スタプリ44話、基本的にはクリスマスとしての明るい雰囲気が漂いながらも、意味深な伏線があちこちに見られていて、いよいよスタプリもラストスパートに入っていることを意識させられる回でしたね。
この記事はスター☆トゥインクルプリキュア44話の感想考察です。ネタバレを含みますので未視聴の方はご注意ください。
- えれなは「少し」元気になる
- フワは幼児の象徴:すぐに影響される
- ユニとみんなの信頼関係はMAXハート
- 「そうなるといいね」はひかるの本音
- 笑顔のひかると無言のララの対比
- フワという名の「器」
- ダークネスト(悪魔)はクリスマスに出撃する
- 守るのはプリキュアだけではない
- 妄信するガルオウガと葛藤するカッパードの対比
- 終わりに:ノットレイダーの心の「器」を満たすもの
えれなは「少し」元気になる
ひかる「よかった。少し元気になって」
自作のクリスマスケーキをまどかさんたちから褒められて嬉しそうに笑うえれなさん。それを見たひかるさんは、「よかった。少し元気になって」とつぶやきます。前回の考察で、ひかるさんがえれなさんを直接的に救わなかった理由について書きましたが、たとえ直接的に救わなかったとしても、ひかるさんはえれなさんのことを心配し、よく見ていることが分かります。
付け加えるならば、「少し」という言葉を用いているところが、「さすが」だなとも思います。ひかるさんは、「元気を失っていたえれなさんが回復した」ことに気付きながら、あくまでもその回復は「少し」であり、「悩みが完全に吹っ切れたわけではない」と見抜いているわけです。
実際、えれなさんの悩みは次の2つがあり、後者についてはまだ未解決なのです。
- 進路(なりたい自分とは何か)について
- テンジョウを笑顔にしたいのにそれができないことについて
フワは幼児の象徴:すぐに影響される
みんなのサンタの格好、かわいかったですね。
よく見てみると、上級生組のえれなさんとまどかさんの胸元にはリボンがあり、シンボルマークの「太陽」と「月」の飾りは頭に着けられています。一方、残りの三人、ひかるさんとララとユニは胸元には「星」「ハート」「猫」の飾りが着けられています。上級生組とそれ以外とで、若干の違いが見られるコスチュームになっています。
フワはトナカイの角をつけていますが、今回のエピソードでは、フワの活躍ぶりが顕著でした。プレゼントを配るのにも、ダークネスト(偽)との戦闘においても、フワのワープは大活躍です。
サンター星人 「フーワープいいじゃん。これなら遅れも取り戻せるぜ。よろしくじゃん、相棒!」
プルンス「すぐ影響されるでプルンス」
サンター星人とげんこつをぶつけて友情を確かめ合うフワ。プルンスからは「すぐ影響されるでプルンス」と言われていますが、その通り、フワは他の人たちからすぐに影響を受けて、その行動を真似します。同様の台詞はスタプリ33話でもありました。
ララ「ワープ使いまくりルン」
プルンス「ガルオウガの悪影響でプルンスな」
フワは身近にいるひかるさんたちから、偶然出会った異星人から、敵対するガルオウガ様からも影響を受けながら成長していることが分かります。
なお、フワは幼い子どもであり、近くにいる人の行動をすぐに真似するのは、地球人の子どもも同じです。そう考えると、フワはプリキュアのメインターゲットである3~6歳の子どもたちのメタファーになっているとも考えられます。
※スタプリ33話の考察。ワープを多用するフワを怒るひかるさんでしたが、なぜフワに怒るのがひかるさんでなければならなかったのか、その理由についても書いています。
ユニとみんなの信頼関係はMAXハート
サンタの格好をしたユニはめっちゃかわいかったのですが、それはさておき、今回ユニはさり気なくみんなとの信頼関係を示していました。
たとえばこちら。
子どもにプレゼントを上げたあと、「くいっくいっ」と高級ロープ…もとい、プルンスに無言の合図を送り、自分の体を引き上げてもらっています。昔、ロープになってと頼んでもなってくれなかった(マオの姿で頼んだら即OK)ことが、今となっては嘘のようです(スタプリ17話)
また、時系列を少し飛ばしますが、みんなで協力したおかげでプレゼントを配ることができたというまどかさんに対して、ユニは穏やかな表情でうなずきます。
まどか「力を合わせれば、何とかなりますね」
ユニ「ニャン」
あれほど協力することを拒んできたユニのことを思うと、その尊さには涙を禁じ得ません。みんなと一緒に未来に行きたいと言ったユニは、着々とその夢を実現させているようです(スタプリ38話)
※スタプリ17話の考察。「プリキュアが戦う理由」
「そうなるといいね」はひかるの本音
ひかる「そっか。えれなさん、留学するんだ。まどかさんも?」
