金色の昼下がり

プリキュアについて割と全力で考察するブログ

【ヒープリSS】『花寺のどかは許せない』※殺伐ダルのどの二次創作

 ダルイゼンを許せないのどかさんと、そんなのどかさんに俄然興味が湧いてしかたないダルイゼンの話がガチの死闘をする話です。恋愛感情ゼロ、糖分ゼロ、殺意100%の殺伐ダルのどです。

 

(全年齢向け/殺伐ダルのど/恋愛なし/5000字程度)

 

 

  

『花寺のどかは許せない』

 

 ダルイゼンだけはわたしが倒さなくちゃいけない。
 花寺のどかの意思は硬かった。ダルイゼンの正体を知ったあの日から、のどかの胸中では闘志の焔が決して弱まることなく燃えつづけていた。
 だからこそ、テアティーヌからビョーゲンキングダムの座標を把握できたという報告を受けたとき、のどかは数刻の間を空けることもなく「行こう」と即答した。


「……ですが、問題がひとつあります」


 テアティーヌが躊躇いがちに続ける。


「現在のビョーゲンキングダムはナノビョーゲンの巣窟になっていて、何人(なんぴと)も足を踏み入れられるような環境ではありません。たとえ伝説の戦士プリキュアであろうとも同じです。そこにいるだけでナノビョーゲンに蝕まれて、激しい苦痛を伴い、最後には死に至るでしょう」
「そ、そんな……せっかく居場所が見つかったのに、行けないってこと!?」


 ひなたが悲痛な声を挙げると、「いいえ」とテアティーヌはかぶりを振る。


「ひとつだけ……可能性が、ないわけではありません。ですがそれは、これまでになく過酷で危険な道です」


 そう言って、テアティーヌは泰然とした態度でひとりの少女に目を向けた。


「のどか。あなたは幼いころからナノビョーゲンに体を蝕まれていました。ですがそのことで、あなたの体には強力な抗体がつくられている。その抗体があれば、ナノビョーゲンに蝕まれても抵抗できる可能性があります」


 淡々とした、事実だけを述べる口調。ともすれば冷徹にも聞こえるようなその提案に真っ先に反応したのは、のどかではなくちゆだった。


「ちょっ……ちょっと待ってよ! ビョーゲンキングダムはビョーゲンズの根城よ? そこに、たったひとりで行くなんて……。それに、抗体があるからって、のどかがぜったいに大丈夫だっていう確証があるわけでもないんでしょう?」


 ちゆの問いかけにテアティーヌは答えなかったが、その沈黙こそが何よりも雄弁に真実を物語っている。
 そう、すべてはテアティーヌの希望的な憶測に過ぎない。だが理屈は通る。そして希望が一縷でもあるのであれば、のどかの取るべき選択肢はひとつだ。


「わたしなら、平気だよ」


 凛とした声で答えるのどかに、テアティーヌは深々と頭を垂れる。女王という立場にいる彼女にとって、それは決して軽率にできる行為ではない。が、危険を顧みず、一切の躊躇なく応じようとするのどかに、彼女はヒーリングガーデンの統治者ではなくひとつの生命として深い恭敬の意を示さざるを得なかった。


「……のどか、あなたにお願いしたいのは、ビョーゲンキングダムに封印されている秘宝の剣を見つけることです。先の戦いでキングビョーゲンに突き刺したその剣は、決して破壊することのできない聖なる剣。それがあれば、ビョーゲンキングダムを覆いつくしているナノビョーゲンの活動を抑えることも可能です」
「つまり……その剣があれば、僕たちもビョーゲンキングダムに行けるってことペエ……?」
「そういうことです」
「でも、それを持ってくるのができるのは、のどかだけなのか……」


 ニャトランは腕組みをしながら難しい顔で唸る。


「ラ、ラビリンはぜったい反対ラビ! 一生懸命なのどかがひとりで行ったらぜったいに無茶するし、それにラビリンがいないと、のどかはプリキュアに変身することもできないラビ……!」
「でも、これしか方法がないんだよ、ラビリン」


