スター☆トゥインクルプリキュア8話、安定の土田回でしたね。
土田豊(つちだ ゆたか)氏は、プリキュアシリーズにしばしば現れる、シュールなギャグを得意とする演出家です。
プリキュアを視聴していて「今週の話なんかシュールだったな」と思ったら、土田氏だと思えばだいたい大丈夫です。
参考記事:プリアラ映画の監督、土田豊のプリキュアでの仕事。 - プリキュアの数字ブログ
さて、そんなスタプリ第8話でしたが、シュールな表現の裏で、プリキュアの核心をつくようなテーマが語られていましたね。
すなわち、目の前の友達と、世界の平和を天秤にかけたとき、プリキュアはどちらを選ぶべきか? というものです。
この記事は、スター☆トゥインクルプリキュア 8話についての感想・考察をしたものです。ネタバレありです。
スタートゥインクルプリキュア 8話 あらすじ(ネタバレあり)
ケンネル星に到着した星奈ひかるたち。
そこで毛並みがふかふかのケンネル星人、ドギー・マギー・ネギ―と出会う。
しかし、ケンネル星人が「聖なる骨」として大切にしていたものは、実はプリンセスカラーペンだった!
ペンを譲ってくれないかと頼む星奈ひかるたちだが、ドギーは自分たちの大切なものだからできないと断る。
そこへカッパードが現れ、プリンセスカラーペンを奪おうとする。
ひかるたちはプリンセスカラーペンを守るために戦うが、ドギーはプリキュアもカッパードも「聖なる骨を奪おうとする同類」だと断じる。
カッパードを倒して、訳を話したプリキュア一同。
最終的には理解を得て、プリンセスカラーペンを譲ってもらいましたとさ、めでたしめでたし。
1.プリキュアは功利主義を否定する
ベンサムの功利主義とは?
功利主義(ユーティリタリアニズム)とは、ジェレミ・ベンサムが体系化した考え方です。
そのスローガンは「最大多数の最大幸福」*1
ざっくり説明すると、「みんなが最大限幸福になれるような行為・制度こそが正義である」という考え方です。
有名な例として、トロッコ問題というものがあります。
トロッコ問題における道徳的ジレンマ
<問題1>
乗車していたトロッコが制御不能に陥りました。
このままだと進行方向にいる5人をひき殺してしまいます。
この時、あなたはトロッコの進行方向を変えることができますが、そうするとそちら側にいる1人をひき殺してしまいます。
さて、トロッコの進行方向は変えるべきでしょうか?
<条件1>
- 進行方向を変えなければ5人が死亡。1人が助かる。
- 進行方向を変えれば1人が死亡。5人が助かる。
功利主義者は、「みんなが得られる幸福度の総和が最大になるようにする」ことが正義であると考えるため、トロッコの進行方向を変えることに賛成します。
5人が死ぬより、1人だけが死んで済む方がまだマシな気がしますよね。
これには賛同者も多いと思います。
では、次のような場合はどうでしょう?
<問題2>
トロッコが制御不能に陥りました。
このままだと進行方向にいる5人をひき殺してしまいます。
あなたの隣には、とても太っているAさんがいます。
Aさんをトロッコの前に突き飛ばせば、Aさんの巨体で何とかトロッコを止めることができます。ただし、このときAさんは死にます。
さて、あなたはAさんを突き飛ばしてトロッコを止めるべきでしょうか?