まどか「わたくしはまだ、考え中ですが」ララ「留学って、遠いところに住むってことルン?」
えれな「そうだね。いままでみたいには、会えなくなるのかな」
(中略)
ひかる「ユニは、惑星レインボーが戻ったらどうするの?」
ユニ「それは…もちろん、帰るニャン。だって、そのためにいままで頑張ってきたわけだし」
ひかる「そっか…うん、だよね。ちょっと寂しいけど、そうなるといいね」
ユニ「…うん」
えれなさんは通訳になるために留学をするつもりなんだ、と話します。一方、まどかさんはまだ留学をしないとは決めておらず、考え中とのことですが、まどかさんも留学を選ぶ可能性は十分あるでしょう。そして、ユニは惑星レインボーに帰るつもりだと話します。
このとき、鑑賞者は否応なしに気付かされます。メンバーたちは、みんなそれぞれの道を行き、離れ離れになるかもしれないのだということに。
しかし、みんなの話を聞いたひかるさんは、離れ離れになりたくないと悲しむのではなく、「寂しいけど、そうなるといいね」とすんなり受け入れます。もっとも、UMA研究の夢を追いかけるお父さんを笑顔で外国に送り出したひかるさんなので、これについてはいまさら驚くことでもありません。 ひかるさんの言葉を借りれば、友達は一緒にいなければいけないわけではなく、離れてたって、友達は友達なのでしょう。
巨大ノットレイ春吉「家族は一緒にいなければいけないんだ!」
キュアスター「そんなこと…ないよ! わたし、大好きなものを追いかけてるお父さんとお母さんが大好きなんだ! 離れてたって、家族は家族だよ!」
「そうなるといいね」というひかるさんの言葉は、寂しさを誤魔化すための嘘ではなく、心からのエールなのです。
笑顔のひかると無言のララの対比
さて、カメラはスライドしていき、今度は神妙な顔をするララを映し出します。ララは何も言いません。笑顔のひかるさんとは対比になっています。
ララは離れ離れになるという実感がないのかもしれませんし、本当は言いたい「寂しいから離れたくない」という言葉を出せずにいるのかもしれません。ただひとつ分かるのは、何か複雑な感情を抱いているということで、その想いは鑑賞者のそれとリンクします。
みんながそれぞれの進路を言う中、何も言わなかったララ。彼女はすべてが終わったとき、どうするつもりなのでしょうか?
ただ、しんみりとしたまま会話が終わりかけたとき、「大丈夫」とフワが声を上げます。フワのワープがあれば、みんな、いつでも会えると言います。
フワ「フワがいるから大丈夫フワ! みんなといつでも会えるフワ!」
ひかる「フワ…」
えれな「そっか!」
まどか「そうですね!」
ユニ「フワのワープがあれば!」
ララ「ルン」
ひかる「フワ…ずっとずっと、一緒だよ!」
この先、フワのいうとおり「大丈夫」なのか、それとも一筋縄ではいかない展開が待っているのかは分かりません。しかし、フワのワープが使えなかったとしても、ひかるさんたちはきっと大丈夫なはずです。
なぜなら、ワープが使えなくても、ひかるさんたちはどこにだって行くことができるからです。
そう、イマジネーションの力で。
ひかる「本っていいんだよ 色んな所に行けるんだから」
ララ「行けるって ワープ機能が?」
ひかる「ちがうよ 本を開くと頭の中が楽しい想像でいっぱいになるの 宇宙なんて何十回 何百回も行ってるよ」引用:スター☆トゥインクルプリキュア2話
フワという名の「器」
ところで、ダークネスト様はフワのことを、「器」と呼びます。
ひかるさんは「器なんかじゃない!」と否定していますが、フワが「器」であることは、暗喩としてはあながち間違いではありません。
1 物を入れるもの。入れ物。容器。「器に盛る」
空っぽの容器を想像してみてください。
それは新しいことを学んだり、経験するたびに、中身が満たされていく心の容器です。1話で登場したころのフワは、まだまだあらゆる経験に乏しく、心の容器は空っぽに近いものでした。
しかし、そんなフワは、多様な人たちの多様な価値観から、多様な影響を受けてきました。地球のスタードーナツを食べた経験、色んな惑星を冒険した経験、異星人と友達になった経験、ノットレイダーから狙われた経験、プリキュアから守ってもらった経験…そして、一生懸命に力を振り絞ってプリキュアを守った経験。
これから、フワがどういう価値観を身に着けていくか、どういう考え方を身に着けていくか、どういう生き方をしていくかは、フワの心の器が「何によって」満たされていくかにかかっていると言えます。
ダークネスト(悪魔)はクリスマスに出撃する
今回、クリスマス回にて初めてダークネスト様(偽)が出撃したわけですが、どうしてダークネスト様の初出撃はクリスマス回だったのでしょう? クリスマスとダークネスト様、何か共通点があるのでしょうか?
