金色の昼下がり

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【ヒープリSS】56年後に復活したダルイゼンが一人の女に出会って最後の蝕みをする話 ※ダルのど

 56年後に復活したダルイゼンが一人の女に出会って最後の蝕みをする話を書きました。ダルのどと言えるのかよく分かりません。友愛でも恋愛でも殺伐でもない、そんな話です。

 

(ダルのど?/5000字程度)

 

 

 

『56年後に復活したダルイゼンが一人の女に出会って最後の蝕みをする話』

 

 生きてるって感じ、か。
 すっかり変わった街並みを眺めながらダルイゼンはつぶやく。すこやか市を歩くのは56年ぶりのことだった。ただ緑に溢れるその風景を見ても以前のように蝕みたいと思わなくなったのはなぜだろうか。自分のなかで何かが変わったような気がするが、何がどう変わったのかは分からない。宙に浮いたような居心地の悪さを覚えながら、ダルイゼンはあてもなく散策を続ける。


 黒いモヤの中でかろうじてその命を繋ぎとめていたダルイゼンが目を覚ましたのはつい先日のことだ。56年にも及ぶ苦痛は想像を絶するもので、こうして命があるのはほとんど奇跡に近い。また失ったものも大きかった。


 まず見た目は以前よりかなり幼いものになっている。人間でいうとせいぜい小学生の低学年程度。中身としても、ビョーゲンズとして本来持ち合わせている毒性はほとんど失っている状態である。以前のように何かを蝕んだりできるのはせいぜい一回が限度だろう。下手をすれば何かを蝕んだ時点で力尽きて死にかねない。もはやいまのダルイゼンは蝕んだものをエネルギーとして取り入れる力が残っているのか、それすらも微妙なところだった。


 素直にビョーゲンキングダムに帰って、数十年ほど眠って体を回復させよう。そう考えたものの、いまのダルイゼンには帰るための穴を生み出す力もない。どこかにビョーゲンキングダムに通じる穴が生じていたりしないだろうか。
 そうして、すこやか市の中をあちこち歩き回っていたときだった。反対から歩いてきていた一人の女性が、目の前で転んだのは。


「っ、ごめんなさい……!」


 巻き込まれる形でダルイゼンも転倒しかけたが、なんとか持ちこたえた。
 尻餅をつきながら申し訳なさそうにしているのは高齢の女性だった。顔に刻まれたいくつもの皺は、彼女が決して楽な人生を歩んできたわけではないことを物語っている。だが、彼女の容姿や表情にはそれに負けない元気と明るさが含まれていた。


「あ、ええと、ありがとう……」


 彼女が言った。初めは誰に言っているのか分からなかったが、少し遅れて自分に言っているのだと気付いた。どうやら無意識のうちに手を差し伸べて彼女が起き上がる手助けをしていたらしい。なぜこんなことを。まじまじとこちらの顔を覗き込む彼女から咄嗟に目を逸らし、ダルイゼンは手を振り払った。


「……キョロキョロしながら歩いてたけど、もしかして何か探しているの?」

 
 彼女は生き物の観察でもするようにじっとダルイゼンのことを見つめている。ダルイゼンはパーカーのフードを目深に被り直しながら、まあ、と短く答えた。


「だったら、お手伝いをしてもいい?」
「……え?」
「ちょうどお散歩をしてたところなの。そのついでだから」


 その勢いに押されて、拒否するタイミングを失ってしまう。
 二人はそのまま近くにあった公園に入っていく。懐かしい公園だ。そこは自分が地球上で初めて蝕んだ場所だった。


「探し物は何なのかな?」


 穴を探しているのだとぼやかして説明すると、彼女は幼い子どものように笑った。
 彼女は生き生きとした人だった。犬の散歩をしている人と親しげに挨拶を交わし、落ちているゴミを近くのゴミ箱に入れ直し、その辺に生えている花を指差して「綺麗だね」と微笑む。「そう思わない?」と声をかけられたダルイゼンは、うなずくことも否定することもできなかった。
 その後もフラフラと公園の中を歩き回っていると、不意に彼女はダルイゼンに呼びかけた。


「ちょっとだけ、休憩させてもらってもいい……?」


 まだそれほど歩いたわけでもないのに、彼女はひどく疲れている様子だった。人間は歳を取るとこんなにも弱くなるのか。言われるまま、花壇の前にあったベンチに腰を下ろす。


「実はわたし、ちょっと病気してて、すぐに息が上がっちゃうの」
「……そんな状態なのに、何で手伝うなんて言ったわけ」
「ごめんなさい、つい……。逆に、迷惑かけちゃったかな」


 お人好しな性格だということはその物腰の柔らかさからもうかがえる。だがその柔らかさは脆さや弱さに繋がるものではなく、むしろどんな豪雪に遭っても折れない柳の枝のような強さを連想させる。そういうしなやかな芯の強さが、彼女にはあった。


