スター☆トゥインクルプリキュア39話の感想考察(後編)です。
- 天宮えれなの「不安」と「苦悩」
- モノクロな世界、カラフルな世界
- テンジョウの「仮面」は「個性」を隠す道具?
- テンジョウの母星は階級社会?
- テンジョウは笑わない
- 天宮えれなも笑わない
- スタプリ39話の感想考察まとめ(後編)
天宮えれなの「不安」と「苦悩」
ジョーテング先生、もとい、テンジョウさんから受けたアドバイスをもとに、えれなさんは過去の辛い記憶をスピーチ内容に入れました。ここではまず、スピーチ前のえれなさんの表情に着目していみます。
これだけを見ると、「えれなさんも緊張しているんだな」と感じるだけで終わるかもしれませんが、スピーチを頼まれたときのえれなさんの笑顔と自信いっぱいの台詞を思い返すと、緊張感以外の感情も胸に抱いていたのではないでしょうか。
えれな「任せてよ! 」
このときはまだ、えれなさんは過去の辛いエピソードを話そうなんてまったく考えていなかったことでしょうし、だからこそそこまでの気負いもしていなかったのでしょう。
しかし、テンジョウさんのアドバイスを受け、自分の抱えていた苦悩をさらけ出すことを決めたえれなさんは、こんなにも不安そうな顔をしています。もしテンジョウさんのアドバイスがなく、修正前のスピーチ原稿のままであれば、えれなさんもここまで不安そうな顔をしていなかったんじゃないかなと思うのです。
本番を前にしたえれなさんの胸中にあった感情は、ただの緊張だけではなく、「観星中の太陽」として自身の辛い過去を話すことへの不安、自身のトラウマと向き合うことへの恐怖、そしてその話がみんなに受け入れてもらえるのかという心配といったものが混ぜ合わさったものだったのではないでしょうか。
モノクロな世界、カラフルな世界
さて、スピーチの最中、えれなさんの回想が始まりますが、このときの描写がまたすごかったですね。要旨を先に言うと、以下の通りです。
えれなさんだけがモノクロ→人と違う事を気にして孤独を感じている
— 金色 (@konjikinohiru) November 10, 2019
鏡に映るえれなさんだけがカラー→自分は人と違うという事が強調されている
他の子だけがカラー→他の子にも違うところがあると気付く
皆がカラーになる→皆違うという意味では皆同じだと悟る
良い演出でした#precure pic.twitter.com/RZTYaWYtPp
順を追って詳しく説明します。まずはこちら。
えれな「日本の学校に通い、みなさんと同じ、日本人として暮らしています。けれど…」
えれな「小学生のころ、自分だけが他のみんなと違うということを気にして、笑顔を失ったことがありました。どうして自分だけが違うんだろう。どうしてみんなと一緒じゃないんだろう。もう誰とも分かり合えない気がして、心に壁を作ってしまったのです」
幼いえれなさんだけがモノクロになっていますが、他はすべてカラーです。ここでは、えれなさんが世界から疎外されていると感じていること、すなわちえれなさんの「孤独」が表現されています。
次のカットではえれなさんの姿がミラーに映り込みますが、その世界はさっきとは真逆になっています。まさに「鏡写しの世界」です。カラーで描かれているのはえれなさんだけであり、他の人や風景はすべてモノクロになっています。ここでは、「自分は他の人と違う」ということを悩むえれなさんの心理が描写されているのです。
また、ミラーは二面になっていますが、えれなさんの映る面には、えれなさん以外、誰も映っていません。このことは、えれなさんの「孤独」と「苦悩」をより強調する効果を生み出しています。
声優・安野 希世乃さんの見事な演技力も相まって、なかなか見ていて辛いシーンですが、そのあとはBGMも明るいものに変わり、ポジティブなスピーチに移り変わっていきます。
えれな「翌日、学校へ行って気付きました。人と違うのはわたしだけじゃないって。背が高い子、足が速い子、話が面白い子、本が好きな子、みんな違う、ひとりひとり違う、それぞれ素敵な個性があって、その人を輝かせているんです。それから、わたしはどんな人とも笑顔で接することができるようになりました。そして、わたしが笑顔でいると、みんなにも笑顔の輪が広がっていったのです」
