『わたゆり』こと、『わたしの百合はお仕事です!』の5巻(最新刊)が2019年6月18日に発売されました。
その名の通りドストレートの百合漫画なんですが、これがまた尊いのなんのって。
1巻からずっと追ってきているんですが、毎巻毎巻、その尊さにあてられて頬がゆるゆるになってしまいます。
この記事は、そんな『わたゆり』5巻のちょっとした感想と考察を書いています。
ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
ひめちゃんと矢野の対比構造
主人公のひめちゃんと、そのお相手の矢野さんは、一見すると性格が真逆なようで、似ているところがあります。
それは、ひめちゃんも矢野さんも、演技《ソトヅラ》をしているということです。
ただし、ひめちゃんと矢野さんのソトヅラの本質は、まったく異なるものです。
ひめちゃんのソトヅラ
ひめちゃんのソトヅラについては、これまで本編で語られてきたとおりです。
つまり、玉の輿を狙うためのものであり、『みんな』から好かれるためのものです。
ひめちゃんにとって、ソトヅラは「自分の理想的な環境を得るための手段」であり、ひめちゃんはこのソトヅラについては潔いほど完全に割り切って使いこなしています。
ここで留意しておくべきなのは、ひめちゃん自身がソトヅラを「本当の自分を隠すため」に用いている点です。
ひめちゃんにとって、ソトヅラは「嘘」なのです。
そのことを理解している親友の果乃子は、ひめちゃんからのソトヅラプレゼントの受け取りを拒否しました。演技のプレゼントなんて、わたしはいらない、といって。
ひめちゃんのソトヅラはあくまでも『みんな』のためのものであって、親しい友達には不要なものであり、そのことはひめちゃん自身も理解しています。
だから、ひめちゃんは果乃子に「友達として」のプレゼントを渡したわけです。
一方、矢野さんのソトヅラはどうでしょうか?
矢野さんのソトヅラ
矢野さんは「カフェ・リーベ女学園」において麗しいお姉さまとしての演技(ソトヅラ)を発揮しています。
しかし、今回のわたゆり5巻で、矢野さんがなぜそのようなソトヅラをしているのか、その理由が判明しました。
明るく物腰柔らかく”優しい振る舞い”をしてごらんなさい
そうすれば周りが貴女を好意的に解釈してくれるようになるわ
演じるのよ ”優しい自分”を
出典:『わたしの百合はお仕事です!』5巻 (純加の台詞)
矢野さんにとってのソトヅラは、決して「本当の自分を隠すための嘘」ではありません。彼女のソトヅラは、「なりたい自分のなるため」のものなのです。
つまり、矢野さんにとってのソトヅラは決してネガティブなものではなく、むしろポジティブなものであり、その点はひめちゃんのソトヅラとは正反対の性質のものであるわけです。
ただ、矢野さんにとって、自分のソトヅラが「なりたい自分になるため」のものであっても、ひめちゃんからすると「本当の自分を隠すための嘘」に見えてしまう。
ゆえに、ひめちゃんは傷付くわけです。
矢野は、自分に対して嘘をついているんだ、本当の自分を見せてくれないのだ、と。
まとめ
互いに惹かれているはずなのに、すれ違ってしまう二人。
思春期における「演技」は、本音を隠すネガティブなものとして語られる話も多いなか、わたゆりにおける「演技」は相反する二つの意味合い(ひめちゃんの演技、矢野さんの演技)を持っていて、相反するからこそすれ違いも起きていて、そのあたりもこの作品の大きな魅力になっていると思います。
あと、舞台となっているのは吉祥寺駅近辺なんですね。
あとがきでも書かれていましたが、背景描写にも力がこめられていて、わたゆりの世界をより近くに感じました。
わたゆり、5巻も最高に尊かったです。
6巻の発売を座して待ちつつ…。
以上、『わたしの百合はお仕事です!』の5巻の感想考察でした。
百合SFの奇書、奇書の百合SF。
これは新たなる人類史、あるいは箱庭の百合。
ネットで無料で読める、アンドロイド×少女の心温まる百合漫画です。私は普通に泣きました。大好きです。