「……病気って、」
「え?」
「病気って、何なんだ」


 おもむろに尋ねると、彼女は何でもないことのように答える。


「最近発見された珍しい病気で、治療法は確立されてないの。少し前から闘病してるんだけど、この調子だと、もってあと半年くらいかな」
「…………」


 あと、半年。
 ダルイゼンは目を凝らし、彼女の体内に巣食う病原体を見る。ビョーゲンズではない。見たことのない病原体だ。おそらくこの数十年の間にナノビョーゲンの一部が突然変異して、病原性の高い新たな侵蝕生物が誕生したのだろう。
 返事に苦慮していると、彼女は「あっ」と慌てたように付け加えた。


「ごめんなさい。別に重い話をしようと思ったわけじゃなくて……わたし、こう見えてもお医者さんなんだ。だから病気のことは理解してるし、事実は事実として受け止めてるから、つい普通に喋っちゃって」
「……あんたは、もうすぐ死ぬんだな」
「そうだね。うん。死んじゃうかもしれない」


 彼女は苦笑しながら、でもね、と言葉を続ける。


「わたしは最後まで戦い続けるよ。負けないために」


 彼女の瞳に、目を見開いて驚く自分の姿が映る。
 まさか、とダルイゼンは思った。それはかつて、ネオキングビョーゲンの中で死にそうになっていたときに耳にした台詞だった。モヤの中で苦しみ続けた56年間、ずっと頭から離れなかった言葉だった。自分の受けた苦しみと同じ、いやおそらくそれ以上の苦しみと絶望を味わっていたにもかかわらず、最後まで負けることのなかったあの女の声だった。


「……アンタ、は」


 言いかけたダルイゼンの言葉を遮るように、彼女は口を開いた。


「ちょっとだけ、昔話をしてもいい?」


 彼女が前を向くと、耳元の花のピアスがキラリと瞬いた。狼狽を隠しきれないダルイゼンを傍目に、彼女は淡々とした口調で話しはじめる。


「わたしね、子どものときに一人の男の子に助けを求められたことがあるの。でもその男の子はわたしやわたしの大切な人たちに酷いことをした人で、そのことを顧みることもせずに助けを求めてきて。だからわたし、許せなくて、また酷いされることが嫌で、その手を振り払ったの」
「…………」
「ただ五十年以上経ったいまでも、ときどき考えるんだ。あのときのわたしの選択は、正しかったのかなって」


 二人の間を冷たい風が通った。強風に吹かれた木々の葉が擦れ合い、悲鳴のような音を立てる。握りしめた手のひらに、青白い色の爪が食い込んだ。


「……もし、」


 絞り出すようにしてようやく出てきたのは、ひどく擦れた情けない声だった。それでもダルイゼンは必死に言葉を続けた。


「もう一度、そのときの選択をやり直せるとしたら、あんたはそいつを助けるのか」


 問われた彼女は静かに、しかしはっきりと首を振った。


「ううん。やっぱり、助けないと思う」


 その言葉を聞いた瞬間、ダルイゼンは胸の奥に締め付けられるような痛みを感じた。
 予期していた返事だった。あまりにも自明な答えだった。なのになぜ、自分は痛みを感じているのだろう。ダルイゼンには、その理由が分からない。


「でも、」


 うつむいていた顔を上げると、真っ直ぐこちらに向けられた瞳と目が合う。
 彼女はどこまでも穏やかな笑みを浮かべながら、こう言った。


「さっきは助けてもらっちゃったから、そのお返しをしないとね」


 ダルイゼンは息を呑む。今度こそ、何と返せばいいのか分からなかった。
 しばらくの沈黙。それを破ったのは彼女だった。そうだ、と彼女は明るい声で言った。


「この近くに友だちのやってるお店があるんだけど、そっちの方を探してみない? 昔オリンピックで金メダルを取ったハイジャンプの選手も通ってた、この街のちょっとした名物店なの。人も多いから、誰か分かる人もいるかもしれない」


 彼女はベンチから立ち上がると、すっと手を差し伸べてくる。
 それはさっき、転んでいたところを起き上がらせるために掴んでいた手だ。ダルイゼンは思案する。自分はその手に触れていいのか。いや、そもそも触れたいと思っているのか。長い逡巡をしていると、ほら、と彼女の方からダルイゼンの手を取った。


「…………」

 
 手のひらに感じる温かな感触。彼女は相変わらず微笑を浮かべている。余命もわずかしかないはずなのに、なぜこんなふうに笑っていられるのだろう。自分の正体に気付いているはずのに、なぜその目には憎しみの炎が見えないのだろう。
 ダルイゼンは彼女の言っていたことを思い出す。


