金色の昼下がり

プリキュアについて割と全力で考察するブログ

【ヒープリSS】やっぱりダルイゼンは助けない ※ダルのどの二次創作

 ストーカーに絡まれたのどかをダルイゼンが助けてくれるんだけど本人は助けたわけじゃないと頑なに言い張るお話です。

 

(ダルのど/6000字程度/全年齢向け)

 

 

 

『やっぱりダルイゼンは助けない』

 

「――あのさ、そのたこ焼きって、どこで買ってきたの?」


 買い出しから戻っていると知らない男の人に話しかけられた。
 歳はたぶん二十くらいの人だ。友達からたこ焼きを買ってきて欲しいと頼まれたみたいだけど、屋台の場所が分からなくて困っているらしい。
 お兄さんが迷うのもよく分かる。
 この日は夏らしく隣町の花火大会に来ていたけど、こんなにたくさんの人の中だとどこに何があるのかも分からない。


「たこ焼きだったら、あっちの方で売ってましたよ」


 にっこり笑って答えると、お兄さんはポリポリ頭をかきながら、


「僕、方向音痴でさ……よかったらちょっと案内してもらえない?」


 わたしはたこ焼きを待つみんなのことを思い浮かべたけど、そんなに時間がかかるわけではないし、花火が始まるまでにもまだ少し時間がある。困っている人を放ってはおけないので、「いいですよ」と答えて道案内する。


「たこ焼きはちょっと離れたところにあるんですよね~」
「へえ。そうなんだ」
「お兄さんはここの町の人なんですか?」
「まあね。幼いころから来てるんだけど、屋台の場所は毎年変わっちゃうからさ。いつも迷子になっちゃって」
「でも、これだけ人がいっぱいだと分かりにくいですよね」
「君は他所から来たの?」
「はい。隣のすこやか市から」


 雑談しながら歩いていると、やがて目的地に着く。
 たこ焼き屋は誰も並んでいない。お兄さんはたこ焼きを一セット買って、すぐにこちらに戻ってくる。


「ありがとう。おかげで友達から怒られずに済むよ」
「いえいえ、どうしたしまして」


 笑顔を浮かべるお兄さんを見ていると、こっちまで嬉しくなってくる。こんなふうに人助けができたとき、生きてるって感じがする。


「そういえば、君の友達はどこにいるの?」
「あっちの方で待っています」
「場所取りはうまくできたの?」
「一応……来るのが遅れちゃったので、隅っこの方なんですけど」
「じゃあさ、お礼と言ったらなんだけど、地元の人しか知らない穴場を教えてあげるよ。そこからだとよく花火が見えるし人も少ないから、友達も喜ぶと思うよ」
「そんな場所があるんですか!?」


 こっちに来て、というお兄さんの後ろをてくてく着いていく。途中で裏道に入っていくと、だんだん人通りも減っていって、街灯も少なくなっていく。ひとりではあんまり歩きたくないような道だけど、地元の人がいるから安心だ。
 ……と、思っていたら。


「――よう」


 突然、曲がり角からその人が現れた。
 ぶっきらぼうで、いつも人を冷笑するような顔をしていて、何を考えてるのか分からない人。
 その人の名前は――


「ダルイゼン……何でここに……?」
「いちいち外を出歩くのにお前の許可が必要なワケ?」


 ムッとしながらも、わたしはいったん口を閉じてどうするべきか考える。
 ラビリンたちはいないからプリキュアになることもできないし、みんなの助けを呼ぶには離れすぎている。せめてお兄さんだけでも逃げてもらわなきゃと思って、お兄さんに「逃げてください」と耳打ちしたとき、


「へえ。この期に及んでその男の心配してんだ」


 ダルイゼンが、嘲笑った。


「だって、あなたが……」
「なあ。さっきチラっと聞こえたんだけど、この町の人間なんだって?」


 ダルイゼンはわたしのことを無視してお兄さんに問いかける。
 お兄さんはわたしとダルイゼンの関係がどういうものなのかよく分かっていないんだろう。困惑した顔をしながら、


「そ、そうだけど……」
「それで、幼いときからこの花火大会に来てるって?」
「……ああ。でも、だから何なんだ? っていうか、この子に何の用なんだよ。嫌がってるじゃないか」
「嫌がることをするからいいんだろ」
「……ひどいやつだな」
「アンタと同じさ」


