少し前に、スター☆トゥインクルプリキュアのひかユニ関連でこんな呟きをしました。
「今日は来ないのね」。ふと窓の外に目を向けると、ララと手を繋ぎながら下校するひかるが見える。翌日ひかるが来たときには、ツーンとした態度でろくに目も合わさないんだけど、そしたらひかるが1冊の本を借りに来て、そのタイトルが『ネコのこころがわかる本』で、思わず顔を赤くしてしまうユニ……
— 金色 (@konjikinohiru) September 12, 2019
あれからいろいろと試行錯誤していたら、ひかユニの二次創作ができていました。
無自覚なひかるさんにグイグイ来られて、あわあわしてしまうユニの話です。ユニが転校してきて、学校の図書委員をやってる設定です。
(ひかユニ/百合/コメディ/全年齢/5000字程度)
『図書室で鳴いたネコ』
何も積極的な理由で図書委員になったわけではない。
学校のなかでも人気(ひとけ)がなく、本がたくさん置いてあって、ひとりで気ままに過ごせる場所――それが図書室だと聞いたから、なってみただけだ。
実際、図書室に人は少なかった。自分以外には誰もいないか、いたとしても一人いるだけだ。
ただ、ひとつ想定外だったのは――
「ねえねえユニ~! 見て見て! これ、わたしの好きなSF小説なんだけど――」
人は少なくても静かな場所ではなかった、ということに尽きる。
「……あのねえ、図書室では静かにしなさい。他の人の迷惑になるでしょ」
「でも、わたしたち以外には誰もいないよ?」
「仕事の邪魔になるのよ」
「またまた~。読書は仕事じゃないよ?」
ひかるは意地の悪い笑みを浮かべながら指摘する。
むっとしながら、わたしは読んでいた本を閉じる。
「とにかく、注意書きにもあるとおり、静かにして。出禁にするわよ」
「えー、ユニとおしゃべりしたかっただけのに……」
「おしゃべりなんかいつだってできるでしょ。しょっちゅうみんなで集まってるんだから」
「それはそうだけど……ユニと二人で話したいんだもん」
その言葉に、ドキリとする。
ひかるは時々、聞いてる方が恥ずかしくなるようなことを言う。
しかし、いちいち反応していたらキリがない。本人は大して意味もなく言っているだけなのだ。
「……図書室はしゃべる場所じゃないって言ってるでしょ」
「じゃあ、あとで一緒に帰ろうよ!」
「今日は図書委員の仕事があるから――」
「あるから?」
「駄目」
「え~、つまんない~」
「もう……いい加減うるさいわよ」
語気を強めて言うと、ひかるも諦めたようだ。
「はーい……邪魔しちゃってごめんね……」
ひかるはしょんぼりとしながら、空いている席に座る。
ちょっと言いすぎたかもしれない。少し心配になって、一度そらした視線を再びひかるに向ける。ひかるは真剣な表情で本を読み始めている。表紙にはネコの後ろ姿が描かれているので、ネコの登場するSF小説なのかもしれない。
じっとしていられないわけじゃないのよね、と内心でつぶやく。静かに読書をしているひかるは、普段とはまた違う顔をしている。
ぼんやりとその横顔を眺めていると、不意にひかると目が合った。ひかるは小さく手を振って微笑みかけてくる。わたしは慌てて目をそらすと、手元の本に視線を落とした。
☆ ☆ ☆
翌日も当番だったので、わたしは図書室にいた。
いつものとおり、人は少ない。というより、自分以外には誰もいない。ひかるもいないので、ゆっくり過ごせそうだ。
今日は何を読もう。
そんなことを考えていると、ふと、外から楽しげな笑い声が聞こえてくる。窓から顔をのぞかせると、下校中のひかるの姿が目に映った。
「今日は来ないのね……」
ほっと安堵したとき、ひかるのもとにひとりの異星人が駆け寄るのが見えた。
ララだ。
二人は手を繋ぎながら、校門の外に向かう。どうやら今日は二人で帰るらしい。
ズキリ、と。胸に痛みが走った。
落ち着かない想いを抱えたまま、図書室をフラフラ歩き回る。途中で、昨日ひかるが読んでいた本を見つけた。試しに手に取って中身を読んでみるが、漢字が難しくてほとんど読むことができない。まるで見えない壁に阻まれているようだ。
内心で苛つきながら、わたしは本を閉じた。
☆ ☆ ☆
「――ユニ~!」
声の持ち主はひかるだ。わざわざ見なくても分かる。今日はこちらに来たらしい。
わたしは気付かないフリをして読書を継続する。
しかし、ひかるはそんなことはおかまいなしに近付いてきて、わたしの顔を覗き込む。
「あのね、昨日見つけたんだけどね、商店街にすっごい美味しいお店があってね、」
「興味ないわ」
「ユニもあとで一緒に行こうよ~!」
「……興味ない」
「あ、もしかしてわたしの味覚を疑ってる? ララも一緒に食べたんだけど、ララも美味しいって、」
「だから、興味ないって言ってるでしょ……!」
思わず声を荒げてしまう。ハッとなって、顔を上げる。
ひかるは何とも言えない顔をしながら、「そっか……」とつぶやく。
「えへへ……ごめんね。つい興奮しちゃって……」
ひかるは悲しげに微笑むと、本棚の奥に消えて行く。
その後姿を見届けたわたしは、自責の念に駆られる。胸がじくじくと痛む。
いや、そもそも悪いのはひかるだ。