ないわけではありません。
本来、クリスマスはキリスト教の一部の教派における行事であり、イエス・キリストの降誕を祝う祭です(イエス・キリストの誕生日を祝っているわけではない=誕生日は不明)(※1)
さて、キリスト教の聖典には「旧約聖書」と「新約聖書」がありますが、「アダムとエバ(イブ)の話」を知っている方は少なくないかと思います。旧約聖書に載っている話で、『失楽園』『楽園追放』などとも呼ばれますが、蛇に唆されたエバが、神から食べてはならないと言われていた「善悪の知識の木の実(禁断の果実)」を食べしまう…という話です。
キリスト教では、蛇は悪魔、すなわちサタンと同一視されることもあり(※2)、忌み嫌われている存在です。そして、ノットレイダーのボスであるダークネスト様は、奇しくも蛇をモチーフとした存在です。
イエスの降誕を祝うお祭りに悪魔(サタン)が登場したのだと考えると、クリスマス回にダークネスト様が出撃したのはピッタリだなと思います。
※1 クリスマスはイエス・キリストの本当の誕生日ではないと、 どうして教えないのですか。 | 聖書入門.com
※2 蛇=悪魔=サタン、というのは色々な解釈があるようですが、ヨハネの黙示録にはこのような記載があります。
「ヨハネの黙示録」12章
7さて、天では戦いが起った。ミカエルとその御使たちとが、龍と戦ったのである。龍もその使たちも応戦したが、 8勝てなかった。そして、もはや天には彼らのおる所がなくなった。 9この巨大な龍、すなわち、悪魔とか、サタンとか呼ばれ、全世界を惑わす年を経たへびは、地に投げ落され、その使たちも、もろともに投げ落された。(以下略)
「ヨハネの黙示録」20章
1またわたしが見ていると、ひとりの御使が、底知れぬ所のかぎと大きな鎖とを手に持って、天から降りてきた。 2彼は、悪魔でありサタンである龍、すなわち、かの年を経たへびを捕えて千年の間つなぎおき、 3そして、底知れぬ所に投げ込み、入口を閉じてその上に封印し、千年の期間が終るまで、諸国民を惑わすことがないようにしておいた。(以下略)
守るのはプリキュアだけではない
胸の熱くなる展開でした。
ダークネスト様から標的にされ、ピンチに陥っていたキュアスターを救ったのは、ララたち他のプリキュアでもなければ、フワやプルンスでもなく、ララのパーソナルAIでした。
スタプリにおけるプリキュアは、「大切なものを守る」存在ですが、大切なものを守りたいと願うのは、何もプリキュアたちだけではありません。地球人も、異星人も、フワのような幼い子どもも、そしてAIも、それは同じあり、時にはプリキュアが他の人たちから守られることだってあるわけです。
※ララのAIが「共有」によって惑星サマーンを救った意味について考察しています。
妄信するガルオウガと葛藤するカッパードの対比
ダークネスト「歪みが足りぬか…だが、鎧の力は試された」
犠牲になったノットレイを見て眉をひそめるカッパードさん。ダークネスト様の恐ろしい力に慄いているようにも見えますし、実験にされたノットレイの身を案じてるようにも見えますし、何らかの葛藤を抱いてるようにも見えます。
実際、このノットレイの「落ち方」はけっこうヒヤッとするもので、見ていて思わず「うっ」と胸を痛めた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一方、ガルオウガ様は43話の時点から、ダークネスト様の計画(鎧によるダークネスト化)を知って進めようとしていた通り、今回も特に何か驚いたような表情は浮かべていません。ガルオウガ様は「身も心もすべてをダークネスト様に捧げた」と言っており(スタプリ41話)、その心情が変わっていないのであれば、ダークネスト様のやり方に異を唱えることもなく、妄信しきっている状態であるのもうなずけます。
表情を変えないガルオウガ様。
何かを想うカッパードさん。
変わってしまったのは、カッパードさんです。
スタプリ20話、ダークネスト様が巨大化したアイワーンちゃんを乗っ取った際、カッパードさんは確かにその強大な力を賞賛し礼讃していました。今回の「鎧」も、思考を停止させ、ダークネスト様の意のままとなるという点では同様のはずです。しかし、21話では歪んだ笑みすら浮かべていたカッパードさんが、44話では深刻な表情でじっと見守っているのです。
カッパード「勝てるはずがない。ダークネスト様の力は絶対。見よ、あの姿を! 一切の思考を止め、圧倒的な力を得た奴を!」
とはいえ、カッパードさんが心のうちで「何を想っている」のかは、現時点で想像するほかありません。次週、おそらくそれが明かされることになるのでしょうが、もしカッパードさんが何らかの葛藤を覚えているのであれば、その葛藤は、ひかるさんのトゥインクルイマジネーションが輝くキッカケにも繋がるかもしれません。
ちなみに、「鎧」を着ていたノットレイの中の人は誰なのでしょうか。Twitterのフォローワーさんから教えて頂いたのですが、このノットレイの体は細身です。そして、この場にはテンジョウさんの姿が見えません。つまり、ひょっとすると…?