 お兄さんが眉をひそめると、ダルイゼンはすかさず続ける。


「この町の花火大会が始まったのは五年前だ。五年前のアンタは小さい子どもだったのか?」


 ダルイゼンは紙をひらひらさせながら見せる。それは花火大会のチラシだ。確かにそこには『五周年』の文字が大きく書かれている。


「……ああ。いや、さっきのはただの言い間違えだよ。それくらい知ってる」
「それからたこ焼きの露店の場所。アンタは毎年変わってるって言ってたけど、露店のおっさんは五年前からずっと変わってないって言ってたよ」
「……じゃあ、記憶違いかな。方向音痴だから、僕」
「へえ。そんなひどい方向音痴なのに誰も知らない穴場を知ってて案内できるんだ。すげえじゃん」
「…………」


 お兄さんは返事しない。
 どうしたのかなと思って見てみると、お兄さんの目がぎょろりと動いてわたしに向けられる。


「……のどかちゃん。こっちにおいで」


 そのとき、なぜだか分からないけれど、ぞくりと背筋が凍った。
 お兄さんの手が伸びてきて腕を引っ張られる。突然のことだったのでバランスを崩して、持っていたたこ焼きの袋も落としてしまう。


「あっ、たこ焼き……というかお兄さん、何でわたしの名前を……?」
「僕は君のことなら何でも知ってる。何でも知ってるんだよ、花寺のどかちゃん」


 お兄さんは猫を撫でるような声で言う。
 何でも知ってるって、どういうことなんだろう?
 わたしが知らないだけで、実は知り合いだったりするのかな。
 知り合いなのにわたしだけ気付かないのは失礼だよね……。
 でもお兄さんの握る手は力が強くて、ちょっと痛い。
 離してもらえませんか、とお願いしようとしたとき――


「何でも知ってるって? じゃあこいつの寝顔も知ってんのか?」

 

 ダルイゼンはお兄さんを突き倒すと、わたしの肩をぐいっと引き寄せた。


「いっ、てぇな……! 何すんだよ、てめっ…………え……?」


 起き上がってすぐダルイゼンに掴みかかるお兄さんは、だけどすぐに黙りこむ。
 ダルイゼンがお兄さんの胸元に何かを突き刺していた。

 赤黒いモヤが滲み出して、お兄さんの体を包んでいく。


「っ……あ……何だ、これ……ひっ……」


 身動きを取ろうにも動けないようだ。呆気に取られているうちにも、赤黒いモヤはみるみるうちにお兄さんの体を侵食していく。


「オレはダルイのが嫌いなんだ。一度だけ言うからよく聞いておけ」
「まっ……待って……」
「こいつを蝕んでいいのは、オレだけだ」


 ダルイゼンに蹴り飛ばされたお兄さんはボールのように飛んでいき、民家のブロック塀に激突する。ぐえっ、と肺の中の空気が無理やり外に押し出されるような声が聞こえた。

 

「……ちょ、ちょっと! お兄さん大丈夫ですか!?」


 慌てて駆け寄ろうとするけれど、お兄さんは「もうしませんもうしません!」と叫びながら走り去ってしまった。


「……行っちゃった」


 お兄さんの背中は曲がり角の向こう側に消えていく。

 その様子を見届けていると、ぺしっと頭をチョップされた。


「あいたっ」
「お前さ、無防備すぎ」
「む、無防備……? あっ、それよりお兄さんに何したの!? 大丈夫なの!?」
「あの赤黒いのはしばらくしたら落ちる。あんなヤツ、蝕む価値もない」
「そ、そっか……なら良かった……」
「…………え? 何? もしかして気付いてないの?」
「気付いてないって、何が……?」
「…………は~」


 きょとんとしているわたしを見ると、ダルイゼンは心底イライラしたようにため息をつく。


「前から思ってたけど、お前、バカでしょ」
「なっ、何で急にそんなこと言われないといけないの!?」
「お前、さっきの男にストーカーされてたんだよ」
「えっ……?」
「すこやか市の大声コンテストのとき、お前、優勝して名前呼ばれてただろ。そこで名前も顔も知られたんじゃないの。まあ、あれだけビビらせておけばもう大丈夫だと思うけど」
「…………」