毎日のように図書室に来ては騒がしくするひかるが悪い。かと思えば、図書室に来ずにララといちゃいちゃしているひかるが悪い。わたしの読めない本を読んでいるひかるが悪い。
何もかも、ひかるが悪いのだ。
「……なんてね」
もちろん、理解している。ひかるは何も悪くない。
わたしは顔をそむける。窓ガラスに映る自分は、面白くなさそうに唇をぎゅっと結んでいる。
そう。悪いのは、ひかるではなくて――
「これ、借りてもいい?」
気が付くと、ひかるが受付に来ていた。
「え、ええ……」
努めて冷静に対応しながら、ひかるの持ってきた本を受け取る。
本のタイトルを目にしたとき――「あっ」と声が出る。
『ネコのこころがわかる本』
「……何よ、この本」
「いや、ユニのこと、もっと知りたいな~って思って」
「……わたしはネコと同じじゃないわよ」
「借りちゃ駄目?」
「駄目」
「どうして?」
「どうしてって……」
「ユニはネコと同じじゃないんでしょ? じゃあ、関係ないじゃん」
「そんなの……」
屁理屈よ。
と、最後まで言うことはできない。ひかるの言うことが屁理屈だとすれば、わたしが言っているのは屁理屈にすらなっていない単なるワガママだからだ。
「わたしね、ユニのことがもっと知りたいんだ。でも、わたしの知りたいっていう気持ちが、ユニに嫌な思いをさせちゃうと嫌だから」
「…………」
「だから――借りちゃ駄目?」
「……分かったわよ」
わたしは本を受け取る。貸出の状態にして、ひかるに手渡す。
「ユニ~! ありがとう!」
「……別に。図書委員の仕事をしただけよ」
「仕事ができて偉い!」
「それはバカにしてるでしょ。調子がいいんだから」
「えへへ」
ひかるがニコニコと笑う。
その笑顔を見ていると、自然と心が温かくなる。
今に限ったことではない。この笑顔がなければ、わたしはプリキュアになることもなかっただろうし、そもそもひかるたちと一緒に過ごすこともなかっただろう。
思えば、わたしはこの笑顔に救われてきたのだ。
「……どうしたの?」
ひかるが首を傾げる。
「別に……何でもないわ」
何となく気恥ずかしくなって、わたしは読みかけていた本に視線を移す。
「あれ、その本って……」
ひかるが何かに気付いたように、本を指差して言う。
「昨日、わたしが読んでた本だ。ユニも読んでるの?」
「……別に。ページをめくってただけよ」
「面白いよね、それ! わたしも大好きで何回も読んでるんだ~」
「……そう」
ひかるは楽しそうに本の内容について話し始める。相槌を打ちながら聴いていると、ひかるは次々に言葉を紡いでいく。
「――って、あ。ごめんねユニ! まだ読んでる途中だったよね! ネタバレしちゃった!」
「別にいいわよ」
「いいの? まどかさんとかはネタバレを嫌がるんだけど、ユニは平気?」
「ええ」
すると、ひかるは生き生きとした口調で再び語り始める。
漢字が難しくて読むことができなかったが、こうしてひかるが話してくれると理解できる。わたしはひかるの声を通して、物語を読んでいた。気が付けば夢中になって、ひかるの声を聴いていた。
「――っていうお話なんだ。どうどう? キラやば~☆ じゃない?」
一通り話し終えると、ひかるはどこか自慢げにわたしの顔をうかがう。その楽しそうな表情を見ていると、見えない壁なんてなかったんじゃないかと思ってしまう。
――いや、そうじゃない。
見えない壁は確かにあった。
ひかるがそれを、乗り越えてきただけなのだ。
いとも容易く、軽々と。
「……悪くないわね」
わたしが答えると、ひかるはくすっと笑う。
「ねえ、ユニ。このあと、一緒に帰らない?」
「今日は図書委員の仕事があるから――」
「あるから?」
「……仕事が終わったらね」
ひかるは満面の笑みを浮かべると、「ユニ~」と言いながら、カウンター越しに抱き着いてくる。
「ちょっと、やめてって!」
「ユニ、図書室では静かに、でしょ?」
「う、うるさくさせてるのは誰ニャン…! ネコはベタベタ触られるのは嫌なの! その本にも書いてると思うけど!」
「でも、ユニはネコと一緒じゃないんでしょ?」
「触られるのが嫌なのは同じなの! だいたい何でそんな人のことをベタベタ触りたがるのよ!?」
「何でって……」
ひかるはニコッと笑って言う。
「ユニのことが好きだからだよ」
「――ッ!?」
ひかるは表情ひとつ変えず、さも当たり前のことのように言う。
ああ、そうだ。この子はこういう子なのだ。
特に意味もなく、何の他意もなく――こうやって、人の心を惑わすのだ。
けろっとしているひかるの顔を見ていると、もはや苛立ちすら沸かない。
わたしは顔をそむける。窓ガラスに映る自分の顔は、恥ずかしいくらい真っ赤に染まっている。今だけでいいから壁が欲しいと、そう思った。
了
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これらの二次創作は、ほんの出来心というか、キャラクターに対する考察をしていく途中でぽろっと生まれたものだったんですが、いつの間にかけっこうな数になっていて若干困惑しています(苦笑)
読んでいただきありがとうございました。