スター☆トゥインクルプリキュア38話の感想考察(中編)です。
あまりにも書きたいことがありすぎてついに記事を3分割しました。
前半パートの出だしは、膝を抱えるアイワーンちゃんの姿です。
最初にアイワーンちゃんの頭がクローズアップされることで、鑑賞者にインパクトを与えています。その直後、ロングショットに切り替わることにより、今度はアイワーンちゃんが一人ぼっちだという事実をまざまざと見せつけられます。
しかも、この間BGMはほとんどなく、薄っすらとしたエンジン音のようなものが聞こえるだけです。この無音に近い状態が約7秒間続くことにより、次の2つの効果が発揮されています。
- 鑑賞者の意識をアイワーンちゃんだけに集中させる
- 鑑賞者にアイワーンちゃんの「心」を想像させる
周囲には誰もおらず、音もなく、闇の拡がる世界は、アイワーンちゃんの精神世界の暗喩にもなっています。
一連のシーンは約25秒間続くのですが、台詞は一切ありません。しかも、鑑賞者に提示される情報は、たった2つしかありません。
- アイワーンちゃんがひとりぼっちであること
- ガルオウガ様が扉が開いた向こう側、光指す方から歩いてくること(※1)
台詞もなく、音楽もなく、動きという動きもほとんどないシーンですが、これを見たとき、恐らく複雑な感情が沸き上がり、様々な「想像」が脳裏を駆け巡ったのではないでしょうか。
付け加えるならば、最初にこれらのシーンを挿入することにより、今回のエピソードが「アイワーンちゃんの過去」を主軸にしたものだと、子どもたちにとっても非常に分かりやすく提示されています。
短いシーンではありますが、様々な意図や工夫が施されていて、素晴らしいシーンだったと思います。
(アイワーンちゃんの感情が伝わって来て、私はこの時点でけっこう瀕死でした)
※1 ここでは、目の眩むような光とともにガルオウガ様が現れます。これは、ガルオウガ様がひとりぼっちのアイワーンちゃんを救ってくれた存在であることが表現されている、とも言えるかもしれません。
ただ、逆光のため、ガルオウガ様の姿は黒く映し出されています。このことは、ガルオウガ様たちノットレイダーが「闇」の存在であること、アイワーンちゃんに「暗い影響」を与えるということを物語っているようにも見えます。
※無音といえば37話のカッパードさんのときも、無音が効果的に用いられていました。
皆と遊ぶユニ/一人ぼっちのアイワーンの対比
ここのシーンがまたエグイんです。
ハッケニャーンお手製のマタークッキーをめぐり、クッキーを食べようとするフワと、それを止めようとするメンバーたちがワイワイがやがやしています。このとき、ユニを含めたメンバーたちはとても楽しそうな笑顔を浮かべており、なんてことのない日常を幸せなものとして享受していることがうかがえます。
次に、それを見下ろすアイワーンちゃんの姿が映ります。
アイワーンちゃんの周囲には誰もいません。ノットレイダーという居場所すらも失ったアイワーンちゃんは、一人ぼっちでユニを睨みつけます。
大切なものを奪ったのは、アイワーンちゃんだけではなく、ユニもまた同じであるはずなのに、ユニには居場所があり、アイワーンちゃんにはそれがないのです。
なぜあいつだけ?
どうして?
アイワーンちゃんの心の叫びが聞こえてくるようです。
実際この後のシーンで同様の台詞を言っているわけですが、実はスタプリ27話でも同じようなことを言っています。
アイワーン「お前だけ、なぜ…!」(※1)
アイワーン「バケニャーン…許せない…あたいを騙してたっつーの。お前のせいであたいは、ノットレイダーにいられなくなったっつーの。全部お前のせいだっつーの。あたいの居場所はなくなったのに、自分はちゃっかり居場所を見つけて、超むかつく! ぶっ潰すっつーの!」
しかも、それだけでは終わりません。
続くシーンでは、アイワーンちゃんはバケニャーン…もとい、ハッケニャーンの姿を見つけるのです。
いや、もう、エグすぎて…。
前半パートの出だしで「アイワーンちゃんの過去」を流し、続いて「ユニとアイワーンちゃんの残酷な対比」を見せつけ、とどめは「ハッケニャーンを見てバケニャーンの名をつぶやくシーン」です。
私たちは「彼」がバケニャーンではないことを知っていますし、そもそもバケニャーンなんて存在しないことを知っています。そして、それはアイワーンちゃんにとっても同様なはずです。アイワーンちゃんだって、自分のそばにいてくれたバケニャーンがユニの変化した姿であったことを理解していて、それに対して激しい憎しみを覚えていたはずです。しかし、それでもなお、「彼」を見つけたアイワーンちゃんは、咄嗟に「バケニャーン」の名を呼ぶのです。
いや、もう、本当に、エグすぎて、エグすぎて…。