 確かにどれだけ思い出そうとしてもさっきのお兄さんが知り合いにいた記憶はないし、考えてみるとおかしいところがいくつもあった。
 さっきお兄さんに腕を掴まれたところがじんじんする。
 もしダルイゼンがいなかったら……そう思うと急に怖くなってきて、足から力が抜ける。気が付くとわたしは地面に座り込んでいた。


「じゃ、じゃあ……助けてくれたって、こと?」
「は? だからオレがお前を助けるワケないじゃん」
「で、でも……あいたっ」


 またチョップされる。


「オレは、お前がオレ以外のやつに蝕まれるのが、イヤなだけ」


 じゃあな、と言い捨てて歩き去ろうとするダルイゼンの背中を、わたしは咄嗟に呼び止める。


「ま、待って……!」
「何だよ。キンキンうるさいな」
「今日は……地球を蝕まないの?」
「何? 蝕んでほしいの?」


 ぶんぶんと首を横に振る。


「じゃあもういいだろ。それともオレに何か用なの?」
「えっとね……その……もし今日は何も悪いことしないなら……」
「……?」
「ちょっとだけ、手を貸してもらってもいい? こ、腰が抜けちゃって……」


 ダルイゼンは呆れたような目で見下ろしてくる。


「……ビョーゲンズから手を借りようとするプリキュアなんか初めて聞いたけど」
「でも、いまのわたしはプリキュアじゃないし、あなたも地球を蝕むつもりはない……でしょ?」


 ダルイゼンは舌打ちすると、そっぽを向いて言う。


「……二度と人助けしないと誓うか」
「え?」
「誓えるなら、手を貸してやってもいいけど」
「それは……ダメだよ」
「さっきもそのせいで危ない目に遭ったのに?」
「うん。そういうことだってあるかもしれないけど……わたしは、やめない」


 わたしははっきりと言う。
 だってそれは、わたしにとって大切なことだから。


「……じゃあ、交渉決裂ってことで」
「え~! そんな!」
「立ちたかったら自分で立てよ。いまのお前にはその足があるだろ」


 ダルイゼンは面倒くさそうに言って背中を見せる。


「あっ、待って待って!」


 わたしにはダルイゼンに伝えなきゃいけないことがある。
 だからわたしは、ダルイゼンにも聞こえるように、大きな声で言った。


「あの、さっきはありが――」


 そのとき。
 世界を震わせるような爆発音が鳴り響いて、わたしの言葉はかき消されてしまう。
 打ち上げ花火だ。
 夜空を飾る花は次々に咲いては散っていき、その一瞬ごとに少し離れたところからどよめきの声が上がる。


「ふわ~……」


 こんなに間近で打ち上げ花火を見るのは生まれて初めてのことだった。
 入院していたときに何度もテレビで見た光景が、いま、目の前にある。
 そのことが嬉しくて、夢でも見ているようで、信じられなかった。


「――ねえねえ! ダルイゼンもいまの花火……って、あれ?」


 花火の小休止と同時に前を見ると、ダルイゼンは消えていた。


「……行っちゃった、のかな」


 キョロキョロと見回すけれど、やっぱり姿は見当たらない。
 そういえば、ダルイゼンはどうしてここにいたんだろう?
 実は夏祭りを楽しむために来ていたのかな?

 いつの間にか足腰にも力が戻っていて、わたしは自分の力で立ち上がる。
 うん。大丈夫。もう問題ない。

 たこ焼きは落としてしまったせいでぐちゃっとなっているけど、食べる分には問題なさそうだ。
 早歩きでみんなのところに向かうと、最初にわたしを迎えてくれたのはひなたちゃんの明るい声だった。


「あ! のどかっち!」
「ご、ごめんね遅くなっちゃって……」
「大丈夫? 何かあったの?」
「え? あ、うん、ちょっとね……」
「何何!? もしかして、ヤバイ人に絡まれたとか!?」
「え、えっと……! それは、その……」