 のどかは静かな口調でラビリンに告げる。


「だったら、ラビリンもいっしょに……!」


 悲痛な表情を浮かべるラビリンを見かねて、アスミは優しく抱きしめた。


「……たとえステッキ化しても、ヒーリングアニマルはナノビョーゲンの侵食には耐えられないでしょう。ラビリン、辛いのはわたくしも同じですが、ここはのどかを信じて待つしかありません」


 納得はできず、さりとて解決策を見出すこともできずにただ涙を零すしかないラビリンの頭を、のどかは優しい手つきで撫でる。


「ラビリン、わたしなら平気だよ」
「っ、や、約束ラビ……! ぜったいに無茶しないって、必ず戻ってくるって約束ラビ……!」
「うん、約束する」


 だがそれは嘘だった。のどかはその約束を守れるとは思っていないし、そもそも無事に帰ることを優先するつもりもない。のどかが第一に考えていることはただひとつ――ダルイゼンの討伐、それだけだ。


 のどかは己の吐いた嘘を誤魔化すように、ラビリンの柔らかく小さな手を握り、「ごめんね」と心の内で謝った。


 ※ 


「何で、お前がここに……。いや、そもそも何で平気なんだ……?」


 ビョーゲンキングダム――それはどこまでも続く荒廃した地。薄暗く粘ついた大気に包まれたその王国に、ダルイゼンは本来いるはずのない少女の姿を認めた。


「キュアグレース」


 呼びかけられた花寺のどかは、返事をすることもなく無言でダルイゼンを睨みつけている。
 両者の間には幅十メートル程の『地の割れ目』があった。切り立つ崖の下には、赤黒いマグマのようなものがボコボコと気泡を生み出しながら沸き立っている。そこに落ちれば、たとえテラビョーゲンであるダルイゼンであっても無事では済まないだろう。


「……ああそうか。オレが前に蝕んだ時に抗体ができたのか。他のうるさい連中が見当たらないのも、お前しか抗体を持っていないからか」


 ダルイゼンの半開きの眼に、薄っすらとした鈍色の輝きが灯った。


「フッ、感謝しろよ。お前のその抗体をつくってやったのは、オレなんだからな」


 のどかは拳を握りしめながら苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。悲痛と無念のわだかまる地獄のような日々をもたらした張本人が、他でもないのどかに謝意を示せと要求してくる。これほど人を愚弄した発言もないだろう。だがダルイゼンにとって、のどかはいわば暇潰しにうってつけの玩具に過ぎない。幼児が戯れに蟻を潰すように、彼は気まぐれにのどかの尊厳を弄ぼうとしていた。


「で、何しに来たんだ、キュアグレース」
「聖なる剣を探しに来たの。どこにあるのか、あなたは知ってる?」
「知ってても教えるワケないじゃん」
「そうだよね。だと思った」


 のどかは残念がる素振りも見せない。間髪入れずにこう続けた。


「わたしがここに来た本当の理由はね、あなたを倒すためなんだよ」
「……へえ。デカい口叩くじゃん。相方もいない、プリキュアにもなれないお前が、オレを倒すって?」


 その嘲りを、しかしのどかは平然と受け流す。


「確かに、いまのわたしはプリキュアにはなれない。でも、そんなのは関係ない。だってこれは、”わたしの問題”だから」
「ふーん……意地でもオレに勝つつもりなんだ」
「ううん、わたしはあなたに勝とうとしてるわけじゃない。ただ、負けるつもりがないだけ。何があっても、あなたにだけはぜったいに負けない」


 中学生とは思えぬほど精悍な宣言。それを聞いたダルイゼンは、怯むこともなく、むしろ面白くなってきたと言わんばかりにくつくつと邪悪な笑みを零した。


「……オーケー。でも、痛くても、苦しくても、泣き叫んだりするなよ。オレは喧しいのは嫌いなんだ」


 次の瞬間、ダルイゼンはヒトの目にはほとんど瞬間移動をしたとしか見えないような速さで崖を飛び越えのどかの眼前まで迫る。十メートルはあった二人の距離は、その一瞬で一メートルを切るまでに至った。