また、このときの背景は白く塗り潰されています。アイワーンちゃんが「ハッ」となり、すべての意識をハッケニャーンに向けていることが表現されているわけですが、同様の演出は後半パートでも用いられます(詳しくは後述)
※1 このシーンの直後、アイワーンちゃんの幼いころの回想シーンに移りますが、このとき、心臓が脈打つような「ドッドッド…」という音が流れています。スタプリ37話のカッパードさんのトラウマ回想シーンでも、同様の音が流れています。この音は、アイワーンちゃんやカッパードさんの心音のようです。彼らの心音(のような音)を聞かされることで、私たちの意識はますます彼らの心に近付かされます。そうすることにより、胸の締め付けられるような臨場感を演出しているわけです。
「ノットレイ」は怪物ではない
今回、ノットレイたちの着ているスーツがアイワーンちゃんの発明品であることがはっきりと明言されていましたが、これについてはスタプリ21話で少し言及されていました。
アイ「ついに(ダークペンが)完成したっつーの!」
バケ「スーツに代わる発明ですか?」
アイ「そうだっつーの!」(スタプリ21話)
ノットレイの中身は、おそらく上記の悪い顔(?)をした異星人たちだと思われます。そう考えると、ノットレイたちは自らの意思でノットレイダーという組織に属している人々である可能性が高そうです。(※1)
また、ノットレイダーは、「行き場を失った人々が集まる地」であるとテンジョウさんが説明してくれていたので、彼らもまた、故郷を失ったり、迫害されたりして流れ着いた、「大切なものを失った」人々なのでしょう。
テンジョウ「あらお嬢ちゃん。どこからもぐりこんだの?」
幼いアイワーン「あたいは、寝るとこなくて…ここどこだっつーの?」
テンジョウ「うふふ。ここは行くあてのない者たちの集まる地」
ガルオウガ「居場所がないならば、ここで生きよ。見捨てた者たちへの怒り、憎しみを力に変えるのだ」
ノットレイたちの数を考えると、ノットレイダーという組織がいかに巨大なものかが分かります。これは、ダークネスト様や幹部たちを倒したとしても、その代わりになる者はいくらでもいるという事実を示唆しています。仮に力ずくでダークネスト様や幹部を倒したとしても、ノットレイダーという存在は残り、根本的な問題は何も解決しません。
ここまで考えたとき、スタプリの敵キャラクターが「怪物」ではなく「ノットレイ」という戦闘員であった理由が見えてきます。もしノットレイたちが単なる「怪物」であれば、「怪物」を使役する幹部やボスを倒してしまえば、当面の問題は解決するかもしれません。しかし、ノットレイたちはひかるさんたちと同じく「人間」であり、幹部やボスを倒したとしても、「大切なものを奪われた人々の行き場のない憎しみと怒り」が消えることはありません。これまで、ひかるさんたちの前に立ちふさがってきたノットレイダーたちは、「理不尽という名の怪物」ではなく、「理不尽によって傷付いてきた人々」なのです。
ただ目に見える敵を「やっつける」だけでは、根本的な問題は何も解決しない…それがノットレイダーです。スタプリの物語は勧善懲悪ではありません。複雑な世界を複雑なまま扱い、その複雑さと向き合おうとしている作品です。敵キャラクターが「怪物」ではなく戦闘員のノットレイたちだったのは、こうした必然性があったのでしょう。
※1 ただ、スーツには「アンテナ」のようなものがついているので、このスーツを着ると、自らの意思とは関係なく幹部たちの命令を聞く「駒」になる…という可能性もなくはないかもしれません。その場合、侵略してきた惑星の人々に無理矢理このスーツを着させて、思うがままに使役していたのかもしれません。ノットレイたちが「ノットレイ」しか言えないのも、スーツのせいなのかも。
※アイワーンちゃんの「スーツ」についての発言があった、スタプリ21話の考察です。
アイワーンが「超天才科学者」を自覚した瞬間
回想シーンでは、ユニ(バケニャーン)とアイワーンの出会いがどのようなものだったのか、その一部が描かれていました。
このときのアイワーンちゃんの発言にご注目ください。
バケニャーン「お噂は聞いております。わたしの力、超天才科学者のあなたさまのお役に立てるかと」
アイワーン「超天才科学者? ケヒャヒャヒャ。で、あんたの名前は?」
バケニャーン「ハッケ…いえ、バケニャーンでございます」
バケニャーンから「超天才科学者の…」とヨイショされたとき、アイワーンちゃんは満更でもなさそうに笑うわけですが、ここで「超天才科学者?」と聞き返しているのは、アイワーンちゃんが初めて「超天才科学者」だと褒められたからでしょう。もともと自分のことを「超天才科学者」だと自認していたのだとしたら、ここで疑問符を返したりしないはずだからです。
さて、この「超天才科学者」という言葉、他のエピソード、たとえばスタプリ6話でも用いられている表現です。
天宮えれな「何なの? あの生意気な子」