跳び箱を飛ぶ前の世界はモノクロですが、飛び終わると世界は一気にカラフルになります。ここでは、えれなさんが「それに気付いた」ことが表現されています。
えれなさんは何に気付いたのか。それは、「人と違うのは自分だけではない」「他の人にも違うところがある」ということで、ざっくり言えば「みんな違うという意味ではみんな同じ」だということです。
たとえば、上記の「話が面白い子」のカットでは、二人だけがカラーであり、他はすべてモノクロになっています。「話が面白い」という「他の人との違い」を持っていることが表されているわけですが、その「違い」は決してネガティブなものではないのだとえれなさんは悟るのです。
そして、極めつけが最後のカットです。
えれな「笑顔には、人と人を繋げるすごい力があります。わたしはこれからも、たくさんの人と出会い、交流を深めていきたいです」
上記のカットではキャラクターたちがみんなそれぞれ笑顔を浮かべており、モノクロの人物がひとりもいない、カラフルな世界が拡がっています。要するに、えれなさんはこう言っているわけです。世界をカラフルにしているのは、「それぞれの個性」であり、「個性」と「個性」を繋げる役割を果たすのが「笑顔」である、と。
モノクロとカラーを使うことで、えれなさんの心理描写を視覚的かつ効果的に表現している、素敵なシーンでした。
テンジョウの「仮面」は「個性」を隠す道具?
テンジョウ「まったく、あなたって子はほんとに何もわかってないんだから」
えれな「え?」
テンジョウ「笑顔が人と人をつなげるですって? そんなのまやかしよ!」
このとき、テンジョウさんの頭に想い浮ぶのは、故郷の星の記憶です。記憶の中のテング星人たちはみな黒く塗りつぶされており、目と口だけが赤色になっています。鼻が高いのでテング星人なのだと言うことが分かりますが、ここで疑問なのは、テング星人たちはみんなテンジョウさんと同じように「高い鼻の仮面」をつけているのか? ということです。
というのも、私はこれまで、テンジョウさんはカッパードさんやガルオウガ様と同じく「母星を失った人間」なのだと思っていたのですが、幼いころのテンジョウさんは母星に対して嫌なイメージを抱いているんですよね。もし高い鼻の仮面をつけることが母星の文化であるなら、次の点が気がかりになります。
- 嫌っているはずのその文化を踏襲して未だに仮面をつけてるのはどうして?
ノットレイダーに加入してもなお、リスペクトしていない星の文化を受け継いでいるのは、いささか矛盾しているような気がします。ただし、次のように考えればロジックは繋がります。
- テンジョウさんは他のテング星人とは違って鼻が低いといった「個性」を持っている
- 母星で高い鼻の仮面をつけていたのはテンジョウさんだけ
上記の回想シーンではテング星人たちが高い鼻付の仮面をつけているのか、もともと鼻が高いのかは識別できませんが、もし母星のテング星人たちは生来的に高い鼻を有しているなら、高い鼻付の仮面は不要なはずです。
一方、テンジョウさんの鼻は、これまでの描写やキャラのデザインを見る限りだと、テングのように長いわけではなさそうです。そう考えると、テンジョウさんが鼻付きの仮面をつけているのは、「鼻が低い」という個性を隠すためなのかもしれません。鼻が低いことによって、テンジョウさんは「劣等感」や「疎外感」を感じたり、実際に周囲から差別的な扱いを受けていたのです。
39話にて、母星がネガティブなものとして描かれていたこと、「国なんて小さい」「宇宙に目を向けるのよ」という台詞などから考えると、いずれにしてもテンジョウさんは異星人たちに侵略されたわけではなく、母星の住民たちから差別的な扱いを受け、母星を捨て去ったと可能性がそれなりにありそうです。
※これまでのエピソードでも、テンジョウさんはことどく他人の「個性」や「その人らしさ」を否定しています。詳しくはこちらの記事で考察しています。
テンジョウの母星は階級社会?
