スタプリ41話、泣きすぎて顔がぐしゃぐしゃでした。もはや良かったという言葉しか出てきません(最近、毎回同じこと言ってる気がする)。
この記事はスター☆トゥインクルプリキュア41話の感想考察(前編)です。41話のネタバレを含みますので、ご注意ください。
欠けた月と描けない想い
冒頭(アバン)。
最初に映るのは夜空に浮かぶ月です。左側が少し欠けているところから、満月になる前、おそらく「十三夜(じゅうさんや)」くらいではないかと思われます(※1)
まどかさんは、「欠けた月」を「ガラス越し」に見上げますが、やがて、浮かない顔のままカーテンを閉めてしまいます。これらのカットと、40話の回想シーン(ララはわたくしたちの友達です!と冬貴さんに言う場面)が流れることで、まどかさんがお父様との向き合い方に思い悩んでいることがうかがえます。
欠けた月は、まどかさんの「定まり切っていない心境」を示しており、ガラス越しに見上げているのは、「自分自身の想いを直視しきれていない状況」を表しているようです。また、「カーテンを閉める=月が見えないようにする」という行為は、「自分自身と向き合うのを中断している」ということを示していると思われます。
ところで、このように「月」を使ってまどかさんの心理を描いているのは、今回が初めてのことではありません。たとえばスタプリ5話でも同様の表現がありました。まどかさんがララたち異星人の存在を冬貴さんに伝えるべきかどうか悩んでいたころの話です。まどかさんはこのときもガラス越しに月を見上げているわけですが、まどかさんの悩みを表現するように、空に浮かぶ月には暗雲がかかっていきます。分かりやすいので、5話の予告動画をご覧ください。(公式youtube)↓
出典:スター☆トゥインクルプリキュア 第5話の予告(C)ABC-A・東映アニメーション
今回の41話では、「月」というモチーフが「これでもか」というくらいに活かされていましたが、他については後述します。
※1 参考リンク
冬貴の眼には「現在のまどか」が映る
電気もろくについていない真っ暗な部屋で、冬貴さんはケースの中に入ったまどかさんの写真をじっと見つめています。その写真はもっとも新しい写真であり、那須ゆみかさんと固く握手を交わしているまどかさんの姿が映っています。
このときの冬貴さんの表情が、何ともいえず切ないのです。考えてみてください。娘の優勝した写真を見るときにどういう表情を浮かべるかというと、一般的には、笑顔を浮かべることが多いはずです。しかし、このときの冬貴さんは、眉を下げ、唇をきゅっと結び、真っすぐな視線で写真をじっと見つめています。しかも、真っ暗な部屋の中で。
なぜ、冬貴さんは、こんな表情をしながらまどかさんの現在の写真を見つめていたのでしょうか?