 もしその一瞬をカメラで切り取ったならば、愛し合う二人の恋人が逢い引きして見つめ合っているような構図の写真が現像できたかもしれない。

 だが生憎と、のどかの視線には愛だの思いやりだのといった温もりのある感情は一切含まれていない。そこにあるのは磨き上げた刃のごとき殺意。それだけだ。


「ま、そこまで期待はしてないけど、ちょっとくらいは楽しませてくれよ」


 のどかから絶対零度の視線を向けられながらも、ダルイゼンは余裕の態度を崩さない。
 それもそのはずだ。己こそが生態系の頂点に君率すると信じてやまない傲慢な生物、それがビョーゲンズである。ダルイゼンは生まれたときから狩る側の存在であり、狩られる側に立ったことなどない。


 しかし傲慢はひとつの決定的な弱みをもっている。弱者からの思いもよらない奇襲を受けたとき、その慢心さゆえに咄嗟の動作が遅れることがある。


「―――――ッ」


 ダルイゼンが遅れを取ったのはコンマ一秒。命を懸けた死闘の最中において、それは長すぎるといっても過言ではないラグだ。下方からの斬撃に気付いたダルイゼンは即座に後ろに下がった。が、僅かに間に合わず、結果としてのどかの放った一撃はダルイゼンの頬の肉を掠め取ることになった。


「……意外。あなたにも、わたしたちと同じ赤い血が流れてるんだね」


 のどかは剣先に付着した血を一瞥すると、汚らわしいものが付いたと言わんばかりに剣を振り下げて払い落とす。
 のどかの握るその短剣は、先の会話に出てきた『聖なる剣』とは異なるものだ。刃渡りは二十センチほどで、刀身は『く』の字型の内反り。ザクロのような紅味(あかみ)を妖しく光らせる刀身には、確かに超自然的なオーラが内包されているが、神々しいというよりは禍々しいと形容すべき類のものだった。


「その剣は……、昔、キングビョーゲンが使ってた呪いの剣か……」


 ダルイゼンが眉をひそめると、のどかはさして興味もなさそうに言い捨てる。


「そっか。さっき見つけたこれは、そういう剣なんだ。……まあ、何だっていいや。あなたを倒せるのなら」

 

 いくら油断していたとはいえ、本来であれば生身の人間に傷付けられるほどダルイゼンは柔ではない。にもかかわらず、のどかがダルイゼンを傷付けることができたのはなぜか。
 それは呪い剣のもたらす力によるものだった。のどかは”ある代償"を捧げることによって、自身の身体能力を著しく上昇させることに成功していた。


 ポタ、ポタ、と短剣の柄頭から鮮血が垂れて落ちる。その血はダルイゼンのものではない。握りしめられたのどかの掌から滲み出る血だった。


「……知ってるか。それは使用者の命を刈り取り、力に変える呪いの剣だってこと」


 掌だけではない。手の甲やスカートから伸びるふくらはぎには、のどか自身の血によって刻まれた魔なる刻印が痛々しく浮かび上がっている。
 呪いの剣は確かに使用者に絶大な力をもたらすが、代償として命の一部を捧げるため、あのキングビョーゲンですらテアティーヌとの最終決戦のときにしか使わなかった伝家の宝刀である。
 だというのに、のどかはダルイゼンとの戦いにそれを使用し、血の代償を捧げた後もなお手放そうとはしない。


「だったら、何だって言うの。まさか助けてって言うつもり? これまでたくさんの人たちを傷付けてきたあなたが?」

 

 のどかは明らかに視野狭窄に陥っている。普通に考えれば、何も自身の命を賭してまでダルイゼン一体を倒す道理はない。

 呪いの剣は使用者の精神をも侵すのだろうか。ヒトの理から外れた存在であるダルイゼンにとっても異常としか映りようのない光景だった。

 だがそれゆえに、それまで気だるそうに半分ほど閉じられていたダルイゼンの眼は見開かれ、その瞳に花寺のどかという特異な存在を認めている。


「……そこまでしてオレを倒したいのか? よほどオレのことを憎んでるんだな」
「勘違いしないで。わたしはあなたを憎んでいるわけじゃない。あなたにされたことは最悪だったけど、その復讐をしたくてここにいるわけじゃない」