なお、あなたは痩せているため、トロッコの前に飛び込んだとしても、トロッコを止めることはできません。
<条件2>
- Aさんをトロッコの前に突き飛ばせば5人が助かる。Aさんは死亡。
- 何もしなければ5人は死亡。Aさんは生存。
問題1においては「進行方向を変更すべきだ」と考えた人でも、問題2で「Aさんを突き飛ばす」と答えることにはなかなか抵抗があると思います。
しかし、功利主義の立場からすれば、問題2は問題1と本質的に変わりはなく、「Aさんを突き飛ばすべきだ」という回答になります。
そちらの方が「みんなが得られる幸福度の総和が最大になる」ためです。
プルンスは功利主義的な言動を取った
スタプリ8話においても、トロッコ問題のような苦渋の選択を迫られるシーンがありました。
ケンネル星人からスターカラーペンを奪えば、宇宙平和の実現が近づきます。
しかし、そうすればケンネル星人たちは大切にしていた「聖なる骨」を失い、悲しみい暮れることでしょう。
功利主義の立場からすれば、ケンネル星人からスターカラーペンをもらう(もらえないなら奪い取る)ことが正義でありました。
実際、プルンスは、宇宙平和のためなんだからスターカラーペンを取ってしまえ、と功利主義的な言動をとっていましたね。
「宇宙平和のため」「より強い力を手に入れられる」「だからスターカラーペンを取れ」とキュアソレイユにそそのかすプルンスは、ケンネル星人から見ればカッパードたちノットレイダーと何ら変わりありませんでした。
(プリキュアが敵扱いされるという割とシリアスな要素はあったものの、ちりばめられたギャグにより全体的には明るい調子で、視聴したあとには「おもしろかったな~」と思えるあたりは、さすが土田さんだと思いました)
天宮えれなはベンサムの功利主義を否定した
しかし、キュアソレイユはプルンスの指示を断ります。
キュアソレイユは功利主義を否定し、宇宙の平和よりも、目の前の友達の笑顔を選んだわけです。
キュアソレイユの示した正義は、「自分たちや世界の多くの人にとってどれだけ大切なものであっても、それが人のものを勝手に奪ってもいい理由にはならない」というものでした。
たとえ「宇宙平和のため」であったとしても、「それが人のものを勝手に奪ってもいい理由にはならない」と身をもって答えるわけです。
実に熱いシーンでしたね。
ちなみに、天宮えれなはベンサムの功利主義を否定したわけですが、
2.他文化に歩み寄り受容できるか?度量が問われた第8話
率先してケンネル星人のあいさつをした星奈ひかる
8話はキュアソレイユこと天宮えれなの見せ場が光る話でありましたが、その裏で星奈ひかるもその魅力をいかんなく発揮していました。
たとえばケンネル星人のあいさつ。
他のメンバーたちは「(あれは無理だ)」と試そうともしないなかで、星奈ひかるは積極的にケンネル流のあいさつをしました。
しかも、ドギーたちに「違う!」と怒られてもまったくめげません。
ケンネル文化の産物である毛生え薬についても、星奈ひかるは興味津々で手に取ります。(天宮えれなが預かっていなかったらたぶん使ってたと思います)
視聴者である私たちは、ここで、スタプリ2話、ララが星奈ひかるのおにぎりをはじめて食べたときのシーンを思い出したことでしょう。
しかし、ひかるを支配する感情は恐怖ではなく興味であります。
彼女は躊躇なく、コスモグミを食べて「おいしい!」と笑顔で絶賛するのです。
こんな友好的な対応をされたら、ララはどう思うでしょうか?
ひかるの差し出す「石ころのような」謎の地球食・おにぎりを、勇気を出して一口ぐらい食べてみようと思ったはずです。
スタプリ8話においても、まず最初にひかるが友好的な態度でケンネル文化に歩み寄ってみせたからこそ、天宮えれな先輩の握手が受け入れてもらえたのだと思うのです。
男気を見せたプルンス
あと個人的に熱いなと思ったのは、ツルツルであることを誇り(?)に思っているプルンスが、自ら毛生え薬を使ってモフモフになったことです。
あの毛生え薬のおかげもあり、無事にカッパードを倒すことができたわけですが、逆にあの毛生え薬がなければカッパードの攻撃を防ぐことはできませんでした。
ドギーたちは傷つき、スターカラーペンは奪われ、宇宙平和も遠ざかってしまったことでしょう。
そうした事態に陥ることを防いだのが、ケンネル星人が大切にしてきた文化・価値観である「毛」であったことは、いい演出でした。
プルンスが「毛文化」のことを理解し、受容したからこそ、あのカッパードの攻撃を防御することができたわけです。
その後も、ケンネル星を離れるまで、プルンスはモフモフになったことを嬉しそうに振舞っていました。
ケンネル星で「体毛は嫌だ!」と声を出すのは、ケンネル星人たちに対する侮辱ともとられかねないので、少なくともケンネル星にいるあいだは我慢していたのでしょう。
その点については、プルンスは男気を見せたなと思います。
ララとまどかに毛生え薬を使ってほしかった
あと、どうでもいい話ですが、個人的にはララや香久矢まどか先輩あたりに毛生え薬でモフモフになる展開も見たかったです。
ララにひかるが、まどかにえれなが抱き着いて「モフモフだ~」とやるわけです。ララやまどかは顔を赤く染めながら「やめるルン~!」「やめてください…!」とやるわけです。
何だこれ。めっちゃ見たい。私得でしかない。
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*1:厳密にいうと、ベンサムは後に”最大多数”という表現を切り落として「最大幸福原理」と呼ぶようになりました。