そ、そうだっけ……?」
「連絡もしたんだよ?」
「あ、スマホの充電、切れちゃってて……。ほんとごめん!」


 あーーまたやっちゃった……。
 そりゃ誰も来ないわけだ。集合場所を間違えてるんだから。
 せっかく誕生日プレゼントを選ぶために集まってくれたのに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。「ごめん!」ともう一回、手を合わせて謝ると、みなぴとりなぽんはそろってあたしの肩に手を載せた。


「いいんだよ、ひなたが間違えるのなんて、もう慣れっこだし」
「そうそう、小学校からの付き合いでしょ?」
「みなぴ……りなぽん……」


 ちょっと呆れはしてるけど、ぜんぜん怒っている感じじゃないふたりを見て安心する。あたしは本当に良い友達に恵まれてるなあ……。


「良かったわね、平光さん」


 やり取りを聞いていた沢泉さんが言った。
 そういえば、沢泉さんは誰かと待ち合わせてしてたのかな? 視線を向けると、そんなあたしの心を読んだように、


「わたしは家の仕事で頼まれた買い物があっただけなの。もう用は済んだから、これで失礼するわね」
「そうだったんだ。いっしょにいてくれてありがとね!」


 沢泉さんはみなぴたちにも軽く挨拶を交わす。確か家の仕事は旅館だって言ってたから、そのお手伝いで買い出しに来ていたんだろう。
 でも、その割には荷物が少ないような……?


「あの、平光さん」


 ふと、沢泉さんは足を止める。くるっと体を半回転させると、あたしのことをじいっと見つめながら言った。


「お誕生日、おめでとう……!」


 何を言われるのかと思ったら、お祝いの言葉だった。
 あたしは嬉しくなって、えへへと手を振った。


「ありがと! 沢泉さん!」


 すると沢泉さんは花が咲いたように満面の笑みを浮かべた。祝われているのはあたしで、祝っているのが沢泉さんなのに、沢泉さんはまるで自分がサプライズのお祝いをされたみたいに嬉しそうだった。
 あたしがばいばいと手を振ると、沢泉さんも遠慮がちに手を振り返す。そのまま人込みの中に紛れていくのを、あたしは最後まで見届けた。


「ひなたももう十三歳なんだね~」
「何が欲しいかはだいたい決めてるの?」
「えっとね~、いま欲しいなって思ってるのが……」


 ショップに向かいながら三人で雑談していると、ふと、沢泉さんのことが頭をよぎる。
 そういえば、あたしが今日誕生日だって何で知ってたんだろ?
 記憶をさぐる。あたし、沢泉さんに言ったっけ? 


「? ひなた、どうかしたの?」
「あ、ううん! 何でもない~!」


 まあ、話してる最中に言っていたのかもしれない。
 でも沢泉さん、めっちゃ優しい人だったなあ。沢泉さんの誕生日はいつなんだろ? 今度はあたしがおめでとうって言いたいな。
 あと、沢泉さんって言うのも仰々しいから、次はあだ名で呼びたい。どんなあだ名がいいかな? 上の名前は沢泉で、下の名前は確か、ちゆ、だから……。
 あ、これなんてどうだろう。めっちゃかわいくて、語感もいい感じ。
 あたしは思いついたそのあだ名を、親しみを込めてそっとつぶやいてみた。


 ※ ※ ※


 誰かが自分のことを呼んだ気がした。振り返ってみただけど、特にわたしの方を見ている人は見当たらない。おそらく、気のせいだったのだろう。
 わたしはバス停に向かいながらさっきのことを思い返す。


 ――沢泉さん。


 平光さんは、そうわたしのことを呼んでくれた。
 隣のクラスの、とびっきりかわいい子。笑顔が明るくて、彼女の周りにいる人たちはいつも楽しそうにニコニコしている。誰とでも気兼ねなく話せる彼女は交友関係も広い。でもほとんど話したことのないわたしのことはもしかしたら覚えていないかもしれないと不安だったから、知っていてくれて嬉しかった。それこそ、頭がどうにかなってしまいそうなくらいに。


 体育の授業ではいつも平光さんのことを見ている。だから今日が彼女の誕生日であることや、今日この時間にゆめポートに遊びに来るというのもこっそり聞いていた。そういうわけで、偶然を装って会いに来ていたのだけれど……。


「……渡せなかった、わね」


 はあ、とため息をついて、カバンの中を覗き込む。平光さんのために用意した誕生日プレゼント。あとに残るものだと重いかなと思って、無難に旅館沢泉で売っているすこやか饅頭を持ってきた。これだったらたまたま持っていてもおかしくないし、何かのついでみたいな感じで渡しても変に思われないんじゃないかと考えてのことだ。


「どうしようかしら、これ……」


 一応、自分のお小遣いで買ったものだし、戻すわけにもいかない。あげる相手も他にはいないから、食べてしまおうか。そう思って、包装を開けてひとりで食べる。あんこがぎっしり詰まったすこやか饅頭は、とてもおいしかった。
 おいしかった、けれど。 


「……平光さんに、あげたかったな」


 クラスが違うとなかなか接点がないし、体育の授業では色んな子がわたしのことを頼るし、平光さんは平光さんで友達に囲まれているから、なかなか話に行くチャンスがない。
 もっとも、いざ対面してもどんな話をしたらいいのか分からないというのが正直なところだ。わたしは平光さんと違って、あまり話したことのない人とでも盛り上がれるようなコミュニケーション力を持っているわけではない。


「今度、うちに来てくれたりしないかしら……」


 そうしたら、いっしょにお菓子を食べられるし、無難じゃない本命のプレゼントだってあげられるし、いっしょにうちの温泉だって入れるのに。
 と、そこまで想像したとき、心臓が早鐘を打っていることに気付く。そうだ。もし仲良くなれたら、いっしょに温泉に入ったりもできるんだ。そしてもし、万が一、自分の気持ちを受け入れてもらえるようなことがあれば……。


「……待つのよ、沢泉ちゆ。その前には、ちゃんと仲良くならないと」


 ぺしっと自分の頬を叩いて、この先どうしたら彼女と仲良くなれるか考える。とりあえず練習をしておこう。人間関係の基本はまず名前だ。お互いに下の名前を呼び合うような関係になることが先決だと思う。そのためには、とにもかくにも練習が大事だ。


 わたしは彼女の姿を想像しながら、愛しさを込めてその名前を口にする。
 来年こそは、ちゃんとした誕生日プレゼントを渡せる関係になりたいと、そう願いながら。

 


 終わり

 

ちゆひな雑感

 ちゆひな沼にハマってしまってまだそんなに経っていないはずなんですが、他のCPよりも書いた量が多くなってきました。もちろんちゆひな以外のCPも好きなんですが、ひかララなどと比べるとどうしても民の人口が少ないということもあって、摂取したい!→でも供給が少ない!→書く!というスパイラルがフル回転しているような気がします。

 

 一応、ちゆひなガチ百合SSを書いているのは自分ひとりだけではないことは確かめられているので、その点はとても幸せだなと思いつつ、ぜいたくを言えばもっと読みたいなというのが本音です。ちゆひな、次に目が覚めたら大ブームになってないかな…。

 

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