 深紅に輝く短剣に、薄っすらとのどかの顔が反射する。確かにのどか自身の言う通り、怒り狂っているわけでもなければ憎しみに歪んでいるわけでもない。そこに浮かんでいるのは、愚直なまでの義務感だ。


「わたしのことはどうでもいいの。だってもう、過ぎたことだから。だけどあなたを放っておけば、わたしみたいに苦しむ人がこれからもたくさん出てくる。わたしはそれが許せない。そして、あなたがわたしの作り出した怪物だというのなら――」


 凄烈な眼差しと共に、のどかは呪いの剣先をダルイゼンへと向けた。


「わたしが、倒す。たとえこの体がどうなったとしても」


 束の間の沈黙が舞い降りる。
 ふと、ダルイゼンの視界の隅に何かが映った。チラと足元に視線を向けると、そこには小さな肉片と、見慣れた花型のピアスが落ちていた。


「……フッ」


 ダルイゼンが自分の右側頭部に手を伸ばしたとき、あるべきはずのものがなくなっていることに気付く。あのときは頬を抉られただけだと思っていたが、どうやらのどかの放った刃の一閃はダルイゼンの耳朶(じだ)にまで届いていたらしい。傷跡に触れた指先は赤黒く染まっていた。


「ハ、ハハハハッ…………!」


 もはや認めざるを得ない。
 この世に生を受けてからというもの、ダルイゼンにとって世界とは退屈なものでしかなかった。何をしても感情は動かず、歓喜することもなければ悦楽に浸ることもなかった。
 だが、そんな自分が、いままさに抑えきれぬほどの愉悦を感じている。


「……お前は本当に面白いな、キュアグレース」


 落ちたピアスを肉片ごと踏み潰す。人生で初めて心躍る感情を覚えたダルイゼンは、嗜虐に口元を歪ませながら宿命の女を見据える。


 ダルイゼンとて、現在ののどかを相手に確実に勝てると見込むほど自惚れてはいない。それほどまでに呪いの短剣から供給される呪詛的な力は強大であった。

 あの刃が再び届くようなことがあれば、おそらく命はないだろう。だがそうした危険を理解していてもなお、ダルイゼンの顔から笑みが消えることはなかった。


「……あぁ、そうか。これが、”生きてるって感じ”か」


 眼前まで迫る死の香りを感じ取りながらも、ダルイゼンは悠然と言い放った。


「いいぜ、キュアグレース。お前のその顔も、体も、心も、何もかも――オレがめちゃくちゃに蝕んでやるよ」

 

 ダルイゼンと花寺のどか。
 崖の下から瘴気を帯びた熱風が吹き上がる中、尋常ならざる宿命の糸で結ばれた二人の死闘が、幕を切って落とした。

 


 <了>

 

ダルのど所感

 これまでは甘酸っぱいような青春っぽいようなダルのどを書いていましたが、28話の衝撃が強すぎて殺伐ダルのども書いてみたくなって書いてみました。もし本編の二人が和解・共存ルートを歩むことになれば、こういう殺伐とした妄想もしづらくなっちゃうなと思って、「いましかない!」と……。

 

 私は百合が好きなんですけど、甘い百合も殺伐百合も好きで、ダルのどももし女女だったらめちゃくちゃ良い殺伐百合じゃん…って思います。むしろビョーゲンズってその生殖形態からして雌雄の概念なさそうだし、ダルのどを百合と形容することも不可能ではないのでは…?というのはただの妄想です。(分かってます。制作スタッフさんたちがダルイゼンをいわゆる男性として描こうとしていることは)

 

 とりとめもなく書いてみましたが、殺伐ダルのども甘甘ダルのども好きなので、また何か思いついたら書きたいです。

 でも今後はどうなるんでしょうね、本編のダルのど…。

 

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