テンジョウ「人はけっきょくうわべだけ、この宇宙には上か下かしかないのよ」
ひとつ気になった発言は、テンジョウさんの「人はけっきょくうわべだけ、この宇宙には上か下かしかないのよ」という台詞です。母星の住民たちが浮かべる「笑顔」はまやかし、すなわち「うわべ」だけものであり、人間関係において重要なのは「立場が上か下か」ということだけなのだとテンジョウさんは主張します。
このことから、テンジョウさんの母星は地位を重視する社会、すなわち「階級化が進んだ社会」だった可能性が示唆されています。もしそうだとするなら、テンジョウさんはどの階級に属する人間だったのでしょうか? 上流階級? それとも下流階級?
どうにしても、現時点では憶測の域を越えませんが、個人的にはテンジョウさんが「上流階級」に位置していた可能性はけっこう高いのではないかな、と思っています。前編の記事でも書きましたが、回想シーンに登場する幼いテンジョウさんの身なりはそれなりに整っており、周囲から差別的な攻撃を受けてボロボロになっているというよりは、一段高いところから「腐った社会」を睥睨しているような印象を受けたからです。
もしテンジョウさんの母星が階級化の進んだ社会であり、テンジョウさんが上流階級の人間であったなら、彼女に近付いてくる人間たちは、「うわべだけの笑顔」を浮かべていたというのも無理のない話です。そしてもし、周囲がテンジョウさんの「個性(鼻が低い等)」に対して否定的なメッセージを送り続けていたならば(鼻の長い仮面を被って隠せ等)、幼いテンジョウさんの胸中に「怒り」や「憎しみ」の青い炎が燃え上がっていたことは容易に想像できます。
わたしのもとにすり寄ってくる人間は、わたしに興味があるのではなく、わたしの地位に興味があるだけで、誰もわたしの個性を認めてくれない――。
幼いテンジョウさんは、そうした苦悩を抱え続けた結果、母星という「ちっぽけな世界」を飛び出して宇宙に行き、そこでノットレイダーの幹部たちと出会ったのかもしれません。
テンジョウは笑わない
テンジョウ「笑顔なんかで人と人はつながれない。お前の笑顔になんか、何の価値もないのよ。やっておしまい!」
キュアコスモ「笑顔笑顔って、何そんなにムキになっちゃってるの?」テンジョウ「う、うるさい!」
ユニから「何そんなにムキになっちゃってるの?」と指摘されたテンジョウさんは、図星だったのか、怒りをあらわにしてコスモに攻撃します。これまで、カッパードさんやアイワーンちゃん、そしてガルオウガ様については、それぞれの抱える辛い過去を刺激されてしばしば感情的になっていましたが、テンジョウさんがここまで感情的になったのは初めてなような気がします。テンジョウさんにとって、「笑顔」は過去のトラウマをフラッシュバックさせる「呪い」のようなものなのでしょう。
なぜテンジョウさんがここまで笑顔に対して強いこだわりを見せているかということは、前述したとおりですので省略します。
ここで面白いのは、テンジョウさんの目的がいつの間にか「ペンやフワを奪うこと」「プリキュアを倒すこと」ではなく、「えれなさんの笑顔を奪うこと」になっていたことです。まるで、途中から「ペンなんかどうでもいい」と言い、ユニのことをけちょんけちょんにするためだけに行動していた某アイワーンちゃんのようです。
さて、ここからはえれなさんのターンに入ります。
巨大化した校長先生の攻撃を押し返したえれなさんは、テンジョウさんにこういい返します。
テンジョウ「キュアソレイユ! お前の笑顔を見ていると、イライラするのよ!」
キュアソレイユ「テンジョウ、わたし、あなたには感謝してる! だって、あのスピーチができたのは、あなたのアドバイスのおかげだから」
テンジョウ「黙りなさい!」
キュアソレイユ「笑顔に価値はあるよ。笑顔には、人と人をつなげる、すごい力があるんだ!」
えれなさんはテンジョウさんに「感謝してる」と言います。あのスピーチができたのはテンジョウさんのおかげなのだ、と言って。
実際、えれなさんはテンジョウさんが正体を明かすまで、ジョー・テング先生にかなりの信頼と敬愛を寄せていました。しかし、私にはそれが、「スピーチのアドバイスをもらったから」という理由だけではないように思えます。
そして、ここからは根拠の乏しい妄想です。
テンジョウさんからアドバイスを受けたとき、もしかするとえれなさんは「自分の苦悩を想像してくれた」と感じたのではないでしょうか?