アイワーン「あたいは子どもじゃないっつーの!」
バケニャーン「失礼ですよ。ノットレイダー一(いち)の超天才科学者、アイワーン様に対して」(スタプリ6話)
おそらく、バケニャーンは事あるごとにアイワーンちゃんのことを「超天才科学者」だと持ち上げていたのでしょう。そうすることによって、アイワーンちゃんからの信頼意を得て、よりスムーズにスパイ活動を行えるようにしていたわけです。
あまりにも「えげつない」戦闘シーン
さて、そんな「超天才科学者」のアイワーンちゃんは、今回、さらに改良を重ねたアイワーンロボ23号(前回のスタプリ27話では16号)に乗って登場します。
アイワーン「よくもあたいを利用したっつーの! ただじゃおかないっつーの!」
ユニ「それはわたしの台詞よ! わたしの星を、みんなを返して!」
このときの戦闘シーンがまた最高です。ユニとアイワーンは互いに相手をにらみつけ、互いに同じ主張をしながら拳を交えます。この戦闘では、互いに大切なものを失った二人が、その怒りと憎しみをぶつけあっていることが表現されています。
しかし、続く描写はとにかく「えげつない」です。
ユニとアイワーンがどこまでも「似た者同士」であることが表されたかと思いきや、ピンチに陥ったユニのもとに、他のプリキュアたちが次々に援護しに来るのです。
キュアミルキー、キュアソレイユ、キュアセレーネ、キュアスターの4人の攻撃をもろに受けたアイワーンロボ23号は、制御を失って崖に激突していきます。
やめて…もうやめてあげて…
プリキュアたちが高らかに必殺技名を叫び、そのいずれもが見事に直撃しているにもかかわらず、気分が高揚するどころか、私の目からはとめどない涙が溢れてきます。
もちろん、それはアイワーンちゃんに過度の感情移入をしている私だからこその話だと思いますが、この一連のシーンを視聴しているとき、純度100%の気持ちで「いいぞプリキュア!」「その調子だ!」「がんばれー!」と応援できるかというと、それもけっこう難しいのではないかと思うのです。
というのも、鑑賞者は、前半パートなどで、これでもかというくらいにアイワーンちゃんの苦しみと悲しみの原体験を見せつけられていたからです。アイワーンちゃんの傷付いた心を想像していた方は、この戦闘シーンの最中、「複雑な想い」が交差していたのではないでしょうか。
また、ユニはピンチに陥ったとき、大切な仲間たちに支えられ、助けられています。
しかし、アイワーンちゃんのそばには誰もいません。誰も支えてくれないし、誰も助けてくれません。アイワーンちゃんはひとりぼっちで攻撃を食らい、ひとりぼっちのまま立ち上がるのです。
アイワーン「超天才科学者のあたいは…負けないっつーの!」
しかも、ひとりぼっちで立ち上がったときのアイワーンちゃんの発言が、めちゃめちゃ痛々しいのです。
プリキュアたちの個別必殺技でボコボコにされたアイワーンちゃんは、その目に涙を浮かべながら叫びます。自分は負けない、なぜなら超天才科学者だからだ、と、他の誰でもない、自分のことを「超天才科学者」だと初めて言ってくれた相手に向かって叫ぶのです。
いや、もう、ほんと無理です…
アイワーンちゃんを裏切り傷付けたのは「バケニャーン」であり、アイワーンちゃんが激しい憎しみを抱き許さないと叫ぶ相手も「バケニャーン」であるにもかかわらず、ボロボロのアイワーンちゃんを鼓舞し立ち上がらせるのは「バケニャーン」の言葉なのです。
正直、こうして書いているあいだにも泣きたくなります。あまりにもえげつなさすぎて心がしんどいです。無理です。ほんと無理。スタプリ大好きだ…。
スタプリ38話感想考察まとめ(中編)
- 皆と遊ぶユニ/一人ぼっちのアイワーンの対比
- 「ノットレイ」は怪物ではない
- アイワーンが「超天才科学者」を自覚した瞬間
- 戦闘シーンがあまりにも「えげつない」
前編の記事はこちら。
キュアコスモの変身シーンについての考察と、キュアコスモになりたい子どもの話。
スタプリ38話、書きたいことが多すぎて記事を3分割しています。といいつつ、まだ全然書ききれてないので、急いで書きます。早くしないと明日のテンジョウ先生回が始まってしまう…。
追記 2019/11/2 17:52
と言ってたら、Twitterのフォロワーさん及びオザワークスさん(本記事のコメント欄)にて、11/3の放送は休止だと教えていただきましたので、お詫びして訂正いたします。教えていただきありがとうございます...!
【11月3日(日)は全日本大学駅伝対校選手権大会のため、休止致します。】
スター☆トゥインクルプリキュア|朝日放送テレビ(2019/11/2時点)
以上、スター☆トゥインクルプリキュア38話の感想考察(中編)でした。
後編の記事では、まだ書ききれていない38話の見所や小ネタなどについて書く予定です。
→書きました