 ――わたしは最後まで戦い続けるよ。負けないために。


「……違う」


 ダルイゼンはその手を離す。驚いたようにこちらを見た彼女に向けて力の一部を解放する。彼女は痛みを感じる暇もなく気絶し、再びベンチに座り込む姿勢になった。


「……オレは、ビョーゲンズだ」


 気を失った彼女に向かって、ダルイゼンは言う。
 負けないために戦う? そんな生き方、やはり性分に合わない。勝つために戦うのが自分のやり方だ。蝕むことしか知らないいまの自分にできるのは、けっきょくのところそれしかない。


「入らせてもらうよ、アンタのなかに」


 チャンスは一度きりだ。
 それが失敗に終わったら、あるいは成功に終わったとしても、おそらくこの命は今度こそ燃え尽きるだろう。自分が何をしようとしているのか、ダルイゼンは理解していない。なぜ回復も待たずにこんな無謀なことをしようとしているのか、その答えが見い出せない。ただ一つ分かっているのは、おそらく自分はその答えを知るためにこの選択をしたのだということだ。


 ダルイゼンは己の力を使い彼女の体内に侵入する。そして彼女の体を巣食う禍々しいカタチをした侵蝕者と対峙した。


「よう」


 侵蝕者の目がギョロリとこちらを向くと、見下すかのようにその口元が歪んだ。一目見て格下だと認識したのだろう。汚らしい嘲笑が響き渡る。


「てめぇもこの女の命を蝕みに来たのか?」


 なるほど、あの女が負けそうになっているのも理解できる。確かに手強そうな相手だ。過去の自分よりもずっと強いかもしれない。ましてやいまの自分など、比較にもならないだろう。


「そうだと言ったらどうする?」
「これは俺の獲物だ。だが俺の下僕になるなら、欠片くらいは分けてやってもいい」


 侵蝕者はふんぞり返りながら言った。


「この女、このままだとすぐに死にそうだけど」
「あぁ? そりゃそうだろ。この俺が手当たり次第に蝕んでンだから」
「それでアンタは何とも思わないのか」
「当たり前だろ。こいつが死のうが俺には何も関係もねェからな。こいつが死んだら次のやつを、次のやつが死んだらそのまた次のやつを。そうやって地球のすべてを蝕めばいいだけの話だ」


 清々しいまでの傍若無人。自分本位で、他者を虐げることに何の躊躇もない怪物。自分以外のすべてを蝕むことも厭わない、傲慢不遜な侵蝕生物。その台詞を聞いたダルイゼンの口からは、思わずくつくつと笑いがこぼれた。


「あ? 何笑ってンだよ」


 ダルイゼンは込み上げてくる笑いを噛み殺して答える。


「いや、安心したんだ……。やっぱりアンタは、オレと同じだなって」
「そうかい。じゃあてめぇは俺の下僕になるってことでいいンだな?」


 一貫して奢り高ぶった態度を崩さない侵蝕者を前に、ダルイゼンは今度こそ堪えきれずに笑い出した。それは彼女が浮かべていたような柔らかな笑みとは程遠い。56年ぶりの、紛うことなき加虐者としての嘲笑だった。


「生憎だな。オレはアンタみたいなやつが、嫌いなんだ」


 予期せぬ返答だったのだろう。目の前の侵蝕者は数刻の間を置くと、地獄の底から絞り出すような声で言った。


「……ほう。嫌いだってンなら、どうするつもりだ」
「そんなの、決まってるだろ」


 もしこの戦いに勝つことができたなら。
 戦いに勝ってもなお生き残ることができたなら。
 そのときは、自分のなかで何かが変わるだろうか。
 今度こそ、差し伸べられたあの手を握り返すことができるだろうか。
 刃のごとき鋭い視線を侵蝕者に向けながら、ダルイゼンは言い放った。


「オレが蝕んでやるよ。アンタをな」


 心が疼いてたまらない。胸の内から不思議と力が湧き上がる。勝てる道理などないはずなのに、負ける気がしないのはなぜなのか。
 生きてるって感じ、か。
 怒りに任せて襲い掛かってくる侵蝕者を真っすぐ見据えながら、ダルイゼンは不敵な笑みを浮かべる。

 この感情に名前をつけるなら、やはりそれがピッタリだ。

 

 

 終わり

 

ダルのどについての雑感

 普段は百合について話すことが多いんですが、やっぱりダルのど(恋愛的、殺伐的な文脈などを問わず)も好きです。本編がどういう感じに二人の関係性に決着をつけるのか、いまは最終回直前の44話が放送された直後で、最終回でどうなるんだ~~~~とドキドキしてる状態です。

 

  45話の内容次第ではこういう妄想もしづらくなるなと思って、慌てて書きました。どうなるでしょうね。45話。期待する気持ちと、見てしまうのが怖い気持ちと、瀕死な気持ちと、終わってしまうのが寂しい気持ち、色んな想いでまぜこぜになってます。

 

 45話の内容次第ではまたダルイゼン絡みの妄想をするかもしれません。ダルイゼンを含め、ビョーゲンズみんな大好きです。

 

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