 いきなり図星だった。
 たじたじになりながら、わたしは事の経緯を簡単に説明する。
 ――でもこのとき、わたしはみんなにひとつだけ隠し事をした。
 説明を終えて最初に口を開いたのはアスミちゃんだった。


「わたくしがいれば……そのような輩……徹底的に浄化しましたのに……」


 ギリギリと噛みしめながら言うアスミちゃんは、なんだかちょっと物騒で笑ってしまう。


「ごめん、のどか……ひとりで行かせてしまって……」


 まず謝罪の言葉が出てくるのは、責任感の強いちゆちゃんらしい。


「ううん、ちゆちゃんは悪くないよ。そもそもわたしがひとりで行くって言ったんだし」
「でも……」
「わたしは大丈夫だから、ね? ほら、買ってきたたこ焼き! みんなで食べよ?」


 ニッコリ笑ってたこ焼きを差し出すと、ちゆちゃんも柔和な顔をつくる。


「……ありがとう、のどか」


 みんなでたこ焼きをシェアしていると、不意にひなたちゃんが口を開く。


「けどさ、のどかっち、優しい人に助けてもらえて良かったね」
「え?」
「どんな人だったの? 助けてくれた男の人って」
「そ、それはその……えっと……」


 ごにょごにょと口ごもる。
 わたしがみんなにした隠し事――それはダルイゼンのことだ。
 みんなには、通りすがりの男の人に助けてもらったと説明していた。
 理由はよく分からないけれど、何となく、みんなには秘密にしておきたかった。


「うーん……ちょっと変わってて……悪い人、なのかな……」
「え? その人も悪い人なの?」
「あ! いや……でも、優しいところも、ある……のかな……」
「不良っぽいけど、根は優しいみたいな?」
「うーん……そんな感じ……?」


 ダルイゼンが何を考えているのかはよく分からない。
 わたしのことを助けておきながら、助ける気はないと言う。
 人助けなんかするなと言いながら、わたしのことを助けてくれる。
 ありがとうと伝えようとしても、その言葉を伝える前にいなくなってしまう。
 ダルイゼンは、わたしのことをどういうふうに思っているんだろう……?
 そんなことをぼんやり考えていると、「あれ?」とちゆちゃんが声を上げる。


「のどか、どうしたの? その汚れ」
「え……?」


 浴衣の肩のところを見てみると、赤黒いシミができている。
 それはたぶん、ダルイゼンが残したものだ。
 肩を引かれた、あのときに……。


「け、ケチャップでもついちゃったのかな……あはは……」


 誤魔化すように笑いながらさりげなく手で隠したとき、わたしはダルイゼンの言葉を思い出す。


『こいつを蝕んでいいのは――』


 それは本来であれば拒絶するべき言葉だし、間違っても喜んだりしていはいけない台詞だ。
 なのに。


「? のどかっち、何でいま笑ったの?」
「へっ? きっ、気のせいだよ気のせい! ……あ! ほら! 花火また始まるみたいだよ!」


 花火再開のアナウンスが流れる。
 空を見上げて待っていると、光の筋が天に昇って大輪の花を咲かせた。
 やっぱり、すごく綺麗だと思う。
 でも、わあああ、とか、おおおお、とか、みんなが思い思いの感動を声に出している中で、わたしの心は花火以外のことを考えていた。


「……ダルイゼンの目にも、同じように映ってるのかな」


 そんなわたしの独り言は花火の破裂音にかき消されて、夏の夜の湿った空気に溶けていく。

 


 終わり

 

ダルのど所感

 ダルイゼンが好きです。

 主人公の掲げる理想を揶揄するかのように「生きてるって感じ」とのたまう彼の言動や他者を何の躊躇もなく踏みにじる悪悪しいムーブ(6話)、いいですよね。痺れるくらい好きです。プライドが高そうなのもポイント高い…。

 

 これは私の妄想と願望でしかありませんが、ダルイゼンとのどかさんのあいだには並々ならぬ運命の結びつきがあってほしいですし、いつも無気力なダルイゼンを激怒させるのはのどかさんであって欲しいですし、願わくば互いの身をズタボロにするまで激闘を繰り広げてほしいです。

 

 基本的に百合ばかり妄想していますが、ダルのども好きなのでまた何か思いついたら書きたいです。

 

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