※スタプリ21話考察。「キュアスターの視線の先にあるもの」
終わりに:ノットレイダーの心の「器」を満たすもの
先ほどはフワの心の器について話をしましたが、最後にノットレイダーたちのそれについて話をさせてください。
たとえば、カッパードさんは幼い頃に異星人から侵略を受けて母星を失ったことが示唆されていました。
たとえば、テンジョウさんは幼い頃に同じグーテン星人から、鼻が短いという個性を暗に否定され続けてきました。
たとえば、アイワーンちゃんは幼い頃から既に家族も仲間も故郷もすべてを失っており、寝るところを探していたところ、ノットレイダーのアジトに辿り着きました。
幼い彼らの心を満たすものは、何だったと言えるでしょうか?
それは、キラキラと輝く綺麗なものだったと言えるでしょうか?
いいえ。
彼らの心の器を満たしたものは、そんな素敵なものではありません。それは憎悪であり、嫌悪であり、諦念であり、悲哀です。彼らの言葉を借りれば、「歪んだイマジネーション」という言葉が相応しいでしょう。
しかし、ノットレイダーたちの心の器は、決して最初から「歪んだイマジネーション」によって満たされていたわけではありません。そのことは、「寝る場所を探している」と舌足らずな口調で言っていた幼いアイワーンちゃんの無垢な表情や(38話)、鼻の短さを(表面的には)笑顔で慰めてくれた大人たちに見せた幼いテンジョウさんの安堵の表情が(43話)、如実に示しています。
では、いったい誰が、ノットレイダーたちの心の器を「歪んだイマジネーション」で満たさせてしまったのでしょうか? 誰が悪いのでしょうか? 諸悪の根源は何なのでしょうか?
それは答えようのない問いです。なぜなら、それぞれが、それぞれの理由をもって、ノットレイダーに加入しているからです。
ノットレイダーたちを理不尽な目に遭わせた、共通する真の黒幕がいれば、いったいどれだけ単純なことでしょう。その黒幕さえ倒してしまえば、みんながハッピーになれて、みんなの心から歪んだイマジネーションが消える、そんな「ラスボス」がいてくれれば、どれだけ簡単なことでしょう。
残念ながら、現実は、スタプリの世界は、そんなに単純ではありません。
仮にダークネスト様を倒せたとしても、ノットレイダーたちの怒りや苦しみ、そして悲しみが癒えることはないと思われます。
また、ダークネスト様は悪魔(サタン)のモチーフとしても捉えられる、と前述しましたが、サタンは堕天使であり、もともとは美しい天使であったとも言われています。美しい天使は、世界の創造主たる神に対して叛逆を起こし、「天使」から「悪魔」となったのです。
ひかるさんたちは、侵略者たるノットレイダーたちの心に触れ、彼らに手を差し伸べてきました。では、ダークネスト様には、どうするつもりなのでしょうか?
ひかるさんたちは、「悪魔」にすら手を差し伸べるつもりなのでしょうか?
いえ、そもそも、ダークネスト様は本当に「悪魔」なのでしょうか?
堕天したというのなら、それ以前のダークネスト様の心の器には、もともと何が入っていたのでしょうか?
そんな想像を、私はしています。
前回ののスタプリ43話の考察です。「えれなとテンジョウは何が違ったのか?」
オリーフィオは何者なのか?その生殖方法についての考察です。
今回も2分割せず、ひとつに記事をまとめています。
長々と読んでいただきありがとうございました。
<宣伝です>
『失楽園』をモチーフとした作品はたくさんありますが、有名なのはミルトンのこちら。概要だけでも心をくすぐられますよね。ちなみにあたかもよく知っているかのように書いていますが、私は途中(最初の数十ページ)しか読めておらず、積読状態です。スタプリが終わったら読むんだ……。
【内容情報】(「BOOK」データベースより)
「一敗地に塗れたからといって、それがどうしたというのだ?すべてが失われたわけではない」かつては神にめでられた大天使、今は反逆のとが故に暗黒の淵におとされたサタンは、麾下の堕天使の軍勢にむかってこう叱咤激励する。神への復讐はいかにして果さるべきかー。
※過去のスタプリの感想、考察記事については、このページのいちばん下にある「プリキュア考察」のボタンか(スマホ版)、いちばん上の「プリキュア感想 考察」のボタン(PC版)から移動できます。