小雨日和『Drip (モーニングゼロ2019年2月期奨励賞)』を読みました。
冒頭から心に突き刺さるモノローグと、胸倉を掴まれてグッと引き込まれるような描写の数々に圧倒されました。
劇的な事件が起こるわけではないですし、どちらかといえば物語は淡々と進みます。だというのに、読み始めると一秒たりとも目が離せませんでした。
※こちらから無料で読むことができます。
引き込まれるモノローグ(冒頭)
タイトルの『Drip』をはじめに見たとき、私たち読者は、正直どんな漫画なのか分からなことでしょう。しかし、そんな疑問は開始2ページ目で示されることになります。
隙をついた私の性は雫となって 初めの一滴を静かに注いだ
とにかくカッコいい言い回しですが、この文章は読者である私たちに3つの効能をもたらします。
- タイトルの意味を理解する
- 主人公の心情が揺れ動いたことを察する
- “初めの一滴”であるため、今後さらに“雫”が注がれることを予想する
最初の2Pにして、「タイトルの意味」「主人公の心理」「今後の展開」が頭に入ってくるのです。同時に、このカッコいい言い回しとキャラクターの魅力的な“視線”によって、のっけから完全に心を掴まれてしまいます。
世界が止まり、動き出す
この『Drip』は主人公の心理描写がとてつもなくいいんですよね。
主人公は様々な葛藤を抱きながら、「玲さん」の方に近寄るか遠ざかるかを決めあぐねているわけなんですが、その心理描写が非常に味わい深いのです。
なんてね、とは主人公の口癖でありますが、このたった4文字の言葉と背景の描写だけで、読者である私たちは痛いほど主人公の「想い」を知ることになるのです。
諦観を抱える主人公の目には熱が込められている
主人公は最初から最後まで、「なんてね」という言葉を多用しており、「自分は諦観しているのだ」という強い自己認識をしています。
しかし、それは心からの諦観ではありません。
彼女の視線には、「本当の欲望」が如実に描かれています。自分では「諦めるための」言葉を口にしながら、「玲さん」に向けられるその視線には「諦めたくない」という強い欲望が込められています。
この両者のギャップこそが、読者である私たちに「何ともいいがたい切なさ」を突き付けてくるわけです。
『Drip』の総評・まとめ
- 「選評」でも書かれているとおり、キャラクターの視線がとても魅力的
- 主人公の心理描写が秀逸
- 主人公の発する諦めに満ちた言葉とは裏腹に、視線には欲望の熱が込められていて、そのギャップが切なくて尊い
最近完結した百合漫画ではやっぱり『あの娘にキスと白百合を』が素晴らしかったですね。もう表紙を比較するだけでも最高に尊いので未読の方はぜひ見てみてください。
百合×SFの傑作。SFも百合も大好きな私としては興奮しすぎて心臓が止まりそうになりました。
『Drip』、とても好きな作品でした。
モーニングゼロのページのいちばん下のところに「感想を送る」というボタンがあったので、私も送ってみました。
小雨日和先生の今後の作品も楽しみにしております。