明確な描写がないため、憶測の域を越えませんが、このときの冬貴さんは、まどかさんのことが「分からなくなっていた」のではないかと考えます。冬貴さんにとって、まどかさんは、自らの指示に従い、自らの価値観をそのまま受け継いでくれる存在でした。しかし、最近のまどかさんはそうではありません。
知っていたはずの娘が、だんだん、自分の知らない人間になろうとしている――。
その事実に不安を覚えたからこそ、「現在のまどかさん」の写真を確かめたのではないでしょうか。そして、室内を覆う暗闇は、まどかさんの「悩み」を示すと同時に、冬貴さんの「不安」も表していたのではないでしょうか。
冬貴「調査の結果、異星人だという確たる証拠は出なかった。宇宙開発特別捜査局、そこで成果をあげ、中央に返り咲こうとしたが、裏目に出た。調査の権限も失った。もはや異星人のことはいい」
まどか「いいって…」
冬貴「上から調査しろと言われていたからしたまでだ。異星人を排除しろと言われればそうするし、友好関係を築けと言われれば友となろう。言われたとおり動く。私は香久矢のためにずっとそうしてきた。お前を導いてきた判断は誤りではないと確信している。もうすぐロンドンへ留学だ。彼女たちともそれでしまいだ。すべて、私に任せればいい」
また、冬貴さんは、ここでわざわざ「お前を導いてきた判断は誤りではないと確信している」と発言しています。確信していることを強調するのは、その事実がまどかさんに伝わっているのか不安を感じている、あるいは、その事実そのものに不安を感じていることの裏返しでもあります。もしその事実が「自明の理」であるなら、わざわざ強調するまでもないはずだからです。
そして気になるのは、「言われたとおり動く。私は香久矢のためにずっとそうしてきた」という台詞です。おそらく冬貴さんは、「香久矢」のために、身を粉にし、時には自分自身をも捨ててきたのでしょう。ここでいう「香久矢」が指すものは、冬貴さん自身でもなければ、妻や娘を含めた「家族」でもありません。「代々伝わってきた香久矢という家柄」を指しているわけです。
冬貴さんが「言われた通りに動いてきた」のは、「香久矢家が代々そうしてきたから」だと考えます。その根拠はスタプリ26話における以下の台詞です。
ひかる「まどかさん、留学するの?」
まどか「ええ、夏休みが明けたら、準備に入ります」
えれな「すごいね…」
まどか「すごいですか? 父も祖父も留学していましたし、そういうものだと…」
この台詞からは、父も祖父も留学していたこと、つまり冬貴さんもまた、 冬貴さんの父親の言うことを聞いて留学をしていたことがうかがえます。
(26話の時点では、まどかさんは自分が留学することに何ら疑問を抱いていません)
次に、こちらの台詞を見てみます。同じくスタプリ26話です。
冬貴「代々香久矢家は、矢面に立ってきた。姫を狙う外敵を迎え撃ち、民を困らせる妖怪を退治したという伝説が示すとおりだ。香久矢家はみなの上に立つのがさだめ」
姫を狙う外敵を迎え撃ち、妖怪を退治していたのが香久矢家のルーツだと分かります。香久矢家は代々「上に立つ存在」ではありますが、「最上位」というわけではないことが分かります。香久矢家は誰かに「守られる存在」ではなく、矢面に立って「守る存在」であり、昔から「姫」=「最上位の存在」に仕え、姫や民を守ってきたのです。そう考えると、「上」の命令に背くというのは、「香久矢家」に脈々と受け継がれてきた「価値観」を覆すことにもつながりかねません。
つまり、中学3年生のまどかさんが対峙していたのは、「父親の冬貴」だけではなく、「代々受け継がれてきた香久矢という家柄」であり、「香久矢の血」であるわけです。まどかさんは、たったひとりで、「香久矢」という大きな存在と向き合っていたのです。
ところで、41話において、冬貴さんがまどかさんの写真を見つめるシーンは、上記を含めて2回あります。次の1回については、後編の考察で話したいと思います。
香久矢まどかには『a』がない
まどか「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」
英語の先生「そのとおり。有名な言葉ですね。でも実は、文章としては間違っています。『for man』では、人類という意味になってしまうので、一人の人間とするには、一人を意味する、『a』を入れなければなりません」