「観星中の太陽」として、いつも周囲から慕われているえれなさんの心にそのような「苦悩」があっただなんて、たぶん誰も「想像」すらしていなかったことでしょう。実際、あの星奈ひかるさんでさえ、えれなさんについては事あるごとに「さすが観星中の太陽!」と褒めるのみで(※1)、えれなさんの辛い過去を想像する描写はこれまでありませんでした。同じく、スタプリメンバーたちも、えれなさんの浮かべている笑顔が、「様々な苦悩を乗り越えた先にあるもの」だということまでは理解していなかった可能性は高いように思います。
そう考えると、テンジョウさんはえれなさんにとって「初めて自分の抱えていた苦悩を想像してくれた」人間とも言えるのではないでしょうか。
※1 「さすが観星中の太陽!」という台詞は、スタプリ8話(ケンネル星でドギーたちと笑顔であいさつしたとき)、スタプリ28話(プルルン星でふいごをしたとき)でありました。もし他にもあればぜひ教えてください。
天宮えれなも笑わない
えれな「みなさんありがとうございます。指導してくださった、ジョー・テング先生にも、心から感謝します」
先生「そのジョー・テング先生ですが、突然姿を消してしまいましてね…」
めでたくコンテストで優勝したえれなさんですが、ここで彼女はテンジョウさんに感謝の言葉を述べます。しかし、テンジョウさんが姿を消してしまったこと、テンジョウさんと「分かり合えなかった」ことに対しては、笑顔を曇らせ、思いつめたような表情を作ります。
えれなさんにとって、コンテストで優勝できるかどうかということよりも、「分かり合いたい」と思った相手と「顔を合わせて笑顔になる」ことの方が大事であることがうかがえます。
ここで、テンジョウさんの台詞をもう一度、思い出してみます。
テンジョウ「この宇宙には上か下かしかないのよ」
えれなさんはコンテストにおいて、優勝しました。テンジョウさんから言わせるなら、それは「上」であると言えるでしょう。しかし、優勝して「上」に立ったえれなさんに、「本当の笑顔」は見えません。それどころか、彼女の表情は「曇って」すらいます。
えれなさんとテンジョウさん。まったく異なる価値観を抱く両者は、果たして「分かり合える」ときが来るのでしょうか?
笑顔があれば必ず分かり合える、とスタプリは決して言いません。
スタプリは、ときに残酷な事実を子どもたちに提示します。綺麗ごとだけではなく、現実の厳しさを見せながらも、それでもなお必死に前に進もうとする主人公たちの姿を描いているのです。
最後に、スタプリ34話(サボローの回)でえれなさんのママ・かえでさんが言っていた台詞を引用して、今回の考察を終えたいと思います。
かえで「わかりあうのは簡単なことじゃないわ。だからこそ、相手のことをもっとよく知らないとね。笑顔も大事だけど、もっと大事なのは、理解しようとすること」
スタプリ39話の感想考察まとめ(後編)
- 天宮えれなの「不安」と「苦悩」
- モノクロとカラーを使った心理描写がお見事すぎる
- テンジョウの「仮面」は「個性」を隠す道具説
- テンジョウの母星は階級社会説
スタプリ39話の感想考察(前編)です。
スタプリ映画、『星のうたに想いをこめて』の考察です。3回見てきたのですが、回を重ねるごとに号泣レベルが増していき、3回目は泣きすぎてボロ雑巾みたいになってました。
テンジョウさんとえれなさんの組み合わせ(テンえれ)が好きすぎて辛い1週間でした。次回は次回でひかララが大変なことになってそうで胸が押し潰されそうです。
以上、スター☆トゥインクルプリキュア39話の感想考察でした。
長々と読んでいただきありがとうございました。