ニール・A・アームストロング(Neil A.Armstrong 1930-2012)は、人類で初めて月に到達した、アメリカ合衆国の宇宙飛行士です。彼が月面を踏みしめたのは、今から50年以上も前、1969年7月20日のことです。そのときに乗っていたロケットの名前は「アポロ11号」、聞いたことのある方も多いかと思います(※1)
まどかさんはこれまで、弓道大会やピアノコンクールに出場し、観星中に通い、そして生徒会長を担ってきました。それらはすべて、父親である冬貴さんの言うとおりにしてきたことです。まどかさんは『a man(一人の人間)』としてではなく、『man(香久矢)』として生きてきたわけです。
自分には『a』がない。
まどかさんは物憂げな表情で空を見上げます。快晴とは言い難い、雲の多い空。しっかり閉ざされた窓ガラスは、まどかさんを「中の世界」に閉じ込めているかのようです。これらの情景は、まどかさんの思い悩んでいる心を映し出しているのだと言えます。
※1 参考リンク
宇宙情報センター / SPACE INFORMATION CENTER :アポロ11号
えれなはまどかの異変に気付く(n回目)
えれな「前に言ったよね。困ったときはわたしたちを頼ってって」
まどか「え?」
えれな「まどか、何かあったの?」
ひかるさんやララ、ユニがドーナツに夢中になっているあいだに、えれなさんはまどかさんに問いかけます。他のみんなはまどかさんの異変に気付いていないようですが、えれなさんだけはしっかりと気付いています。
改めて言うまでもないことですが、えれなさんがまどかさんの異変に気付いたのは何も今回が初めてのことではありません。回想シーンでもあるとおり、スタプリ9話でも浮かない顔をするまどかさんを気にかけて、「困ったときはわたしたちを頼って」と言っていました。
逆もまたしかりです。たとえばスタプリ14話では、まどかさんだけがえれなさんの異変に気付いていました。とうま君のことで憂慮の念を抱くえれなさんを見て、まどかさんだけが表情を曇らせていました。
月と太陽、そして星
まどか「どうしてわたくしが月と呼ばれているか知っていますか?」
(中略)
まどか「月というのは、正しいのかもしれません。月は、太陽の光を受けて輝く。わたくしは、どう進むべきか、これまで、父の言う通り、観星中に通い、生徒会長にもなりました。素晴らしい経験をさせていただきました。すべて、父のおかげです。ですが…」
(回想)冬貴「すべて私に任せればいい…」
まどか「わたくしは、自分の意思では輝けない」
生徒たちから「観星中の月」と称されてきたまどかさんは、自分は確かに「月」なのかもしれない、と言います。まどかさんの言う通り、月は恒星ではないので、自ら輝くことはできません。太陽の光を受けて、初めて輝くことができる存在です。
まどかさんが言う「太陽の光」とは、「自分の進むべき道を決めてくれる存在」のことを指しています。これまで、まどかさんにとっての「太陽の光」は、父親の冬貴さんでした。お父様の言うとおりにしてきたおかげで「素晴らしい経験」ができたと、まどかさんは語ります。
そんなまどかさんに、えれなさんは言います。
えれな「そうかな。眩しいけどね。まどかの笑顔」
まどか「笑顔…ですか?」
えれな「うん。こんなに笑顔が素敵な子なんだって。プリキュアになる前はよく知らなかったから」
まどか「そうですね。クラスは一緒でも、今みたいに話すこと、ありませんでしたから。ひかると、出会う前は」
ひかる「キラやば~っ☆ この食感、たまらない~」
まどかの笑顔は眩しいよ。
その言葉を受けて、まどかさんはひかるさんのことを思い出します。実際、ひかるさんは次の2つの場面で、まどかさんの価値観に大きな影響を与えていました。
- まどかさんが初めてプリキュアになったとき(スタプリ5話)
- まどかさんが初めて商店街に行ったとき(スタプリ9話)
1つ目。
このシーンは、惑星サマーン編(スタプリ29話)で、ララが家族にプリキュアであることを明かすかどうか悩んでいたときにも回想されているものです。
まどか「どんな理由であれ、わたくしは、あなたがたのことを秘密にするわけにはまいりません。父を…裏切ることはできない」
ひかる「お父さんのことはわかったけど…先輩はどう思ってるんですか?」
引用:スター☆トゥインクルプリキュア5話
まどか「わたくしがプリキュアになったとき、フワを守りたい。その一心でした。後先のことを考えず、思ったことに素直に。自分の気持ちにはじめて従いました。その直感は…」
ララ「ひかる…」
まどか「ええ。ひかるが教えてくれました」(回想)ひかる「お父さんのことはわかったけど――」
まどか「ひかるの言葉をお借りすれば、」
(回想)ひかる「――先輩はどう思ってるんですか?」
まどか「ララはどう思っているのですか? 自分の気持ちに従うべきです」引用:スター☆トゥインクルプリキュア29話
2つ目。
習い事や生徒会で「毎日がつなわたり状態」になっていたまどかさんを、ひかるさんは半ば強引に手を引き、商店街につれていったことがありました(スタプリ9話)。ここで留意しておきたいのは、まどかさんはそれまで商店街に行ったことがなかったという点です。「商店街」はまどかさんにとっての「未知なる世界」であり、その地を踏みしめた「一歩」は、観星町の人々にとっては「小さな一歩」に過ぎなかったかもしれませんが、まどかさんにとっては「大きな飛躍」だったのです。
太陽と言えばえれなさんですが、「星奈ひかる」という光を抜きにして、まどかさんのこれまでを語ることはできません。
…と、こんな話をしていると、あたかもまどかさんは「太陽」や「星」からしか影響を受けていないかのように見えるかもしれませんが、もちろんそんなことはなく、まどかさんは「猫」からも影響を受けています。
スタプリ22話、アイスノー星でのできごとです。アイスノー星人であるイルマを笑顔にするために、苦しそうな表情で演奏をしていたまどかさんにフォローをしたのはユニでした。「義務感」ではなく、「楽しむ心」をもって演奏をすることで、聴く人も「笑顔」なれるのだと教えてくれました。
キリがないのでこのくらいにしておきます。
さて、何が言いたいかというと、まどかさんが影響を受けてきたのは、主人公のピンク・ひかるさんだけではなく、対となる存在として描かれているえれなさんだけでもなく、プリキュアのみんなや生徒会のメンバー、父親、母親、異星人を含めた、多くの人々であるという点です。そのことは、えれなさんの「水切り」の描写が暗に示しています。
まどか「わたくしの笑顔はみんなのおかげです。えれなが見ているのは、みんなと一緒にいるときの笑顔ですから」
えれな「なるほどね…わたしの見ている笑顔、か。じゃあさ、生徒会長のまどか、まどかのパパやママの前でのまどか、ひかるやあたしたちといるときのまどか、どの自分がいちばんの笑顔になれるかで、進む道を決めればいいんじゃないかな」
まどか「いちばんの笑顔…ですか」
えれなさんが投げた石は、水面にいくつもの「波紋」を広げていきます。この水面がまどかさんを映す「鏡」として機能していることを考えれば、水面に広がる「波紋」は、まどかさんがこれまで交流してきた人々の「価値観」の暗喩(メタファー)になっていると考えられます。
まどかさんの心の水面に広がる波紋。
その波紋は、まどかさんの「想い」にどのような影響を与えたのでしょうか。
詳しくは後編の考察で書きたいと思います。
スタプリ41話感想考察(前編)
- 欠けた月と描けない想い
- 冬貴の眼には「現在のまどか」が映る
- 香久矢まどかには『a』がない
- えれなはまどかの異変に気付く
スタプリ40話の考察(前編)です。猜疑心に裏にある「守りたい」という想いについて。
えれなさんとまどかさんといえばこちらの回。えれまどの喧嘩回、もとい惚気回。の考察です。
今回も記事を2分割しています。後編の考察については、書きあがり次第アップする予定です。前半パートと後半パートにおける対比、冬貴さんの想いはどうなったのか、まどかさんのトゥインクルイマジネーションなどについて書ければと思っています。
→書きました
以上、スター☆トゥインクルプリキュア41話の考察(前編)でした。
スタプリの特別増刊号(アニメージュ)はもう手に入れましたか?
スタプリの裏話やインタビュー記事など面白い話が詰まっているので、まだ購入されていない方はぜひ読むことをお勧めします(ノットレイダーの記事で泣いた)
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